第26話 チンピラたちの憤慨
「クソッ、全然治んねえ!!」
王都の中でも治安があまりよろしくない、南区のとある酒場の一席。
三人組のチンピラの一人、大柄でスキンヘッドの男アランが首の後ろを押さえて喚いた。
「俺もだ、アニキ。アイツに蹴られた背中が、鞭打ちみたいに痛くてしょうがない」
金髪ロン毛の男、アランの手下Aことジュストが背中をさすりながらぼやく。
「僕もあれ以来、玉ねぎがトラウマになったみたいで……」
続けて言うのは手下Bこと小柄なマッシュルーム頭のマッシュ。
「玉ねぎを使った料理が食べられなくなっちまった……」
「お前のそれは違うくないか?」
ジュストのツッコミは、ガンッとテーブルにグラスが叩きつけられる音に遮られた。
「……なんだっていい、とにかく俺は無性にイライラしている。腹が立って仕方がねえ」
「それは俺もだ」
「僕も」
アランの怒りの滲んだ言葉に、他の二人も頷いた。
三人の怒りは二日前の出来事に起因する。
ザーザーと雨が降りしきる中央区のとある一角で、家出してきたと思しき少女を三人は強引にナンパし連れて行こうとした。
が、通りがかりの青年によって阻まれてしまう。
腹を立てた三人は青年にちょっとばかし痛い目を見てもらおうと襲いかかるも、逆にボコボコにされて返り討ち。
結果、アランは首を、ジュストは背中を負傷。
マッシュは玉ねぎ恐怖症になった。
完全に自業自得かつ逆恨みでしかないのだが、そもそも少女を無理やり連れて行こうとした事自体を悪く思っていない三人は、あの乱入してきた青年への怒りが日に日に募るばかりだった。
「ああクソ……思い出せば出すほど腹が立つ……あんな青臭いガキによぉ!!」
「ほんと、次会ったら絶対に一発……いや二発、三発入れてやりてえ……」
「両目にみじん切りにした玉ねぎを押し込んで泣かせたい……」
思い思いの呪詛を並べる三人。
あれほどの戦闘力を持つ者に再びちょっかいを出そうなど、普通の頭ならしないはずだが、普通の頭未満の三人はそのような判断を下せるほど賢明ではなかった。
そんな彼らを、「……くくく」と面白そうに眺める太ったおっさんが一人。
「何笑ってやがる、モルガン!」
「いやいや、街の喧嘩自慢だったお前が瞬殺されたって、今聞いても面白くてな」
おっさん──南区で広い顔を持つモルガンは、ニヤニヤと人をイラつかせる笑みを浮かべた。
「うるせえ! 首の痛みさえなけりゃ、あんなガキ一捻りだった!」
「首の怪我はそのガキにやられたヤツだから関係ないんじゃ?」
「い、いちいちこまけーんだよお前は! とにかく、この首の怪我さえ治りゃ、今度こそあのガキをギッタンギタンに……」
「医者に診てもらえれば、すぐ治るのでは?」
「馬鹿ヤロ! んな金あるか!」
アランの怒鳴り声に、やれやれとモルガンは肩を竦めた。
「まあまあ、俺の話でも聞いて落ち着け。いいネタがある」
「なんだ、ネタって」
アランの問いに、モルガンはニヤリと口角を歪めて言う。
「お前の言ってるガキの特徴に、心当たりがある奴が一人いる」
ガタガタッ!!
わかりやすく身を乗り出すアラン。
ジュストもマッシュも目を見開きその話に食いついた。
「てめえ、今すぐその話を教えろ!」
「そう焦るなって。俺もボランティアじゃねえんだ、情報には対価を……ってな」
モルガンはそう言って、指を五本ピンと立てた。
「五百コルンか! よおし、待ってろ」
「馬鹿か! 五万だ、五万!」
「五万!? お前こそクソ馬鹿か! いくらなんでもボリすぎだろうか!」
「嫌なら忘れな。いつまでもこのシミったれた酒場で呑んだくれてりゃいいさ」
そう言って椅子にふんぞり返るモルガン。
「さあ、どうする?」
モルガンの問いに、アランは人をぶち殺さんばかりに拳を握り締め──。
「……一週間、時間を寄越せ。金を作ってくる」
ニヤリと、モルガンは意地悪く口元を歪めた。
「そうこなくっちゃな」




