63. 愛のお料理教室へようこそ! Welcome to the Love Cooking Class!
「えー、まぁ、林間学校……というわけなんですけれども……えーまぁ、なんかこう、上手いことやってくれたらと思いますね、ハイ。
まずは班に分かれて飯盒炊爨ですね。その後に行軍練習、そして山の調査をしてもらい、自由時間ののち、就寝……ということで、まぁそんな感じですわ。よろしく〜。
あっ……!問題だけは起こさんようにね。学校とか他の先生とか教官が監督してるときなら、全然、問題を起こしてもらっても構わんのですけども、えぇー、まぁ今回の林間学校はボクが監督しているのでね。しかもなぜか一人で……これ嫌がらせか?ついにサボり散らかしてんのがバレたか……?暗に『お前教師辞めろ』っていう圧か?……どう思う?みんな?普通の最低でも4人ぐらいはよこすよねぇ?
……えーと、なんだっけ……まぁ、そんな感じで、ボクの責任になるのでぇ……ボクが監督している間だけはぁ……決して問題を起こさないように。とくに、ほらイケイケのグループとか……あと普段大人しいグループがこういうとこで変にはしゃいで後で死にたくなるのは……お約束ですからね……まぁ、楽しむのは楽しんでもろて……ハメだけははずさんようにね……え〜じゃあスタート……ということで……じゃあね、ばいばい。」
◇◆◇
フリフリと長い袖を振るナウチチェルカ先生。わたくしもフリフリとちいさく手を振り返すと、いつも微笑と共にちょっと長く手を振ってくれる。普段は何をするのも億劫がるのに、これには応じてくれる……ほんとうは生徒想いの先生なんだと思う。
2人だけのいつもの習慣みたいになっていた。……わたくしはこの時間がなんとなく好きだった。チェル先生もおんなじだといいなぁ……。
「アイちゃん様ー!行きますよ〜!」
「あっ!はーい!」
◇◆◇
「えっーと。それじゃあ、お料理できる人いますかね?……あっ、わたくしは少しなら戦力になれると思います。……皆さんはどうですか?」
遠慮がちに手を挙げる……流石に自信満々とはいかない。
「食べたことあるわ!!」
ラアルさまが自信満々にいう。自信のある姿勢にすこし憧れていのはナイショだ。
「右に同じ。」
かげろうが申し訳なさそうにいう。まぁ、そうだよね。おままごとでもいつもわたくしが料理する役だったし。
「平民なので!そこそこできますっ!」
うんうん、アルちゃんはそうだよね。今度一緒にお菓子づくりに誘ってみよう。
「……。」
腕を組んで黙り込んでいる最後の一人。
「……アナタは?なんとか言いなさいよ。」
◇◆◇
「……私は……アイちゃんの手料理を食べたことがある……。……私のためだけに作った……私の好物を。」
あ〜たしかに、はじめてはるひちゃんのお家にお邪魔したときに、ひまりさんにハンバーグの作り方を教わったなぁ……。なつかしい、あの頃みたいに……“ただのなかよしなお友だち”に……もどれないかなぁ……?というなんでそんな話を――
「はるひ……お前、いい度胸だな……!その程度でマウントを取ったつもりか?俺はアイ様とおままごとで100回はご飯を作ってもらってるんだが?」
「ぷっ……しょせん、文字通り“オママゴト”じゃん……。かわいそうに……あの至福の料理を味わったことがない人間は、憐れだなぁ……。」
「し、しふく……って、もうっ!はるひくんったら!やめてよみんなの前で!」
恥ずかしくなってはるひくんの腕を叩いてしまう。
「アイ?おかしいわねぇ……?その言い方だと、“2人きりならいい”みたいに聞こえるんだけどぉ……?私の高貴なる勘違いかしら?」
「いや、そのとおりでしょ。アイちゃんは“私と2人きりのときはすごい”んだから……あっ!これナイショにしてって言われてたんだった、失敬失敬。」
はるひくん、わざとらしー。
「料理じゃなくて毒を食らわせてやるわっ!」
「焰を食らわせてやる……!」
やばいっ!また一触即発の空気だっ!
「はいはーい!みなさーん!落ち着いてくださーい!いちおー高貴なる身の上ですよねぇ?それに見合った振る舞いをしていただかないと、平民から尊敬されませんよー。みなさん?」
手を大きく叩いて、アルちゃんがまとめてくれる。つ、つよい……!
◇◆◇
「ありがとうアルちゃん!じゃあ、わたくしとアルちゃんがお料理を担当するので、かげろーとラアルさま、はるひくんは薪集めと、食材を運んでもらいましょうかね?お願いしても……いいですか?」
「ちょっとアイ!なんで春日春日と一緒なのよ!それにデイリーライフと2人きりは危険だわ!私もお料理班で!」
「……えっと、じゃあそのように。かげろー、はるひくん……お願いできる……?」
「アイ様の命とあらばもちろん!」
「おっけ〜、まぁ、めったにオネダリしないアイちゃんのお願いだしね〜。」
かげろうはお辞儀をして、はるひくんはヒラヒラと手を振って、歩いていく。
ふぅ……色々あったけど、これでひとまずまとまったかな――
「――ちょっと!デイリーライフ!何ドサクサにまぎれてアイの隣に座ってるのよっ!そこは“将来を誓い合ったパートナー”である私の場所でしょ!?」
「はいー?アイたやの隣は“いちばんなかよしな親友”!!のアルターク・デイリーライフの席なんですけど〜!てかパートナーとか妄想はやめてくださーい!」
――あぁ……神よ……なぜ人は争うのか……。
◇◆◇
「アイちゃん様むっちゃ料理できるぢゃん!じゃんぢゃんじゃん!!そーいやこの娘初対面で“アルタークのお嫁さん検定”に満点合格してたわっ!!てか普段の弁当からクソうめぇから知ってたわ私!
ファンタジアさま〜?冷えてますか〜?私アイてゃんにおかず分けてもらったことありまーす。うぇーいw」
アルちゃんが肩を組んできてそれをラアルさまに見せつける。
「アルちゃん!なんで煽るんですかぁ……!」
「アイ?“将来を誓い合った許婚”の私にはなんでまだ食べさせてくれてないのかしら?あっ!そういうことね?本命にいきなりは恥ずかしいのね?……そういう貴女の奥ゆかしいところもかわいらしいわ。
“どーでもいい相手”で練習してね?それでもっとおいしく作れるようになってからってことよね?……私は春日春日とは違って甲斐性があるから、いつまでも待つわ。貴女のこころの準備がととのうまで……ね。」
バチンとウインクつきだ。
「は……はぁ?……ありがとう……ございます……?」
「“許婚”って……どんどん妄想が進行しててこわいんですけど……。ってか!だれが“どーでもいいあいて”ですか!?だれが!こちとらぁ“いちばんの――」
「――アルちゃん!もうわかったから!……ふぅ、それにしてもアルちゃんもお料理ほんとうに上手ですねぇ……尊敬しちゃいます!」
「どぅへへ……そんなにホメるなホメるな。肯定されると、どこまでも調子に乗るから、この私!アルタークは!どう?“アイちゃん様の旦那さん検定”合格かな?かな?」
「ん〜?……どこどこどこ……どんっ!合格ですっ!」
「「いぇーい!」」
「まぁ、元貴族とはいえ平民だしね〜自分のことは自分でもやるクセがついてんのさ〜!私とアイぴゃんがぁいればこの班のカレーが一番うまくできるね!」
「そうだねっ!」
「……。」
――ハッ!ラアルさまがうらやましそうにこちらを見ている――!
◇◆◇
「ラアルさま〜?アルちゃんがとってもお料理ができるみたいなので〜、それじゃあ、ラアルさまはわたくしと一緒にお料理しましょうね〜?」
「する!アイと一緒にお料理!するわっ!この私の高貴なる包丁さばきに震えなさい!」
座っているから私より低い位置になったラアル様の前にかがみ込んで、両手を握って目線を合わせて伝える。
「ん、ん〜!あぶないから、ラアルさまは、今回は包丁を使うときはわたくしと一緒にやりましょうね〜?」
「わかったわ!!」
「ギャーっ!私が料理できるばかりにー!私が生活力高すぎて!かわいすぎて!気遣いができるばっかりにー!“アイちゃん様の旦那さん検定”に満点合格したせいでぇぇえぇぇえ!!王女様にいいとこ取られたー!!わーん!」
といいつつもシュバババッとすごい手際でお料理を進めるアルちゃん……やるな……!
◇◆◇
「は〜い、じゃあラアルさまはこっちにきましょうね〜!アイのお料理教室、開演ですっ!」
「は〜いっ!」
「うわーんっ!!」




