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43. 子供がこどもでいられる日常 Daily Life embraces the child.

ユニークアクセス500人突破ありがとうございます!!!!!

「アルちゃんなんか知りませんっ!」


「アイちゃん様〜よしよし〜。ねっ!機嫌直してよ〜!もうアノの夜のことからかったりしないからさ〜!」


挿絵(By みてみん)


 珍しく怒っているアイを見て、教室は騒然となる。というか、アイは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、これはただのじゃれ合いだった。と言っても、怒った素振りを見せても相手に見捨てられることがないと確信が持てることがないので、怒ったふりをするのも、極めて特異なことで、アルタークをそれほど信頼している(あかし)だった。


 だからアルタークは、仲良くなって少しずつ、アイが自分に対して、仔猫がじゃれつくように、いじわるな言動をしたり、ふくれてみたり、怒ったような素振りを見せてくれるようになったのは、密かに嬉しかった。甘えられているような気がして(とうと)かったのだ。


「頬を膨らましてるアイちゃんもかわいいよ〜!」


「ふんっ!知らないもん!アルちゃんのアドバイス通り、はるひくんと話してきます!それではッ!」


 教室を足早に出ていくアイ。


「ア゙……ア゙イ゙ちゃ゙〜ん゙。……。……?」


 怒って出ていったはずのアイが、無言でトコトコと俯きながら、アルタークの方へ戻って来る。


「……アイちゃん様……?」


 そして、アルタークの服の(すそ)をギュッと握り、(うつむ)いて目を合わせようとしないまま黙り込む。アルタークは幼子にするように、膝を突き両手を握って目線を合わせる。


「どうしたの……?」


「さっきのは……。ホンキで起こってるわけじゃなくて、アルちゃんにかまってほしくて……。だから、きらいに……ならないで……。」


 アルタークは自分の心臓がキューン!となる音を聞いた。そして、ガバっと親友を抱きしめる。


「アイちゃん〜!分かってるよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からっ!安心してっ!ねっ!」


「うん……。」


春日(かすが)様のとこいくんでしょ?ついていこうか?」


「ん……いい、ひとりでいってくる。」


「行ってらっしゃい。」


「ん……。」


 控えめに手を振って今度こそアイは出ていった。


 ――アイちゃん……()()()()()()()()()()?……いや、もしかしたら、今まで()()()()()()()()()()()のかな?……何か()()()()()()()()()()()()が……あったんだろなぁ……。まぁ、じゃあ親友の私が、アイちゃんが子どもでいられる場所になるしかないよねっ!


 アイちゃんが、無垢で()()で、()()()()()()()()()()()()()()でいられるように――!


 ◇◆◇


 春日春日(かすがはるひ)陽炎陽炎(ようえんかげろう)は同じクラスに属している。これは偶然ではなく、春日家が不知火陽炎(しらぬいかげろう)連合の傘下(さんか)だからだ。


 かげろうのクラスは連合の傘下の家の子どもが集められている。単純に将来肩を並べて戦うことが多くなるし、学生のころからお互いの戦闘のクセを理解していれば、統率も容易(たやす)くなるだろうという理由だった。


 実は(ひそ)かに連合の上層部は、アニムス・アニムスであり、こころをもつもの(プシュケー)のアイとの関係をより(みつ)にするために、かげろうとアイを同じクラスにしようと画策(かくさく)していた。アイのそばにいたいかげろうもこれには同意したが、()()()エレクトラがそれを(はば)み、アイを別のクラスに入れた。かくして、アイはかげろうともはるひとも別のクラスになったのだ。


 かげろうとはるひはクラスでもあまり話すことはなかった。もちろんお互いを幼なじみとして信用はしていたが、アイとの関係で軋轢(あつれき)があったからだ。そんな少し対立しているように見える様子も、“学園の二大王子様”という巫山戯(ふざけ)(あざな)を作るのに一役買ったのだろう。


 二人とも教室では騒ぐタイプではなかった。かげろうに関しては周りに未来の部下がたくさんいるとあっては、羽目(はめ)も外せない。はるひはそもそもクラスメイトに興味がなかった。2人の人生における興味のほぼ全ては、アイ・ミルヒシュトラーセに集中していたからだ。


 アイのクラスがアイを中心に和気あいあいとしているならば、かげろうのクラスはかげろうを中心に規律だっていた。それは中心人物の人柄を反映させたものだった。


 そんな2人が徒然(つれづれ)に過ごしていると、教室のドアが控えめにノックされ、開いた。もちろん2人ともそちらを見やりもしない。しかし、いつもは静かなクラスが珍しくざわざわと騒ぎ始めたので、一言言おうとかげろうはそっちを見た。そして弾かれたように立ち上がる。クラスでの彼しか知らないクラスメイトたちは吃驚(びっくり)する。


 彼がそんな行動に出たのは、アイが扉の前でかげろうのクラスメイトに囲まれながら、目を白黒させていたからだ。


「“天使姫”!かわいい!」

「“学園の天使お姫様”だ!きれ〜!」

「“天使姫”……どうしてこのクラスに?」

「あぁ、(うるわ)しい……是非(ぜひ)僕と親交を結んでは下さらないか……!まずはその証として、そのたおやかな御手(みて)に口づけを――」


「おい!貴様っ!アイ様に何をしようとしている!控えろ!離れろ!オマエラっ!」


 かげろうがクラスメイトを散らしながら、大股でアイに駆け寄る。かげろうに気がついたアイは、困惑した顔から、花が咲いたように(わら)う。


「あっ……かげろうっ!」


 かげろうは、アイが自分を見つけただけで喜び安心するのだという事実に、打ち震えていた。


「アイ様……!どうされたのですか?このような所に。」


 このような所って……とクラスメイト達が内心不満を漏らす。


「もしや俺に会いに?それならば言ってくだされば、いつでも迎えに()せ参じますのに――」


 キザなクラスメイトに握られていた、アイの手をハンカチで拭きながら言う。


「――ううん、今日ははるひくんに用があってきたの。」


 かげろうの動きが止まる。それに気づかずにアイは続ける。


「でもかげろうに会えてうれしいな。次期当主候補の()()()になってから、忙しそうだったし、授業ちがうとなかなか会えないもんね。」


「……そう、ですね。」


「それで、はるひくんいるかな?2人きりで話したいことがあって――」


 アイの言葉を神のように愛しているかげろうが、それでも口を挟む。アイの両手を握りながら。


「アイ様……なぜ自分からはるひとお会いになろうとするのです?それも2人きりだなんて、危険です。最近の2人の関係はあまり良くなかったはず……何故態々(わざわざ)アイツなんです?命令なら俺が、悩み事でも俺に伝えてください。俺はあの日アイ様を守ると、そう誓っ――」


 人を小馬鹿にしたような声が割って入る。

 

「かげろうさぁ……私を危険人物みたいに扱わないでよ。」


挿絵(By みてみん)


 気がつくと手をつないだ2人の横に、はるひが立っていた。その視線は2人のつないだ手に向けられており、またいじめられると、アイは慌てて手を離そうとした……したが、かげろうが決して逃さないとばかりに離さない。獣神体(アニムス)の力は、ノーマルの子供より虚弱なアイには少し痛かったが、口には出さなかった。


「はるひ……!」


 かげろうがはるひを(にら)むが、無視して続ける。


「それにアイちゃんはさぁ……私をご所望(しょもう)なんだよ?それも“2人きりで”さぁ。“関係ない部外者”はどっかいったいった。」


 おおよそ未来の上司に対する態度ではない。かげろうが獣神体(アニムス)(プレッシャー)を放って威嚇(いかく)し、はるひもそれに応えるように(プレッシャー)を解放する。人間体(アニマ)のそれもさらに弱いアニマ・アニマのアイには到底耐えきれない。


「ひぅ……!」


「アイ様!おいはるひ!オマエも圧を抑えろ!!」


 かげろうがアイを支え、はるひに怒鳴る。しかし、はるひは一向に抑えようとはしない。


「なんで?“アイちゃんも獣神体(アニムス)なんだから”さぁ。これぐらいどうってことないでしょ?」


 ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべる。


「わたくしは、だいじょうぶです。ありがとう、かげろう。……はるひ、くん。少し――」


「二人っきりで話でしょ?いいよ〜。いこいこ、ここじゃあお邪魔虫も多いしねぇ?」


 アイの肩を抱いて外にでるはるひ。


「かげろうっ!またねっ!」


「アイ様……。」


 2人が去った教室で、誰にも聞こえない声で、でも確かに、かげろうは言った。


「……アイ様は獣神体(アニムス)だ。それは間違いない。()()()()()()()()()()()()()()()()――?」


 その疑問は確かに、かげろうのこころに響いていた。


 ◇◆◇


 空き教室から怒号が聞こえる。それは(つがい)が危機に(おちい)っときに発する、獣神体(アニムス)咆哮(ほうこう)であった。


()()()、今、なんつった?もう一度言ってみろ……!!」


 それはアイに向けられたはるひの、憤怒(ふんど)の爆発であった。  

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