42.私は私が好き、だって貴女が私を好きなんだもの。 I like me, because you like me.
「まずね、かわいすぎた。天使かと思ったからね。驚嘆したんだから!都会の子ってみんな天使なのかってね!?全然違ったけどね!嫌なヤツ多いし!あっうそうそみんないいひとです。これもウソだな。とにかく!かわいすぎて声かけちゃった!だから私は悪くない!全部アイちゃんが悪い!謝って!!純真な田舎者をたぶらかしてっ!」
「ご……ごめんなさい……?」
あまりの勢いにのまれてつい謝ってしまうアイ。
「それにアイちゃんはさっき全部が全部私のおかげみたいに言ったけどさ、話しかけたのは私だけどさ……ごほんっ!あ゙〜、あ〜、ん゙ん゙、よし……
『その、わたくしと……おともだち、になってください……ませんか?きゅるんっ!』
……て先に言ってくれたのはアイちゃんぢゃん!じゃんじゃんじゃん!……似てた?」
「いえ、まったく。チッ……はぁ~、2度と軽々しくテキトーにモノマネしないで下さい。」
蔑むように冷たい目と声で告げるアイ。
「えっ……あ、アイちゃん……?アイたそ……?」
「ふふっ!冗談ですよっ!」
「よしっ!……セーフっ!……でもね、それだけじゃないんだ。もちろん、最初のきっかけはそうだったけど。お友だちになって、話して、一緒に過ごして。あぁ、この娘はほんとうにいい子何だなぁ……って。そう思ったの。」
「……わたくしはいい子なんかじゃ――」
「――黙って!!いい子なの!分かった!?貴女の親友が言ってんだから!自分より私の言葉を信用して!わかった!?返事はぁ!?」
「は……はいぃ……。」
「よし!こうでもしないとアイちゃんには伝わんないって分かってるからね!もうなりふり構わないよ!親に言われてそうなったんだったら、100回じゃ足りないんなら!私が側で1000回言ってやるからぁ!いい!?」
「は……はい……!」
「いい子でちゅね〜!よしよし〜!」
「ア……アルちゃん、テンションが……お酒でも飲みました?」
「こちとらアイちゃんをキメてるんでぇ!いちばん近くで“アイニウム”を浴びてるからね!ヤバい自覚ある!だけどやめらんない!ヤバいヤバいガチで中毒だ……。……ハッ……!シュベスターさまがアイちゃんにだけやさしい理由がわかった……!」
「は……はぁ……?」
「それで!また話逸れたな。お友だちになってからの話だよ!まずね、最初に私の地位を確認しなかったでしょ?この学校じゃあ、最初にみんな貴族かどうか、どれくらいの家柄か聞いてきて、“オトモダチ”になるか決めるし、どんな態度をとるかも決めてくるんだから!」
両手の人差し指と中指をクイクイっとまげて、オトモダチを強調する。
「アイツラはぁ……ナメやがって……!……でもアイちゃんはそんなことしなかったし、私が何者か知る前からお友だちになってくださいませんかって、言ってくれた。アイツラみたいに、友達になってやるとか、なってやってもいいとかじゃなくて……こんな私に、なってくださいませんか……って。それがどんなに、うれしかったかわかる!?どれだけ救われたかわかる!?」
アイが反撃の姿勢に入る。
「アルちゃんだって……知らないでしょう!アルちゃんが、こほん、こほん、あー、んんっ、よし……!
『あっ、あっ、あっ……ぜひ……よろしくおねがいしましゅ……。』
って言ってくれたときにわたくしがどれほど、うれしかったか知らないでしょう! ……似てましたか?似てましたか?」
褒めてほしくて仕方がない犬みたいに、超絶ドヤ顔でアイが告げる。勝った……!と言わんばかりに。
「え゙っ゙……一言一句、覚えていらっしゃる……?」
まさか、相手もあの時のことをそんな鮮明に覚えてるとは思わなかったアルタークが絶句する。
「ふふーんっ!覚えているのが自分だけだと思わないことですっ!」
「いやいや!あん時の私キモかったでしょ!?超絶黒歴史なんだけど!?忘れてよっ!」
「忘れませんっ!……それに、かわいかったですよ……?」
「いやー!キツイって!キモかったって!」
「わたくしのを言葉を信じてくれないんですか〜?さっき……自分のことより、親友の言葉を信じてって言ったのはアルちゃんですよね〜?」
意地悪な笑顔で、指をクイクイっとさせて“親友の言葉”を強調する。
「ギャー!アイちゃんが悪い娘になっちゃった!天使から小悪魔に堕天しちゃった〜!そんなふうに育てた覚えはありませんっ!」
「アルちゃんに育てられた覚えはありませんっ!」
――そもそも、わたくしは誰かに育てられたことがあっただろうか。育てるということが、衣食住を与えるというのなら、それはエレクトラさまだ。でももし、育てるということが、愛するということなのなら、きっとわたくしを育てて下さったのは――
「閑話休題!仲良くなってからもさ、私の頼み何でも聞いてくれるし、悩みも親身になって聞いてくれるし。ダメだよ?ダメ人間製造機じゃん!?誰にでもやさしくしてたら、私みたいなもんは、『あっ……この娘おれのこと好きなんだ……!一生かけて守護る騎士になろう……!』って勘違いしちゃんうんだよ〜!勘違い製造機めぇ~!初恋泥棒め〜!」
「アルちゃんのことはちゃんと好きですよ?勘違いじゃないですよ?」
「おっふ……。あ、ありがとう。そう……それに、私が襲われたときだってさ、私より怒ってくれちゃってさ、私より悲しんでくれちゃってさ……それに何かしてくれたみたいだし……絶対に教えてくんないけど。そんなのさぁ!好きになるじゃん!好きにならないでいられるわけないじゃん!!(ムリムリ、無理だった!?)」
「ありがとう、アルちゃん。わたくしは自分のことは、そんなに好きじゃないですが――」
――ころしたいほど憎いけど。
「わたくし自身ではなく、“アルちゃんが褒めてくれるわたくし”なら、少しは好きになれるような気がします……。」
「そう……!そうなんだよ!言いたかったのは!そういうこと!!自分がキライだって人にいくらあなたはステキな人だよって言ってもわかんないと思う!だって自分がいちばん自分のことわかってるんだから。自分といちばん長い時間一緒にいるのは自分なんだから。アイちゃんとずっと一緒に生きているのはアイちゃんだけなんだから。
だから私は!ステキだよじゃなくて!スキだよって言う!貴女の自己評価なんか私には関係ない!そんなの知らない!!貴女がどれだけ貴女を嫌いでも!私は!私が!貴女を愛してる!好きなの!それなら伝わるでしょう?……うぅ〜!あいしとーよ〜!!」
「アルちゃん〜!うん!わたくしもあいしとーよ!ですっ!」
「「アハハッ!」」
こうしてアイは、自分自身ではなく、他人からみた自分自身を肯定することで、またかろうじて生き永らえた。友への偽りの上に築かれたその“自己愛”は、その嘘が白日のもとに晒された途端に、露と消えるともしらずに――。
その日が近いということも、まだアイは気がついていなかった。
◇◆◇
「それに。アイちゃんはさっき春日春日とのことで、立場も境遇も違うのにお友だちになれると勘違いしてたって言ってたじゃない?」
「……?……はい。」
「私は、アルターク・デイリーライフ、平民の、農家の出、人間体、あなたは?」
自分に指を差したあとリズムよくアイに指を向ける。
「アイ・ミルヒシュトラーセ……?貴族の、辺境伯家の出?獣神体……これで、合ってます?」
「そう!つまり立場も境遇も違う!けど、私たちは〜?」
「……親友……だね。」
「そう!……だからさ、何があったかは知んないけどさ!春日春日とまた話してみたら?友達に戻れるんじゃない?その証拠が私たち!人間体と獣神体が親友になれるんだよ?“学園の天使お姫様”と“学園の平民王子様”なんてヨユーで友達に戻れるっしょ!それに、2人は獣神体同士なんだしさ!超絶ヨユーっしょ!ね?」
獣神体同士という言葉に、友に……それも親友に性別を偽っているという事実で、アイの胸は痛んだが、確かに勇気をもらった。
「そう……ですね。はるひくんに言ってみます。わたくしたちお友だちに戻りませんかって!」
「その意気だ!もし酷いこと言われたら私がいつでも慰めてあげるからね!あと、もし酷いことされたら、春日春日をぶっ飛ばす!!シュッ!シュッ!」
擬音を声で発しながらシャドーボクシングをするアルターク。
「アルちゃんは人間体なんですから、獣神体に喧嘩なんて売らないでくださいよ……?」
「ふんっ!友達のためなら相手の性別なんて関係ないのさ!友情の前では性別なんて些細な問題よ!」
性別を偽っているアイは、その言葉に少し救われる。もしかしたら、ほんとうの性別を告げてもアルちゃんなら受け入れてくれるかもしれない、いや、きっと受け入れてくれる、とそう確信が持てるほどの友情だった。獣神体のフリをしているのは、エレクトラの命なので、決して伝えることはできないが。
◇◆◇
「ときにアイてゃんよ!」
「てゃん……?なんですか?……アルてゃん!」
「林間学校の話してなくね!?」
「あ、あー……あ〜!準備何も進んでない!」
「徹夜しよう!そうすれば、まだ間に合う!まだ舞えるっ!」
「お……お友だちと、徹夜……!お話で読んだことがあります……!あこがれてたんです……!あぁ、おねえさま……あいはきょうオトナになります……!」
「いいねっ!じゃまずは〜!……何から決める?」
「フッ……アルターク・デイリーライフ……。愚問ですね。」
アイが欠けてもいないメガネをクイッと上げる。
「な、なんだとぉおあおぉおぉぉ……!」
二人とも楽しすぎてテンションがおかしくなっていた。
「この議題の、最優先事項、それは――」
「ゴクリっ……。そ、それは……?」
「ズバリっ!……おやつです!」
「たしかにぃ〜!何持ってく?何買う?バナナはおやに――」
「入りません!」
こうして、ふたりの夜は、ふたりの親友ためだけに用意された夜は、更けていった――
朝になって冷静になったアイは昨夜のお道化散らかした言動を思い出し真っ赤になり、アルタークにそれはそれは可愛がられた。
◇◆◇
「……てか林間学校まで数日あるから、徹夜する必要無くなかった?」
「たしかにっ!」




