16.最後の審判ののちに…… Lasting after the Last Judgement
●次回から毎日(平日も祝日も)18:00更新です。
●第一章は話ごとの文字数を10000-20000にしていたのですが、3000-6000のほうが読みやすいとのことなので、第二章からはそちらに合わせています。
第二章まで読んでくださり、ありがとうございます!
アイが5歳となり、マンソンジュ軍士官学校に行くことになった。学校といっても軍に入る前に通う予備学科のようなものだ。ゲアーターは既に軍役に服しているし、エゴぺーは持病の療養をしているので、学校にも軍にも所属してはいない。つまり、学校にいるアイの見知った人といえば、がげろうとはるひ、そして2学年上のシュベスターとしらぬいぐらいのものだった。
2人の決別以降、はるひは上背が伸び体格も良くなり、益荒男になった。
それに呼応して、アイは力を失い背も伸びず、手弱女になった。
……はるひとはまだしっかり話せていない。
この国には、獣神体至上主義が蔓延っており、国の中枢へいくほどそれは酷くなる。つまり、国が運営する軍学校ともなれば、言わずもがな、である。
アイはそんな学校に通うとなり、ますます他者を、自分自身を偽った日々を送らなければならなかった。そしてまた、こころがすり減っていくのだった。それでも、アイが入学して暫くは、穏やかな日々が続いていた。
平民の子が小数にもいるにはいるが、基本的には高位貴族の子弟が集まる学校である。そのなかに、この国の最高位であるミルヒシュトラーセ家の子どもが入ってきたとなって、貴族たちにも、クラスメイトにも大いに注目された。そして、かげろうもまた、あの不知火陽炎連合のトップ2家の内の片割れである陽炎家の次期当主ということもあって、入学してすぐに、学年の中心人物となった。
両者とも将来を約束された獣神体であったこともその要因の1つだった。注目されることが苦手だったが、おねえさまと同じ学校に行けるというのは、家族のなかで排斥せれてきたアイにとっては素直に嬉しかった。はじめて制服が届いたときなどは、それを着て兄姉たちに見せびらかしたものだ。
◇◆◇
「おにいさま!おねえさま!見てください!あいは1年生になります!」ジャーン!
「おお〜、似合ってるじゃねぇか。」
「かわいいわよ!アイちゃん。スカートにしたのね、アイちゃんは男性体でも女性体でも華奢で可愛いからそっちのほうがいいと思うわ。せっかく学校に通うんだし、髪型もツーサイドアップにしちゃいましょう。ムスビムスビ
「はいっ!おねえさまに相談したらスカートをオススメされたので!」
「……。」
「おねえさま?似合っていませんか……?」
「い、いや!とても似合っているとも!うん!私と色は違うが私とお揃いというのもいい!」
「シュベスター、制服なんだからお揃いなのは当たり前だろ?」
「うるさい……。私にはロマンがあるんだ……ロマンが……!」
「あら?リボンとネクタイは両方あるのね?どっちにしましょうか?」
「うーん、どうしましょう……みなさまはどっちがいいと思いますか?」ウーン?
「俺はリボンに一票、アイの顔に合うのはリボンだろ。」
「うーん、ネクタイも捨てがたいけど……確かにアイちゃんにはリボンの方が似合うかも?スカートだしね。リボンに一票〜。」
「ネクタイ!断然ネクタイだ!スカートだからリボン!?なんて安直で浅はかな考えだ……!アイには……スカートにこそネクタイだろうがっ!ネクタイを着けたアイを想像してみろ!お前らには想像力が足りん!!」
「あら〜なぜかディスられたわ〜。」
「オマエにあるのは妄想力だろ……。」
「うるさいっ……こほんっ……アイ、ネクタイをつけてみないか?きっと気に入るぞ?きっと似合うぞ……?」
「そ、そうですか……?そこまで仰るのなら、ネクタイにしてみます。」
「……シャア!!」ヨッシャァ!!
「!?」ビクゥッ
「シュベスターよ、最近アイの前では隠そうという努力が感じられんぞ。」
「まあまあ、シュベちゃんもアイちゃんと同じ学校に通えるって喜んでいるのよ。」
「て、手を繋いで一緒に通おう、な?アイ、どんな危険があるか分からんからな……!」ニチャア
「……一番険なのコイツじゃねぇーか?」
「仲良きことは美しきかな〜。私は病気で学校に行ったことはないから羨ましいわ。私もアイちゃんシュベちゃんと通いたかったな〜。」
「エゴおねえさま……。そうだっ!……アイの制服を来てみませんか?」
「アイちゃん……ほんとうにやさしい子ね〜、でもアイちゃんの制服は私には小さすぎるかなぁ〜?そうだっ!シュベちゃん!」
「嫌だ。」
「まだ何も言ってないじゃない!制服貸して!」
「貸さん。」
「いいじゃねぇか、シュベスター減るもんじゃねぇし。」
「お揃いは私が勝ち取った権利だ……!」
「おねえさまワガママを言ってるのははじめて聞いたかもしれません……!」ワー
「まぁ、アイちゃんの前だといつもお姉さんぶってカッコつけてるけど、妹だしね、シュベちゃんも。」
「俺の昔のを着るか?エゴペー。スラックスでよければだが……。」
「着るわ〜!ありがとう!」
◇◆◇
ミルヒシュトラーセ姉弟、陽炎陽炎以外にも学園の有名人は何人かいた。そのうちの一人は、春日春日だった。背も高く容姿も爽健で、稀に見るアニムス・アニムスということが大きかった。アイははるひと話したかったが、お互いに目立つのでなかなか機会がなかった。そんなとき、ある噂を聞いた。
「アイちゃん様、しってますか?」
「何をです……?」
アイを取り巻くクラスメイトの一人、特別仲良しのアルタークちゃんが、昼飯時に話題を提供する。
「私聞いたんですけど、この学園には、裏で人間体の生徒を見つけ出し、取り締まる秘密の組織があるって……!」
そのアルタークちゃんはワクワクして言ったが、アイは冷や汗がした。クラスメイトにも家族にも、自分を獣神体だと偽って生活しているからだ。
「ええ〜?嘘っぽくない?ヒミツのソシキって、子どもじゃないんだからさぁ。」
他の生徒が疑惑の声を上げる。
「いやいや!私も聞いたことあるよ!なんでも、ボスは獣神体で、構成員も幹部は獣神体ばっかなんだって!」
「ええ〜?ホントだとしたら、すごい組織じゃん!」
「うちの学校で正式に獣神体だと公表してるのって……風紀委員長のシュベスター様と生徒会長の不知火様、生徒会の何人かと陽炎様、アイ様、それと……先輩はあんま分かんないけど、うちのクラスだとクレジェンテくんもか……。他に誰かいたっけ?」
みんなが盛り上がっているのよそに、アイは考え込んでいたが、話題が自分たちに及んだので、つい答えてしまう。
「あと、はるひくんもだよ。」
「あぁー!隣のクラスの春日様!」
「いいよね〜“学園の平民王子様”!」
アイは疑問を口にする。
「へーみんおうじさま? ってなんですか?」
「アイちゃん様知らないのっ!?まぁ、当事者だしなぁ……面と向かっては言わないか?恐れ多いしな……。」
「うちの学園の目立つ人はみんな裏で呼ばれてるあだ名があるんですよ!あんまり自分より高位の貴族様の名前をみだりに呼んじゃいけないですからね〜。」
「なるほど……?それで。はるひくんは、おうじさま……?」
アイがキョトンとしてきく。
「そうです!春日家って元は平民じゃないですか〜。だから、うちの学園の平民の出の生徒は密かに憧れてるんですよ!自分たちもいつかは貴族にって!まぁ、見た目がイケメンってのもあると思いますけどね〜。」
「はるひくんが……いけめん……??」
「それで!アイ様もあるんですよ!ズバリっ!“学園の天使お姫さま”!です!最高位貴族なのに誰にでも天使みたいにやさしいのと、見た目が超絶可愛いからですね!これは!“天使姫”と略すと界隈では通ぶれます……!」
「かいわい??……つう……?」
「まぁ、ミルヒシュトラーセだし姫と言っても過言ではないよね〜。」
「でも姫と言えば、この学園には、パンドラ公国の王女のラアル様がいますよね?」
当然の疑問を口にするアイ。
「違うんですよ!アイ様!こーゆーのはどれだけ中身が純粋で天使みたいか、見た目がお姫様っぽいか、可愛いかってことなんですから!ノリですよノリ!」
「の……のり……?」
「それにうちは軍学校だけあって、公王派より、辺境伯派、つまりミルヒシュトラーセ派のほうが多いですからねー。軍閥の子弟が多いですから。」
「な、なるほど……?目立つ人はみんなってことは、おねえさまやしらぬいさんも?」
「そうですよ。シュベスター様は、“学園の氷壁女王”、これは、ズバリ怖いというのと、アイ様のお姉様だからというのが濃厚です……!」
アイは、おにいさまが聞いたらからかいそうだな、と思った。
「は、はぁ。おねえさまは怖くありませんが……?」
「それは弟のアイ様に対してだけですよっ!最初に手を繋いで登校されたときは、イメージと違いすぎて誰かわかんなくて騒然となったんですから!」
変なテンションになったお友達をみて、みんなこういう話が好きなんだな、とどこか他人事のように考えるアイ。
「そして不知火様は“学園の女神女王”です!人当たりもよくてやさしいですからね!」
神なのか、王なのか……どっちかじゃだめなんだろうか、ていうか女王二人目だな……と思うアイだった。
「その弟君であられる、陽炎様は“学園の貴族王子様”!これは、女神女王の弟だからというのと、春日様の平民王子対比するためだという研究結果があります!」
「けんきゅう??……というか、お……王子も二人目……!権力闘争がすごそうな国ですね……!」
「アイちゃん様の相変わらず天然ですね〜、こういうのはノリなんだから、細かいことはいいんですよっ!そして、パンドラ公国の王女!ラアル様は“学園の立腹お姫様”……です。
……これはラアル様がかーなーり気が強いってこともありますが、つけたのが辺境伯派の人間だからってのも大きそうです。」
「し、失礼ですね……。それにお姫様も二人……。」
全部2人ずつにしないといけない深い理由があるんだろうか……ないんだろうな、多分、と思うアイなのであった。
「もちろん!私はアイちゃん様派だよ〜!」
アルタークちゃんにぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
「あ、ありがとうございます。……でも、お家の関係とわたくしたちの関係は別なので……。わたくしは別にラアル様のことを嫌ってはいませんし……。」
周りがピタッと静まりかえる。
「あー、アイ様は知らないのかな?ラアル様の方はけっこ〜アイ様に対して対抗心を燃やしているらしいですよ〜。」
「ええ……わたくしなにか失礼なことをしてしまったのでしょうか……?」
「いやー、アイちゃん様が可愛いからでしょ。ラアル様は特に自分の美貌に自信があるらしいから。それで前の学校でも問題を起こしてたらしいよ……?」
「そうなんですか?」
「ゴリゴリ公爵家なのに、辺境伯派の多い軍学校に来たのも、そのトラブルが原因らしいですよ。」
「アイちゃんのことも狙いにくるかもね〜?」
「えっ……こ、こわいですね。」
「大丈夫だよアイちゃん様!私たち天使姫親衛隊が黙ってないから!」
「皆さんは親衛隊じゃなくてお友達ですよね!?」
「「「アハハっ!」」」
教室の扉が開き、喧騒のなかを一直線にアイに向かってツカツカと歩みよって来る人影。
「アイ様、今御時間大丈夫でしょうか?」
声の主の目にはアイしか映っていないようだった。
「……かげろう。どうかしたの?」
呼び捨て!タメ口!?とお友達が騒ぎ、教室の注目もさらに集まってくる。
「少し、2人きりで、お話したいことがあって、宜しいでしょうか?」
2人きりで、を強調して言う。
「?……うん?いいよ?」
「では御手を……。」
「は、はい……。」
さらにザワザワとする教室を尻目にかげろうはアイをさらってスタスタと歩いていく、アイのちいさな歩幅に合わせながら。誰もいない踊り場で、かげろうが立ち止まった。
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