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12-①. こころ Kokoro

 聖別の儀(セパレーション)が始まった。森のなかにちいさな闘技場のようなものを作り、そこで性別を確定させたい2人を闘わせるのだった。


 ◇◆◇


 勝ったものが獣神体(アニムス)になり全てを手に入れ、負けたものは人間体(アニマ)となり全てを――。


 これはビッチングと呼ばれる現象で、獣神体(アニムス)が相手に心の底から負けたとき、肉体が人間体(アニマ)に変異することを利用したものだ。動物界でもオス同士の決闘で負けたものがメスになるというのはよくある話だ。


 この聖別の儀(セパレーション)はアイを稀代(きだい)のアニムス・アニムスにする為に、両家合意のもと仕組まれたものである。


 ◇◆◇ 

 

 それぞれの家族が離れた所から見守るなか、アイ・エレクトラーヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセと春日春日(かすがはるひ)が向かい合う。


 ◇◆◇

 

「いやーこんな伝統衣装みたいなのまで着せられてさ〜恥ずかしいったらありゃしないよね?みんな見てるしさ。ねっ、アイくん。」

 

「ふふっ、そうですね、はるひちゃん。」

 

「緊張してる?」

 

「いえ、()()()()()に勇気をもらいましたし、はるひちゃんとならひどい結果にはならないってわかりますから。」

 

 「……そうだねぇ……。アイくんは()()()……うれしいこといってくれるね!」

 

 はるひの眼が友情以外の何かを宿(やど)していることに、アイは気が付かなかった。はるひではなく、両親のいる方へ体をむけていたからだ。……両親のことだけを、見ていたからだ。

 

 「はじめようか……。アイくん。」

 

 「はい!よろしくお願いいたします!」


 暫くお互いが相手に直接的な暴力を振るのに躊躇(ちゅうちょ)して、遠くから表面的な感情を顕現(けんげん)させぶつけあっていた。お互いの発現(はつげん)させた心を褒め合いながら、あたかも真なる友であるように。だがそれはあくまで、真なる友()()()()()()()()、でしかなかった。


 それを見ていたエレクトラとしゅんじつが立ち上がる。


 ◇◆◇

 

 「アイ!!うすっぺらい感情なんぞで相手の表面を撫でたぐれぇじゃあ、聖別の儀(セパレーション)はできねぇ!自分の心を全部相手にさらけ出して、本当の感情で相手を深くぶっさすんだ!!」

 

 「……はるひ、アイくん……すまない……。こんなことをする俺を……どうか、()()()()()()()……。


 相手に自分の心をさらけ出すというのは本当に恐ろしくて容易(たやす)くはできないだろう!だからエレクトラ様と俺が手助けをしよう!!」

 

 エレクトラとしゅんじつが両手を重ねて前に突き出し、自分の子供になにかムスカリの花のような紫の感情を飛ばす。それがアイとはるひの頭に突き刺さり、2人は膝をついて座り込み、だらんと首を()れる。

 

 「は、はるひ!アイちゃん!大丈夫!?アナタ……何を――」

 

 ひまりが取り乱して夫に真意を問おうとするが、エレクトラとオイディプスは落ち着き払っていた。

 

 「ひまり……これは2人に必要なことなんだ……。」

 

 ひまりは夫のちいさな声が悲痛な叫びを内包(ないほう)していることに気が付いた。エレクトラが叫ぶ。


挿絵(By みてみん)

 

 「人間の本性が!ほんとうのこころが表れるのは!!へらへらと笑ってしあわせな“ライ麦畑”の中にいるときじゃあない!

 

 孤月(こげつ)のように暗い絶望!海淵(かいえん)のように深い悲しみ!瞋怒雨(しんどう)のように激しい怒り!春怨(しゅんえん)のように焦がれる嫉妬!

 

 なんにもとりつくろわない()()()()()()()こそが!()()()()()()()()だ!今お前たちの薄っぺらい仮面みてぇな好感情をはがした!さぁ、本心を、ほんとうのこころをぶつけ合うんだ!!」


 二人はうずくまったままピクリとも動かない。だが、彼らの心は(さざなみ)のように揺らぎ、次第に荒波(あらなみ)のようにのたうち回っていた。


 ◇◆◇

 

 ――あぁ……苛々(いらいら)する。すべてにむかっ腹が立つ。髪を揺らす風も、肌を撫でる空気も、目の前にいる()()()()()()()()()()()()も、この世の全てが私を苛々させるために生まれてきたみたいだ。この怒りを、憎しみを、この、やるせなさを、目の前の()()()()()()()()()()()()にぶちまけてやる。

 

 ふざけやがって。どいつもこいつも、むかつく、業腹(ごうはら)だ。腹が立って仕様がない。息をするのも億劫(おっくう)だ。この世の全部が私をいらだたせる。()()()()()()()()()()()()()――。


 「あぁああああぁあ、ふざけやがって、お前に食らわせてやる、私のくそみてぇな感情を!!恵まれたボンボンには一生分からないだろう!!私たちが!!私が日々どんなにくそみてぇな気持ちですごしてるかなんてさぁ!!」

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― 新着の感想 ―
こんにちは、ADPh.D.さん。 物語の中で描かれる感情の激しさと、キャラクターたちの複雑な心の葛藤が、読者の心を強く揺さぶる作品でした。特に、アイやはるひの内面的な苦しみが丁寧に描かれており、その…
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