表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/228

192. 月の裏の片時雨 Lunar Reverse Drizzle

38Kページビュー

8.7Kユニークアクセス

ありがとうございます!!!

「ふうぅ……秘密にして欲しいんだけどね、こうすると、どんな気分のときでも、“躁状態”に()()()のよ〜。


 ただ使いすぎには注意よ。躁状態っていうのは散華した鬱状態に比べていいものだって言う人もいるけど、どちらも(こころ)(ヘルツ)()()()()()()()()には変わりないわ。」


「……。そうすれば、わたくしもいつもニコニコ笑っていられますか?」


「……んーん。多幸感(たこうかん)で無理矢理仮面を作った時以外は、笑っていられるわけじゃあないのよ。いつも悲しいなら、悲しみの仮面しか作れないしね。


 だけど悲しみの仮面を使ったとしたら……真顔でも、激怒していても、相手には笑っているように見えるだけ。でも“心を隠す”して笑っていると思わせられるのは、心者(ヘルツァー)にとっても人間にとっても……優位に働くわよ〜。

 

 だからオススメはしないけど、()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんていうのは残酷だと思うの。だから、こういう方法もあるよって伝えたかったの。」


「……やります……たとえ“地獄(パンドラ)の禁忌”を犯しても……あの娘の……シュベスターの隣に立ちたい……!!」


「ほほう、ならば教えて(しん)ぜよう、最初は悲しい時みたいに顔を両手で覆って――」


 ◇◆◇


 しらぬいさんの話を聞いて、わたくしは聖別の儀(セパレーション)前のファントム先生の言葉を思いだしていた。


 ◆◆◆


挿絵(By みてみん)


「この世で1番許されざることは、“(ヘルツ)で人間を()したもの、人間を作ろうとする”ことです。たとえそれが“人間の身体の一部だけ”であったとしても、死罪になりえます。」

 

 顔のすぐ近くで声がする。

 

「……理由は何故(なぜ)だと思う?」

 

「理由?ですかそれはまだ、ご教授(きょうじゅ)頂いてないので……。」

  

 今度は後ろ髪の側から。

 

「答えろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()?学んだことを元に自分の頭を使わねば、一生莫迦(ばか)のままだ。私は莫迦は嫌いではないが、()()()()()()()()()()()()()()()()は殺したいほど嫌いだ。答えろ。」

 

「はい、……ええと。もし人間を作ったら、それは心でできているわけですから、新しく心を、つまり自我を持つかもしれません。ですが、物質世界では心はたちどころに消えゆく運命にあります。生まれてすぐに死ぬというのは、あまりにも哀れだから、……ですか?」

 

 髪を一房(ひとふさ)持ち上げられる。

 

「では、我々はどうだ。私たち人間は?我々の人生は(なが)いとお前は考えるのだな?」

 

「……どうでしょう、確かに死産や夭折(ようせつ)する者もいますし、人間の生は、もし永らえたとしても……いや……。答えは何なのでしょうか?」

 

「教えない。軽々しく真理を求めようとするな。真理を求めるなら、“彷徨(さまよ)える跛行者(はこうしゃ)”となる覚悟を持て。この世の問で正解があるものなど、数えるほどしかない。重要なことは、()()()()()()()()()()()()()()()()、もしくは()()()()()()()()()()()()()()だ。


 ◇◆◇


「……そんな事が……。」


「そうなんだよ〜。だからしらぬいさんは、エゴペー様に返しきれない恩があるってわけさ〜。」


「そんな、おおげさよ〜。私はやり方を教えただけ、実際にやったのはしらぬいちゃんでしょ?」


 ……なるほど、これで(いく)つか合点(がてん)がいった。


「……なるほど……。今まで確信は持てなかったのですが、確かに違和感はありました。」


「違和感〜?私としらぬいちゃんに?」


 お二人が顔を突き合わせながらハテナマークを出す。


「えぇ、なんだかお二人の雰囲気や喋り方が似ていらっしゃるな……と。」


「「私たちが〜?そんなに似てるかなぁ〜?」」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「ほら!それですよ!」


「「あはは〜。確かに〜。」」


 不知火さんは少し気恥しそうに、頬を掻く。


「実はね〜しらぬいさんは、エゴペー様を“明るく元気な不知火不知火(ふちかしらぬい)”のモデルにしてるんだ〜。だからだと思うな〜。」


「ええっ!そうだったの?しらぬいちゃん。」


 エゴおねえさまが驚嘆(びっくり)して声をあげる。


「……えぇ、お恥ずかしながら、エゴペー様はわたくしの“理想のお姉さん”そのものですから……あはは……なんだか面映(おもは)ゆいですね……。」


 しらぬいさんの赤面顔……というか感情が揺さぶられた顔は初めて見たかもしれない。いつもしらぬいさんがニコニコしているのは、(ヘルツ)の仮面をかぶっているからだったのか……。


「えぇ〜?エゴおねえさま照れちゃうよ〜。この際しらぬいちゃんもエゴおねえさまの妹にしちまおうかしら〜。おらおら〜。」


「わわっエゴペー様、お(たわむ)れを……!」


 激怒していても、疲れていても、悲しみの中にいても……いつも笑顔で――。


「あの……しらぬいさん……。」


 わたくしはエゴおねえさまと(たわむ)れていたしらぬいさんの服の袖をくいくいと引っ張る。


「ん?どーしたの?アイちゃん。」


 そうするとすぐに膝を折ってちいさいわたくしと目線を合わせてくれる。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「な〜に?」


「しらぬいさん。……わたくしも、“仮面”を被りたくなる時はあります。わたくしは聖別の儀(セパレーション)の前は(けが)れたこの身を隠すために狐の(めん)を着けることを義務付けられていました。……お母様に。」


「……うん。」


「……昔はずっとそれが悲しかったです。ですが……最近、色々な問題が起こって、獣神体至上主義委員会(アニムス・クラン)のこととか、公王派との対立とか……本当に色んな問題が重なって、時々思うんです……。


 ……あの仮面が恋しいなって、もし仮面をかぶることで()()()()()できるなら……もっも楽に生きられたのかな……とか。」


「うん……うん。」


 しらぬいさんが抱きしめてくださる。


「でも……()()()()()()()()()()()っていうのも、つらいと思うんです。」


「……え?」


「だから、もししらぬいさんさえ良ければ、わたくしは強くもないし、頼りにもなりませんが……。ですが……もし(よろ)しければ、わたくしには貴女の素顔を見せてはくれませんか……?


 いつでも大丈夫です。疲れた時、何が嫌なことがあった時……うれしいことがあった時……わたくしは、しらぬいさんの泣き顔が……笑顔が……ほんとうのお顔が見てみたいです……。」


挿絵(By みてみん)


 そう伝えながら、しらぬいさんを抱きしめ返す。


 「ぁ……ぁあ……アイちゃん……。」


 わたくしの肩が何か暖かい液体で濡れる。ぽつりぽつりと、決して曇りの欠片さえ見せない天泣(てんきゅう)が笑顔から(こぼ)れ落ちる。次第に袖笠雨(そでがさあめ)から国風白雨(こくふうはくう)へと変わっていった。


「うっ……ふぅ……うぅ……。」


「……。」


 しらぬいさんは呼吸を荒くして震え始めたので、わたくしは黙って抱きしめながら、頭を撫でる。その雨が決して催涙雨(さいるいう)とならないように祈って……。


 ――雨がやみ。しかし雨垂(あまだ)れのようにぽつりぽつりと、鼻声で話す声が聞こえる。


挿絵(By みてみん)


「アイちゃん……わたし、がんばったんだよぉ、ほんとうに、ほんとうに、がんばってきたの……。」


「はい、しらぬいさんは頑張り屋さんです。」


 頭を撫でながら、背中をやさしく鼓動のリズムで叩く。


「シュベスターに追いつけるように勉強も頑張って、生徒会長になれるように(ヘルツ)も頑張って……!不知火(ふちか)家と陽炎(ようえん)家のゴタゴタだって、ねぇアイちゃん、えらい?わたしえらいよね……?」


挿絵(By みてみん)


「ふふっ……はい。しらぬいさんはえらいですね。よしよし、しらぬいさんは頑張ってますよ。わたくしだけはその事をわかってますからね。しらぬいさんはえらいですね。よしよし。」


「アイちゃん……。」


「だから……いつも頑張っているんですから、わたくしの前では甘えてもいいんですよ?わたくしはいつでもしらぬいさんの事が大切で、大好きですからね。ほら、わたくしのお膝にどうぞ。」


 そう伝えるとしらぬいさんは言われるがままにわたくしの膝に頭を預けてくれる。それからしらぬいさんの頭を撫でながら褒め続けた。


 するとしらぬいさんは次第に安心したように眠りについた。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ