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164. 藍と女王の出会い Indigo meets the Queen

32Kページビューありがとうございます!!!.!!

「……して、わたくしが他人の認知を歪ませる条件とは……?」


「……あぁ?……あぁ、その話だったな。

 まず視界でお前を(とら)えることだ。

 お前を見たものは立ちどころに雷に打たれ、馬から投げ出されたようになって目から鱗が落ちる。聖書の“パウロの回心(かいしん)”みてぇにな。

 そして次はフェロモンと体臭だ。お前は花のように狡猾(こうかつ)にその“美しい”見た目で相手を誘惑したあと……引き寄せて自分の匂いとフェロモンを浴びせる。そうすれば相手はもう終わりだ。」


 ……嘘だ……。

 

 ……だって……じゃあ……あの日、あの時……かげろうは……かげろうは……。初めて()った日あの時から?わたくしを好いてくれたのは、真実じゃない?……わたくしが、わたくしがそう仕向けていた……?


 嘘だ……だって、いやありえない、だって。

 

 かげろうはわたくしの――。


 ◆◆◆


挿絵(By みてみん)


「だから俺はテメェに()()されねぇように、俺と会う時は仮面で顔を隠させて、フェロモンと匂いは外套で抑え込ませた。」


 ……()()……?

 “母の愛”で洗脳されていると思っていたわたくしが……周りの皆を洗脳していた?


 じゃあかげろうがわたくしを好いてくれているのも……。ラアルさまが初めてわたくしに()ったときに心配してくださったのも……?


 じゃあじゃあ……おにいさまやおねえさま達がアイにやさしいのは?


 全部全部……ぜんぶ……彼らの本心……じゃない……?


 嘘だ……じゃあわたくしは……何を信じればいい……?誰か本心からわたくしを好いてくれている人は……この世に一人でもいるのか……?


「だから()れを使え、そのクソみてぇな能力を……あの(おろ)かなツエールカフィー公王になぁ……。」


挿絵(By みてみん)


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)

 

「……貴公がアイ・ミルヒシュトラーセ。」


 公王様の声は決して大きくはないが……王座の間に響き渡る威厳があった。慌てて(ひざまず)く。


「……!……はいっ!わたくしのような(けが)れた身を御前(おんまえ)に晒すことをどうかお許し下さい……!ファンタジア女王殿下。(やつがれ)の名はアイ――」


「――面を上げよ。アイ・ミルヒシュトラーセ。」


「は……はい……!」


 恐る恐る顔を上げると威厳に満ちた顔で女王様がわたくしを見ている。わたくしの身を(つんざ)くような(まなこ)で――。左足を椅子のうえに上げて、その膝に肘を乗せて座る姿には後光がさしていた――。


「貴殿は其処(そこ)に居る我が娘、ラアル・ツエールカフィーナ・フォン・ファンタジアの命を救った。()れはこの国の王女を救ったという意味だけを持つのではない。


 貴様も知っているであろうが、元々このパンドラ公国はファンタジア王国が直接西の蛮族(ばんぞく)どもと国境を接しないように作られた緩衝(かんしょう)国家である。」


「……はい。」


「そして公国の王は代々ファンタジア王国の王族が務める……今私がこうして君臨(くんりん)しているようにな……。……つまり、貴君は超大国ファンタジア王国の王族を救ったということになる。」


 慌てて否定しようとする。


「……いえ、その……わたくしは、ただ……わたくしも、ラア……ファンタジア王女殿下には救われましたし――」


「――女王の言葉を否定するのか?」


「いっいえ……!滅相(めっそう)もございません……!」


「ならば聞け。貴殿はこの国の敵……新生ロイヤル帝国から王族を護った。

 ――何か一つ願いを叶えてやろう。()()()()()()()()()()()()()()()。なんでも言ってみよ。」


「……なん、でも……?」


「あぁ……富か?権力か?名声……はこの一件でもう得ているか。」


「……ならば、一つだけお願い申し上げても宜しいでしょうか?」


「あぁ……なんでも言ってみよ。」


「……でしたら、もし宜しいのでしたら……ミルヒシュトラーセ家のわたくしとファンタジア王女殿下が友でいることを許しては頂けないでしょうか?」


 辺りがシン……と静まり返る。

 公王派の重鎮(じゅうちん)たちが皆黙り込んで、わたくしを見ている。隣でラアルさまが驚いているのが分かる。


 ……公王様は……少しだけ、ほんの少しだけ目を見開いたような気がした。


「……そんなことでよいのか?富も名声も権力も……なんでもいいと言っているのだぞ?(ほっ)するものは、貴公に欲望はないのか?」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「――あります。

 わたくしが得たいもの“()れ”はこの世の何よりも得難(えがた)いものです。何よりも得ることが難しいものです。

 そして()れは()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()

 ……つまり()れは“一人の友”です。一人の友を得るという“偉業”です。」


「……アイ……。」


「……。」


 公王様が黙り込み、辺りを静寂(せいじゃく)が支配する。

 ()静寂(しじま)は意外なものによって切り裂かれた。


「あははは!」


 公王様の笑い声だ。


挿絵(By みてみん)


「そうかそうか!どんな富よりも一人の友か!確かに真理やもしれぬ。ほんとうの友など貴族や王族には願うべくもないことだ。皆権力に群がってくるからな!貴様!面白いな……!改めて名を名乗ってみよ……貴様の真名(まな)を……!」


「はい……わたくしの名はアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセ……サクラ・マグダレーネ(マグダラのサクラ)の子であります。」


「そうか!アイ!貴様と我が娘ラアルの親交を認めよう!ここに公に、認めよう。是非とも仲良くしてやってくれ!くくくっ!」


 ◇◆◇


 その後ラアルさまとツエールカフィー公王、そしてわたくしだけで会談をしようということになり、茶室へ招かれる。


 ……が……なんだろうこの光景は……。


「ラアルちゃん〜!会いたかったわよ〜!ぎゅうう〜!もう離さないんだから〜!!」


「お母様!私も会えて嬉しいですが、最近会ったばかりではないですか!」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「毎日会わないと足りないわよ〜!一時間離れてるだけでもおかーさん寂しいのに〜!!」


「はいはい……ぎゅー、お母様、ラアルも寂しかったですわよ。」


「ラアルちゃん〜!!」


 ……先程までの威厳ある公王様は何処へ?

 本当に同一人物なのかな?

 そんな事を考えていると……。


「アイちゃん!アイちゃんって呼んでもいいわよね!ね!アイちゃん可愛いわね〜!最初に見たときから抱っこしてみたいと思ってたのよ〜!」


「わわっ!」


 バッと此方(こちら)に顔を向けた公王様に抱き上げられる。


「公王様……お(たわむ)れを!わたくしのこのように(けが)れた身を御身(おんみ)に触れさせるなど……!!」


「そんなに畏まらなくていいのよ〜?

 先刻(さっき)臣下(しんか)の目があったから公王モードだったけど、今の私は(ただ)のラアルちゃんのお母さんなんだから!」


「……は、はい……?」


「アイ……お母様は他人と接する時と身内と接する時で……その……ちょっとだけ、ギャップがあるのよ。」


 “ちょっとだけ”?これで?


「アイちゃんはなんだかいい匂いもするわね〜?やっぱりラアルちゃんと一緒で可愛い子はいい匂いがするものなのでかしら!」


 クンクン嗅がれるが公王様に向かって抵抗する訳にもいかないのでなされるがままでいる。

 でも恥ずかしいことは恥ずかしい。


「あの〜ラアルさま……?どうすれば?」


「お母様!アイが困っているわ!そろそろお茶を始めましょう?」


「ん〜?そうね〜でもヤダヤダ〜“もうちょっと”だけ〜。」


 ◇◆◇


 今わたくしは(おそ)れ多くも公王様の(ひざ)の上に座っている。それにしても長い“もうちょっと”だったなぁ……。やっぱりわたくしの身体が放つ“呪い”のせいだろうか……?クンクンと自分の匂いを嗅ぐが分からない。


「もう〜ラアルちゃんったらなかなか帰って来てくれないんだから〜。」


「お母様……マンソンジュ軍学校は西側の辺境近くで、ここは真反対の西のファンタジア国境近くですよ?」


「でもでも〜ラアルちゃんに会えないとお母さん(さみ)しいのよ〜?」


「まぁ……私も(さび)しいですが。」


「それにラアルちゃんがお熱なアイちゃんにもやっと会えたわ〜。」


「お母様!お熱とか言わないでください!」


「でも〜帰ってきたらアイちゃんの話しかしないじゃない?お母さんちょっと嫉妬しちゃうわ。」


 ……まるで姉妹のような母娘だな……と思った。


 ――ウチとは大違いだ。

 

 ……こんな所まで正反対じゃなくてもいいのに。


挿絵(By みてみん)

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