162. 姉妹?恋人?城下町デート Let's walk hand in hand
「しかし私としらぬいと……お前とファンタジア王女では決定的に違う点がある……。
分かるな……?」
膝をついて目線を合わせてくれる。
そしてやさしく頭を撫でてくださる。
おねえさまはいつもやさしい。
「お二人は味方ですが……わたくしたちは対立派閥にいる。ツエールカフィー公王派とエレクトラ辺境伯派に……。」
「あぁ……だから、ラアルには気をつけろ。何を企んでいるかわからん。」
おねえさまはいつもやさしい。
おねえさまはいつもやさしい。
おねえさまはいつもやさしい……だから。
――だから、おねえさまはいつでも正しい……?
◇◆◇
「アイ!楽しみね!」
「はい!」
ラアルさまと手をつないで歩いている。
本当は馬車が迎えに来てくれる予定だったけど、ラアルさまが一緒に街を歩きたいと仰ってくれたので、連れ立って王宮へ歩いていく。
「お母様はきっとアイを気に入るわ!
だってお母様とアイは二人とも美しくて優しいんだもの!」
「あはは……少し緊張してしまいます。
まさかいきなり女王様と謁見する機会を頂くとは……。」
「大丈夫よ!アイ。“パンドラ公国の女王”じゃなくて、“私のお母様”に会うと思えばいいのよ!
お母様も私を助けてくれたお礼がしたいだけって仰ってたし!」
「そうですね……そう思えば少し気が楽です。」
とはいいつつ手は震えてしまう。
それがラアルさまに伝わってしまったみたいだ。
「不思議ねぇ……アイ。貴女はこれまでミルヒシュトラーセ家の者として、偉い人と会うことも多かったでしょう?」
「いえ、わたくしは――」
――忌み子……じゃなくて、いらない子だから……でもなくて、ええっと……。
「――妹が生まれるまではずっと末っ子でしたし、ゲアーターおにいさまとシュベスターおねえさまが居ますからね。
基本的エレクトラさまは上のお二人にしか政治的な教育や社交界への参加をさせなかったのです。」
心配させない、いい言い訳ができた……かな?
「確かに!私も社交界には行くけど、政治的なことは全部お兄様とお姉様がやってるわね。
……まぁそうじゃなかったら王女である私が、辺境伯派のマンソンジュ軍学校に通うことなんて許されなかったと思うし。そう思うとお兄様とお姉様に感謝ね!」
「……確かラアルさまは末っ子でしたよね?
お兄様方とは親しいんですか?」
「う、う〜ん。親しい……?」
ラアルさまがこめかみに手を当てて悩みこむ。
「申し訳ありません!余計なことを聞いてしまって!仰りたくないのなら別に――」
「……?……あぁ、いいのよ。別に仲が悪いとかじゃ全然ないから。ただ年が離れてる事もあってね。あんまり兄姉って感じがしないのよねぇ。いつも忙しそうだからあんまり話したこともないし。」
ラアルさまはお母様とはとても親しいけど、兄姉とはそんなに……。まるでわたくしの逆だなぁ……。ラアルさまとは本当に瞳の色から育ちまで、正反対だなぁ……。
「そう思うと私たちって本当に正反対ね!」
あっ……それ言っていいんだ。
「そうですね、わたくしも同じ事を考えてました。」
「でも正反対なのにこんなに仲良しなんて!きっと運命ね!」
「あはは……そうだと、うれしいですね。」
“運命”……もしわたくしが運命に従うなら、ミルヒシュトラーセ家として公王派を打倒し、反政府組織も弾圧し……新生ロイヤル帝国も討ち滅ぼす事が“正しい”ことなんだろう。
しかしわたくしは“運命”よりも“自由”を選んだ。
もう誰かのせいにはできない。何を被っても全て自分の責任だ。その代わり自分の拝する“正義”に殉ずることができる。
「それにしても不思議ね?」
「え?何がですか?」
いけない……考え事をしていた。
ラアルさまが隣にいるのに。
「だってそうじゃない?
政治を担当するのがゲアーターさんとシュベスターさんだなんて、アイは元々は末っ子だったからいいとして、長女の……継承権第二位のエゴペーさんはどうして政治に参加しないの?」
「あ……あぁ……ラアルさまはもうわたくしがエレクトラ様の実子ではないことは知っていらっしゃいますよね?お父様の妾の子なのです。」
「……えぇ、だからアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセと名乗るようになったのでしょう?」
「……えぇ、エゴおねえさまも実はそうなのです。
それに生まれた時から持病を患っており……病気がちということもありますし……。」
「……!……そう、だったのね。」
「ラアルさまが知らないのも無理はありません。これは醜聞ですから、ミルヒシュトラーセの配下の者でも知らないものは居ます。まぁ、知っている人も少なくないですが。知っている者を面まえて聞いても、きっと『何も知らない。』というでしょう。……“公然の秘密”というものです。」
「お母様は知っているのかしら……。」
公王様にとってミルヒシュトラーセの弱みは何としても握りたいはず……恐らく知っているんだろうな。
「でもわたくしはあまり気にしておりませんので。おにいさまもおねえさまも優しいですし。
それにエゴおねえさまとは両親とも一緒ですし……。」
そういう意味では、エゴおねえさまとわたくしは……唯一の姉弟になるのか……。
……だからエゴおねえさまはあんな話を――
◆◆◆
「だからといって、じゃあ私と貴方で手を組んで、エレクトラを殺し、継承権が上のゲアーターとシュベスターを殺し、妹も殺す……そんな計画を持ちかけたいわけじゃないの。」
“家族を殺す”という自らの世界観の外側からきた思想を聞かされて、わたくしのこころは……御言葉如きでは言い表せない衝撃を受けた。こんなに衝撃を受けたのは、初めてドストエフスキーを読んだ時以来だった。
「……私が言いたいのは、寧ろその逆。ゲアーターとシュベスターは確かに差別思想を持ってるし、性差別主義者でもある。
……でも、彼らを軽蔑しないであげてほしいの。だって、差別主義者の親に育てられて、どうして自分はそうならないで居られる?不可能よ……。だって世界でいちばんだいすきな彼らのお母様が言ってるんだもの。『それが絶対的に正しい』と。
彼らは差別主義者の子に生まれてしまっただけ……それを私は裁かれるべき罪だとは思わない。」
◇◆◇
「アイ……?」
私よりずっと身長の高いラアルさまが心配して顔を覗き込んでくれる。
「ラアルさま……わたくしたち、周りにどう見えているでしょうね?」
「え?」
「手をつないで歩いてて、仲睦まじくお喋りしていますよね?」
「え……えぇ……そう、そうね。そうだわ。」
ラアルさまが小声で何かを言っているがはっきりとは聞き取れなかった。
「……つまりこれは……実質城下町デート?
……つまり……つまりっ!!」
「わっ!」
急に大声をだされたので驚いてしまう。
「アイ?貴女の言いたいことが分かったわ!」
「そうですか?わたくしと同じ事を考えてくださったのですね。」
「是非貴女の口から聞きたいわ!私たちは――」
「――姉妹、みたいに見えてるんでしょうかねぇ?」
「え……。」
「ラアルさまのほうがちょっとだけ年上ですし、上背もありますからね。」
「……ええ。」
「こうやって手を繋いで街を歩いてると姉妹みたいに見えるのかな〜って。」
「そう……そうね。」
◇◆◇
それにしても……。
「何かすごく見られてませんか?」
「まぁ、美しい私と美しいアイが一緒に歩いていたらね!」
公王派の本拠地、パンドラ公国の王宮は……宗主国であるファンタジア王国の国境近くにある。
逆にミルヒシュトラーセ家邸宅は反対側にある蛮族との戦争地帯の近くにある。近くと言っても一日二日で行き来できる距離ではないが。
公王派の領域に近づくにつれラアルさまにお辞儀をしたり、敬った態度をする人が増えていく。
「やっぱり……ラアルさまは大人気なんですねぇ……。」
「……?……当たり前じゃない!だって私は“この国の王女”だからよ!!」
反して辺境伯派のわたくしを見る民の目は――。




