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159. ファム・ファタるな! Don't do Femme Fataling!

30Kページビュー突破!!!ありがとうございます

(*˘︶˘*).。.:*♡


6Kユニークアクセスありがとうございます!!!!!!

←6コ

「……いいんですよ、謝らないでください。

 わたくしが知らない両性具有者(セラフィタ)の事について危険を(おか)してまで教えに来てくれましたし、それに……。」


「…………それに?」


「……ぇえ……まぁ、貴方になら、まぁ……別に、()()()()()()()()というか、初めてこころをさらけ出しあってぶつかった……その、“初めての相手”ですし。」


「……アイ……。」


 ザミールが頬に手を添えてくる。


「あっ!ヘンな意味じゃないですよ!?ほら!貴方の二つの二つ名の砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)誠実な犠牲者(リウー・タルー)由来(ゆらい)になった、フランス領アルジェリア系地獄(パンドラ)人のアルベール・カミュ!!カミュの書いた『ペスト』の登場人物の!!リウーとタルーみたいなあんな“誠実な”信頼関係を持てたらと――」


 わたくしは言葉を続けられなかった。


 ……唇をふさがれたからだ。

 ――もちろん相手の唇によって。


 なんだか、くやしい。


「……許可してなんですけど……。」


 そっぽを向いて愚痴をこぼす。


「あぁん?俺になら何をされてもいいんだろぉ?」


 ニヤニヤしてる……!


「……ふんっ!知りませんっ!」


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)


「おい()ねんなよアイ〜。」


 男性体の私よりずっと上背(うわぜい)のある女性体のザミールがわたくしの照れた顔をのぞきもうと屈み込んでくる。わたくしは何とか彼女の顔を乱暴に押し返してそれを阻止しようとする。


 人間体(アニマ)のわたくしの手なんて彼女にとってはほんの微力で押し返せるはずなのに、それをしないでじゃれ合いに付き合ってくれる。そのこともなんだか腹立たしい。


「もうっ!貴方はイジワルですっ!」


「好きな子には意地悪したくなるもんだろ〜?

 可愛い子にもよ〜。ほらなんつったか?

 グッド・アグレッション?」


「キュート・アグレッションですっ!

 というか可愛くありません!」


「……ほ〜ん、どっちか分かんねぇから顔を見ねぇとなぁ〜?」


 そうやって今度は彼女の顔を押しやっていた右手と、自分の顔を隠していた左手をつかんで無理矢理顔を覗き込んでくる。


 あっ……。


「ほら〜オジサンに顔見してみ〜?

 ……!……あ……。」


 きっとザミールの瞳には映っているのだろう。


 耳まで真っ赤に染まった、目尻に涙の溜まったわたくしの顔が――。


挿絵(By みてみん)


「……。」


 ゴクリ、とザミールが喉を鳴らす音が聞こえた。まずい。何かわからないけど、なんだかとっでまずい気がする。


「ざ……ザミール?おち、おちついて、とりあえずおちついて話を、しましょう……?」


 ◇◆◇


 一言でいうとひどい目にあった。

 はい記憶から消去消去。


「……アイ、お前に三人も番ができた理由がよくわかったよ。魔性の人間体(ファム・ファタール)だなお前は。」


「はぁ……はぁ……うるっ……さい……です、よ……はぁはぁ……。」


「でもマジで気をつけろよ?

 誰に対してもファム・ファタってたらお前の身体がもたねーぞ。」


「ファム・ファタるってなんですか!

 変な動詞を作らないでください!

 それにわたくしは生まれてから一度もファム・ファタったことなどありません!」


「……まぁ、冗談はこれくらいしにして。」


 本当に冗談でしたか?


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「お前は今この国で対立してる二大派閥、公王派の娘と、辺境伯派の娘……そして悔しいが奴らより勢力は劣るがもう一つの対立派閥の反政府組織(レジスタンス)のリーダーとも番だ。」


「なんなんでしょうね、この状況は。」


「……普通に考えればなかなかにヤバい立ち位置だが、俺が万難(ばんなん)(はい)してお前を護る。それは信じてくれ。

 ……分かってくれたか?」


「……先刻(さっき)分からされましたよ!

 嫌ってほどにね!」


「ならいい……。ふむ……しかし……。」


 ザミールが指を何回もパチパチと鳴らしながら考え事をしてる。


「どうしたんですか?」


「……いやぁ……少し思っただけだ。

 対立する三派閥の渦中(かちゅう)にいるってことは――」


 ……?……!!


「――もしかしたら、わたくしなら、この国の“(ねじ)れ”を解きほぐすことができる……?」


「……かもな……。それか、お前が火種になってますます争いが激化するかだな。」


「でもっ!……もし、わたくしが公王派と辺境伯派、そして反政府組織(レジスタンス)を繋ぐことができれば――!!」


「この国の永い冬が終わり、春が訪れるかもな……。」


「……!……ありがとうございます!ザミール!わたくしは先刻(さっき)まで致死量の自由で、自分が何をすればいいのか、足取りも覚束(おぼつか)なかったですが、今なら分かります!」


「しかし、簡単な道じゃあねぇぞ?

 “人と人の対立”なら解きほぐせても、“集団と集団の対立”は……ほんとうに混迷を極める。」


挿絵(By みてみん)


「何を言ってるんですか!

 わたくしの人生を簡単な道が訪れたことなどこれまでありません!!

 むしろ獣道ぐらいじゃないと、茨の道ぐらいじゃないと歩きづらいぐらいですよ。わたくしは誰かの(わだち)を踏むことはありません。わたくしなりの、わたくしなりの方法でこのパンドラ公国を犯す地球(じごく)地球人(あくま)瘴気(しょうき)を晴らしてみせます……!!」


「カカカっ!そうこなくちゃな。それでこそ俺が好敵手(ライバル)だと認めたアイ・ミルヒシュトラーセだ!!」


 2人で雪の中笑い合う、雪の白とわたくしの黒髪、わたくしの黒髪とザミールの白髪……それがいつか混ざり合って溶け合って……春隣(はるどなり)を迎えることができたのなら。


 ――アザレアを咲かせる事ができたのなら。

 わたくし達の征く道を花弁(はなびら)で導くことができたのなら――!!


 ◇◆◇


「しかし、アイ。俺とお前は道を(たが)っている。そのことは分かるな……?」


「……えぇ、貴方は辺境伯派の、ミルヒシュトラーセ家の解体を望んでいる。わたくしは貴方がたが手を取り合うことを志向している。

 ですが、もう分かっていますね?

 ――あの夜から。」


「――あぁ、ちゃんと分かってる。

 あの夜から――

 道を(たが)えたとしても俺たちは(ともがら)だ。」


「ええ、()()を抱いてはいなくても、わたくしたちは()()です。

 貴方が先刻(さっき)わたくしが助けを求めれば何時でも助けると言ってくれたように、貴方が()()()()()()()()()()()わたくしは何処(どこ)にいても何をしていても駆けつけます。

 親愛なる貴方の元へ――。」


「誓うか?……いや――」


「――ええ、わたくしたちには“誓い”など無粋です。だってそんなものはなくとも――」


「――俺たちは“約束”を守る。」


 近くで顔を見合わせる。


「えぇ。言わずもがなってやつです。」


「じゃあ、景気づけに……。」


「えっちょっまっ……まって……!」


 ◇◆◇


「……貴方の頭にはソレしかないんですか?」


 じとーっと見つめてやる。


「なんだよ?口吻(くちづけ)一つありゃあ、なんにもいらねぇ。(つがい)ってのぁそいうもんだ。」


「はぁ、貴方は全くもう……仕方のない人ですね。」


「なんだと〜?俺お前よりかなり年上だぞ?

 そんな事言っていいのか〜?」


「ずっと年上の人が成人もしていない五歳に無理矢理せ、せせ……接吻(せっぷん)をするのはいいんですか!?」


「無理矢理〜?嫌がってるようには――」


「――あっはいっ、この話はここまでです。

 流石にもう帰らないとおねえさまが心配してそこら中を探し回ってしまうかもしれません。」


「……ほんとうに、兄姉(きょうだい)に愛されてんだなぁ……。」


「ええ、その事がわたくしの誇りです。」


「そんな兄姉が自分と違って性差別主義者(セクシスト)だと……そりゃあ悩むよなぁ……。」


「……えぇ、大好きな人が、大嫌いな主義を抱えていたら、わたくしはどうしたらいいのか分かりません。」


「……しかし、先刻(さっき)のでもう覚悟は決まったんだろ?」


 きっとわたくしの目は決意に燃えているのだろう。


「――ええ、わたくしは何もかも地球(じごく)地球人(あくま)の悪意から救ってみせます。家族も、(つがい)も、友達も……!

仲間も敵も全部……全部救ってやりますよ……!!」


「ケケッ……何もかもか……“傲慢(ごうまん)”だな。」


「えぇ、わたくしは“ワガママ”なのです。

 産まれてから親にワガママの一つも言えなかったのですからこれぐらいいいでしょう!

 なんたってミルヒシュトラーセですからね!

 高慢(こうまん)ちきで傲慢な傲岸不遜(ごうがんふそん)厚顔無恥(こうがんむち)な野郎です。


 ――貴方が“誠実”なら、わたくしは“傲慢”です。」


 ◇◆◇


「……じゃあそろそろお前の姉が飛んできそうだし、このへんで。」


「ええ……そうですね……。」


「おいおい、そんな寂しそうな顔をすんなよ。

 最後に抱きしめてやるからよ。」


「そんな顔してないもん。」


「あぁ、じゃあ俺がしたいからする。どうだ?」


「じゃあ……仕方ないですね。」


 ぎゅっと抱きしめて包みこまれる。

 温かい……こころに降り積もった雪が溶けていく――。


「……じゃあ、()()な。」


「……ええ、()()。」


 砂神アデライーダと雷神エレクトラのように、わたくしたちはまた運命に引き合わされるだろう――いつか、必ず。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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