表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/196

7-①. 愛と陽だまりの出会い I meet the Sunny Spot.

 ――マドレーヌの味がしない。


 ◇◆◇

 

 「元々この世界には、寿命も性別も……神も存在しなかった……?そしてお母様が、お母様が――」

 「()()()()()()()()()()()って言ってんだ――分からねぇか?」

 

「……な、なんでそんなことを……?」

 

 先ほどまで感じていた暖かさが霧消(むしょう)し、暗闇の荒野が訪れる。こわくて母の目を見られなかった。

 

「なんで?……ぁあ〜そうだなぁ。その方が都合が良かったから……だなぁ……。地獄(パンドラ)に詳しいお前なら知ってるだろ?


 ()()()()だ。いや〜地獄(パンドラ)の奴らはとんでもねぇこと考えるよなぁ。あいつらこそまさに()()()()……あまりに()()()()……ってやつだ。


 まぁ彼奴等の()()()()にはこの俺でさえ辟易(へきえき)とするぜ……ククッ、まぁその方法に助けられて来たんだがなぁ。

 

 そうだ、パンドラ文献を紐解(ひもと)いてるうちに気がついたんだよ……彼奴等(ヤツら)のおおよそ文学界(リテラチュア)の人間には考えつかねぇ人間的すぎるやり方は、文学界(こっち)じゃ本当に使えるってなぁ。

 

 なんせこっちの世界のやつはそんなに非道な方法は思いつかねぇからなぁ、初めて俺がこの世界でやったら効果的なモンばっかだったぜぇ。差別はいい!とくに分割統治はなぁ。地獄(パンドラ)最大の発明だろうなぁ。」

 

「分割統治……地獄(パンドラ)の歴史書で読みました……あるグループを統治する際に、優遇する少数グループと不遇に扱うその他大勢を作り、グループ同士で争わせることによって自分たちが手を汚すこともなく簡単に治めることができる方法……。」


挿絵(By みてみん)

 

「流石に地獄(パンドラ)のことは詳しいなぁ……。パンドラ公国のうるせぇ公王を黙らして、やつを信奉する輩も黙らして、ミルシュトラーセ家に不満を持つ民衆も黙らせる。最高の手段だった。

 

 俺がやったのは単純だ。両性具有者(セラフィタ)擬きを徹底的に排斥(はいせき)して。両性具有者(セラフィタ)連中に取り入り、人間体(アニマ)の連中を国を挙げて差別して、獣神体(アニムス)の連中の支持を得る。いやぁ〜実に簡単だったぜぇ。なんせ制度さえ作りゃあ()()()()()()()()()()、争い合ってくれんだからなぁ。本当に馬鹿な連中だぜ……。

 

 おれは人間体(アニマ)の奴らやアニマ・アニマがどんな扱いを受けてきたかしっかりとこの目で見てきた。だからお前を絶対にアニムス・アニムスにするための方策を()ってやろうってんだ。こんなにいい母親が他にいるか?……いねぇだろ?これはおれなりの愛情なんだぜ。

 

 まぁ……晴れてアニムス・アニムスになったらおれの軍に入ってムカつく公王周りの貴族とファンタジア王国の奴らをブチ殺してもらうが……。


 まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よなぁ……?だって俺たちは親子だからなぁ……助け合っていかねぇと。」

 

 ――はるひちゃんを犠牲にして?はるちゃんをそんな立場に追いやって?それで、それで何が得られる――?


 得られるものは、“おかあさまの愛”――。


 ◇◆◇

  

身体の右側のソファが沈み込んだのを感じた。気がつけばエレクトラはアイの横に座っていた。それをただ遠くから眺めていた。

 

「アイ……瞳を見せろ……。」

 

 アイが(おもむろ)ろに顔を上げると、産まれてはじめての距離でお母様の顔が感じられる。

 

 ――お母様の顔こんなに近くで見るのは初めてだ。

 ……そうか、抱きしめてもらったことがないからだ――


「オマエの瞳の色は本当にオイディプス(ちちおや)そっくりだな。」

 

 ――それ以外はあのマグダラのサクラ(クソおんな)(うり)二つだが。


「……。」


 ――おかあさまが、()()()()()()()――アイだけを――!


 ――こいつの見目(みめ)がもう少しでも俺の夫(オイディプス)に似てりゃあ、いやもう少しでもあのクソ売女(ばいた)に似てなけりゃあ、もしかしたら――


「アイ……。」


 エレクトラが両手を広げる。アイは何が起こったのか理解できなかった。これまで自分の前でお母様が身体を動かすのは自分に暴力を振るうときだけだったからだ。アイが動けずにいると、エレクトラは苛立(いらだ)ったようにアイを抱きしめる。


――こいつ……こんなに小さくて、やわっこかったのか。


「お……お母様……お母様ぁ!」


 生まれてこの方人前で決して涙を見せようとしなかったアイが泣いてしまった。冷たい夜の中で独り(あざ)を抑えて(うずくま)ることよりも、母親の胸に抱かれてその腕に全てを投げ出して染み込んでくるあたたかさに包まれるほうが、アイにはもっと泣きたくなるのだった。泣くと殴られると知っているのに。

 

 ……しかし、今回はそうはならなかった。


「泣くな泣くなめんどくせぇ。折角(せっかく)抱いてやったのに泣くとはどういう了見だテメェ。そんなに嫌なのかぁ?」


 口調はいつもと変わらないが声に(とげ)は感じられない。


「ちが……ぢがいます……うれじくて……。」


「あーあーわかったわかった、もう泣いててもいいから、ほらマドレーヌ食え。」


 アイを抱いて左手が塞がっているので、今度は()()でマドレーヌを持ちアイの口に近づける。アイは見放されないように必死でそれを食べようとする。でもするのは(なみだ)の味ばかりであった。でもアイにはそのマドレーヌの匂いと泪の味がとても美味しく感じられた。

 

 母の胸の中でほおばったその“泪味のマドレーヌ”のことは一生涯忘れることはないだろうと……そう、思った。


 ◇◆◇

 

 泣きつかれて寝てしまったアイを見やりながらエレクトラは考える。


 ――泣きつかれて寝るとか()()()()……しかも服を掴まれてるから動けもしねぇし、やっぱり変に優しくするもんじゃねぇなぁガキなんてもんは。すぐにつけあがりやがる。

 

 それにしても……さっきはこいつの姿を見ているのに耐えられなくて、ついこいつを抱きしめたが……やっぱり気に食わねぇな。目以外あのクソビッチと瓜二つとコイツが、オイディプス()サクラ()の交わった証であるコイツが、のうのうと俺の屋敷を歩いているのが許せねぇ。コイツの姿を見るたびにあいつらの交わりを思い出させてイライラさせてくる。

 

 だからコイツのことは好きになれねぇんだ。同じ(めかけ)の子でも……見た目がサクラに似てねぇだけ、父親似のエゴペーのほうがマシだ。まぁ、獣神体(アニムス)の俺はガキを作りづれぇからしゃあねぇとはいえ……納得がいかねぇ。オイディプスが俺以外のやつに(もてあそ)ばれるのが……気に食わねぇ。

 

 ……まぁいい、コイツが計画通りにアニムス・アニムスになったら、俺はこころをもつもの(プシュケー)という“戦略”兵器とアニムス・アニムスという“戦術”兵器の両方の軍事力を兼ね備えた最強の()()を手に入れられる。

 

 ――あいしてるぜぇ、俺の兵器(あい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは、ADPh.D.さん。 この作品はとても重厚で、複雑な世界観の中での人間関係や社会の在り方を描き出していると思いました。 登場人物たちの心の葛藤が丁寧に描かれており、読み応えがある作品でし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ