145. 生まれて初めて For the First Time in Forever
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「お母様!本気ですか!?アイを危険が潜んでいるかもしれない林間学校に送り出すなんて!!」
「……シュベスター。落ち着いて……大丈夫だよ。あの林間学校には学園最強の――をつけている。それに、もしことが起こったならば――の――だっている。何を心配することがあるの?」
エレクトラは自分の子供と話すときだけのやさしい口調と声音だ。
「……ですが、アイに少しでも危険が及ぶなら――」
「――シュベスター。少しは貴女のきょうだいたちを信用したら?それともあの子たちはそんなに頼りにならない?」
「……わかり、ました。ではせめて私もアイに付き添って、林間学校に――」
「――言ったはずだよ。ミルヒシュトラーセ家の人間は、このパンドラ公国で最強だとね。
ふふっ……貴女ももう少し、自分の家族を信頼してみたら?
ほら、アイに迫る危険よりこのお茶菓子でも食べて落ち着いて、久しぶりに母と娘で他愛のない話でもしようよ。母親ってのは何時でも“自分の”子供たちと話したい生き物なんだよ?ほら、こっちにきてとなりに座ってよ、ね?
ほら!久しぶりだからシュベスターの大好きな種類のコーヒーと、お菓子ばっかり用意したんだよ?抱きしめさせてよ〜、もうシュベスター不足で死んじゃいそうなの、ね?お菓子も食べさせてあげる。ほらほら、ひざに座ってよ!」
エレクトラの瞳は、声は、ほんとうにやさしい、母の慈愛を宿していた――。
◇◆◇
お母様は絶対に正しい。それは世界の真理だ。だけど、今回はそのお母様の判断でアイは死ぬかもしれなかった。
……どういう事だ?
もしこの先、お母様の判断でアイが危険にさらされるようなことがあれば……私は……私は。
……どうするんだ?
世界でいちばん正しいお母様と、世界でいちばん愛しい弟……その二人が衝突するようなことがあれば、私は――。
……どっちの肩を持つんだ……?
アイの柔らかな身体を抱きしめていると、お母様に柔らかく抱きしめられている時を思い出してしまう。
「……アイ……私は――」
◇◆◇
「――アイ様!」
シュベスターの声は勢いよく、病室に飛び込んできた闖入者の声で遮られた。
それが良かったのか、問題を先延ばしにしただけなのかは分からない。
「……!……かげ、ろう。よかった……!無事だったんだね……怪我はない?
あったらわたくしが――」
「――アイ様、まったく……目覚めてすぐに他人の心配とは……俺たちの中で一番大きな怪我をしたのはアイ様ですよ。
アイ様が砂漠の黒死病を引き付けてくれたおかげで、俺たちは全員無事です。」
かげろうが歩み寄りながら、説明する。
「かげろー……ありがとう、“あの時”助けてくれたでしょ?あの時は意識が朦朧としててあんまり覚えてないんだけど……。
かげろーだって言うのは分かったよ。」
「……あぁ、アイ様……。」
かげろうがアイを抱擁しようと近づきかけた所で、アイが大きな声を出す。
「……あ!」
「「……!?」」
かげろうとシュベスターが驚く。
「おねえさま……わたくしはどれほど眠っていたのですか?」
アイが急いで姉に問う。
「ん?あ、ああ……えーと、約二週間ほどかな?」
「……!かげろー!それ以上近づいちゃだめ!!」
慌てて手でかげろうを制するアイ。
「えっ……!ア……アイ様……?そんな……。」
拒絶されたかげろうは目に見えて落ち込む。
「あっ!ちがくて!かげろうがイヤとかじゃなくて!ただ……わたくしずっと眠ってたし、髪だってボサボサだし……きっとくさいし……。」
「アイ……身体なら私たち兄姉が毎日拭いていたし、それにこうやって抱きしめていてもいい匂いだぞ……?むしろいつもよりいい香りが強まって……。
……まるで人間体――」
シュベスターがアイの頭頂部に顔をうずめて深呼吸を始める。
「そうですよ!アイ様!ほら!あれです!
地獄系ロシア人のドストエフスキーの書いた、『カラマーゾフの兄弟』にも真なる聖者の身体は死しても腐ることはなく異臭も放たないとあります!!」
「……でも、その小説でも結局死体腐ってたじゃん!」
「……あの長老と違ってアイ様はほんとうの聖者です!いや……神です!神の御体が異臭を放つことがありえましょうか……いいえ、ありえません!」
「……いや、だから!そういう問題じゃなくて!かげろーにはこんな姿見られたくないの!助けてもらって、お見舞いに来てもらってごめんだけど!ほんとうにごめんだけど!今は帰って!お風呂に入って髪も整えてから会いに行くから!!」
「でも……!」
「ダメ!……それ以上近づいちゃダメなんだからね!ごめんね!でもダメなの!!」
◇◆◇
アイに初めて拒絶されたかげろうはトボトボと帰っていった。かなりショックを受けたようだ。アイは心のなかであとで必ず謝って助けてくれたお礼も言おうと誓った。
「なぁ……アイ?」
今度はアイを後ろから抱きすくめてうなじと髪の匂いをかぎながらシュベスターが話しかける。
「……は、はい?おねえさま。」
シュベスターは風紀委員長の活動で疲れたり、なにかストレスが溜まるとよくこうやってアイを吸うので、アイも慣れてしまっている。
「……一番最初にアイが目覚めた場に立ち会ったファンタジア王女殿下とは普通に話したんだろう?
……私ともこうやって普通に話せているし、こんなに密着してもなされるがままだ。」
「……?……はい?……そうです、ね?」
「……でもかげろう君が現れたら、お前は恥ずかしがった。」
「……え、ええ……そうでした。……?」
「なんでだ?……というかなんでだと思う……?」
姉は答えを知っているらしい声音で、幼子に言い聞かせるように話す。
「……え?……だってだってそれは……わたくし二週間もお風呂に入ってないし、髪もボサボサだろうし……!」
「でも私やファンタジア王女殿下とは普通に話せたんだろう?」
「……たし、かに……?
おねえさま、なんででしょうか?」
上目遣いで自分の匂いを嗅ぎ続けている姉を見遣るアイ。
「……どうして、だろうな?」
「あ!その反応……!おねえさまは知ってるんですね……?」
「さぁ?……どうだろうなぁ……?」
「おしえてください!
アイはなんでこんな気持ちになるんでしょうか?」
「さぁなぁ……。……なんでだろうなぁ……?」
「あ!とぼけてますね!おねえさまのことならアイはなんでもお見通しなんですよ!嘘を吐いているは分かってます!」
アイが両手で丸を作って双眼鏡のようにして姉を問い詰める。
シュベスターは顔をそらして言う。
「あ、あー……なんというか。
私から言えることは、確かにかげろうくんはいい子だ。小さい頃から知ってるし……いい子なのは分かってる。
だが、まだアイには……“そういうこと”は早すぎると思うんだ。」
「むぅ〜だからっ!“そういうこと”ってなんなんですか〜!?」
「だから……それはまだ幼いお前にはまだ早い。……早すぎる……!」
アイをぎゅううと抱きしめて誤魔化すシュベスター。
「あいはおとなですっ!」
「まだ成人もしていないだろう!
それにこんなに小さいのに!」
「もう小さくありません!
あいはオトナですっ!」
「大人は自分のことを『大人だ』などとは言わない!……そんなことより、アイ。無事でよかった。」
「……ごまかそうとしてませんか?」
「……いや、本心に決まってるだろ?私がお前に“嘘を吐いたこと”があるか?」
アイは白い嘘を思い出す。
……思い出した……が。
「……いえ、ありません。」
「ほんとうに、ほんとうに心配したんだぞ?」
「……ええ、おねえさまの言葉は……愛情は何故か信じられるんです。いつだって言葉以外でも……行動で、態度で……“こころ”で示してくださいますから。だからあいは今日まで生き永らえてこられたのです。」
「……アイ……。私は――」
「――アイちゃん!!
……目が覚めたってほん……と……う……?」
ガラッとドアを開けて入ってきたクレジェンテがベットの上でシュベスターに抱っこされているアイを見て固まる。
「……し……失礼しましたー……。」
クレジェンテはそのままそっとドアを閉めて出ていこうとする。
学友に家族に甘えている姿を見られて、アイの顔がボンッと真っ赤になる。
「わぁ〜!まってクレくん!誤解なんです〜!!」
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