138. これは友情?それとも恋?いや絶対に―― Is this Friendship? Or Love? No, this is Definitely--
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「じゃあ私たち、おんなじ気持ちね。何もかも違うけどおんなじ気持ち、今はそれだけでいいと思えるの。
だって私たちまだ子どもなんだから!
政治のことなんて知らないわ!
そんなの大人にやらせておけばいいのよ。
私たちはただ一緒に遊んで、過ごして、どうでもいい、くだらないお話でもしていましょう?」
今まで自分は何をするにもミルヒシュトラーセ家の人間として振る舞うことを、こころの何処かに留めながら行動していたから、なんだからこころがフワリと軽くなった気がした。
「……はいっ!」
ラアルさまが少し足を広げて、その間をポンポンと叩いて、わたくしを呼ぶ。わたくしはそれに答えて、その間に座る。
「……王女が足を開くなんてだらしないってお小言言われちゃうかしら?」
「どーでもいいですよ!だってわたくしたちは今は、家なんて関係ない、“ただのアイ”と“ただのラアルさま”なんですから!」
ラアルさまが心底愉快そうコロコロと笑う。
「そうね。そうだったわね……。ありがとう、アイ。
……私は前の学校である親友がいたの。
その娘と私が出会ったのは――」
◆◆◆
「――そうして、私はボロボロであの娘とお揃いだった『チグ神礼賛』を捨てて……そうやって私とあの娘は決別したの。
あの娘の言葉は許せなかったし、それを認めると私の中の……人生を貫く信念を穢すことになる。お母様の言葉を嘘にしてしまうことになる。そう思ったの。……そう思ったから、あの娘の意見は認められなかったし、謝ることもできなかった。
……でも今になって思うの。私は“神学校の聖女”なんて呼ばれていい気になって、あの娘の言う通り人を助けてるつもりで、自分がいい気になりたかっただけなんじゃないかなって……。
私は結局人の為に何かをしてるつもりで、善人ぶりたかっただけなんじゃないかって。貴女がこの学校で人助けをしてるのを見るたびに思うの……ほんとうの“聖女”っていうのはこういう娘なんじゃないかって。」
アイはただ黙って私の話を聞いていた。……ただ黙って聞いてくれてた。
……何も言わずに、ただ時折頷いて、聞いてくれたのだ。その事が私にとってどれほど嬉しかったか。この娘は知りえないだろう。
沈黙を守っていたアイが口を開く。
そっと私の両手を、その私よりずっと小さな手で握り込んで。でも私よりずっと大きなこころで。
「ラアルさま……わたくしは貴女が大好きです。」
「……うん。」
「わたくしは貴女しか知りません。」
「うん。」
「わたくしはこの学園での貴女しか知りません。わたくしと出会ってからの貴女しか。」
「……うん、うん。」
「あの日、この教室に、貴女がわたくしに会いに来てくれた日からの貴女しか。
……だから、前の学校でのお友達のことについて何かを言うつもりはありません。実際に会ってもないし、話したこともありませんから。
でもわたくしが知ってるラアルさまなら、きっと神学校での人助けも、周りの人を幸せにする為にやっていたと確信しています。」
「でもっ!それは――」
「――貴女が。これまでの貴女がわたくしにそう確信させてくれたんです。」
「でも結局私は友を、いちばん大事にしないといけなかった親友を……。」
「知りません。そんな事は。わたくしはわたくしから見た貴女しか知りません。
わたくしから見た貴女はやさしくて、うつくしくて……わたくしのような者のために怒ってくれる。友のために怒れる人です。先刻ラアルさまが怒ったのは自分のためですか?」
「違うわ!アイが……貴女が傷つけられたと知って我慢ならなかったのよ。」
「でしょう?わたくしは友達のために怒れる人は素敵な人だと思います。
確かにラアルさまとはるひくんが諍いを起こすのは……わたくしの大好きな人同士が喧嘩をするのは嫌です。
でもわたくしは嬉しかったんです。
――あぁ……こんなわたくしのために怒ってくれる人がいるんだなぁ……って。」
「そんなの当たり前よ!
……好きな娘……友達のために怒るなんて。当たり前の事だわ。」
「それを当たり前だと言えるのが、素敵なことなんです。
わたくしもちいさな頃、ラアルさまのように生まれも環境も何もかも違う友達がいた事があります。その友達とは春日春日……そうあの子です。
ラアルさまの話を聞いていて、育った環境の、生まれた価値観の違いからお互いを無意識に傷つけあってしまうのは……“ラアルさまとその娘”は、まるで“わたくしとはるひちゃん”の関係によく似ているなと思いました。」
「貴女と春日はるひが……?」
「えぇ、性別が決まる前からのお友達です。まだあの子がわたくしを友と思ってくれていたらですが……。」
「わたくしとはるちゃんも似たようなことがありました。その時問題になったのはラアルさまたちのようには“美”や“自信”ではなかったですが。
わたくしたちの仲を違ったのは“お金”と“愛”でした。ミルヒシュトラーセ家に生まれ落ちたわたくしは、はるひちゃんのような“お金”に困っている人の気持ちが分からなかったのです。
――そして、わたくしと違って母親になみなみと“愛”を注がれている彼女を妬ましく思った。」
私は驚いた。アイが誰かに悪感情を抱いたのを見たことがなかったからだ。アイにはそういう感情とは縁が無いと思っていた。
……でもそうよね。この娘だって……天使みたいなこの娘だって人間なんだものね。
アイが人に悪感情を抱くという事実を知っても私のこころは不思議とアイに落胆したりしなかった。むしろ、なんだか親近感が湧いた。
前にアルターク・デイリーライフをアイの前で悪く言った時は、“怒られる”と言うよりは、“叱られた”からアイは人に怒ることがないのかと思っていた。
だけど、ちゃんと怒ることができたのね。なんだか安心したわ。だってそうじゃないとこの娘は……誰よりも無垢なこの娘は、他人の悪意に食い潰されるだけだもの。
「……アイ。ありがとう、話してくれて……。私たち……生まれも育ちも、何もかも正反対だと思ってたけど、同じ所があったのね。」
アイはきょとんとその大きなクリクリの目を見開いて、その後フッと微笑んだ。
「ラアルさま?前に伝えたことをお忘れですか?ここにわたくしのこころがあって、ラアルさまにも――」
そう言ってアイは私の手を取り自分の胸に――
自分の胸に……?
自分の胸に……!?
アイの胸に私の手が!?
慌ててバッとアイの胸に近づきつつある手を離した。
「……?……ラアルさま?」
アイが無垢な瞳で、邪な私を見つめる。
私の顔がブワッと赤くなるのを感じる。
……やめて!そんな純粋な目でいやらしいことを考えてる私を見ないで!
「だいじょうぶ……ですか?」
「えっ!……ええ、私はだいじょうぶよ……だいじょうぶ……。」
何を思ったのか足の間に座っていたアイが、一度立ち上がって、こっちを向いて私の太ももの上に座る。それを遠くのことのように眺めていた。
――まずい――!
そして徐々に私の顔に顔を近づけて……。
色々と当たってるし、やわらかいし、いい匂いするし――。
「だ……ダメよ……アイ……。」
いや、もういいか……全部アイが悪いのよ。
私は手をゆっくりと上げて……アイの肢体を――
そして、私とアイの唇がふれ合いそうになった瞬間――。
……アイは自分のおでこと私のおでこをくっつけた。
――?……??……え?……!??
「顔は赤いですが、熱はない……ですかね?」
そしてアイは心底心配そうな顔で、汚れた思考をしていた私を心配する。
「〜〜!!」
私は声にならない声を上げる。
アイの身体に触れようとしていた手をシュバっ!と離して慌てて隠す。
「そ……そうね!熱はないわ!しんどくもないし!?」
アイは心底不思議な顔をして、首をかしげる。かわいい。
「ラアルさ――」
「一旦落ち着きましょう。一旦ね、一旦。先刻の話の続きでもしましょうね?ね?一旦ね?」
何が一旦なのか?自分で言ってたよく分からない。
「……ラアルさま。貴女はわたくしに秘密を打ち明けて下さいました。だから、わたくしも一つ、打ち明けごとをしてもいいですか……?」
アイが神妙な面持ちで聞いてくる。その表情もかわいい。
――だけど、その次にアイから発せられた言葉は、私のこころを、この国を、このパンドラ公国を揺るがすような、そんな秘密だった――
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