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133. 何もかも真逆だが、愛してるぜぇ。 Different, but I Love You.

評価の星や感想を下されば、泣いて喜びます(T_T)

もし良かったらぜひっ!m(_ _)m

「アイの……お前自分が絶望の深淵(しんえん)に居たとき……何を思った?

 ……それで俺と同じ答えだったら……やっぱり反政府組織(レジスタンス)に来てくれねぇか?」


 アイは背中をザミールに預け、彼女と同じ方向をみながら、しかし暗いサファイアの瞳で答える。


「……いいぜ。けど……たぶん違うことを想ったと思うよ……。

 おれはお前ほど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな。」


 ザミールは自分より、ずっと幼く……ずっとずっとちいさなアイの体躯(たいく)を抱きしめる。


「……じゃあ『せーの』だ。

 俺はあの虐殺をした夜、お母様が俺を助けてくれたんじゃなかったと(さと)ったとき――」


「おれはおかあさまに堕胎告知(だたいこくち)(くだ)されたとき――」


 二人の声が土の匂いを放つ草花(くさばな)を揺らした。


「――『もうこの世の誰にも、俺と同じ気持ちは味わわせたくない』と思った。」


「――『この世の全員を、おれと同じ地獄(ちきゅう)に引きずり落としてやる』と思った。」


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 静寂(しじま)があった。


 その場の誰も口をきかなかった。


 アイとザミールは奇妙な友情を感じていた。


「……。」

「……。」

 

 例えるならば、()れは天と地の友情、希望と絶望の友情、(はな)爛漫(らんまん)花曇(はなぐも)りの友情、快晴(かいせい)豪雨(ごうう)の友情、人間と人間(もど)きの友情……。


 ……首と絞首台(こうしゅだい)との間にある友情。


 ――まるで天国と地獄の結婚のようだった。


「……。」


 エゴペーはむしろアイの先刻(さっき)の絶望の慟哭(どうこく)を聴いて、()()()()()()


挿絵(By みてみん)


 アイはこれまでいくら、母に憎まれ、父に殴られ……他人に馬鹿にされ、別邸(べってい)に閉じ込められていても……“ニンゲンの悪意”を向けられても、それを相手に反抗してぶちまけたことはなかった。


 唯一春日はるひには聖別の儀(セパレーション)の時にそれをしたが、エゴペーはその事実を知らなかった。きょうだいたちは、アイのほんとうの性別さえ知らないのだ。


 ……だから、弟が()()()()()()()()()ということに安堵(あんど)していた。

 人を憎めない人間は、何をされても自分を責めてしまうからだ。他責(たせき)ができない人は自責(じせき)の念に押しつぶされるだけだ。

 

 『親に愛されないのは、自分が親にとって“悪い子”だから。』

 『他人に嫌がらせをされるのは、自分が彼らにとって“居るだけで迷惑な存在”だから。』


 そうやって全ての原因を自分のなかに求め、見いだし……それを真実だと思い込んでしまう。


 だけどアイは

 『この世の全員おれと同じ地獄(ちきゅう)に引きずり落としてやる』

 と言った。……そう()()()


 今までこの世の者とは思えないその外見の美しさと(あい)まって、エゴペーはアイから()()()を感じ取れないことがあった。


 侮辱されても、何をされても、全てを自分のせいにして、逆に自らを危険にさらしてまで他人を護ろうとするその姿勢に、生理的な恐怖すら覚えていたのだ。


 ――そんなのはヒーローではなく、サイコパスだ。

 

 ……()しくは救世主(メシア)か……それと救世主症候群メサイア・コンプレックスか……。


 そんなのはエゴペーの考える人間じゃなかった。()()()天使だ。端的(たんてき)に言うと、気持ちが悪い。(いや)なことをされても、何をされてもヘラヘラ笑って謝って自分のせいにするなんて……そんなの()()()()()()


 そんな者はただのおとぎ話の住民か、()()()()()()()といったところだろう。

 ……それも、“やさしい人”という哀しき仮面(キャラクター)をつけられた……特上の舞台装置だ。


 エゴペーの思う人間とは楽しいことがあれば笑い、嫌なことをされたら()()()()()()()性格を持ち合わせた人のことだった。


 ……だから、エゴペーはアイの怨嗟(えんさ)号哭(ごうこく)を聴いて安心した。


 『あぁ……アイちゃんは、私の弟は……天使でもなんでもなく、()()()()()()人間だったんだ……。』と。


 ◇◆◇


 ザミールは不思議な気分だった。今は女性体である自分の身体に、すっぽり収まるほどのちいさな子どもから、あれほどの憎悪の発現(はつげん)を聴いたというのに。


 ――不思議と、不思議ではなかった。


 ザミールも同じ気持ちを抱いたことがないと言えば嘘になるからだ。自分には最後の絶対安全領域……心理学的に言えば“安全基地(あんぜんきち)”があった。


 それは多くの子にとっては母親……ザミールにとってはアデライーダ(おかあさま)だ。だけどアイにはそれすらない。むしろ本来安全基地であるはずの母がアイを(おびや)かしている。


ザミールがわざとお道化(どけ)てアイの頭に(あご)を乗せてグリグリと押し付けて、ぎゅうっと強く……だけどもやさしく抱きしめる。


「ククッ……ほんとに気が合わねぇな、俺たちは。」


 アイが不安そうな声で(すが)る。

 人混(ひとご)みで親と繋いでいた手を離してしまった子どものような声だ。


「……軽蔑(けいべつ)……しないんですか?

 貴女とわたくしは同じく地獄(ちきゅう)を味わった者同士……なのに貴女は人のことを考えて、わたくしは人を呪った。

 (わら)ってもいいですよ……?」


 しかしその声色が痛いほど『どうか、自分を(わら)わないで』と伝えていた。


(わら)わねぇよ。

 お前は()()()()()()()悪い人間じゃねぇ。

 

 俺だって人を呪って九穴(きゅうけつ)糞袋(くそぶくろ)どもを大量虐殺した。……。

 ……慈悲(じひ)もなく(なぶ)り殺しにしたんだ……。

 

 なぁアイ……お前のこころの年輪(ねんりん)の一番奥深くに母への愛(のろい)があることは分かった。

 

 大きくなってからそれをどれだけ抜こうとしても抜けないのも分かる。……抜いたとしてもこころの(あな)は残るだろうしな……。


 だけど母親に、他人にいくら罵詈雑言(ばりぞうごん)を並べ立てられようと、

 『この人さえ自分を理解(わか)ってくれればいい。』

 『この人だけはどんな自分でも愛してくれる』

 って確信できる相手を作ることはできると思うんだ。


 それは獣神体(アニムス)人間体(アニマ)(つがい)かもしれねぇし、人生のパートナーかもしれねぇ……。

 それに――」


 アイの曇天(どんてん)の瞳に雲間(くもま)から光が一条(いちじょう)()す。


挿絵(By みてみん)


「――それに、わたくしたちのような、思想を違う者同士、違う哲学を抱く者、同じものを信じない者……。違うことを疑う者。


 ――わたくしたちのような(とも)かも知れない……?」


 ザミールの顎が頭に乗っているので、不純物(くうき)を介した振動(しんどう)ではなく、頭からの振動で直接アイの身体に……こころに聞こえる。


「――あぁ……俺たちのような親友(てき)同士かもしれねぇ。」


「それは……いいですね。 

 嗚呼(あぁ)……なんてすてきな楽天家(ポリアンナ)

 

 ……現実を見ない楽天主義は好きではありませんが、地獄(ちきゅう)を見た楽天家(ポリアンナ)は大好きですよ……!」


 アイが恍惚(こうこつ)と笑い、ザミールはニカッと笑う。


「それにアイ、お前は“言葉”を愛しているようだが、俺は“行動”を愛してる。ある人が言った言葉より、その人の行動がその人間を定義すると思ってる。」


「そういう意味では貴女はプラトンではなく、ソクラテス的な考えですね。」


「あぁ。……だから分かる。こころをぶつけ合った時に見た。あの刹那(せつな)で永遠の光に照らし出されたお前のこれまでの人生は……いたずらに他人を傷つけるものじゃあなかった。


 お前は家族の役に立とうとし、きょうだいのために命をかけ、友のために死ぬ覚悟で俺に立ち向かった。」


「――でも……!」


「――黙れ。うるっせぇんだよ。」


 ことばの強さに比べて、そのこころは優しかった。


「――お前はお前が思うほど悪くねぇ……!」


挿絵(By みてみん)

 

 「お前は……

 『この世の全員おれと同じ地獄(ちきゅう)に引きずり落としてやる』

 って、口では悪い事をしたってばっか言ってる、そこら辺のイキった不良のガキと一緒だよ。クソガキ特有の悪いことができるアピールさ。」


 アイが頬を膨らませて、でも本当に嬉しそうに伝える。


「もうっ!……あいも変わらず貴女は口が減りませんね。

 

 でも……そうですか、わたくしは()()()不良ぶってるクソガキ……なんだかこころがフワッと軽くなった気がします。これが気がするだけじゃく……ほんとうにそうなっていることを今は願います。」


「俺をみてみろよ?大量虐殺しといて

 『もうこの世の誰にも今気持ちは味わわせたくない』

 だぜ?口だけ野郎だろ?」


挿絵(By みてみん)


「ザミール……貴女は誠実な犠牲者(リウー・タルー)です。貴女の部下にとっても、もちろんわたくしにとっても。


 だから……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。」


 その言葉を受けてザミールの瞳が少し(うる)む。


挿絵(By みてみん)


 人は相手を罵倒(ばとう)するときは無意識に“自分が一番言われたくないこと”を言うし、人を慰める時は“自分がつらいときに言ってほしかった言葉”を言う。


 ザミールもきっとそうだったのだろう。


 ――彼女はずっと(ゆる)しを求めていた。……ただ独りで。


「……うるせぇ。アイのクセにナマイキだ!」


 ザミールが照れ隠しにアイの髪をぐしゃぐしゃと撫でつける。


「……おい……また、ぶっ飛ばしますよ?」


「くくっ……やってみろよ。

 ……先刻(さっき)負けたのはどっちだったかな?くくくっ!」


 ◇◆◇


「まぁ……とにかく俺は此処(ここ)こらトンズラこかせてもらうぜ……ありがとうな、エゴペー・ミルヒシュトラーセ……そして、俺の好敵手(しんゆう)よ……!!」

10Kページビュー突破!!!!!!!!!!←10個


読者様のおかげで、本当に、本当に有難う御座います


初めて小説を書き始めて

約5カ月で突破できました


最初は多くの学問を入れ込んだ小説なんて、4人ぐらいが読んでくれたらいいかな?

と思っていたので皆へのアイしか言えません。


ほんとうに、ありがとう。

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― 新着の感想 ―
毎話にイラストがあるなんて本当にすごいね! キャラクターもたくさんいて、すごく面白そう! でも自分はちょっと翻訳しないとね、日本語は少し難しいから(笑) 応援してるよ!めっちゃすごい!! こういうコ…
天国地獄の結婚!!!なんて表現だ、と思いました。正反対の言葉なのに噛み合う2人にしかわからない感覚でしょうか。 ザミールいい子じゃないですか。アイはやっぱり愛されキャラですし。今回も楽しく読ませていた…
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