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132. 優しさと憎しみの友情 Friendship of Kindness and Hatred.

10Kページビュー突破!!!!!!!!!!←10個


読者様のおかげで、本当に、本当に有難う御座います


初めて小説を書き始めて

約5カ月で突破できました


最初は多くの学問を入れ込んだ小説なんて、4人ぐらいが読んでくれたらいいかな?

と思っていたので皆へのアイしか言えません。


ほんとうに、ありがとう。


評価の星や感想を下されば、泣いて喜びます(T_T)

もし良かったらぜひっ!m(_ _)m

 アイとザミールは同じ方向を見ていた。


 同じ夜明けを、同じように傷だらけで、同じように打ち捨てられてうらぶれた表情で。


 二人とも“大魚と三日間夜通し戦った老人”のような(おも)持ちだった……しかし、彼らはその老人と同じように、決してその瞳から闘志を失わなかった。


 アイの発言はエゴペーとザミールを驚愕(きょうがく)させた。


「――逃げろ。ザミール……おにいさまが戻って来る前に。……おれがお前を逃がしてやる。

 だから……アデライーダさんのために……逃げるんだ。」


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「……アイちゃん……!?」


「アイ……!?」


 二人が驚いて声を出す。


「……貴女には(いま)だ散華して眠り続けるアデライーダ(おかあ)様がいるでしょう?こんな所で捕まってる暇はないはずです。

 

 それに……ミルヒシュトラーセ家(わたくしたち)を討ち滅ぼすために、反政府組織(レジスタンス)(ひき)い続けなければなりません。」


「だが……いいのか?お前はそれで、俺はお前の敵だぞ?」


「……そうよ、アイちゃん。この人は私たちの脅威……砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)よ……?」


 何故か敵対勢力に属する者同士であるザミールとエゴペーが同じ問いをアイに放つ。


 アイはそれに明確に、()らぐことなく、理路整然(りろせいぜん)と答える。


「……ザミール、エゴおねえさま……ザミールは“ミルヒシュトラーセの敵”であって、“わたくしの敵”ではありません。

 

 それに……わたくしの考えでは、()()()()()()()()()()()()()のではないでしょうか?」


 エゴペーがハッとする。

 ザミールはただ無言でエゴペーを見()る。


「……ザミール・カマラード……アナタはミルヒシュトラーセ家(わたしたち)を討ち滅ぼして()()()の……?」


 ザミールが混乱したように、返す。


「お前らは……なんなんだ……?

 アイもそうだが……なぜミルヒシュトラーセ家の人間が、自分の家の破滅を望む……?」


 エゴペーは相手を見極めるように瞳を細める。


「――『この文学界(リテラチュア)が歪められてしまっている』、

 そう思うのがミルヒシュトラーセの“外側”の人間だけだと思う?わたしとアイちゃんは、ちいさな頃からすぐ目の前で()れを目の当たりにしてきたのよ?

 

 ……それにわたしとアイちゃんは……エレクトラ(あのひと)の子じゃないしね。」


 ザミールは振り返って哀しげに微笑むアイと立ち(すく)むエゴペーをみたが、どちらも揺らがぬ、どちらも同じサファイアの瞳をしていた。


「……そうか。……そうだよな。俺も一時期パンドラ公国(このくに)の軍に居た……そこでは、“内側”からではこのパンドラ公国を変えられないと諦めたが……。


 居たんだなぁ……“地獄(パンドラ)の内側”にも……同じ考えのやつが……泣けてくらぁ……。

 ――まだ、この国には捨てたもんじゃねぇって思わせてくれるぜ。」


 ザミールはアデライーダ(はは)に抱かれていた、まだ子供だった時分(じぶん)のように……少女のようにあどけなく、()()()笑った。


 アイは()れをうつくしいものを見る瞳で眺めた後に付け加える。


「……ただ、ザミール……おれはお前と共には行けない。おれはお前が大好きだが……同じ道を()くことはできないんだ。

 

 おれはまだエレクトラ(おかあ)さまを諦められない……それはたぶんきっと……お前がアデライーダさんを想う気持ちと同じだ。


 ――“母への()()()愛”……それだけなんだ、それだけがおれの真実なんだよ……。」


 ザミールは自分の胡座(あぐら)の上に座っているアイをそっと抱きしめた。


「分かったよ……。

 だって……俺も……

 『お母様を犠牲にすればこの文学界(リテラチュア)を救える』

 って言われても……きっとその道は選べない。」


 ザミールがアイの頭に(あご)を乗せる。


「……なぁ、アイ……意地悪な質問をしてもいいか?」


「ん?……あぁ……今更んなこと気にすんな。」


「……もし、今目の前に、ミルヒシュトラーセによって苦しめられた人が、(しいた)げられ(おか)され殺された人が……散華(さんげ)した人たちがいたら――


 ――何を話す?何を伝える?

 

 エゴペー・“ミルヒシュトラーセ”、そしてアイ……お前たちは何を伝える……?」


 エゴペーがアイを気遣(きづか)って先に答える。


「……もし、『謝罪する』って答えを求めていたんなら申し訳ないけど……()()謝らないわ。だって私自身は彼らを何も害していないんだから。

 

 私は悪いことをしていないのに、安直にその場を済ませようと、取り敢えずテキトーに(のたま)う『ごめんなさい』がこの世で最も卑劣な言葉だと思う。


 ――だから……私は謝らないわ。」


 ザミールが得心がいったように答える。


「そうか……確かにアンタはミルヒシュトラーセだけど、差別主義者(ミルヒシュトラーセ)じゃないんだもんな……。

 アンタは“誠実(リウー)”だよ。」


挿絵(By みてみん)


「ええ、だから私は知ってほしいの。伝えたいの……ミルヒシュトラーセに追いやられた人たちに。

 

 ――私は、何事につけ許しを()うべき相手……人 ・ 親 ・ 神は居ないし、それは人にも知っていてほしい。

 

 だから私に……特にアイちゃんみたいなやさしい子に“ミルヒシュトラーセだから”という理由だけで石を投げないでってね。

 

 だってそれをすると……“人間体(アニマ)だから”っていう理由だけで差別するミルヒシュトラーセと同類に身を堕としてしまうんだから。

 ……私は他人に追いやられた人に、自分の手を使ってまで自分のこころを(けが)す真似はしてほしくないわ。」


 ザミールは怒りとも哀しみともつかない瞳でエゴペーを見遣る。

 

 それはザミールが現実はそんなに甘くないことを知っているし、現実がそれほど甘ければよかったのに、という気持ちが混ざり合った目だった。


「……。……そうか。アンタの哲学は分かったよ……エゴペー・ミルヒシュトラーセ。誠実に答えてくれてありがとう。

 

 ……それでアイ?お前は何を言う?何を伝える?」


 アイはザミールにも背中からたれかかり、自分を抱きしめにいるザミールの腕を抱きながら答える。


()()()。」


 ザミールとエゴペーの顔が困惑に染まる。


「……何も伝えない。何も言わない。」


挿絵(By みてみん)


 それは聞くものが聞けば激昂(げきこう)して石を投げる答えだったが、エゴペーとザミールはアイの心根(こころね)を知っている。だから……アイが言葉を続けるまでただ黙って、静寂を守り……耳を()ましていた。


挿絵(By みてみん)


「……おれは、虐げられた人々にかけるような高尚(こうしょう)御言葉(おことば)は持ち合わせちゃあいねぇ。ただの世間を知らねぇ糞餓鬼(くそがき)だからな。

 

 ……だけど、だけど……ただ黙って聴くことならできる――

 

 ――“哀しき人々”の言葉を――。

 

 ……思うに……皆それをしなかった。

 

 皆哀しき人々や“貧しき人々”に同情の言葉をかける、だけどおれは思うんだ。

 

 『それでいいのか?』って。

 

 ()()()(あわ)れんで言葉をかけるんじゃあなくて、()()()()()()()ただ黙って哀しき人々の言葉を聴くべきだと思うんだ。

 

 無責任な慰めや、心の込もってない謝罪じゃあなくて……ただ耳を傾ける。彼らの嘆き、哀しみ、絶望を聴くべきだと思うんだ。

 

 ――だから、おれから話すことは何もない、彼らに必要なのは高い場所からの尊き御言葉じゃあなくて、横で一緒に倒れてくれる相手……()()()()()()()()()()()()”だと思うんだ。」


 その言葉はザミールの胸を打った……ほんとうの絶望を味わい、地面に……地球(じごく)の底に無理やり顔を押しつけられ泥水を(すす)った人間にしか放てない、哀しい旋律(せんりつ)鈍色(にびいろ)の輝きを持つ言葉だったからだ。


 ……ザミールと同じような経験をした者にしか伝えられない現実に(ぞん)する真実だった。


 一方で、エゴペーはアイの言葉を聴いて、この子なら……ほんとうにミルヒシュトラーセを討ち滅ぼしてくれるかも知れないと思った。


 しかし、姉心としてはもう一人の人生では抱えきれないほどの哀しみを背負っているのだから、その華奢(きゃしゃ)な背中には大きすぎる薄暗く、尚且(なおか)つどす黒い絶望(かたまり)始終(しじゅう)押さえつけられているのだから……もう危険なことはしてほしくなかった。


 最後にザミールは問う。


「アイの……お前自分が絶望の深淵(しんえん)に居たとき……何を思った?

 ……それで俺と同じ答えだったら……やっぱり反政府組織(レジスタンス)に来てくれねぇか?」


 アイは背中をザミールに預け、彼女と同じ方向をみながら、しかし暗いサファイアの瞳で答える。


「……いいぜ。けど……たぶん違うことを想ったと思うよ……。

 おれはお前ほど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな。」


 ザミールは自分より、ずっと幼く……ずっとずっとちいさなアイの体躯(たいく)を抱きしめる。


「……じゃあ『せーの』だ。

 俺はあの虐殺をした夜、お母様が俺を助けてくれたんじゃなかったと(さと)ったとき――」


「おれはおかあさまに堕胎告知(だたいこくち)(くだ)されたとき――」


 二人の声が土の匂いを放つ草花を揺らした。


「――『もうこの世の誰にも、俺と同じ気持ちは味わわせたくない』と思った。」


「――『この世の全員を、おれと同じ地獄(ちきゅう)に引きずり落としてやる』と思った。」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

一旦はは水・金・日の週3回更新です!

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