124. 神なき聖者+神を愛する哲学者=? a Godless Saint + a God-loving Philosopher = ?
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なのに、俺はいい気になって人間体を……アイを……!
そうして、お母様との約束を破ってしまったこと……人間体に暴力を振るってしまったことを後悔していた俺は、気が付かなかった、アイが俺の目の前に立っていたことに――!
アイが俺を優しく抱擁する。
「爆裂の……」
――そして、小鳥が囀るように呟く。
「……哀しみ……。」
◇◆◇
爆発した。
何が、ではない。
全てが、だ。
爆発した。
弾け飛び。のたうち周り。ぶつかり合い。弾けては混ざる。
爆裂の反流のなかで、アイの悲しみの濁流のなかで、ザミールは砂塵で身を守ろうとしたが、アイにひしと抱きしめられているから、上手く心を全身には纏えない。
仕方なくアイの身体ごと自身の砂塵で包み込もむとする。そうして、二人の水流と砂塵が混ざり合う、ザミールの砂塵はアイの水流から潤いを奪い、アイの水流はザミールの砂塵に潤いを与える。
◇◆◇
全てが落ち着いた時には、洞窟は吹き飛び大きなクレーターができて、二人はそこに倒れていた。
アイはザミールに抱きつき、ザミールはアイを抱きしめていた。といっても虚弱なアイの手にはもうほとんど力が入っておらず、ザミールに抱かれるがままになっていた。
「……ちくしょう……自分が人間体であるっていう“強み”まで使って、お前の信念にまでつけ込んで勝とうとしたのに……結局負けちまった……。」
アイが悔しそうに、でもどこかスッキリしたように呟く。いくら強大な心を持つこころをもつものとは言え、アイは“最も弱い性別”とされている“アニマ・アニマ”だ。もう身体が言うことを聞かない。自身の負けを悟ったらしい。
「アイ……お前はよくやったよ。……殆ど初めての戦闘で、一晩中駆けずり回ったんだろ?
そして、この俺……砂漠の黒死病、ザミール・カマラードをここまで追い詰めたんだ……良くやったよ……たった独りでよ……。」
アイがザミールの胸に頭を預ける。
……赤子のように無防備に。
「独りじゃあねぇよ……お前がいただろ……?」
「ふっ……あぁ……確かになぁ。」
「……それにしても、砂漠の黒死病か……。」
「……どうした?」
ザミールはアイの頭に顎をくっつけて、アイはザミールの胸の鼓動を聞きながら話していた。
「いや、なんで砂漠の黒死病が“蔑称”になってるのかなぁ……と思ってよ。」
「うん?」
「だってよぉ……砂漠の黒死病っていやぁ……雷神エレクトラに砂神アデライーダが立ち向かう時に、圧倒的に戦力差がある相手に立ち向かった時に使った……謂わば、その勇姿を証明する技だろう?
……なんでそれが今は反政府組織のリーダー……お前を指す“蔑称”になってるんだ?」
「あぁ……そりゃあ、お母様が“負けた”からだな。……お母様はその技を使って負けた。
だから……俺は決してエレクトラ辺境伯爵を打ち倒すことができないという意味で……またカラマード家はミルヒシュトラーセ家に敗北するという意味で……そう言われるんだ。
“勝てば官軍、負ければ賊軍”ってやつだ。
もしお母様がエレクトラ・ミルヒシュトラーセに勝ってたら今頃あの戦いは、“カラマードの乱”じゃなくて、“カラマードの変”って呼ばれてただろうな。」
「そうか……そうか、おれはカッコいいと思うぜ?砂漠の黒死病……まぁ、お前の人間性を知った今じゃあ誠実な犠牲者の方がピッタリって感じだが。」
ザミールはかつてお母様が自分にそうしたように、アイの髪を指で梳きながら、ニカッと笑う。
「そいつぁどうも。なぁ……アイ。」
「うん?」
「俺……ザミール・カマラードが目指すのは“神なき聖者”だ。……神なんて信じちゃあいない。“哲学者”なんぞ……“聖職者”なんぞ大嫌いだ。」
「……あぁ……そうだな。」
「……で、お前は“神を愛する哲学者”。
……お前の言葉でいやぁ“愛知者”だったな。」
「そうだ……おれはこの世のすべてを神の現れだと思ってる。」
アイが悪戯をやり返すみたいに、僅かに残された力で、ザミールの髪を梳く。
「そう……そうだ。つまり、俺たちは真逆の思想を抱いてる。」
「あぁ……おれたちは、あいいれない。」
ザミールがそっと大切なものを扱うように、思い出のぬいぐるみを抱きしめるように、アイを抱く。
「じゃあ……なんで俺はこんなにお前が好きなんだろうなぁ……?
二律背反の相反する思想を抱いた、俺の親とお前の親は殺し合いまでしたっつうのによ……。」
アイはなされるがままに敵に身体を預ける。
「……今まさに、おれも不思議に思ってたとこだ。
なんで、戦争や諍いはお互いの信念をぶつけ合うことがから始まるってのに……。
……なんでおれはこんなにお前が好きなんだろうってな。」
「……答えはでたかよ、愛知者サマァ……?」
ザミールが誂うように、ククッと呟く。
「……思うに……。」
アイは自分よりずっと身体の大きいザミールに伝わるように、全身でソレを伝えようとする。
「……おれが思うに、もしかしたら……思想が相反するのに、お互いのことが大好きってこたぁ……もしかしたら――」
アイは上目遣いでザミールを見上げながら言う。
「――おれが目指す“愛知者”と、お前が目指す“神なき聖者”ってのはぁ……実は同じなんじゃないかってな。」
「……どういう意味だ……?」
「……もしかしたら、神を戴かずに聖者になろうとすることは……お前が言う、“ただ人間であること”は、おれが言う“ただ知を愛する”ことなんじゃないかって……そう、思うんだ。
……もしかしたら、人間が本当に、こころの底から知を愛することができたら――」
ザミールとアイの瞳の色が混じり合う。
「――その人は“ただ人間であることができる”んじゃないかって……その人間は、神からの威光なんて貰わなくったって……神々しいんじゃいかって……。」
ザミールの瞳を、アイのサファイアの瞳が貫いた。ザミールのこころを、アイのサファイアの輝きが照らし出した。
「……なるほど、アイ、俺とお前は……往く道は違うが、目的地は一緒ってことか……。
なんだかすげぇ腑に落ちたよ……だから、お前は俺が大好きなのか……敵なのに。」
アイが挑発したような顔で笑う。
「お前がおれを好きなんだろうが……。調子に乗んなよ?」
ザミールがアイのちいさな鼻に人差し指を突きつける。
「やっぱ哲学者サマは偉そうで、神を信じてるヤツは高慢ちきで、気に入らねぇなぁ……クククッ……!」
二人の流した血が、二人の間で二筋の小川のように流れる。それは次第に混ざり合い、やがて一筋の流れとなる。
◇◆◇
「……アイ……気がついてるか……?」
「……あぁ、おれの最強で無敵な水の爆発で作ったクレーターの周りに、結構な人影がいやがる。」
「“最強で無敵”?……本当に最強か?俺には全く効かなかったぞ。」
「うっせぇ……ボロボロの面ぁしてよく言いやがる。奴らは誰だ?」
「アガ・ハナシュがこの作戦のために呼び込んできたゴロツキ連中だ。……多分全員裏切りモンだろうなぁ……。」
「……なるほど。……なぁザミールこっちを向け……もうおれは顔しかマトモに動かせねぇ。」
「……?こうか?」
《愛する貴方へ。》
アイは母親が我が子を寝かしつけるように、ザミールの頬に口づけを落とした。
「……!……アイ、お前、何を。」
ザミールの頬が赤らんで、狼狽しきっている。
アイは頬を膨らませぶっきらぼうな顔で目を逸らすが、彼の頬も同じように真っ赤になっている。
「……愛情を伝えるには、頬にキス、だろ?
親にされたことは生まれてこのかたねぇが……お話で読んで知ってる……。」
ザミールの身体がアイの愛情の心で、かなりの速度で癒えていく。アイの愛するものの力のなせる技だろう。
「……アイ。」
アイは動かない身体を無理やり心の意味で吊り上げて、座り込む。
そうして、倒れ込んだザミールに手を差し伸べる。
「……あの方たちは反政府組織のリーダーである貴女と、ミルヒシュトラーセ家のこころをもつものであるわたくしを戦り合わせ、漁夫の利を得て……二人とも殺してしまおうという作戦でしょう……?」
「あ、ああ……この状況をみるにおそらくな……?」
「じゃあ、わたくしと手を組みましょう。」
アイはザミールに手を伸ばしたまま続ける。
「ああいった、狡いゲロクソ以下の糞滓野郎どもに……わたくし達がいいように討ち取られるのは――」
アイはその天使のようにうつくしい、慈愛に満ちた微笑みと共に言った。
「――クソみてぇにムカつきませんか?」




