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124. 神なき聖者+神を愛する哲学者=? a Godless Saint + a God-loving Philosopher = ?

8Kページビュー!!!!!!!!←8個

2.5Kユニークアクセス!!.!

ありがとうございます

皆様の感想や評価のおかげでモチベーションが保てています、ほんとうに、ほんとうにありがとうございます

 なのに、俺はいい気になって人間体(アニマ)を……アイを……!


 そうして、お母様との約束を破ってしまったこと……人間体(アニマ)に暴力を振るってしまったことを後悔していた俺は、気が付かなかった、アイが俺の目の前に立っていたことに――!


 アイが俺を優しく抱擁(ほうよう)する。


爆裂の(バオチャー)……」

 

 ――そして、小鳥が(さえず)るように(つぶや)く。


「……哀しみ(トリステッツァ)……。」


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)


 爆発した。


 何が、ではない。


 全てが、だ。


 爆発した。


 弾け飛び。のたうち周り。ぶつかり合い。弾けては混ざる。


 爆裂の反流のなかで、アイの悲しみの濁流(だくりゅう)のなかで、ザミールは砂塵(さじん)で身を守ろうとしたが、アイにひしと抱きしめられているから、上手く(ヘルツ)を全身には(まと)えない。


 仕方なくアイの身体ごと自身の砂塵で包み込もむとする。そうして、二人の水流と砂塵が混ざり合う、ザミールの砂塵はアイの水流から(うるお)いを奪い、アイの水流はザミールの砂塵に潤いを与える。


 ◇◆◇


 全てが落ち着いた時には、洞窟は吹き飛び大きなクレーターができて、二人はそこに倒れていた。


 アイはザミールに抱きつき、ザミールはアイを抱きしめていた。といっても虚弱なアイの手にはもうほとんど力が入っておらず、ザミールに抱かれるがままになっていた。


「……ちくしょう……自分が人間体(アニマ)であるっていう“(よわ)み”まで使って、お前の信念にまでつけ込んで勝とうとしたのに……結局負けちまった……。」


 アイが悔しそうに、でもどこかスッキリしたように呟く。いくら強大な(ヘルツ)を持つこころをもつもの(プシュケー)とは言え、アイは“最も弱い性別”とされている“アニマ・アニマ”だ。もう身体が言うことを聞かない。自身の負けを(さと)ったらしい。


「アイ……お前はよくやったよ。……(ほとん)ど初めての戦闘で、一晩中駆けずり回ったんだろ?

 そして、この俺……砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)、ザミール・カマラードをここまで追い詰めたんだ……良くやったよ……たった独りでよ……。」


 アイがザミールの胸に頭を預ける。

 ……赤子のように無防備に。


「独りじゃあねぇよ……お前がいただろ……?」


「ふっ……あぁ……確かになぁ。」


「……それにしても、砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)か……。」


「……どうした?」


 ザミールはアイの頭に顎をくっつけて、アイはザミールの胸の鼓動を聞きながら話していた。


「いや、なんで砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)が“蔑称(わるぐち)”になってるのかなぁ……と思ってよ。」


「うん?」


「だってよぉ……砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)っていやぁ……雷神エレクトラに砂神アデライーダが立ち向かう時に、圧倒的に戦力差がある相手に立ち向かった時に使った……()わば、その勇姿を証明する技だろう?


 ……なんでそれが今は反政府組織(レジスタンス)のリーダー……お前を指す“蔑称(べっしょう)”になってるんだ?」


「あぁ……そりゃあ、お母様が“負けた”からだな。……お母様はその技を使って負けた。

 

 だから……俺は決してエレクトラ辺境伯爵(へんきょうはくしゃく)を打ち倒すことができないという意味で……()()カラマード家はミルヒシュトラーセ家に敗北するという意味で……そう言われるんだ。

 

 “勝てば官軍(かんぐん)、負ければ賊軍(ぞくぐん)”ってやつだ。

 もしお母様がエレクトラ・ミルヒシュトラーセに勝ってたら今頃あの戦いは、“カラマードの()”じゃなくて、“カラマードの()”って呼ばれてただろうな。」


「そうか……そうか、おれはカッコいいと思うぜ?砂漠の黒死病(デシエルト・ペスト)……まぁ、お前の人間性を知った今じゃあ誠実な犠牲者(リウー・タルー)の方がピッタリって感じだが。」


 ザミールはかつてお母様が自分にそうしたように、アイの髪を指で()きながら、ニカッと笑う。


「そいつぁどうも。なぁ……アイ。」


「うん?」


挿絵(By みてみん)


「俺……ザミール・カマラードが目指すのは“神なき聖者”だ。……神なんて信じちゃあいない。“哲学者”なんぞ……“聖職者”なんぞ大嫌いだ。」 


「……あぁ……そうだな。」


「……で、お前は“()()()()()哲学者”。

 ……お前の言葉でいやぁ“愛知者(あいちしゃ)”だったな。」


「そうだ……おれはこの世のすべてを神の現れだと思ってる。」


 アイが悪戯(いたずら)をやり返すみたいに、(わず)かに残された力で、ザミールの髪を梳く。


「そう……そうだ。つまり、俺たちは真逆の思想を抱いてる。」


「あぁ……おれたちは、あいいれない。」


 ザミールがそっと大切なものを扱うように、思い出のぬいぐるみを抱きしめるように、アイを抱く。


「じゃあ……なんで俺はこんなにお前が好きなんだろうなぁ……?

 

 二律背反(にりつはいはん)相反(あいはん)する思想を抱いた、俺の親とお前の親は殺し合いまでしたっつうのによ……。」


 アイはなされるがままに敵に身体を預ける。


「……今まさに、おれも不思議に思ってたとこだ。

 なんで、戦争や(いさか)いはお互いの信念をぶつけ合うことがから始まるってのに……。


 ……なんでおれはこんなにお前が好きなんだろうってな。」


「……答えはでたかよ、愛知者サマァ……?」


 ザミールが(からか)うように、ククッと呟く。


「……思うに……。」


挿絵(By みてみん)


 アイは自分よりずっと身体の大きいザミールに伝わるように、全身でソレを伝えようとする。


「……おれが思うに、もしかしたら……思想が相反するのに、お互いのことが大好きってこたぁ……もしかしたら――」


 アイは上目遣いでザミールを見上げながら言う。


「――おれが目指す“愛知者”と、お前が目指す“神なき聖者”ってのはぁ……()()()()なんじゃないかってな。」


「……どういう意味だ……?」


「……もしかしたら、神を(いただ)かずに聖者になろうとすることは……お前が言う、“ただ人間であること”は、おれが言う“ただ知を愛する”ことなんじゃないかって……そう、思うんだ。


 ……もしかしたら、()()()本当に、こころの底から()()()()()()()()()()()()――」


 ザミールとアイの瞳の色が混じり合う。


「――その人は“ただ人間であることができる”んじゃないかって……その人間は、()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()しいんじゃいかって……。」


 ザミールの瞳を、アイのサファイアの瞳が貫いた。ザミールのこころを、アイのサファイアの輝きが照らし出した。


「……なるほど、アイ、俺とお前は……()く道は(たが)うが、目的地は一緒ってことか……。

 なんだかすげぇ腑に落ちたよ……だから、お前は俺が大好きなのか……敵なのに。」


 アイが挑発したような顔で笑う。


「お前()おれ()好きなんだろうが……。調子(チョーシ)に乗んなよ?」


 ザミールがアイのちいさな鼻に人差し指を突きつける。


「やっぱ哲学者サマは偉そうで、神を信じてるヤツは高慢ちきで、気に入らねぇなぁ……クククッ……!」


 二人の流した血が、二人の間で二筋の小川のように流れる。それは次第に混ざり合い、やがて一筋の流れとなる。


 ◇◆◇


「……アイ……気がついてるか……?」


「……あぁ、おれの最強(サイキョー)無敵(ムテキ)な水の爆発で作ったクレーターの周りに、結構な人影がいやがる。」


「“最強(サイキョー)無敵(ムテキ)”?……本当に最強か?俺には全く効かなかったぞ。」


「うっせぇ……ボロボロの面ぁしてよく言いやがる。奴らは誰だ?」


「アガ・ハナシュがこの作戦のために呼び込んできたゴロツキ連中だ。……多分全員裏切りモンだろうなぁ……。」


「……なるほど。……なぁザミールこっちを向け……もうおれは顔しかマトモに動かせねぇ。」


「……?こうか?」

  

 《愛する貴方へ。(アネシス・ソメイユ)


 アイは母親が我が子を寝かしつけるように、ザミールの頬に口づけを落とした。


挿絵(By みてみん)


「……!……アイ、お前、何を。」


 ザミールの頬が赤らんで、狼狽(ろうばい)しきっている。

 アイは頬を膨らませぶっきらぼうな顔で目を逸らすが、彼の頬も同じように真っ赤になっている。


挿絵(By みてみん)


「……愛情を伝えるには、頬にキス、だろ?

 親にされたことは生まれてこのかたねぇが……お話で読んで知ってる……。」


 ザミールの身体がアイの愛情の(ヘルツ)で、かなりの速度で()えていく。アイの愛するもの(リーべー)の力のなせる技だろう。


「……アイ。」


 アイは動かない身体を無理やり(ヘルツ)の意味で吊り上げて、座り込む。


 そうして、倒れ込んだザミールに手を差し伸べる。


「……あの方たちは反政府組織(レジスタンス)のリーダーである貴女と、ミルヒシュトラーセ家のこころをもつもの(プシュケー)であるわたくしを()り合わせ、漁夫(ぎょふ)()を得て……二人とも殺してしまおうという作戦でしょう……?」


「あ、ああ……この状況をみるにおそらくな……?」


「じゃあ、わたくしと手を組みましょう。」


 アイはザミールに手を伸ばしたまま続ける。


「ああいった、(こす)いゲロクソ以下の糞滓(くそかす)野郎どもに……わたくし達がいいように討ち取られるのは――」


 アイはその天使のようにうつくしい、慈愛に満ちた微笑みと共に言った。 


「――クソみてぇにムカつきませんか?」


挿絵(By みてみん)

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