表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/197

113. アイと“人間”の出会い Ai meets the 'Human'.

『堕胎告知』がアルファポリス の

ファンタジー小説大賞にエントリー中♡


なろうで読んで頂いてる方も

ここから是非投票お願いします

alphapolis.co.jp/novel/17462652…


大賞は書籍×漫画化


投票者にも賞金あり!



7Kページビューありがとうございます!!!!!!!←7コ

 そうか。


 そうか。


 そうだったのか。


 ケダモノを殺して回っていたのは、お母様の(ヘルツ)ではなくて、俺の、俺の(ヘルツ)……俺自身のこころだったのか。


 なんだぁ。そうだったのか。お母様が起きてくださったわけではなかったんだ。少し残念だなぁと思った。


 しかしなんだか可哀想な子だな、と思った。

 自分のことを。

 父と妹、弟は殺され、母は寝たきり。

 この子は人殺し。

 それも大量虐殺者。


 なんだか可哀想だなぁ……きっと一生クソみたいな人生を送るんだろう。


 あぁ、可哀想になぁ……。


 ◇◆◇


 ――そんな(かれ)を救ったのは“人間(せいじつ)であること”だった。


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「「ガアアァアア!!!」」


 アイとザミールが自分の(ヘルツ)の全てを、自分のこころを全て曝け出して、お互いにぶつけ合う。


 それは旧友が何十年かけて、ベンチの上で育むような、カフェの一席で育てるような……お互いの部屋に遊びに行って(つむ)ぐような……そんなこころの分かち合いを刹那(せつな)のうちに行うような、そんな戦いだった。


 お互いのこころを押し付け合い、磁石のように反発し、しかしまた磁石のようにくっつきあう。


 そうして最後はアイの絶望と、ザミールの希望、アイの哀しみとザミールの哀しみが……ミルクとコーヒーのように混ざり合う。


 そうして、決して交わることのなかった2人の人生が、最高権力者の子と反政府組織(レジスタンス)のリーダーという正反対の2人の人生が……混ざり合った。


 そうして2人は轟音とともに暗闇の洞窟の地面の底へと落ちていった。


「「倒れろおおおぉおおぉ!!」」


 ザミールの砂塵が地面に溶けていき、アイの水流が上へとほどけていく。


 ……(しばら)くして、2人は産まれ堕ちたばかりの赤子のように、手を握って横になって倒れていた。


 ――しかし、2人の気分は最高だった。


 ◇◆◇


 アイがゆっくりと腕だけを使い上半身を起こしながら言う。


「なぁザミール!!……最高だぜぇ……!!

 なんだか気分がいいんだぁ……分かるかぁ!?」


 ザミールはすでに膝を立て、アイよりもずっと先に臨戦態勢に入っていた。戦闘経験の差が出ている……しかし、ザミールの顔は敵を捉えることはなく、地面を見据えていた。


「……あぁ……いい気分だ。これは、所謂(いわゆる)ブチ上がってるってやつだ……。」


「オイオイオイ!にしてはテンションひけぇじゃあねぇか?どうしたんだよ……?」


 アイは決して自分の方を見ようともしない、ザミールに向けて問いかける。アイの身体はどうやらまだ起き上がれはしないらしい。


 ザミールが静かに言葉を地面にこぼす。


「……お前も……クソみてぇな環境で人生を送ってきたんだな。」


「……?……あぁ……おれがお前の(ヘルツ)の中にお前のこころをみたように、お前も見たのか……。

 ……おれの(ごみ)糞みてぇな生き様をよ。」


 ザミールがやっとアイの方へ目を遣る。その身体を……。

 

 その華奢(きゃしゃ)で満身創痍の、ザミールに痛めつけられた……今までの人生でずっとなぶられてきたこころと身体を……。


挿絵(By みてみん)


「アイ……俺はお前の、“環境”をクソみてぇだと言ったが……お前の“生き様”をクソだとは言ってねぇよ……。

 

 ――むしろ、お前の生き様は……“うつくしい”。」


 アイの大きな瞳がさらに大きく見開かれる。


「……!……。」


 アイは何かを言おうと、いつものようにお道化(どけ)て誤魔化そうと……口を開いたが……何も言えなかった。


 表面上の見た目やミルヒシュトラーセ家であることを褒められることには慣れていたが、面と向かって“生き様”を……内面を……“こころ”を、称賛されることには慣れていなかった。


 母親ですら……いや、元母親ですらアイの生き様を、生き(ぎたな)さを責めて、アイを堕胎(だたい)したのに……。


 確かに友はそれを褒めてくれたこともあった。……だけどどこかで自分が絶対にそうだと思っていることを友達に、

 

 『あなたはそんな人じゃない。』

 

 と言ってもらえても、母親に1回言われた言葉のほうがアイの胸に刺さった、それは決して抜けないのだ……親から言われたその言葉を胸から抜こうとしても……決して抜けない……むしろ抜こうとするたびに、ただその痛みを増すばかりだった。


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)


「汚ねぇから触んじゃねぇよ、ボケがぁ……。テメェのせいで!テメェみてぇな(ゴミ)が生まれてきたせいで!!おれがぁ!!どんだけ迷惑してると思ってる?!あぁ!?やっとぉ!!生まれてはじめておれこ役に立てるチャンスを!!テメェで潰そうとしてんだぞ!!分かってんのか?!テメェが役に立つっつうから!!使える息子になるっつうからよぉ!!おれは愛してやったよなぁ!?塵屑(ゴミクズ)みてぇなテメェのこともよぉ!!その!!愛してやったその恩を!!(あだ)でやがって!!分かってんのかぁ?!あぁ!?……。

 

 ――あぁ……ほんとうに……お前みたいなゴミ、産むんじゃなかったぜ……。」


「それに、()()()()()()……?……知ってただと?!!テメェ自分がおれの子じゃねぇと知りながら!!よく今までのうのうと生きてこられたなぁ?!この穀潰(ごくつぶ)しが!!よく今まで家の資産を食い潰せたもんだ!!おれのガキじゃねえと知りながら!!」


「アイ・サクラサクラ―ノヴナ(サクラの子)・フォン・ミルヒシュトラーセよ、おれは最初からお前はみたいな、(ごみ)、産んじゃあいねぇ。もうおれはテメェの母親でもねぇし、テメェはおれの子でもねぇ。


 やっと()()()()()()()()()()()()()()()ともオサラバだ。気分いいぜぇ。」


 ◇◆◇


 アイは口を開いては閉じる。

 

 ……敵に対して何を言えばいいのか考えているうちに、“今のアイとオイディプス”が、“あの日のエレクトラとアデライーダ”と同じような状況だということに気がついた。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 それならこのままどちらかがもう一人を散華させて……相手を地獄の底まで追い落とすのだろうか、と思った。


 けどアイは自分たちの戦いを、あの日のエレクトラとアデライーダの決闘の再演(さいえん)にはしたくなかった。だから言った。


 ◇◆◇


「……ありがとう。ありがとう、ザミール。」


 ザミールは自分が、あの日のエレクトラがアデライーダにしたように痛めつけた、アイの身体をみながら問う。


「……それは、何に対してだ?

 

 ……痛めつけられ。身体も傷だらけにされ、勘違いで殺されかけて、ミルヒシュトラーセ家だからという理由だけでその身を狙われて、なぜそんなことをした俺に、そんな俺に……礼を言う?」


 アイは頭をガシガシとかきながら言う。

 

「わっかんねぇよ!おれも!なんで俺ん家を狙ってるクソ野郎にお礼を言ってるのかも、なんで友の命を狙ったカスに『ありがとう』なんて言ってんのかも!!」


「……。」


「でも!お前の全力の(ヘルツ)のなかに、お前の人生を見て、お前のこころをみて……!こんなヤツになら……こんなヤツにずっと憎んできた自分の“生き方”を褒められちまったら嬉しくなっちまったんだよ!!

 あ゙ぁ゙!?……だからありがとうっつってんだよ!なんか文句あるかぁ!?んだぁ!?」


 ザミールは(しばら)くポカンとしたあと、笑いだした。


「あははっ!なんで今度は急にキレてんだよ!クククッ切れながら感謝するヤツぁ初めてみたぜ……ケケケッ!!」


「あ゙ぁ゙!?人が感謝してやってんのに何笑ってんだ?ぶっとばすぞ!?

 ……ゲハハっ!!……いってぇ……!!」


「テメェも笑ってんじゃねぇか!……ケケケッ!

 ……まじでおもしれーヤツだぜ、アイは。」


「アイじゃなくて、“アイ様”、な。二度と間違えんなよ。」


「おう、アイアイアイ。」


「ぶっとばすぞ……!……ケケケッ。ゲホッ……!ゲホゲホ……。ぐっ!体中ボロボロで笑うといてぇんだよ、笑わせんなボケが……!クククッ……!いってぇ!!」


「お前も本気で俺をぶっ飛ばしに来てただろうが。こんな洞窟を使ったきったねぇ手まで使いやがってよぉ!」


「おれの尊敬(そんけー)するお兄様が言ってたんだよ。

 

 『自分より遥かに強い敵と戦わなければならない時は、絶対に相手の得意分野で戦うな、自分の得意分野に相手を引きずり込め。』

 

 ってなぁ……。」


「ゲアーター・エレクトラーヴナ・ミルヒシュトラーセか……やつぁ……強かったなぁ……。」


「……!……お兄様と戦って生きてんのか?

 じゃあ今度はおれが褒めてやるよ。

 ザミールくんは偉いでちゅね〜。」


「クククッ……うるせーよ、ぶっとばすぞ。」


 ◇◆◇


「なぁザミール……。」


「なんだ?」


「おれと……腹ぁ割って“対話”しねぇか……?」


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ