113. アイと“人間”の出会い Ai meets the 'Human'.
『堕胎告知』がアルファポリス の
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alphapolis.co.jp/novel/17462652…
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そうか。
そうか。
そうだったのか。
ケダモノを殺して回っていたのは、お母様の心ではなくて、俺の、俺の心……俺自身のこころだったのか。
なんだぁ。そうだったのか。お母様が起きてくださったわけではなかったんだ。少し残念だなぁと思った。
しかしなんだか可哀想な子だな、と思った。
自分のことを。
父と妹、弟は殺され、母は寝たきり。
この子は人殺し。
それも大量虐殺者。
なんだか可哀想だなぁ……きっと一生クソみたいな人生を送るんだろう。
あぁ、可哀想になぁ……。
◇◆◇
――そんな俺を救ったのは“人間であること”だった。
◇◆◇
「「ガアアァアア!!!」」
アイとザミールが自分の心の全てを、自分のこころを全て曝け出して、お互いにぶつけ合う。
それは旧友が何十年かけて、ベンチの上で育むような、カフェの一席で育てるような……お互いの部屋に遊びに行って紡ぐような……そんなこころの分かち合いを刹那のうちに行うような、そんな戦いだった。
お互いのこころを押し付け合い、磁石のように反発し、しかしまた磁石のようにくっつきあう。
そうして最後はアイの絶望と、ザミールの希望、アイの哀しみとザミールの哀しみが……ミルクとコーヒーのように混ざり合う。
そうして、決して交わることのなかった2人の人生が、最高権力者の子と反政府組織のリーダーという正反対の2人の人生が……混ざり合った。
そうして2人は轟音とともに暗闇の洞窟の地面の底へと落ちていった。
「「倒れろおおおぉおおぉ!!」」
ザミールの砂塵が地面に溶けていき、アイの水流が上へとほどけていく。
……暫くして、2人は産まれ堕ちたばかりの赤子のように、手を握って横になって倒れていた。
――しかし、2人の気分は最高だった。
◇◆◇
アイがゆっくりと腕だけを使い上半身を起こしながら言う。
「なぁザミール!!……最高だぜぇ……!!
なんだか気分がいいんだぁ……分かるかぁ!?」
ザミールはすでに膝を立て、アイよりもずっと先に臨戦態勢に入っていた。戦闘経験の差が出ている……しかし、ザミールの顔は敵を捉えることはなく、地面を見据えていた。
「……あぁ……いい気分だ。これは、所謂ブチ上がってるってやつだ……。」
「オイオイオイ!にしてはテンションひけぇじゃあねぇか?どうしたんだよ……?」
アイは決して自分の方を見ようともしない、ザミールに向けて問いかける。アイの身体はどうやらまだ起き上がれはしないらしい。
ザミールが静かに言葉を地面にこぼす。
「……お前も……クソみてぇな環境で人生を送ってきたんだな。」
「……?……あぁ……おれがお前の心の中にお前のこころをみたように、お前も見たのか……。
……おれの塵糞みてぇな生き様をよ。」
ザミールがやっとアイの方へ目を遣る。その身体を……。
その華奢で満身創痍の、ザミールに痛めつけられた……今までの人生でずっとなぶられてきたこころと身体を……。
「アイ……俺はお前の、“環境”をクソみてぇだと言ったが……お前の“生き様”をクソだとは言ってねぇよ……。
――むしろ、お前の生き様は……“うつくしい”。」
アイの大きな瞳がさらに大きく見開かれる。
「……!……。」
アイは何かを言おうと、いつものようにお道化て誤魔化そうと……口を開いたが……何も言えなかった。
表面上の見た目やミルヒシュトラーセ家であることを褒められることには慣れていたが、面と向かって“生き様”を……内面を……“こころ”を、称賛されることには慣れていなかった。
母親ですら……いや、元母親ですらアイの生き様を、生き汚さを責めて、アイを堕胎したのに……。
確かに友はそれを褒めてくれたこともあった。……だけどどこかで自分が絶対にそうだと思っていることを友達に、
『あなたはそんな人じゃない。』
と言ってもらえても、母親に1回言われた言葉のほうがアイの胸に刺さった、それは決して抜けないのだ……親から言われたその言葉を胸から抜こうとしても……決して抜けない……むしろ抜こうとするたびに、ただその痛みを増すばかりだった。
◇◆◇
「汚ねぇから触んじゃねぇよ、ボケがぁ……。テメェのせいで!テメェみてぇな塵が生まれてきたせいで!!おれがぁ!!どんだけ迷惑してると思ってる?!あぁ!?やっとぉ!!生まれてはじめておれこ役に立てるチャンスを!!テメェで潰そうとしてんだぞ!!分かってんのか?!テメェが役に立つっつうから!!使える息子になるっつうからよぉ!!おれは愛してやったよなぁ!?塵屑みてぇなテメェのこともよぉ!!その!!愛してやったその恩を!!仇でやがって!!分かってんのかぁ?!あぁ!?……。
――あぁ……ほんとうに……お前みたいなゴミ、産むんじゃなかったぜ……。」
「それに、知ってただと……?……知ってただと?!!テメェ自分がおれの子じゃねぇと知りながら!!よく今までのうのうと生きてこられたなぁ?!この穀潰しが!!よく今まで家の資産を食い潰せたもんだ!!おれのガキじゃねえと知りながら!!」
「アイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシュトラーセよ、おれは最初からお前はみたいな、塵、産んじゃあいねぇ。もうおれはテメェの母親でもねぇし、テメェはおれの子でもねぇ。
やっとテメェの気色のワリィ家族ごっこともオサラバだ。気分いいぜぇ。」
◇◆◇
アイは口を開いては閉じる。
……敵に対して何を言えばいいのか考えているうちに、“今のアイとオイディプス”が、“あの日のエレクトラとアデライーダ”と同じような状況だということに気がついた。
それならこのままどちらかがもう一人を散華させて……相手を地獄の底まで追い落とすのだろうか、と思った。
けどアイは自分たちの戦いを、あの日のエレクトラとアデライーダの決闘の再演にはしたくなかった。だから言った。
◇◆◇
「……ありがとう。ありがとう、ザミール。」
ザミールは自分が、あの日のエレクトラがアデライーダにしたように痛めつけた、アイの身体をみながら問う。
「……それは、何に対してだ?
……痛めつけられ。身体も傷だらけにされ、勘違いで殺されかけて、ミルヒシュトラーセ家だからという理由だけでその身を狙われて、なぜそんなことをした俺に、そんな俺に……礼を言う?」
アイは頭をガシガシとかきながら言う。
「わっかんねぇよ!おれも!なんで俺ん家を狙ってるクソ野郎にお礼を言ってるのかも、なんで友の命を狙ったカスに『ありがとう』なんて言ってんのかも!!」
「……。」
「でも!お前の全力の心のなかに、お前の人生を見て、お前のこころをみて……!こんなヤツになら……こんなヤツにずっと憎んできた自分の“生き方”を褒められちまったら嬉しくなっちまったんだよ!!
あ゙ぁ゙!?……だからありがとうっつってんだよ!なんか文句あるかぁ!?んだぁ!?」
ザミールは暫くポカンとしたあと、笑いだした。
「あははっ!なんで今度は急にキレてんだよ!クククッ切れながら感謝するヤツぁ初めてみたぜ……ケケケッ!!」
「あ゙ぁ゙!?人が感謝してやってんのに何笑ってんだ?ぶっとばすぞ!?
……ゲハハっ!!……いってぇ……!!」
「テメェも笑ってんじゃねぇか!……ケケケッ!
……まじでおもしれーヤツだぜ、アイは。」
「アイじゃなくて、“アイ様”、な。二度と間違えんなよ。」
「おう、アイアイアイ。」
「ぶっとばすぞ……!……ケケケッ。ゲホッ……!ゲホゲホ……。ぐっ!体中ボロボロで笑うといてぇんだよ、笑わせんなボケが……!クククッ……!いってぇ!!」
「お前も本気で俺をぶっ飛ばしに来てただろうが。こんな洞窟を使ったきったねぇ手まで使いやがってよぉ!」
「おれの尊敬するお兄様が言ってたんだよ。
『自分より遥かに強い敵と戦わなければならない時は、絶対に相手の得意分野で戦うな、自分の得意分野に相手を引きずり込め。』
ってなぁ……。」
「ゲアーター・エレクトラーヴナ・ミルヒシュトラーセか……やつぁ……強かったなぁ……。」
「……!……お兄様と戦って生きてんのか?
じゃあ今度はおれが褒めてやるよ。
ザミールくんは偉いでちゅね〜。」
「クククッ……うるせーよ、ぶっとばすぞ。」
◇◆◇
「なぁザミール……。」
「なんだ?」
「おれと……腹ぁ割って“対話”しねぇか……?」




