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111. 人間は便器にこびりついた糞だ Human beings are like turds caught in toilet bowls.

※第一章を構成し直して、少し加筆修正しました!!

 挿絵もたくさん追加しました!!!

 良ければ是非また読んでやってください


『堕胎告知』がアルファポリス の

ファンタジー小説大賞にエントリー中♡


なろうで読んで頂いてる方も

ここから是非投票お願いします

alphapolis.co.jp/novel/17462652…


大賞は書籍×漫画化


投票者にも賞金あり!

 アデライーダはみた、エレクトラの瞳のなかに、エレクトラの(ヘルツ)を……エレクトラの“こころ”を。そこには差別思想など一欠片もなかった。


「どう……いうこと……!?なんで、じゃあなんで貴女は……!?」


 エレクトラが民衆(ごみ)をみるような瞳で、地面に這う蟻をみる。それは蝉の死体に群がっていた。


「……どいつもこいつも勘違いしてるが、おれは“差別主義者”じゃない、性別なんぞで相手を下に見るのは馬鹿らしいとさえ思っている。


 だって性別(そんなの)は自分じゃあ選べねぇし、それぞれの性別に……男も女も、人間体(アニマ)獣神体(アニムス)もそれぞれいいとこもありゃあ……悪いところもある。


 ただ違うだけだ……そこに上下はねぇ……。」


「……!?……じゃあなんで貴女は……。」


「差別主義を民衆(ばかども)に広めたかって?差別発言を繰り返すかって……?


 そうだなぁ……オマエには秘密を教えてやろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それを利用しているだけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()――」


 蟻が馬鹿みたいに蝉の死体に群がっている。


「――その方が、“差別”あるほうが、()()便()()()()()()

 馬鹿な民草を治めるにはな――。」


 ――哀しいかなエレクトはその実、()()()()()()()()()()()()()。 


 ◇◆◇


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 エレクトラはむしろアイと近いような考えを持っていた。つまり、獣神体(アニムス)人間体(アニマ)、男と女……それにより産まれる差異は、単なる違いであって、優劣ではないという考えだ。


 エレクトラが、“差別思想”を地獄(パンドラ)の文献のなかに見い出した時、彼女は決して


 『これは正しい……!!

 この思想が世界の真理だ!!』

 

 とは思わなかった。そのとき彼女が考えたのは、

 

 『これは使える……!

 ()鹿()()鹿()()()()()()()……阿呆な民衆すぐにこれを“不変の真理”だと()()()するだろう……!!』


 だった。


 そうしてエレクトラは決して“差別主義者”にはならずに、周りを“差別思想”に染め上げることに成功したのだった。彼女が見ていたのは、ただその利便性(りべんせい)だけだった。


 ◇◆◇


「……貴女は……自分が……信じてもいない教義(ドグマ)をよくもまぁ……他人に……。」


「別にいいだろぉ?


 公王派のチグ教会の奴らだってそうだ。

 『誰もが神を信じるべきだ〜』

 なんて(のたま)ってるくせに、いざ自分の命が危ないって場面になると、神を捨てて、自分の命優先する人間がどれだけいると思う?


 聖書のイエス・キリストの弟子は?

 ユダばかりが裏切り者の代名詞とされているが、自分の身に危険が迫ったときはあの一番弟子のペトロでさえ裏切ったんだ!

 それどころか12人の使徒全員が奴を裏切ったんだぜ?


 おれが首に(ヘルツ)の刃を当ててやったら?どうなる?御高説を(のたま)ってる聖職者のほとんどが

 

 『神を捨てるから、“回心(かいしん)”するから命だけは助けてくれ。』

 

 って泣きついてくると思うぜぇ?


 お前も夫が差別されるってなったら直ぐに、おれへの“忠実(ロイヤル)さ”を捨てたわけだしな。人間そんなもんなんだよ。」


挿絵(By みてみん)


「それは……。」


 ◇◆◇


「……それでぇ?どうする?

 おれぁお前を気に入ってる、つえぇからな。今この場で、今までの叛逆(はんぎゃく)行為の全てを()びるなら、また使ってやるが……どうする?()()()()()()()()()()()()()


 そうすりゃあお前の“こころ”は助けてやる。“散華(さんげ)”はさせないでやるよ。お前にも護るべき夫とガキどもがいるだろう……?」


 “砂神”アデライーダは毅然(きぜん)としてかえす。


「それで何?貴女の差別政策に、貴女が地獄(パンドラ)(けが)れをこの文学界(リテラチュア)に持ち込む手助けをしろって?

 多くの革命軍の仲間を見捨てて?お笑いね。

 

 私は地球人(ごみくず)野郎には手を貸さないわ。それが私の信念への忠実さ。

 

 ――それが私にとっての“ロイヤル”よ。」


挿絵(By みてみん)


 エレクトラは意外にも少し残念そうに、言葉をかける。夫を護ろうと誓った者同士、同情するところがあったのかも知れない。


「ほんとうにそれでいいのか?

 お前が獣神体(アニムス)なら、《命を賭してでも護る》と誓った夫の為に、自分の信念を捨ててでも、泥水をすすってでも……どんなに今の革命軍の仲間に罵声(ばせい)を浴びせられても……生き抜くべきじゃあないか?


 生きてさえいりゃあ夫も子も護れる。獣神体(アニムス)にゃあプライドを捨ててでも誰かを護らなきゃあならねぇ時があるだろう?」


「そうかもね……でも、私の信念を裏切ったら、私の肉体は生き永らえても、私のこころが死ぬの。

 

 ……確かに、夫や子供たちにつらい思いをさせるのは心残りよ……でも、革命軍の仲間を裏切ることは絶対にできない。

 

 ……心者(ヘルツァー)ならわかるでしょ?

 『自分のこころが命じたことには――』」


「『――決して逆らえない。』……か。残念だぜ。アデライーダ、お前は良き戦友(とも)で、良き部下だった。」


「貴女もね……。

 地獄(パンドラ)の深淵にのまれてしまう前の貴女はほんとうにいい戦士で、妻で……私の……こころからの友だったわ。

 ……“エレクトラちゃん”……。」


 ◇◆◇


「……そうかよ。おれたちの仲だ。最期の言葉ぐらい聞いてやるよ。何か言い残すことは?」


「……私には叶わなかったけど、貴女には敵わなかったけど……地獄(パンドラ)に触れたものはいつか必ず身を滅ぼすわ。


 それほど地球人(あくま)の業は深いの。

 ここでそれを食い止められなかったのは、ほんとうに心残りだけど……。


 ……いつか必ず、“貴女を倒す者”が……現れる。


 その者はきっと貴女が地獄(パンドラ)のように染め上げたこの国を、地獄(パンドラ)の常識を疑い、世界のすべてを疑い、疑い、疑い、疑い続け、“真理を求むる者”よ。


 それは……()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()……。


 ――でもいつか必ずその者は現れる。


 せいぜい気をつけることね。この文学界(リテラチュア)地球(あく)が栄える事は決してないのだから……。」


 エレクトラは倒れ込んだアデライーダの胸に、(ヘルツ)を纏った手を当てる。


「……そうかよ。……じゃあな、誇り高き“砂神アデライーダ”……今は()き“我が友”よ……。」


 エレクトラの手が熱を増す。


 《……火焔の(プラーミア)……葬送(エンテラル)……。》


 それはできるだけ相手に痛みを与えずに殺す為に、エレクトラが編み出した技だった。

 ……アデライーダのために言った、

 かつての友のために作った“心を込めた言葉”だった。

 

 それはやさしく……とても穏やかに、アデライーダの(ヘルツ)を貫き、彼女を散華させた。


挿絵(By みてみん)


 ◇◆◇


 エレクトラは散華させたアデライーダを横抱きにしたまま、確かな足取りで白い森(ヴァイス・ヴァルト)から、エレクトラが作らせた、地獄(パンドラ)の処刑場を真似た磔刑台(たっけいだい)のある街の広場へと歩き出した。


 散華し、意識とこころを(うしな)ったアデライーダを抱え街ゆく彼女をみて、その勝敗を悟った民衆は、絶望するものと、安心感を抱くものに別れた。


 砂神アデライーダがこの国を変えてくれると期待していた人間体(アニマ)や、家族に人間体(アニマ)を持つ者たちは絶望し、人間体(アニマ)差別に精を出していた者たちは歓喜した。


 そして磔刑場の上で立ち止まったエレクトラに、口々に騒ぎ立てる。


「殺せ!!」


「その裏切り者を!!」


劣等種(アニマ)(くみ)する者を!!」


「敗者には死を!!」


「私たちに“殺人”というものを見せて!」


「「「殺せ!殺せ!!殺せ!!!」」」


 地獄(パンドラ)瘴気(しょうき)に当てられて、地獄(パンドラ)地球人(あくま)のようになってしまったパンドラ公国の民が憎悪と悪意を持って(わめ)き立てる。


 押し黙っていたエレクトラが、悪意の喧騒を切り裂くような声で、言った。


《……黙れ。》


 その声は決しての大きくはなかったが、民衆を黙らせる獣神体(アニムス)(プレッシャー)があった。


「この女、“砂神アデライーダ”は勇敢に戦った……本物の戦士だ。

 ……おれは此奴(こいつ)を散華させたが……殺す気はねぇ。

 

 ただ……叛逆者(はんぎゃくしゃ)になんの罰もなしじゃあ示しがつかねぇ。

 そこで、此奴(こいつ)の家族もろとも、人間体(アニマ)収容所送りだ。」


「な、なぜ敵に情けを――」


挿絵(By みてみん)


「――異論がある奴はぁ!?居るかぁ!?」


 最高権力者であるエレクトラ辺境伯爵(へんきょうはくしゃく)にそこまで言われては、民衆は押し黙るしか無かった。


 ◇◆◇


 そうして、散華して、寝たきりで最低限の反応しか示さない“こころを(うしな)った”人間となったアデライーダは彼女の夫に引き渡され、そのときまだ幼子だったザミールと共にロイヤル王国との国境付近の人間体(アニマ)収容所送りとなった。


 ……その収容所から、ザミール・カラマードの凄惨な生が始まった――。

※9/13-9/15の連休は

《毎日2話》更新します!!

毎日9時と18時更新です。

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