110. 哀しい哉、差別主義者ではなかった。 Tragically, She is Not a Racist.
『堕胎告知』がアルファポリス の
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alphapolis.co.jp/novel/17462652…
大賞は書籍×漫画化
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「……貴女……そこまで堕ちたのね……!
いい?……地獄の深淵に近づくということは、自分自身もその深さに飲み込まれる危険を常に孕んでいるのよ!!
しかも、“原罪”は一度知ってしまったらさ二度と文学界の……“無垢”な存在には戻れない……!!」
「あーあーあー、羽虫がブンブンとうるせぇなぁ……イライラしてくるぜぇ……この人間的な強さを手に入れたおれにもう敵はねぇ……!!
だってこんなクソみてぇな気持ち、ゴミみてぇな心は……地球人にしか生み出せねぇ……。
地球人は便器にこびりついた糞と同じだ。
生まれたときから、親の同情を得るために泣き、きょうだいがいれば親の愛情独り占めする為に蹴落とし、気に入らねぇやつがいれば徒党を組んで虐める。
こんな心があるかぁ?
……こんなに強いこころがよぉ……!!」
◇◆◇
「それは決して強さじゃないわ!!
そんなものが強さであっていいはずがない!!
ほんとうに強い人間は!
ほんとうに満たされたこころは!!
決して他者を蹴落としてちっぽけな自尊心を満たそうなんて思わないわ!!
ほんとうに強い人間は、文学界の人間のように、弱者にやさしく手を差し伸べられる人間よ!!
地球人みたいに弱者とあらば、石を投げるような人間たちとは違う!!!
文学界のやさしい人間は、私たちは決して、地球にいるような醜い人間にはなってはいけないの!!
まだ間に合う!!自分から地球人のような下劣な人間に堕ちるなんて、この清廉な文学界を地獄と同じように……地球と同じように変える気!!?
貴女、気は確かなの!?
一度知ってしまったら、世界が“原罪”を知ってしまったら、もう二度と元の文学界には戻せないのよ!?」
エレクトラは文学界の天球へ顔を向けたまま、その瞳だけをギョロリとアデライーダの方へ向ける。
――まるで地球人でもみるように。
◇◆◇
「あぁ……世界がどうとか知ったこっちゃねぇんだよ……こんなにクソみてぇに強い心を得られるんなら、地球人みてぇにクソみてぇなこころを持ってもいいぜぇ……。
アデライーダ……オマエ、地獄人が……地球人がどれだけ糞か知らねぇだろ?
体感してねぇんだからなぁ……彼奴らは……クククッ……やべぇぜ?
まじで終わってる塵しかいねぇ……しかも、地球人のガキ共もそうだってんだから終わってる。文字通り地獄の“餓鬼”……だぜ彼奴らぁよぉ……。」
アデライーダが砂塵の竜巻を起こしながら問う。
「……私よりずっと、彼らの醜悪さを知っていても……それでも自ら地球人に身を堕とすというの……?
何が貴女を、貴女のこころをそこまで――」
エレクトラが掌の中で爆炎を起こしながら言う。
「――あぁ、おれぁ“妻”だ。妻っていうのは、命をかけても、どんなに身を削っても“夫”を愛し護るもんだ。お前だって結婚した時にそう誓っただろう?地球人どもの薄っぺらい誓いじゃねぇ、命をかけた本物の誓いだ。
やつらの塵糞さときたらぁ、“婚姻の誓い”すら破るやつがいるんだぜ?
文学界じゃあありえねぇ……それも一人二人じゃねぇ沢山いる、奴らは《生涯ただ一人の伴侶を愛する》という誓いをたてといてホイホイそれを破りやがる……誓いの意味がわかっちゃいねぇみてぇだ。」
◇◆◇
「そうよ。私も誓った。貴女も見ていたでしょう?私たちの結婚式で、獣神体の私が人間体の夫を生涯を賭けて護ると誓ったあの日を――。
――だから、私はここに居る。ここに立っている。貴女に立ち向かっている。
どうして?エレクトラ……。以前白い森で戦った貴女には信念があった。だから、負けたら軍門に下ってもいいと思えたの。
でも今の貴女は、まるで何かに取り憑かれたよう。前の貴女とは別人だわ。
やさしく強い貴女は何処に行ったの?
……貴女は……ほんとうに、私の知る“エレクトラちゃん”なの?」
「……たりめぇだろ?何処に目ぇついてやがる?
おれはアガメムノーンが娘、
エレクトラ・アガメムノーンナ・フォン・ミルヒシュトラーセだ。
信念ならある。
《生涯を賭けて夫を護る》という信念がな。」
アデライーダの歯がギリギリと音を立てる。
「そこまで夫を愛していて、どうして私の気持ちがわからない!?
貴女がノーマルの夫を護りたいと願うのと同じように、私だって人間体の夫を護りたいの!!
だから主君に反旗まで翻して、革命軍なんてものも作った!!
全ては愛する夫を守るためよ!!」
エレクトラはほんとうの阿呆を見る瞳で、眼の前の害虫を見下す。
「だから、最初に言ったよなぁ?何回も言ったよなぁ?お前がこっちにつくなら、革命軍の馬鹿共を見捨てて此方の陣営に与するのなら、お前の夫とお前の家族は“例外的に”獣神体のように特権的地位を与えようと……それを蹴っといてなんだ?
今度はお涙頂戴か?あ゙ぁ゙……!?
おれがお前を手に入れる為にどれだけ手を回したと思ってる!?どれだけ譲歩してやったと思ってる!?
かけてやった恩も忘れて、仇で返すなんて、それがお前のいう忠実かぁ!?あ゙ぁ゙!?」
アデライーダはほとほと呆れ果てた、疲れた老人のような瞳でかつての戦友を見ていた。
「それで?私がその条件をのんで、貴女と手を組んだら、残された革命軍はどうなる?
……見捨てられた人間体たちは?……国が見捨てた棄民を!!
……さらに苦しめる為に与するのが私の忠実だと思うのか!?
……国が民を見捨てるのなら……民にだって国を見限る権利があるだろう!?
えぇ!?どうなんだ!?……エレクトラぁ!!」
◇◆◇
エレクトラが吐き捨てる。
「あぁ、もう話し終わったか?“人間体野郎ども”に脳を焼かれちまった馬鹿と“対話”をするほど暇じゃあねぇんだよ……辺境伯爵ってのはなぁ……。」
「――!……こちらこそ、“地球人野郎”どもに洗脳された阿呆と話しても無駄ね……。」
アデライーダの砂塵とエレクトラの爆炎が勢いを増す。
「……黙れ。この――」
「……黙りなさい。この――」
“砂神”と“雷神”が激突し、一瞬……音が止む――
――しかし、その静寂はほんの刹那だった――
「「――“ニンゲン”野郎がぁ!!」」
◇◆◇
結果だけ見れば、“砂神アデライーダ”と“雷神エレクトラ”の決闘はエレクトラの圧勝だった。
アデライーダは全身焼け焦げて、斃れ、息も絶え絶えになっていた。地獄産の醜く強い心に対応できなかったのだ。
「……エレクトラ……貴女……貴女が、“ミルヒシュトラーセの剣”を手放してまで、手に入れたのは……諸刃の剣よ。
いつか必ず貴女自身の、貴女の大切な人の身を焼き尽くすわ……。」
「負け犬は黙ってろ……。おれはこの地球人の悪意を飼いならしてみせる。その証拠に、おれは差別思想に支配されていない。」
「何を……貴女はもう生粋の――」
アデライーダはみた、エレクトラの瞳のなかに、エレクトラの心を……エレクトラの“こころ”を。そこには差別思想など一欠片もなかった。
「どう……いうこと……!?なんで、じゃあなんで貴女は……!?」
エレクトラが民衆をみるような瞳で、地面に這う蟻をみる。それは蝉の死体に群がっていた。
「……どいつもこいつも勘違いしてるが、おれは“差別主義者”じゃない、性別なんぞで相手を下に見るのは馬鹿らしいとさえ思っている。
だって性別は自分じゃあ選べねぇし、それぞれの性別に……男も女も、人間体も獣神体もそれぞれいいとこもありゃあ……悪いところもある。
ただ違うだけだ……そこに上下はねぇ……。」
「……!?……じゃあなんで貴女は……。」
「差別主義を民衆に広めたかって?
差別発言を繰り返すかって……?
そうだなぁ……オマエには秘密を教えてやろう。実のところおれは差別主義者じゃない。
それを利用しているだけだ。おれは心底性差別なんざどうでもいい――」
蟻が馬鹿みたいに我先にと蝉の死体に群がっている。
「――その方が、“差別”あるほうが、ただ便利だからだ。
馬鹿な民草を治めるにはな――。」
――哀しいかなエレクトはその実、全く差別主義者ではなかった。
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