101. こころとこころ Heart and Mind
アルファポリス
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「俺には可愛い部下がつけてくれた名がある……。
――テメェみてぇな“地球人野郎”には名乗る名はねぇがな……。」
「そうかよ……おれにもオマエみたいな……。
――“人間野郎”に名乗る名はねぇよ……。」
「そうかよ……。」
お互いが左腕を前に伸ばし、心を敵に向ける。
「「……じゃあ、まぁ――」」
……文学界の夜の闇の底で。
「「――殺す!!!」」
◇◆◇
アイの硝子が砕け散り、鋭利な刃となりザミールに向かって直線的に襲いかかる。同時にザミールの黒い砂が弾けて、アイとザミールを包み込み、全方位からアイに向かって集まっていく。
ザミールはただ仁王立ちして、伸ばしていた左腕を胸の前で握り込む。すると彼の前に砂塵の壁が現れ、アイの攻撃はいとも容易く防がれてしまった。
「……こんなものか。」
アイは伸ばしていた左手を地面に叩きつけ、自分を取り囲むように、十本の水の柱を顕現させる。それはアイに迫っていた黒い砂の勢いをいくらかは殺したが、防ぎきれなかったため、アイは急いで全身に水を纏う。
「ぐぁ……!!」
それでも砂塵はその水の鎧すら突き抜けて、アイに衝撃を与えた。アイはたまらず跪く。
「……どうやら、情報通りだな。オマエは膨大な心を持つこころをもつものかもしれんが……まだまだ鍛錬不足の一年生の糞餓鬼だ……。
……今すぐテメェが殺した俺の部下に詫び入れて、心を差し出せ……弱者をいたぶる趣味はねぇ……。
……オマエと違って俺にはな……!」
アイの瞳が紅く、跪いてたれた髪の隙間から光っている。
「……あ゙ぁ゙!?……敵が自分より強かったら尻尾巻いて逃げ出すのか……?確かにおれぁテメェと違ってまだ“心を込めた言葉”も言えねぇよ……。
だがな……少なくともおれにとって“敵がおれの何倍も強い相手であること”は諦める理由にはなんねぇよ……ボケが。
……オマエと違っておれにはなぁ……!!
ソイツがおれの愛する友を殺そうとしてるやつなら尚更ありえねぇ……自分の命を捨ててでも護りたい相手、それが“友達”ってもんだろうが……!!」
ザミールは苛立ったように、顔に手を当ててワナワナとそれを動かす。
「俺にとっちゃぁ……それが俺の“部下”なんだよ……!!テメェらがいたぶり殺した……!!」
「……あ゙ぁ゙……?何を言って――」
それは突然だった――!!
アイは大地と天上がグルグルと入れ替わるのを感じた。次に感じたのは痛み、そして砂が肌を切る感触だった。視界のすべてが地面の黄土色に染まる。
「がッ……!?……!!」
……どうやら殴り飛ばされて地面を転がったらしい。反射的に心纏った右手で顔を、左腕で心臓を守ったが、そんなのはお構い無しにぶっ飛ばされたらしい。
◇◆◇
……!……疾い、疾すぎる……!
反射的に庇った胸以外を殴られていたら終わっていた。
……?熱い、心臓を庇った左腕が、熱い……いや、これは――
「――いっでぇええええ!!あつい……!!
クソがぁ……!!」
左腕が完全に折れてやがる……それも粉々に……腕があがらねぇ……!!
「どうした……?情報によるとテメェは愛するものの筈だろう?
さっさと癒したらどうだ?癒しながら闘えよ。
……テメェら権力者のボンボンどもは自分を癒しながら闘える“ナルシシスト”だろ?どうせよぉ……!!スラムの俺等と違ってよぉ……!
……さぞ愛されて、自分を愛せるぐらいに愛されて、金もかけられて育てられてんだろ?ミルヒシュトラーセ様はよぉ!!」
「金だの地位だの……グチグチ五月蝿ぇなぁ……!!テメェらはそれしか言えねぇのかよ……。」
……聖別の儀の時のはるひを思い出す……。相手は憎むべき相手なのに、友を殺そうとする輩なのに……どうしてはるひの面影をみる……?
おれぁ何を見てる?此奴に……いや、世界に……?
「こちとらぁ……こんな傷癒すまでもなくテメェをブチ殺せんだよ……!黙ってろボケが……。」
先刻とはおれと彼奴の位置が入れ替わった……!クソ……腕が痛すぎて頭が回らねぇ……。位置が入れ替わった……だから……?左腕がピクリとも動かせねぇ……。
――そうか!先刻と違って俺の後ろには……!!
その場でチェルせんせいがやったように、クルリと回る左腕がクソいてぇが知ったことじゃあねぇ……。口から自然とことばがでた。
――“心を込めた言葉”が――!
《……“|おれの後ろに夜はこない《アモール・ミュール》”……!!》
◇◆◇
……!?……アイ・ミルヒシュトラーセは、心を込めた言葉が言えたのか……?いや、おそらく……今初めて……。友を護るために……?
アイ・ミルヒシュトラーセの後ろからバァンバァンと水柱が何本も直線を描くように現れる。ゴゴゴと轟音を立てて水の柱が連なり、巨大な水の壁が現れる。
「この壁は善良な人間たちしか通れない。
この水の壁は“おれが愛する者”以外の奴らには、決しての通れない。
――つまり、おれたちは通れない。
……おれもオマエも決して通れはしない。」
自分の出した水の心で自分を傷つける……?先刻の左腕の傷も愛するもののハズなのに治さねぇ……。どういうことだ……?
いや、分かっている……愛するもののクセに自分を癒せずに、自分の感情で自分を傷つける。心で自傷行為ができる……。
つまり此奴は自分のことを憎んでいるのか……?状況からそうとしか思えねぇが……そうと分かるが、理解らねぇ……。
権力者の子に生まれて、愛されて育って……金持ちのくせに自分が嫌いなんてあり得るのか……?
思案しているとアイ・ミルヒシュトラーセが口を開く。
「ゲホっ……これでおれをぶち殺すまでは絶対におれの友を害せねぇなぁ……?
ハァハァ……まぁ……死ぬのは……テメェ……だがな……。」
左手をやられて初めて心の込もった言葉を言って、完全に憔悴している。
だのに友の為に心を使う?心を砕く?自分が助かるためじゃなくて……?
先刻だってそうだ……友のために、俺を引き付ける為にここまで逃げてきた。
――あぁ……腹が立つ。じゃあなんで……。そんなに友のことを思えるクセに……戦士には敬意を払えない?……殺すのはいい、こっちから仕掛けたし……殺すのも一つの敬意の払い方だ……。
だが……なんでこんなにも友を思えるやつが死体を弄べる?命を賭して戦った敵を辱められる……?
なんで友に向けるその情の一欠片でも、敵の亡骸にかけられねぇ?
「……あぁ……許せねぇ……!!」
俺はそのことが許せない……!!
◇◆◇
「テメェ……なんでそんな事が出来るクセに……!!俺の部下を――」
「――許せねぇのはこっちの方だボケが。」
ザミール・カマラード……ミルヒシュトラーセ家を憎む残忍で凶悪な指名手配犯と聞いていたが……先刻からずっと部下部下部下……。
なんでそんなに仲間は大事に出来るクセに……まだ一年生の士官学生を狙って……ガキが寝てる建物をを不意打ちで燃やしたりできる……?
――なんでラアルさまのようなこころのうつくしい人を狙える?
……クレくんのような……本当にやさしい人を殺そうとする?
おれはそのことが許せない……!!
◇◆◇
「……テメェらミルヒシュトラーセ家の人間が差別し、虐げ、拷問し、虐殺してきた……貧しき人々に詫びながら……死ね。」
「……うるせぇよ。テメェら反政府組織が燃やし、殺し、いたぶってきた罪のない人々に……おれのダチに、詫びながら……死ねや――」
アイは相手を黒く燃える瞳で睨みながら言う。
「――“砂漠の黒死病”さんよぉ……!!」
体制側が勝手につけた蔑称で呼ばれたザミールも、瞳を黒く染めながら言う。
「……黙れ……差別主義者が……!!」
「今ならテメェへの憎しみで幾らでも心の込もった言葉が言えそうだぜぇ……これで終わらせてやる――」
ポツポツと音がした。何かが夜の闇のなかで暗い地面をさらに黒く染め上げていく。
……アイが言葉を天のように降らせる。
「――《黒い雨》――。」




