83. 君の瞳はアイしてる Can't Take My Eyes Off Ai
アイちゃん……私以外の前でも、笑顔以外の表情を見せていたの?
それに“泣き顔”なんて、私も見たことがない。あの時過去を打ち明けてくれた時だって……笑い合っただけだった。
いつも
『アルちゃんは“わたくしのいちばんのお友達”だよ!』
って言ってくれるのに……?
なんで……なんで私じゃダメで、あの人ならいいの?
◇◆◇
「貴女が私の世界を塗り替えたの!何から何までね!
朝鏡の前にいる時間が長くなったし、前髪を気にする回数だって増えた。貴女がいると思うと、学校に行く足取りもなんだかフワフワするし!
お昼に貴女に会いにいく時なんて、ドキドキしてなんにも考えられなくなる。貴女と同じクラスだったら、隣の席に貴女が居たらって何度も考えちゃうし!
夜ベットの中に入っても貴女のことばかり!その日見たあなたの笑顔だったり、ちょっとふくれた顔だったり!明日も貴女に会えるから、早く明日が来ないかなって眠れなくなったり!寝不足はお肌に悪いのよ!?
全部全部貴女のおかげなんだから!」
「はいっ!?ご、ごめんなさい……?」
◇◆◇
「だから、全部、全部……貴女のせいよ。貴女のせいでこっちは毎日大変なんだから。
……だから……ありがとう。」
「ごめっ……えっ……?」
わたしはきっと、愛おしい我が子を眺めるように、最愛のお母様を眺めるような瞳でアイをみているのだろう。それが好きな娘を見る瞳だってことにまだこの娘が気づかなくてもいい。
きっとアイは恋愛感情なんて育てる暇もない人生を送ってきたのだろう。まだ情緒が育っていないのだろう。赤子のようなものだ。親の愛を知らないから、その先の恋愛に進めないのだろう。
そんな子に恋愛感情をぶつけるなんて暴力もいいところだ。
……だけども……我慢できない。私の中の獣神体が獲物を逃がすなと叫んでいる。
「なんで……ラアルさまがお礼を……?」
心底不思議でならないというような表情で問うてくる。
……あぁ、そんな顔もかわいいと思ってしまう私は――
「知らないわよっ!
全部全部アイが悪いんだから……!
友達との決別で翳っていた私の人生に、彩りを与えたのも。
私に貴女を好きにさせたのも!」
アイのあごに優しく手を添えて、眼をあわせる。アイの綺麗なサファイアの瞳がらわたくしのルビーの瞳と合わさって、うつくしいアメジスト色になる。
――あぁ、きっと私たちの子供はアメジストの眼をしているのだろう。
でも、やっぱり“獣神体同士だから、子供は難しい”かしら?
いやアイさえいればそんなことどうでも――
「“アイが悪いんだから”――」
そうして、アイの瞳に恋をして、キスをしようした――
◇◆◇
「――あの?ラアルさま?」
「な、なに?」
「あの、皆を助けないとっ。」
「『世界は貴女と2人だけ』
2本の薔薇の花言葉よ。
今は私たちだけで――」
キスをしようと――
「でもっ!炎で分断されたみんなが心配ですっ!それにかげろーやはるひくんもっ!」
「あら、私と2人の時に他の獣神体の名を出すの?
これはお仕置きが必要ね――」
キスを――
「おいテメェ!なに緊急事態に盛ってんだよ王女さまがよぉ!!」
「とりあえず、アイ様から離れて頂けますか?ファンタジア王女殿下。」
春日と陽炎の声がする。
そんなことは気にせずに。
今度こそキス――
「「おいゴラァ!!」」
◇◆◇
「ハァ~、貴方たちに空気を読むという能力はないのかしら?せっかくいいところだったのに。」
「いや、アンタが空気読めよ。この焼け野原で何やってんだよ。」
はるひが呆れたように言う。
「そうですよ。せっかく我々が自身のクラスを引き連れて命からがら逃げ延びたというのに……まさか王女殿下がそのような行為に及ぼうとしているとは。」
かげろうもチクチクと嫌味を言う。
「と言っても貴方たちねぇ……王女が無闇に動いて、怪我でもしたり、“こころを亡った”りしたら大問題でしょ?ここに居るのがいいと思ったのよ。」
「でも盛る必要はねぇですよね?」
「でもキスしようとする必要はないですよね?」
「うるっさいわねぇ。取り敢えずこの炎の向こうに怪我をした生徒たちを集めているから、その子達と合流して――」
「かげろうっ!」
アイが突然かげろうに飛びつく。かげろうは驚いたものの軽々とそれを受け止める。
「アイ様!……怪我をしておりませんか!?」
「かげろう!かげろ~!」
「はい、ここに。もう安心ですよ。俺が居ますからね。」
「ずっとこわかったの!戦ってるときも!みんなを逃がしてるときも!いつもおかあさまのフリをして、仮面をかぶって、いっぱい喋ってこわいのをごまかしてたけどっ!ほんとうは、ほんとうにこわかったの!」
ぎゅううぅとはるひには見向きもせずに、かげろうにすがりつくアイ。
かげろうは歓喜した。やはりアイの一番の弟子は自分だと、一番の輩は僕だと。
アイを抱きかかえたまま、かげろうは言う。
「大丈夫ですよアイ様はこのかげろう……陽炎陽炎が死が二人を分かつまで必ずお守りします。」
「うん……!うんっ……!」
「アイ様は……泣いておられるのですか?ちいさい頃から俺を伴としてくていますが、かなしそうな顔は見たことはありますが、泣き顔は初めてみました。」
「なんだか、ラアルさまに会えて、今まで戦ってた時に誤魔化してたものがでてきちゃったみたい……。
失望した……?
……きらいに、なった……?」
アイが不安そうに上目遣いで見遣る。
「ありえません!俺がアイさまを嫌うなどと!それは天地がひっくり返るようなものです!それに――」
「チッ――」
ビクッとアイの身体が震える。身体のすべてがその恐怖を覚えているからだ。
◇◆◇
はるひがニコニコしながらアイに話しかける。
「アイちゃ~ん?私は~?どうでもよかった?心配もしなかった?そうだよねぇだって私も居たのにかげろうしか目に映ってなかったもんねぇ?
それに、その前はそこのオウジョサマといちゃつくのに精一杯だったみたいだし?」
かげろうはアイの身体が強張るのを感じた。アイはそのまま離れてはるひのほうへ行ってしまう。
「違いますっ!はるひくんのこともしんぱいでっ!」
「――それに、アイちゃんの泣き顔を見ていいのは私だけだったはずだよねぇ?いろんなヤツに尻尾を振って……教育が足りなかったのかなぁ?」
「違いま――」
はるひがアイを抱えあげ、耳元でちいさく囁く。
「それに、私たち番だよね?それをこんなに他の獣神体の匂いをプンプンさせて、アイくんは自分が人間体だってバラしたいのかな?」
「ちっ……違います。ごめんなさい。どうか秘密に――」
「うんうん、そうだよね?言いつけを守れるいい子には私はやさしいからね?でももし破ったら……かしこ~いアイくんになら分かるよね?」
「はい……。」
◇◆◇
かげろうの部下たちに怪我をした生徒たちの手当てや、警護をさせつつ話し合う。
「で?どうする?」
はるひが状況を整理しようとする。
「……アイちゃん……。」
それは光を切り裂くような、闇を切り裂くような、そんな声だった。
アイは驚嘆する。安全な場所に残してきた友が危険な場所に戻ってきたからだ。
「アルちゃん!?動いて大丈夫なの!?なんで戻ってきちゃったの!!あそこなら安全だったのに!!イダくん!!なんでアルちゃんを――」
アルタークの後ろにいたユスカリオテのイダが答える。
「申し訳ありません。ですが、この方がどうしても戻ると言って聞かなくて、ですが誓いは破っていません。怪我もさせていませんし。」
「だけどっ!」
「アイ……ちゃん。」
アイは雨が降ったあとの土のように深い、こんなに黒いアルタークの瞳を見たことがなかったので、狼狽した。
「アル、ちゃん……?どうしたの?
何があったの?
何をそんなに――」
今後は障害とその手続きと仕事が収まるまで、少しの投稿頻度が落ちます。
すみません。
ただ、必ず最低でも週1回以上は投稿します。
できるだけ早く毎日更新に戻せるように療育がんばります。




