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70. 月に吠える、2人で独りの病い犬。 Howling at the Two Moons.

〇今までのお話の全てに挿絵を付け終わりました。

一番はじめの前書きから現在のお話まで、“既に挿絵が付いていた話も”、挿絵の数を増やしたり変えたりしています。

これからの更新にも全て付けていく予定です。

※挿し絵が見たくない方は設定で非表示にできます。


〇前書きと第一章の間に、《最終章. アイとしあわせな死》を追加しました。


●2300PVほんとうに、ほんとうにありがとうございます。

最近毎日読んでくださる方の数が増えて、感謝しかないです。

励みにして頑張ります。

ほんとうに、こころから、ありがとうございます。

 でもどうやって……それも俺が気づかないレベルで――!!

 

 なんの(ヘルツ)だ――!?


 ◇◆◇


 クレジェンテが静かに言った。


「――どうやら、僕だけじゃなく、貴方も怯えているようですね……?」


 ◇◆◇


 どういうことだ……?

 この生徒の(ヘルツ)も戦法もわからない……だが、その条件は同じ(はず)だ。なのにこの方は俺の対応できて、俺はできない。戦闘経験や精神(メンタル)(ハート)を考慮しても俺の方が遥かに有利だったはず……なのに、不利な状況に追い込まれている……これはなんて――


 ――面白い……!!


「あぁ、“(たの)しい”!!

 闘いとはこうではなくては!

 貴方!面白い!

 その精神状態でここまで!!

 もっとです!

 もっともっと“楽しませて”下さい!!」


 神憑(かみがか)りになったように叫んでしまう。でもこの高揚(こうよう)感が抑えられない!


「……悪いけど、無理だ。僕は“心が狭い”からな……。……()()()()よなぁ……。

 虐め(イジ)られた人間が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なのに、虐め(イジッ)た側は()()()()()()()()()()()()()()……!!

 あぁ、腹が立つ……!!」


 ――なるほど、“心が狭い”。“(いじ)め”られてきたから。


 なのに半円状に配置した俺の心は全て一度に壊した。()()()()()()()()()()、全範囲じゃなくてわざわざ5つに分けて配置したのに。

 つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事になる。そういう物質を顕現(けんげん)させる(ヘルツ)を持っている。


 ならばいつ不意打ちが来てもいいように“共感”するか……?


挿絵(By みてみん)


 いや、彼の(ヘルツ)の“物質性”のヒントはあっても、まだ“どんな感情”かは分からない。

 

 ……最初は今現在感じている(ヘルツ)だけしか顕現(けんげん)させられない生徒である可能性を考慮して、そしてまだ学園で過去の遠い感情を持ってくることを習っていない1年生とも思われたから、恐怖かと思ったが……。

 

 しかし、今の彼は口ぶりからしてももう(ヘルツ)の準備ができているように感ぜられる。

 ……虐められていた、()しくは今も虐められている。そして今は(おび)えている先ほどまでにではないが……。


 ――彼のこころは、“どんな物質”の“どんな感情”だ……?


 少し情報を引き出しつつ考える時間を稼ぐか……。


「――攻めてこないんですね?(ヘルツ)が小さいなら短期決戦のほうがお好みのはず。

 いや……()()()()()()()()()()()、持続させるのは得意なタイプでしょうか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()ですかね……?」


 彼の目がギラリと光る獣神体(アニムス)の覚悟を決めた戦士の瞳だ。


「……。いいのか?そんなに悠長(ゆうちょう)に話していて……そうしていると誰かが助けに駆け付けてしまうかも知れないぞ?

 知っているだろう?

 ()()()()()()()()()()()

 ……きっと誰かが助けに来てくれるはず……。」


 なるほど……闘う覚悟はあるが増援を期待して心を保っている弱さもある……。つけいるならそこか?


「残念ですが増援はありませんよ?

 我々が何の作戦もなく、何の手も打たずに、ノコノコとこのパンドラ公国の武力の象徴であるマンソンジュを攻めたとでも?

 厳密に言えばマンソンジュ軍士官学校の1年生しか居ない林間学校を狙って……ですが。」


 これでどうだ?

 ……彼の瞳が揺れる、動揺している。

 しかし――


「だったらなんだ?

 それで僕が絶望するとでも?

 

 ――“虐め(イジ)られてきた人間”はな……“フランツ・カフカ”()()()()()()()()()()()()()か、“カフカを読んで”()()()()()()()()しかない。

 ――僕を絶望させたいなら……カフカのように“審判(しんぱん)”を下してみろ……!」


 自分を鼓舞(こぶ)するための強気な発言。だが彼の本質も確かに含んでいる。けれどもまだ手がかりが少なすぎる。


 ――なら親はどうだ?


「カフカですか……読んだことがなくて。

 ――すみませんねぇ……?

 馬鹿で塵糞(ゴミクソ)な親から生まれたもんで、俺には地獄(パンドラ)の教養もあったもんじゃない。

 そりゃあそうだ、“塵滓(ゴミカス)からは(ごみ)しか産まれねぇ……”(とんび)(たか)を産みますか?ありえねぇでしょう。

 だのに、ヤツラときたら“貧乏な塵糞(ゴミクソ)どもほどガキをぽんぽん作りやがる”……()()()()()()()()()()……あぁ、ほんとうにいらいらしませんか……?」


 どうだ?


「……先刻(さっき)から(しゃべ)っている間に、時間を稼ぎながらまた僕の周りに心を配置しているな?

 ……どうやら、どうしても僕を怒らせて突っ込ませたいらしい。」


 ――!


 ……バレている。まずいな親の話は響かなかった。

 “親とは”良好な関係……か?

 だが“学校では”虐められていて、こころは狭いが、()()()()()()()()()()()()()深く長く続く(ヘルツ)を持っている。


 しかもこのままでは先に()()()()()()()()()()()()()可能性もある。

 それも“俺の(ヘルツ)の弱点”。

 ……つまり、“俺のこころの(あな)”が――


 彼が言う。


「どうやら……待ちの姿勢が得意、()しくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか……?」


 図星だ……だが顔や態度には決して出さない……それをすると親に殴られてきたからなぁ……“ほんとうに親には恨み(かんしゃ)しかない”なぁ……。

 

 思い(ふけ)っていると、唐突(とうとつ)に彼が舌打ちをする。


 ――?


「どうやら、そろそろ待ちの(ヘルツ)も少なくなってきたみたいだ。」


 ――何故わかった?()()()()()()()()()()()()()


 彼が意を得たりと突進してきた――


挿絵(By みてみん)

 

 しかも俺が配置していた(ヘルツ)が全部()えているかのように(かわ)しながら――!!


 彼の右腕が(せま)る。その拳を上半身だけ後ろに下げて(かわ)したが、彼は元々そこを狙っていたかのように自分の左の(てのひら)に、勢いよく右の掌を叩きつけた。


 ――ッパン――!


 ちいさな拍手のような音が()る。

 それと同時に掌を中心に何かが放射状に広がる。


 ――静かだ――。


 心臓の鼓動まで聞こえてきそうな静寂(せいじゃく)

 だのに何故(なぜ)か何も聞こえない――


「――がっああぁあぁあ!!!」


 ――誰かが叫んでいるらしい。


 ……俺だ。


 ――血が出ている。


 ……俺の目と耳から――!


「っ!!“光明の恨み(ビッ・オディオ)”!!!」


 彼と俺の間で“恨みでできた光”を炸裂(さくれつ)させながら、距離をとる。一撃食らったが……今の()り合いで、彼の(ヘルツ)の性質も分かった。

 

 ――その弱点を追撃をさせないように即座(そくざ)に立ち上がり光の(ヘルツ)を構える。


挿絵(By みてみん)


「なるほどぉ……?おもしろい……!!」


 あぁ、強者との戦闘は本当に――!


 ◇◆◇


 ――僕の攻撃で(たお)れない――!?


 全身が痛い!!なんだあの光は!?

 

 どうしてあの近距離で爆音を食らわせて、あんなに冷静に対処できる――!?

 なんで、わけのわからない攻撃を食らったはずなのに、その直後に“()()()()()()()”を言える!?


 これが差なのか――?

 圧倒的な……先刻(さっき)の口ぶりからして此奴(こいつ)獣神体(アニムス)だろう……。

 僕とおんなじ獣神体(アニムス)だろう……!

 何でいつも他の獣神体(アニムス)より(おと)ってる?僕は!?彼奴(あいつ)の方が、戦闘経験が豊富で(ヘルツ)も強いからだってそんなのは分かってる!!分かってるんだ……!!


 でも……彼奴(あいつ)()()()()()()()()()()()の僕をみくびらなかった!

 馬鹿にしなかった!!

 実戦経験のない苛め(いじ)られっ子で、ガタガタ震えて泣いてたのに……!

 それでも彼奴(あいつ)は……!!

 彼奴(あいつ)だけは僕を認めてくれた!

 『(つわもの)だ』って!

 『うつくしい人だ』って!!

 人間だって認めてくれた。


挿絵(By みてみん)

 

 ――そんなの……そんなのっ、()()()()()()()()……お父さんとお母さんと妹だけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!


 外の世界じゃあ……“()()()()アイちゃんだけ”だった……あの“()()()()()()()横顔”と、“()()()()()()笑顔”だった。

 家の外には敵しかいなかったのに……。


挿絵(By みてみん)

 

 なのになんで?敵なのになんでだよ!?

 味方より敵の方がこころが通じ合うんだよ……!

 今まで僕にはアイちゃんしかいなかったのに。

 でも()()()()()()、入学してすぐは仲良くしてくれてたのに、地元での僕の噂を知ったら手のひらを返して来たヤツラと()()()


挿絵(By みてみん)


 僕はまた地に()している――。

 今までの人生はずっと(うつむ)いて太陽を避けてきた。


 今の僕は地面に顔を()りつけて、砂にまみれて、もっと(みにく)いはずだ。


 ――でも


 ◇◆◇


「僕は――」

「俺は――」


「「……!……フッ……あぁ、そうだな――」」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「「最高の気分だ……!!」」 

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