クリスマス 『聖夜の義兄妹』
今日、12月25日、それはクリスマスだ。
全国のリア充どもが活性化し、夜はイルミネーションを眺め、そしてホテルやら自宅やらで性夜を過ごすのだろう。
まぁ、俺は彼女無しの無関係だから、マンションに引きこもっている。
と言っても、まだ昼前なのだが。
だが侮るなかれ。昼間でも普通にカップルはイチャついている。
まったく、非リアである俺達のことも考えてくれ。
俺は悪態を口に出さず、コップに注いだ麦茶を飲み干す。
そしてチラッと時計を見ると、時刻は11時20分になっていた。
「そろそろ、昼飯作らないとな」
一人暮らしを始めて一年が経とうとしているため、流石に自炊はできるようになっている。
俺は机にコップを置き、台所に向かう。
冷蔵庫を開け、中を除き見ると、中には殆ど何も入っていなかった。
「しまった。一昨日買い物行ってなかったな……」
そうなると、リア充どもがうじゃうじゃいる街中に、男一人で出ることになる。それは辛い。
かと言って、出前を取るのは金が掛かるし何か嫌だ。
「しょうがない。買い物行くか」
そう呟き、俺は壁に掛けてあったコートを羽織る。
財布とエコバッグ、鍵とスマホを持って、俺はアパートを出た。
「ううっ、寒っ」
俺は手をポケットに突っ込み、急いで最寄りのスーパーに走った。
俺の暮らしているアパートから、歩いて20分の距離に大手スーパーがある。
走れば15分足らずだろうが、食材諸々を買うのに疲れるのは嫌なので、最初は走っていた俺だが、徐々に速度を落とし、最終的には歩いていた。
やはりと言うべきか、スーパーまでの道には、腕を組んで歩いているカップルが何組もいた。
カップルどもはキャッキャと叫びながら、楽しそうにしている。
「チッ、リア充爆発しろ」
俺は非リアの決まり文句を小声で呟きながら、速足で通り過ぎる。
精神的に疲れたが、無事にスーパーに着いた。
俺はキャベツや人参、きゅうりや玉ねぎ等の野菜類。卵や豚肉、牛肉と鶏肉を篭に入れていく。
後はシチューのルーやカレーのルー、調味料やジュース、ケーキを篭に入れ、レジに向かった。
バイト代や仕送りもあって、大量に買っても財布の中身が無くなることはなかった。
それに、俺はこれといった趣味が無く、大抵は貯金している。
たまにエロゲーや雑誌を買ったり等、思春期男子特有の買い物もしているが、それも月に1、2回買うかどうかと、出費が少ないのだ。
俺は来た道を真っ直ぐ戻り、マンションに向かう。
来た時とは別のカップルがイチャついていて、俺の精神はゴリゴリ削れていった。
二十分程歩き、やっとの思いでアパートに戻ってきた。
「ん?」
俺の部屋の前に、一人の少女が立っていた。
腰辺りまで伸ばされた黒く艶のある髪。顔立ちは若干幼さが残っていて、綺麗と言うよりは可愛いって言葉の方が似合うだろう。
あの娘、誰だろう。
そう思いながらも、俺は部屋に近付く。
足音で気付いたのか、少女がバッとこちらを向く。
そして、俺を見た瞬間、こちらに向かって走り出した。
「お兄ちゃんっ!」
そう言いながら、少女は俺に抱きついてきた。
ふわりと黒い髪が揺れ、俺の視界を埋め尽くす。
てか、〝お兄ちゃん〟?
俺のことをそう呼ぶ人物は、俺の記憶の中に一人しかいない。
「ま、まさかっ! 幸子か!?」
そう言うと、目の前の少女は俺を見上げ、ニパァと笑う。
「そうだよ! 久しぶりだね! お兄ちゃん!」
どうやら、俺はクリスマスを無事に終えることはできないらしい。
△
俺が9歳の頃、母さんが再婚した。
相手の男には、7歳の娘がいた。
名前を幸子と言う。
俺は2歳年上なので、よく幸子の相手をしていた。
当時はお互い幼かったので、よく風呂も一緒に入っていた。
だが、中学生になると、俺は幸子から距離を置いた。
第二次成長期が過ぎて、幸子のことを妹ではなく一人の〝女の子〟として認識し始めてしまったからだ。
それでも、時が経つにつれ、幸子に欲情するようになった。
いくら血が繋がっていないとは言え、二つ下の妹である幸子に欲情するのはマズい。
そう思い、俺は高校進学と同時に一人暮らしをすることに決めた。
一年掛けて両親を説得し、俺は家から四駅離れた場所にある私立高校を受験した。
無事試験は合格し、今年の春からその私立高校に通うようになった。
週に一度、親や幸子と電話していたが、ここ2ヶ月は全く連絡が無かった。
まさか、このことを隠すために連絡をとらなかったのか。
「なぁ幸子、離れてくれ。荷物が落ちそう」
そう言うと、幸子はバッは体を離し、申し訳なさそうに口を開く。
「す、すいません……お兄ちゃんと久しぶりに会えて、嬉しくて」
「お、俺も、幸子と久しぶりに会えて嬉しいよっ」
俺は幸子を慰めようと、そう口にする。
すると、幸子は笑顔になり、再び抱きつこうとしてくる。
「だから荷物」
そう言うと、幸子は寸前で動きを止めて、俺の隣に移動する。
「寒いし、部屋入ろっか」
そう言うと、幸子は笑顔で頷く。
「はいっ!」
部屋に入ると、俺は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。
俺と幸子は手を洗い、ソファーに腰掛ける。
「……どうして、お兄ちゃんはこんなところに住むことを決めたんですか?」
幸子がそう訊ねてきて、俺は顔をしかめる。
幸子が好き過ぎて危ないから……とは言えないよな。
もしそんなことを言おうものなら、幸子は怒ってここを出ていくだろう。
そうなれば、幸子に嫌われたショックで年明けまで塞ぎ込んでしまう自信がある。
「どうしたんですか?」
何も言わない俺を疑問に思ったのか、幸子がそう訊ねてくる。
「い、いやっ、何でもない」
俺は咄嗟にそう返す。
「そうですか。それで、どうしてお兄ちゃんはこんなところに住もうも思ったんですか?」
「そうだな。生活に変化が欲しかったから、かな」
勿論嘘だ。
だが、今の俺にはこのくらいしか思い付かない。
「ふーん」
幸子は納得できないのか、半目で俺を見てくる。
「私はお兄ちゃんがいなくなって、寂しかったんですよ?」
幸子のその言葉に、俺は目を見開く。
いや、違う、そうじゃない。幸子はあくまで〝兄〟がいなくなって、寂しくなったと言ってるんだ。
俺とは違う、と自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。
「俺も、幸子と離れてしまって寂しかったよ」
そう返すと、幸子は顔を真っ赤に染め、固まってしまう。
「お、お兄ちゃんもさ、寂しかったんてすねっ!?」
「お、おう」
幸子の勢いに圧されながらも、そう答える。
「そうですか。…………えへへ」
俺の答えに、幸子は嬉しそうに笑う。
「そう言えば、お腹空いたな」
時計を見ると、既に時刻は12時10分になっていた。
もう完全なお昼時である。
「そ、そうですねっ! お兄ちゃん、お昼ご飯は私に作らせてください」
そう言い、幸子は立ち上がる。
「おう、任せた。幸子の手料理かぁ、楽しみだな」
「ふふっ、楽しみにしててください♪」
幸子は笑顔で台所に向かった。
余談だが、エプロン姿で昼飯を作っている幸子に、何度も抱きつきたくなった。
「はい、召し上がれ」
幸子が作ってくれたのは、オムライスだった。
卵の上には、ケチャップで『お兄ちゃん♡』と書かれていた。
勘違いして幸子を襲うところだった。危ない、危ない。
俺は「いただきます」と言い、オムライスを一口。
「んっ! 旨いっ!」
なんだこれ、俺の作るオムライスより圧倒的に旨いぞっ!
俺はあまりの美味しさに、何度も何度もオムライスを口に運ぶ。
「ふふっ、そんなに美味しそうに食べてくれて、嬉しいなぁ」
幸子は嬉しそうに微笑み、オムライスを食べる。
俺は終始「美味しい」を連呼して、幸子の作ってくれたオムライスを食べた。
二人で使った食器を洗い、ソファーに腰掛ける。
あぁ、なんて幸せなんだろうか。
この時間が永遠に続けばいいと思えてしまう。
「ねぇ、お兄ちゃん、私って魅力的に見える?」
突然、幸子がそう訊ねてくる。
俺は「勿論っ!」と即答しそうになるのを抑え、まじまじと幸子を観察する。
長く艶のある黒髪。丸っとしてキラキラ輝いている瞳。幼い顔立ちに反する大きな胸──
とそこで俺は気付いた。
ゆ、幸子の胸が大きくなってる!?
一年前まで、完全な貧乳だったのに対して、今の幸子の胸は服の上からでも分かる程大きくなっていた。
「か、可愛いと思うぞっ」
俺は幸子の胸をガン見しながら、そう答える。
幸子は俺の視線に気付き、頬を赤らめる。
あっ、流石にこれは嫌われるだろっ!
そう思い、俺は顔を背けた。
「お兄ちゃん……」
幸子の静かな声に、俺は肩を弾ませる。
やばいやばい! 完全に怒ってるって、これ!
俺は覚悟を決め、「はいっ」と返す。
「お兄ちゃん……見たい?」
が、幸子の口から発せられたのは、俺の予想の斜め上を行く言葉だった。
「えっ?」
俺は幸子の言葉が理解できず、素っ頓狂な声を上げる。
「そのね、お兄ちゃんが私のおっ、おっぱい見たいなら……いいよ。見せても」
幸子は潤んだ瞳で俺を見上げ、誘うようにそう言う。
「な、なななっ」
俺が戸惑っていると、幸子は更に続ける。
「私ね、ずっと前からお兄ちゃんのこと、好きだったの。妹として、一人の〝女の子〟として。
いつも優しくて、格好よくて、そんなお兄ちゃんが好きだったの。
あの日、お兄ちゃんが家を出ていって、私とても寂しかった。
だからね、私いつもお兄ちゃんのことを思って自分を慰めてたの。
……でも、もう我慢の限界。お兄ちゃんとこうやって話して、一緒にいて……もう我慢できなくなったの」
幸子の告白に、俺はただ驚くことしかできなかった。
俺が固まっている間も、幸子は口を止めない。
「お兄ちゃんは私のこと、妹としか思ってないかもしれない。
けど、私はお兄ちゃんのことを〝男の人〟って意識してる。
……気持ち悪いって思ったかもしれないけど、これが私の気持ち」
幸子は今にも泣き出しそうになりながら、それを必死に堪え、俺に気持ちを伝えてくれた。
俺も、返さなくては。
今の気持ちを。
昔から変わらなかった気持ちを。
「幸子、俺は──」
「ごめんねっ、気持ち悪いよね。
いくら血が繋がってないとはいえ、お兄ちゃんのこと好きになるなんて……
わ、私帰るねっ」
幸子は俺の言葉を遮り、立ち上がる。
そして、急いで玄関に向かう。
「待ってくてっ!」
俺は慌てて立ち上がり、幸子の手を掴んだ。
「っ! お兄ちゃん……?」
幸子は俺を不思議そうに見つめる。
「聞いてくれ幸子、俺の気持ちを」
俺は息を吸い、幸子にぶつける。
今まで隠してきた俺の気持ちを。
「俺は昔から幸子のことが好きだったんだ!」
「おにい、ちゃん……?」
幸子は俺の告白を聞き、目を見開く。
そんなのお構い無しに、俺は告白を続ける。
「けど、幸子に嫌われるのが嫌で、隠してきてたんだ。
でも、だんだん幸子に欲情するようになって、このままじゃ幸子を傷付けちゃうって思って、それで逃げたんだ。
さっき話した理由は全部嘘! ホントは幸子が好きで好きで、自分がどうにかなりそうだったからなんだ!」
俺は告白を終え、荒くなっていた息を整える。
ふと、幸子を見ると、幸子は涙を溢しながらも嬉しそうに笑っていた。
「よかった……お兄ちゃんも、私のこと好きたったんだっ…………よかったよぉ」
泣き出した幸子を俺は抱き締め、頭を撫でた。
「ごめんな、こんな情けないお兄ちゃんで」
部屋の中に、幸子の嗚咽が響いた。
△
幸子が泣き止んだのは、あれから二時間程経った頃だった。
時刻は3時、本当なら幸子と遊びに行きたいが、幸子は泣き疲れて、俺の膝の上で寝ている。
「すぅ……」と可愛らしい寝息を立てる幸子に、頬が緩むのを感じる。
あぁ、可愛いな、幸子。
俺はゆっくりと、幸子の頬を撫でる。
幸子を見ているうちに、どんどん眠くなっていき、俺は気付けば眠りに就いていた。
「んぁ……?」
俺は部屋に射し込んでいる茜色の光に、目を覚ます。
時計を見ると、もう5時になっていた。
あぁ、寝ていたのか。
「お兄ちゃん、起きたんですか」
夕飯を作っていたのか、幸子はエプロンを纏っていた。
「あぁ、幸子っ」
俺は飛び起き、幸子に抱きついた。
「きゃっ、お兄ちゃん、危ないよぉ」
そう言いながら、幸子は俺の背中に腕をまわす。
「ねぇお兄ちゃん、夕飯食べ終わったら──」
幸子の作った夕飯を食べ終え、俺と幸子は風呂に入った。
流石に裸は恥ずかしいから、幸子は水着を着ていた。
なんで幸子は水着を持ってきていたのだろうか。
まぁ、それはさておき。
今、俺と幸子は布団に座り、向き合っている。
生まれたままの姿で。
「お兄ちゃん……」
幸子は潤んだ瞳で、俺を見つめる。
俺は幸子を抱き寄せ、幸子の唇にキスをした。
「私のファーストキス、お兄ちゃんに奪われちゃった」
幸子はそうはにかむと、今度は自分からキスをしてきた。
しかも、舌を入れる大人のキスを。
「んはぁっ……お兄ちゃん、優しく、してね?」
「あぁ、勿論」
俺はそう返し、幸子を押し倒した。
そして、俺達は愛を育んだ。
△
翌朝。
射し込んでくる朝日に目を覚ます。
俺と同時に、幸子も目を覚ました。
俺達は昨日シたまま寝てしまったので、二人ともまだ何も纏っていない。
「お兄ちゃん、私高校はお兄ちゃんのいるところを受けようと思ってるの」
幸子は、俺を真っ直ぐ見つめ、そう言う。
「それでね、ここで一緒に住もうよ。
お父さんとお母さんから許しはもらってるし。
……お願い」
「あぁ、分かった。幸子がうちの高校に受かったら、一緒に住もう。ずっと」
「うんっ」
あぁ、俺は幸子が好きだ。
俺は改めて、そう思った。
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