Frenzy、メンバー二人目発表
「花房と狗央はなんか聞いてないの?」
「俺は同じ事務所だから見かけたことはあるけど、名前知らない人だったんだよな~」
「自分はノータッチですね。淳のスケジュールの方が心配です」
「花房が知らない人……?」
「じゃあ完全に新人の人か?」
あーでもないこーでもないと盛り上がるクラスメイトたち。
周が「そのぐらい熱心に勉学についても議論してくれればよいのですが」と鋭いツッコミ。
それこそ「それはそれ、これはこれ」だろう。
午後の授業は二人目発表が気になりすぎて、いつも以上に気もそぞろ。
十五時になった瞬間、スマホの通知が教室中に鳴り響く。
休み時間でよかった。
なんで音出しにしているんだ、と聞きたくなるがそこは東雲学院芸能科という特殊な事情。
急な代打仕事が来るかもしれないので、音の通知はむしろ推奨されており、連絡が来たら必ず先生に「確認しなさい」と言われるし内容の確認もされる。
私情の連絡だったらかなり恥ずかしいので、確認できるのがいいのか悪いのかは人によるかもしれない。
「だ、誰ェ……?」
そしてFrenzyの二人目の発表動画やSNS投稿を見た結果、ほとんどの生徒からそんな声が漏れる。
淳も確認してみたが、デカデカと『コメットプロダクション一期生 松竹梅春』と書いてあるではないか。
その上で「誰?」ならそれはもう松田の知名度の問題だろう。
一年ぐらい活動しているし、昨日確認すると登録者数もなんとか三万人に到達したところ。
なんとなくコメプロの二期生、三期生、コラボを受けてくれた鏡音のおかげという感じがしないでもないけれど。
登録者数を伸ばすのは難しい。
三万人って十分すごい。
それでも、やはり新規参入が多いVtuber業界で大手とは言い難いコメプロの一期生……トークもしどろもどろ、口を開けば闇深い愚痴が多くゲームは上手いが鏡音のようなプロ級かと言われればそうでもない。
しかしゲーム会社勤務ということで新作のゲームや技術に関しては詳しく、語りだすと止まらないのは魅力ではないだろうか。
昔のゲームから新作まで、ゲームに関する知識だけは他の追随を許さない。
毒親育ちで、ゲームは禁止だったそうなのでその反動か。
「誰ぇ?」
「え? だからコメットプロダクション一期生の松竹梅春さん」
「なに? ぶいちゅーばーって」
「Vtuber知らないやついるマジか」
「緋村マジか」
「それは逆にマジかだぞ、緋村」
「え!? 常識!?」
まさかVtuberそのものを知らない人がいるのは予想外。
だが、そういう層にVtuber……引いてはコメットプロダクションを知らしめるには、松田――松竹梅春でデビュー発表されたのは正解だったのかもしれない。
「いや、でもVtuber!? ライブとかどうするんだ? ええ?」
「3Dとか? でも3Dと生身の人間とどうやってライブを……?」
「どういうこと? どういうこと?」
「音無これどうやんの? どうやって活動するの?」
「そこも含めて楽しみにしててほしいな。デビューライブ。美桜公園アルティメット劇場で十二月三十一日、十四時開演」
「クソ! いい商売しやがって!」
「普通に仕事入っとるわ、舐めんな!」
「そうだよね、ごめんね」
「配信はありますか!!」
「あります。三十分だけ無料で、それ以後の二時間は有料パートです。配信ライブのチケットは各チケット販売サイトで販売中。ワイチューブはFrenzy公式チャンネルメンバー登録をしていただければ当日有料パートもメンバーならアーカイブも見られます。現地は3,500~8,000円ですが、ワイチューブメンバー登録は1,400円とお安いかと思いますね」
「ワイチューブか」
「え? もうチャンネル開設されてるの?」
「されているよ」
そう答えたらさすがお金のない学生たち。
いや、普通の学生に比べたらお金は持っているけれど、基本的の卒業後は親から離れて自立して生きていくのが目標の生徒が多いので基本的にあまりお金を使いたがらない。
そんな中月額1,400円のメンバーシップはかなりお高い。
アイドルなら現地でライブを観たい気持ちも大きいだろうに。
「でも――Vtuberぁ?」
「Vtuberって、ええ?」
「アイドル設定のVtuberってわけじゃないんだろう? ゲーム会社に勤める普通のサラリーマン。親の借金返済のためにVtuberを始めた。世の中の人にゲームのすばらしさを届けるため、日々配信に勤しむ。……だって」
「エ、梅春さんのVtuber設定ってそんな感じだったんだ。読んだことなかった」
「おい同じグループ」
「梅春さんって呼んでるんだ……」
しかし設定があまりにもそのままな感じが。
親の借金云々も割と洒落にならない。
確か、松田は浮気借金クソ姑付きの父親の元に置き去りにされていたと聞いた。
その後借金のカタに代仏神教の生贄にされたとかなんとか。
結局その借金がどうなったのかは不明だが、少なくとも彼も肉親を頼れる環境ではない。
「現実のアイドルとVtuberって、マジでどうなるんだ……?」
「おい、ネット大炎上だって」
「炎上は嘘でしょ」
「でもトレンドは半分くらいFrenzyとコメプロだよ」
「話題になるのはいいことだね」






