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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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少しずつ、未来を描く


 東京ジャポニーズゲームショー及びeスポーツ世界大会は三日目――最終日。

 存外、世間ではゲームショーが取り扱われてeスポーツ世界大会はネットの世界の方にのみ話題になっている。

 テレビではあまり触れられておらず、ゲームショーは夕方ニュースで少しやっていた。

 だがeスポーツの方は名前をさらりと言われるだけ。

 これが世間的には『ウケのいい話題』なのだろう。

 撮影が終わって自宅に帰宅すると、すでに家族は夕飯を食べ終えたばかりだった。

 

「お帰りなさーい、お兄ちゃん! 聞いて聞いて、鏡音様がラストラウンドで3キルしてチャンピオンになったんだよ!」

「そうなんだ、すごかったんだね」

 

 FPSゲームのルールまったくわからないけれど。

 鏡音のファンである智子はぴょんぴょん飛び跳ねてスマホを抱き締める。

 どうやら鏡音の配信アーカイブを見直して、鏡音のやっていたFPSゲームについて勉強もしたらしい。

 推しへの熱量がすごいのはいつものことだけれど、それでもやはり助けてもらった鏡音への熱の入れようはいつもと違う気がする。

 それでも、あくまでもファンとしての一線を崩すつもりはないのがさすがだと思う。

 もしも智子が鏡音と恋人になりたいというのなら、それなりに応援をすることも吝かではないのだけれど。

 まあ、鏡音は女性にかなり興味のないタイプなので難しいだろうが。

 

「そうか、もう決勝戦なんだ。もう終わって順位確定したの?」

「うん! 日本は三位だって。惜しかったけど、やっぱり世界は壁が厚いね~。一位はイタリア、二位は韓国」

「へ~」

「智子、お兄ちゃんに先にご飯を食べさせてあげて。それとも先にお風呂入る?」

「ううん、先にご飯食べたいな」

 

 今日は撮影だけなので、それほど汗をかいていない。

 空いた椅子に荷物を置いて、夕食を取る。

 

「ねえ、大学は東雲学院の大学部でいいの? 淳の成績なら西雲学園大学部も狙えるんじゃないの?」

「あ、もしかして学費?」

「ううん。偏差値」

 

 目の前の席に座った母にドストレートな物言いに変な笑いが出る。

 実際大学部なら西雲の方が偏差値が高い。

 入学費も学費もたくわえがあるから大丈夫、と言われ、ついでに「大学に行くのなら一人暮らしもしてみる?」と提案された。

 それには思わず顔を上げる。

 

「やっぱり男の子だし、一人暮らしで自立した生活ができるかどうか試しに家を出てみたらどう? ここからだとどっちの大学も少し遠いし」

「一人暮らしかぁ……あんまり考えたことなかったな~」

「淳は掃除洗濯料理、どれも一通りできるし、一人暮らししても大丈夫だと思うのよね。大学に通いながら仕事も続けるんでしょう? それで生活できるかどうかやってみなさい。収録とかしたくなったらうちに帰ってきて地下スタジオ使ってもいいし」

「そうだね。うん、そうしてみようかな」

 

 ちょうど配信環境をどうしようかと考えていた。

 その件についても母に話してみると、母も賛成。

 芸能の活動を続けるのなら露出を増やすのは必要なこと。

 それに伴う危険も十分気をつけるように、と釘を刺されるのは忘れない。

 父にももちろん相談をするが、配信活動も含めた新しい生活環境を整えるには今から物件探しをしてもいいだろう。

 

「いいの?」

「だって来年三年生でしょう? プロデビューも今年の年末って言ってたし、来年は二つのグループのリーダーとしてやっていくのだから準備は今から少しずつでも準備を整えなさいな。大学に落ちてもそちらで自活ができるように。ね?」

「確かに……」

 

 実際来年のスケジュール、現時点でわかっている分だけでもハード。

 主にレッスンが多いのだが、夏の陣に向けた最終調整がミチミチ。

 ついでに一月の後半から二月上旬に晶穂とバイソンに『コラボしよう』とざっくり約束もしているので、配信環境を今から整えられるのはありがたい。

 

「次のお休みはいつ? もしくはレッスンのない日は? 不動産屋さんに行ってみましょう」

「えっと、ちょっと待ってね」

 

 スケジュールを確認する。

 あと十日ばかりで十月が終わるという事実に若干の恐怖を覚えた。

 時間の流れが速すぎる。

 

「ん?」

「どうかした?」

「周から『いい加減ケーキのリクエストを送ってください』って怒りマークが……」

「ああ、今月誕生日だものね」

「忘れてた……」

「早く連絡してあげなさい。ご飯食べながらでもいいから」

「はあい」

 

 普段ははしたないから、と怒られるがケーキ――定期ライブの時に淳の誕生日祝いで作られる誕生日ケーキのリクエストのことだ。

 いくら今月忙しかったとはいえ、リクエストを完全に忘れていた。

 

『ごめん。モンブランケーキがいいな。カップケーキで大丈夫』

『了解しました。来月は魁星の誕生日なのでそれは忘れないであげてくださいね』

『はい。すみません』

 

 素直に謝罪して、夕飯に戻る。

 母に「あっという間に十七歳だものねぇ」と笑われた。

 誕生日当日は家族に祝ってもらったが、ファンや星光騎士団の仲間に祝ってもらうのは定期ライブの時。

 誕生日月の人はなにもしてはならないのがルール。

 祝われるのが仕事である。

 

「ねえねえ、お兄ちゃん! 鏡音くんがインタビュー受けてる!」

「チャンピオンだから?」

「そう! かっこいい!」


 よかったね、と母とともに智子のぴょんぴょんする姿を微笑ましく眺める。

 推しが賞賛されると誇らしい気持ち、わかる。



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