淳、まさかの参戦
「初めまして。晶穂マロです」
「初めまして、音無淳と申します」
翌日早朝八時。
社長の用意したホテルで前夜祭を宇月、柳と堪能。
ゆっくりと一晩過ごし、六時起床。
身支度と朝食ののちに鏡音と合流して会場選手控室に案内された。
日本の代表チームメンバーと関係者、コーチ数名で、狭い部屋に十数人が待っていた時はさすがに肩が跳ねたけれどすぐに笑顔でご挨拶。
そして、本日のバディ相手、晶穂と握手。
にこやかだが、見るからにテンションが低い。
「急な話しで申し訳ない。ごめんね、音無くん」
「大丈夫ですよ、エイランさん。開会式でBlossomが見られたら、あとは帰るだけだったので」
「ああ、それで鏡音が『多分先輩残っている』って言ってたのか」
「え? そんなこと言ってたんですか?」
鏡音の方を振り向くと、サッと目を背けられる。
別に怒っているわけではないが、淳のことを相当理解してくれているらしくてにっこりとしてしまう。
「申し訳ないんだが、俺はSBOというゲームが初めてでな。もしかしたら足を引っ張るかもしれない。VRMMOはあまり経験もないし」
「あ、俺はSBOサービス開始からやっているのでサポートはお任せください。新キャラクター作成しても、歌バフはあまり影響がないので大丈夫ですよ」
「え? あ、そうなの?」
「はい。歌える曲数が減るだけですね。SBOの歌バフって基本的に純粋な歌唱力依存なので」
と、説明すると選手たちは「へ~」という反応。
晶穂も「結構ガチ目の古参だね」と目を丸くしていた。
「ですのでまあ、正直他国でのプロの歌手が相手ですとバフ負けするかもしれません」
「それはないです。音無先輩の歌唱力、学院で一番だと思います」
「褒めすぎ褒めすぎ! 千景くんとか周も上手いじゃん!」
「御上先輩も狗央先輩も上手いですけれど、自分は音無先輩が一番上手いと思っています」
「あ、ああ、ありがとう」
すごい、真顔で褒められた。
可愛い後輩にそんなに褒められたら、素直に照れてしまう。
一応、今年プロデビュー予定なのでそこまで褒められるとちょっと自信がつく。
「確かに、昨日の前夜祭、本当に歌上手かったよね。柚子の後輩なのに常識もあるし」
「え、えーと……」
エイラン、どんだけ蔵梨を常識外生物だと思っているのか。
返答に困る。
「試運転したいところだが、まずはキャラクター作成からか」
「キャラクター作成はなにか条件があるのでしょうか?」
「リアルの姿反映を選択してほしいそうだ。キャラクター名も、フルネームで」
「ああ、了解しました」
「サーバーはエリア4。パスワードは2587だ。一般プレイヤー進入禁止の、今回のエキシビションプレイ用サーバーだそうだ」
「2587ですね」
エキシビションマッチ会場にチェアタイプのフルダイブ型VR機があるらしい。
ソルロック社とは別の会社が開発した、反応速度がもっとも反映される数百万円するプロスポーツ選手用VR機を使用するという。
それまでは控室にある通常のVR機、もしくはカスタマイズされた選手個人のVR機を使用する。
淳は運営が用意したVR機をお借りして、隣室でベッドに横たわった。
SBOはすでにダウンロードされている。
普段とは別VR機だがIDさえ入力すれば生態データと合わせて自分のアカウントでログインできた。
新キャラクター作成を選択。
そして今まで見たことがない『サーバー選択』画面が現れた。
複数のサーバーの中から『エリア4』を選ぶと『パスワード入力』に続く。
これ、一般プレイヤーはびっくりしているだろうな、と思いながらも聞いたパスワードを入力。
すべてリアルと同じにして、ゲームをスタート。
「ここがSBOの世界か」
「あ、お疲れ様です」
「ああ、ええと、その……どうスタートしたらいいのだろう?」
「そうですね、まずは――」
武器の選択。
キャラクター選択画面で職業と初期武器を選択した。
ファーストソングの武具屋で他の武具を購入可能だが、「どうします?」と聞くと難しい顔で悩み始める晶穂。
「他の国の選手が購入しないのであれば、不公平になるかもしれないからな。どうしたものか」
「初期武器はなにを選択されたのですか?」
「弓だな。本当は銃があればと思ったんだが、遠距離武器は弓しかなかった」
「弓と銃では扱いが全然違いますもんね」
そうなんだ、と困ったように頷かれる。
さらに「さすがに銃はないのか?」と聞かれたので「実は新大陸という、新たに実装された新エリアにはあるらしいです」と返答するとがっくり項垂れてしまう。
「でももしかしたら、このサーバーの武具屋にはあるかもしれないです」
「そうか、そういう可能性もあるのか。じゃあ、案内してくれないか? 他の武器を使わなければ問題はないだろう」
「わかりました。こちらです」
と言ってもマップを開けば普通に記載してあるのだけれど。
頭の片隅で思いつつ、武具屋に案内していると前方から金髪碧眼のイケメンと黒髪緑目の美女が歩いてくる。
ネームは『バイソン』と『カルト』。
「お、バイソンじゃないか。よお」
「おー!マロ~~~!……おお!すごい!マロが英語を話している!?」
「え?いや、普通に日本語で話しているけれど……これが高性能自動翻訳機能か。想像以上にすごいな。あ、音無くん、こちらアメリカチームのバイソン」
「音無淳と申します。初めまして」






