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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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後輩宣言


「今年はこれで最後ですね。お疲れ様でした」

「ありがとうございました!」

 

 がばり、と頭を下げる柳響(やなぎひびき)

 場所はスタジオ。

 十一月二週目の金曜日、午後。

 すでに例のドラマは撮影が始まっており、原作者ミッカ先生が抜き打ちで撮影現場に現れると聞いている。

 最初こそ「淳くんがよかった……」と呟いていたミッカ先生だが、淳の演技指導が功を奏したのか柳の演技に「え、全然違う……」と褒めてくれるようになった。

 柳が淳に演技指導を受けているのを聞いてから、「さすがぁー!」と淳を絶賛。

 かなり態度が軟化したとのこと。

 すっかり胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は“佐倉レン”役の橋良聖(はしらひじり)がチクチク文句を言われているらしい。

 演技は悪くないのだが、細かい仕草が。

 それを柳が「僕からなにかできることはあるんでしょうか」と難しい顔で相談されて、「ええ……聖くんは微調整ができる子だからすぐ気にならなくなると思うよ」と言い放つ。

 きょとーん、とされるが、一応劇団時代の同期なのでそのくらいの信頼感がある。

 

「でも、撮影だけじゃないんですよね? えっと、受験……?」

「はい」

 

 今日で今年の演技指導が終わりなのは、柳の受験が近いこと。

 撮影自体は進むのだが、それ以外の時間を受験勉強に注ぐという。

 

「受かるといいねえ」

「はい! 来年の春には必ず星光騎士団に加入できるように頑張ります!」

「………………。んぇ?」

 

 顔を上げる。

 志望校を聞くのはさすがに立ち入りすぎかな、と思ったら柳から志望校を話してくれた。

 話した、というか、宣誓された?

 星光騎士団に加入、ということは――

 

「え、東雲学院の芸能科を受験するの?」

「はい! 絶対音無先輩の後輩になります! 芸能科が駄目でも普通科もありますし」

「えー……あ、そ、そうなんだぁ……。じゃあ、受かったらバトルオーデションで柳くんのこと宇月先輩に話しておくね。宇月先輩、後輩を虫ケラみたいに罵倒するから多分聞いてもらえないと思うけど……」

「え……?」

 

 目を逸らしながら、東雲学院芸能科の入学生が最初に受ける洗礼を教えてあげた。

 そして、その場合来年星光騎士団の団長になる宇月の性格も。

 ついでに、星光騎士団の『地獄の洗礼』についても話すと顔がさらに青くなる柳。

 

「こ、こわい……! アイドルってそんなことするんですか……!」

「うんまあ。でも柳くんは俳優としても活動してるんだし、西雲学園芸能科でも受かるんじゃない?」

「いえ、俺、こう見えて子役からやってるんで、学校あんまり行ってないから西雲学園芸能科は圏外判定でした」

「……それは東雲学院芸能科も結構……ギリギリ……なのでは……」

「はい!」

 

 そんな力いっぱい……。

 ちなみに淳は西雲学園芸能科はA判定、西雲学園普通科もB判定である。

 普通に勉強も頑張った。

 なぜなら音無家の神、神野栄治が「学生の本分は勉強だよねぇ」と言って彼自身も成績がいいから。

 

「そっかあ……じゃあ残り二ヶ月で一生懸命詰め込まないといけないんだね……」

「はい。……自信ないですけど、東雲学院芸能科は座学以外の面接が大きいと聞いていたので」

「うんまあ、そうだねぇ」

 

 と、言いつつ頭の中に浮かぶのは花崗ひまりと魁星。

 あの二人、想像以上に勉強が嫌いだった。

 他にもクラスメイトは勉強できない子が多い。

 

「あ――それなら、俺が勉強見てあげようか?」

「え……?」

「こう見えて勉強はちょっと得意なんだ。他のクラスメイトに教えたりとかもしてるし。まあ、周に比べると全然なんだけど……」

 

 周の頭の良さは異常。

 さすが全国二桁台。

 芸能経験未経験だったから西雲学園芸能科は避けたようだが、普通科なら余裕だっただろうに。

 なんで芸能科にこだわったのか。

 

(ああ、子どもでもすぐに稼げるのが芸能科だったから――だっけ)

 

 東雲学院は多岐の学科があるが、偏差値なら西雲学園の方が高く進学にも有利。 

 周の進路は周が決めればいいので、淳がどうこう言うこともないけれど。

 

「えええ! 音無先輩、俺の勉強見てくれるんですか!? 本当に!? 本当に!?」

「え? うん。俺から言い出したことだし、お金はいらないから。その代わり予定は俺に合わせてくれたら嬉しいな」

「はい! はい! 合わせます合わせます! わあ! 本当に嬉しい! 先輩大好き愛しているー!」

「えー……」

 

 がばり、と腰に抱きついてくる柳が可愛い。

 きっと役に引っ張られているのだろう、頬擦りしたり頭突きしてきたりとなんだか猫っぽい。

 その頭を撫で撫ですると、さらにへにょん、と笑いかけてくる。

 純粋に劇団の後輩が学校の後輩、グループの後輩になるかもしれないと思ったら可愛くて可愛くて……。

 

「なにしてるんですかぁ!」

「「小木さん」」

 

 はい、と差し入れのお水を差し出してくる柳のマネージャー、小木。

 初対面で淳が少々苛めすぎたため、かなり警戒されている。

 スタジオから離れた数分で、柳が淳の腰に抱きついていたのでガルガルになってしまった。

 

「小木さん、あのね! 音無先輩が勉強教えてくれるって!」

「は、はいぃ!?」

「柳くんの志望校が東雲学院芸能科だそうなので、去年受験した俺の経験談とか役に立つかもしれないと思いまして。スケジュールは俺に合わせてほしいんですけど、そう言ったら柳くんが賛成してくれたので」

「うっ」

「うんうん! 音無先輩の話絶対役に立ちます! 嬉しい〜! ね、ね、小木さん、いいですよね!」

「そ、それは……あの、でも……家庭教師代は――そういう契約は……」

「今回は俺からの提案なので、スケジュールを合わせてくれるだけでいいですよ」

 

 よしよし、と柳の頭を撫でる。

 柳もわかりやすくごろごろとご機嫌になった。

 それを見てプルプル震える小木。

 なにかを飲み込んでから、深く深く溜息を吐き出すと。

 

「わ、わかりました……」

 

 マネージャーの許可が出ました。




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