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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
5章

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文化祭に出張中(1)


 十月の三週目。

 祝日の月曜日は、某県某所の女子校文化祭にゲストとして出演。

 ただし、綾城は十二月の『聖魔勇祭』の打ち合わせとレッスンにより欠席。

 

「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁ! ひまり様ー!」

「後藤クーン!」

「美桜ちゃんかわいいー!」

「淳くーん!」

「魁星〜、かっこいいいーーー!」

「周くんー!」

 

 意外にも全員分の名前を呼ばれた。

 魁星だけ「なんで俺だけ呼び捨てなんだ?」と笑顔を振りまきつつ小声で呟くもんだから危うく吹き出しかける淳と周。

 親しみやすいからじゃない、と隣で宇月が笑顔でステージ下に手を振りながら呟く。

 うまいこと言いおる。

 

「しっかし、わしらの他にも他県からアイドル呼んどるとか言うとったが――まさか(かつら)ちゃんちやったんな」

「んだなぁ。いつもなんならアイ学ん時やけ、今日ここで花崗ちんとこに会うと思わんかったべ。綾城ちん忙しいんか?」

「せやね、今日は別件でスケジュール入っとって来れへんかったんよ。葛ちゃん来るんやったら会いたかったやろなぁ」

「ワも会いたかったべー。去年会ってそれきりだべさ。IG夏の陣もえれぇ大活躍でぇ、ワもお祝い言いたかったァ」

 

 脳がバグる。

 おそらく東北方面の訛り。

 だがそれだけではなさそう。

 沖縄方面の訛りも混じっている感じがする。

 これだけ訛りまくっているのに歌は標準語バリバリ。

 

「あの人誰……?」

「学アイ常連校、東北地方最大の政令都市にある緋雀(あかすずめ)学院芸能コースの『御輿(ミコシ)DEJUMP(ジャンプ)』の葛遊梨(かつらゆうり)さん、十八歳。身長176センチ、体重60キロ、誕生日5/5、血液型B型、沖縄生まれ東北育ち、アメリカ、イタリア経由の英語ペラペラバイリンガルアイドル。特技はスケートボード、趣味はバスケットボール、プレイと鑑賞どちらも好き。とネットの作業ゲーム。特にマジクラフトが好き。好きな食べ物は肉じゃが」

「「……」」

 

 沈黙が流れる魁星と周。

 こいつ星光騎士団箱推し、東雲学院箱推しと聞いていたのに、他校の学生セミプロアイドルのプロフィールも暗記してやがる。

 

「よ、よく知ってるね……」

「学アイ常連校なので……」

「学アイ常連校もチェックしてるんだ……?」

「嗜む程度ですけど」

 

 と、しれっと言い放つ淳に宇月と後藤がわかりやすくドン引きした顔をしている。

 ついに二年生ズにまでドン引きされた。

 

「でも花崗先輩と仲良しだとは思いませんでした」

「一応葛先輩も三年生だからねー。僕らと違って珀先輩とひまちゃん先輩はコミュ力お化けだからなぁ」

「「「「確かに……」」」」

 

 納得のコミュ力。

 他校の学生セミプロアイドルと仲良くするなんて、少なくとも人間恐怖症の後藤と警戒心が星光騎士団一強い宇月には無理。

 ステージ上では女学生の一人が司会を請け負っており、やや震えた声で「それでは、今から質問コーナーです!」とマイクに声を通す。

 慌てて前を向く。

 淳たちは本日、女子校の体育館ステージにて色々なコーナーに参加し、最後にライブをしてお仕事終了。

 まず最初のコーナーは質問コーナーらしい。

 事前に学生たちから募集していた質問を、司会の少女が読み上げる。

 

「最初の質問は『彼女いますか? あるいはいたことありますか?』です!」

 

 いきなりぶっ込んできたなぁ、という上級生たちの遠い目。

 女子高生らしい、恋愛に絡めた質問。

 だがこの手の質問にはいくつかの“定型文”の答えが用意されている。

 その定型文を超越しているのは“綾城珀”だけ。

 

「花崗ひまりさんはこの質問、いかがですか」

「わし? わしがトップバッターなん? ええで〜。彼女ねぇ、わしはいたことないんよ。強いて言うんなら仕事が恋人やろかー。わしが表紙の『chips』発売中やからみんな買ってなぁ〜」

 

 さすが三年生。

 宣伝まで絡めて答えた。

 ホッと、胸を撫で下ろした一年生たちに、司会の女子生徒はマイクを二年生たちの方へ向ける。

 

「えっとでは次、後藤さん」

「!? あ……自分はアイドルなので、少なくとも卒業までは考えられませんね」

「宇月さんは」

「僕はねぇ、僕より可愛い子じゃないと無理ー。僕の隣を歩ける可愛さなら女の子じゃなくてもいいよぉ〜」

 

 とウインク。

 ぎゃーーー! という悲鳴。

 なぜ、宇月のところであんな悲鳴が上がるのか。

 

「さすが宇月先輩……女子高生の生態を熟知している……」

((なにが……?))

 

 真顔で呟く淳に真顔で疑問符を浮かべる魁星と周。

 答え:腐。

 

「次は一年生のみなさん! 音無くんはいかがですか?」

 

 あ、これやっぱり全員聞くパターンなのか。

 笑顔で察して淳は向けられたマイクに向かって“定型文”を答えることにした。

 

「俺の場合は――妹が世界一可愛いので」

「妹さんがいるんですか」

「はい」

 

 中身はゴリラですが、と内心で前置きをして。

 

「世界一可愛いですよ。妹が悲しむので彼女は作りません」

 

 妹あり兄限定定型文の返し技。

 その名も『シスコン』。

 仕事が恋人、まだ解禁時期ではない、自分よりも可愛い子、などの定型文はまだ優しい。

 この『シスコン』はガチ恋勢を殺す攻撃技でもある。

 なぜなら『マザコン』と『シスコン』は恋愛対象外になりやすい。

 これらの属性は千年の恋も醒めさせる。

 

「わかる! ジュンジュンの妹ちゃんマジめっちゃ可愛いよね!」

「可愛いですよね。本当に、お世辞抜きで可愛かったです」

「ナッシーの妹ちゃん、あれはマジで可愛かった」

「わかる。すごく可愛くてびっくりした。……力持ちだし」

 

 ぼそっと後藤がつけ加えたそれが智子に彼氏ができない最大の理由なのだが。

 先輩たちからも「可愛い」と太鼓判を押された智子。

 それを聞いて司会の女子が「えー、気になる! 写真とかないんですか」とアドリブを入れてきた。

 

「モデルをやっていたので、写真は調べると出てくると思います。読者モデルは卒業しているんですけどね」

「え! ど、読モなんですか!? ……それは……」

 

 信じてなかったのかもしれないが、読者モデルという単語に騒つく体育館。

 兄の“シスコン”故の歪んだ「可愛い」ではない、という確信に動揺している。

 そう、音無智子は――ガチで美少女。

 先輩たちも太鼓判を押す、ガチの。

 

(中身がゴリラなだけで)



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