第四十四話 三十一階へ
黒の君との連絡役であるレセドと顔合わせをした後、待ち合わせていたカルさんと合流し塔へ入りました。
「三十階から上は、どんな場所かねえ」
一階から一挙に三十階へ上がれるのは助かります。あの階段に出た蜘蛛をまた倒す、なんて事にならずに済んで、本当に良かった……
それに、十八階とかもあまりいい雰囲気ではありませんし。行かないで済むなら、その方がいいんですよ、きっと。
三十階は、人が少ないせいか静かな森です。時折小鳥の鳴き声が聞こえますが、あれも魔物なんでしょうか。
「さて、こっから上に行く階段は……と」
カルさんが地図を見ています。やはり、先に地図を作っておいて正解でした。
今居る鉢植えのある場所から上り階段へ行くには、一度階層の中央付近へ出て、そこから地図でいう上の方向へ向かう必要があります。
相変わらず迷宮の経路は、まっすぐに通れない場所ばかりですね。
「なるほどなあ」
三十一階への階段の前で、カルさんがのんびり呟きました。そんな場合じゃないと思うのですけど。
階段は石造りの大きならせん階段で、そこには階段の幅ぴったりの巨大なヘビが鎌首をもたげています。
どうやら、この塔では二十階以上には十階ずつ階段に魔物が出るようです。前回の蜘蛛は二十階と二十一階の間の階段に出ましたし、目の前のヘビは三十階と三十一階の間の階段です。
「という事は、四十階と四十一階の間にも、何か大型の魔物が出るという事でしょうか?」
「多分な。それはそうと、ベーサお嬢はヘビ、平気なんだな」
「ヘビやカエルは何とか。いえ、素手で捕まえろと言われたら嫌ですが」
「さすがにあのでかいヘビを捕まえろとは言わねえよ」
笑うカルさんに、本当でしょうねと目に力を込めてみます。毒がなければ触るくらいは出来ますけど、さすがにあの大きさのヘビは掴めません。
「二人とも、真面目にやって」
「申し訳ありません、ニカ様」
「悪い悪い」
いけません。巨大ヘビを結界に閉じ込める役目を、ニカ様お一人にさせてしまいました。反省します。
「では、さっさと倒してしまいましょう! 氷粒!」
結界の中に、細かい氷の粒を発生させます。これは触れるものを凍らせる作用がある粒なのです。
本来は広範囲の敵を凍らせる時に使う術式ですが、あれだけ大きいのですから構わないでしょう。
結界内はすぐに白く染まり、ヘビが中でのたうち回ります。その動きが段々鈍くなっていき、やがてガラスが割れるような音が響きました。
「やはりヘビは寒さに弱いですね」
「あのデケえヘビが、あっという間に倒されるとは……」
カルさんが呆然とした様子で呟いてます。大きいだけで、特殊な攻撃をしかけてくるヘビではありませんからね。
もっとも、攻撃をしかけてきたとしても、ニカ様の結界に阻まれてこちらには届かなかったでしょうけれど。
「さすがだわ、ベーサ」
「ニカ様が結界を維持してくださったからです。ありがとうございます」
ニカ様が結界にヘビを閉じ込めていてくださったからこそ、楽に倒せました。
でないと、氷粒の影響がこちらにもあったかもしれません。あの氷の粒はとても小さいですから、軽いんですよ。
三十一階は、それまでの森とはまた違う階層でした。
「これは……庭園、でしょうか?」
「あの文献の水場は、ここから先の階層だったのか?」
確かに、空は晴れていて日の光が眩しいです。緑も豊かで心洗われるようですね。
「ベーサ、使い魔をお願い」
「はい」
まずは使い魔を飛ばして、地図を作らなくては。
迷宮の不思議なところに、上に行けば行く程階層の面積が広がるというのがあります。
この三十一階も、かなりの広さです。
「随分広いわね」
「三十階の倍はありそうだ」
「探索しがいはありそうです」
出来上がっていく地図を三人で覗き込みながら、感想を口にしました。広いせいか、地図の出来上がりも時間がかかるようです。
庭園になっているせいか、あちらこちらに東屋があるようです。もしかして、ここからの階層の拠点地はこれでしょうか。
今のところ、水場や噴水、池などは見当たりません。代わりに、あちらこちらに植木を使った迷路があるようです。
普通に進んでいたら、知らずに迷路に迷い込んだかもしれませんね。地図があるから、近づかずに済みますが。
「あら、迷路の奥に何かあるようよ?」
ニカ様がご指摘なさったように、迷路の行き止まりに何やら印が出ました。箱のようなものがあるようです。宝箱でしょうか?
「これはぜひ、取りに行かないとなあ」
結局、迷路の中に入る事になりそうです。




