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追放された令嬢は塔を目指す  作者: 斎木リコ


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第四十二話 行き当たりばったりは困ります

 翌朝、門が開く時間を狙って迷宮区に入りました。


「最初からやり直しか……」


 残念そうな、それでいてどこか楽しそうなカルさんの声。解呪出来なかった事実は、あまり影響していないようです。良かった。


 迷宮区は朝から活気に溢れています。


「これから、どうしましょう? 塔に入りますか?」


 まだ早い時間ですし、これから入ればそれなりの階層まで行けそうです。


 ニカ様は、私の問いに少し考えてらっしゃいます。


「そうね……カル、三日程、時間をもらえるかしら?」

「別に構わねえが。何かあんのか?」

「少し、待ってみようかと思って」


 ああ、黒の君からの連絡ですね。確かに、一度ご報告をしておいた方がいいかもしれません。


 こういう時、簡単に連絡が取れる手段があるといいのですが。あ、私の宿題でした。




 星の和み亭に部屋を取ろうとしたら、今回は満室との事。残念です。


「ニカ様、どうしましょう?」

「他にも宿はあるでしょうけど……いっそ、三十階の拠点地に行きましょうか」

「え? いいんですか?」


 カルさんには、三日時間をもらっていて今は別行動中なのに。


「別に先に進む訳でも、探索をする訳でもないからいいんじゃないかしら。日が落ちる頃、上に行きましょう」


 ああ、なるほど。宿の代わりに塔に泊まる訳ですね。あの階層まで来る人はまだいないでしょうし、拠点地なら魔物の心配もありません。


 日中は塔の外にいるので、黒の君がいらしても所在がわかるでしょう。


「では、日が落ちるまでどうしましょうか?」

「そうね……少し、迷宮区を探索してみない?」

「え?」


 迷宮の探索ではなく、迷宮区の探索ですか?


「私達、ここに来てからこの区画をよく見ていないでしょう? 今も、カルに紹介された店や宿くらいしかわからないし」


 確かに。宿も一箇所しか知りませんから、満室の時に困ります。まあ、迷宮の中で夜明かしすればいいのですが。


「日中を過ごせる店が見つかればいいわね」

「そうですね」


 という訳で、本日は迷宮区の探索になりそうです。


 迷宮区は、塔を中心にして同心円状に広がった街です。もっとも、先に塔を囲む壁を作ったそうなので、広がるには限界があるようですが。


 でも、そのおかげで巡回する獣車に乗るだけで、街を一周する事が出来ます。こうして眺めているだけでも、何だか楽しいです。


 まずは巡回獣車でぐるりと巡って、その後気になった箇所を歩いてみる事にしました。何せ三日もあるんですから、主要なところは回れるでしょう。




 街歩きというのは、楽しいものですが疲れますね……


「明日は巡回獣車をもう少し利用して移動しましょうか」

「そうですね」


 日が落ちたので、塔の一階から三十階の鉢植えまで飛び、水場へ移動して野営の準備です。


 本日の夕食は、魔法収納に入れておいた屋台料理を並べます。さすがにこう疲れていては、料理をする気にはなれません。


「明日は、夕食を食べてからこちらに来てもいいわね」

「そうですね。あ、星の和み亭の食堂はどうでしょう?」

「ああ、泊まり客でなくとも利用出来たわね。行きましょうか」

「はい」


 あの宿のいいところは、大きなお風呂もそうですが、何より食事がおいしいところです。


 蒼穹の塔の森は、夜になると暗くなります。この階層は外と同じ時間が流れているんですね。


 水場に天幕を出し、魔法で明かりを灯します。森とはいえ迷宮の中ですから、火を使うのはやめておきました。


「何だか、静かね」

「そうですね」


 ちょっと、国を追放されて最初の夜を思い出します。すぐにカルさんが来たから、静かだったのはほんの少しの間でしたけど。


「最初の夜を思い出すわ」

「ニカ様もですか?」

「ベーサも? すぐにカルが現れて、賑やかになったけれど」

「ええ、本当に」


 そんなところまで同じ事を考えるなんて。何だかおかしいやら嬉しいやら。


「あの時、兄上がベーサに私の事を頼んでくれた事、感謝しているわ。そして、あなたが受け入れてくれた事にも」

「畏れ多い事にございます」


 貴族家に生まれた者として、王家に忠誠を尽くすのは当然の事と教えられてきました。


 私自身は、黒の会を通して黒の君の人柄にも触れております。おかげで王家というより、黒の君個人への忠誠心が強くなったようです。


 その黒の君に、妹君を託された事は私にとって、この上ない喜びでした。


「ですから、ニカ様がそのように思われる必要はございません。これからも、変わらぬ心でお仕えいたします」

「……ありがとう」


 いつ国に帰れるかわからない身ですが、出来る限りニカ様がお心安く過ごされますよう、尽くす所存です。




 三日目の昼時、昼食を取る店を探している最中に背後から声をかけられました。


「探したぞ」

「黒の君!」


 あら? 探したと言っても、ニカ様の首飾りがあるおかげで、私達の居場所はすぐにわかったはず……


「黒の君、ニカ様の首飾りで私達の居場所はすぐにわかるのでは?」

「わからなかったぞ。二日前、どこにいたんだ」


 二日前と言いますと……あ、迷宮に入っていた時ですね。という事は、あの首飾り、迷宮の中では使えないという事ですか。


「それはともかく、兄上。もう少し、連絡を取りやすい体制を整えてください。こうも行き当たりばったりでは、お伝えしたい事がある時にも困ります」


 ニカ様、思い切り黒の君を責めてらっしゃいます。黒の君も、ニカ様には強く出られないのか、苦笑してらっしゃいますよ。


「まあそう言うな。そういえばベーサ、頼んでおいた連絡手段はどうした?」

「兄上、ベーサに頼りすぎませんように。彼女は今、私付きなのですからね」

「わかったわかった。人員を配置する事を約束しよう。それより、どこかゆっくり話せる場所はないか?」

「でしたら、前回同様あちらに参りますか?」


 ニカ様が指し示した先は、迷宮区の中央にそびえる蒼穹の塔です。そういえば、前回探索者証を手に入れておられましたよね、黒の君。




 九階まで来るのに、何の支障もありませんでした。行き来している人とは、何度かすれ違いましたが。


 あれは、例の十八階を占有している人達の仲間でしょうか。


「相変わらず人のいない階層だな」

「もっと下か、もっと上でないと、人はいないようです」

「極端な事だ」


 幽霊の出る階層は人気がなく、特にこの九階はめぼしい品も出ない事から、本当に人がいません。皆通り過ぎるだけです。


 まあ、おかげでここの拠点地を好きに使えるからいいのですが。


 いつものように明かりとテーブル、椅子を出して場を整えます。


「兄上、王宮はどうなっていますか?」

「相変わらずだ……いや、悪化しているな。とうとう父上までもが、オリサシアンの意見を支持されるようになった」

「陛下が……」


 現在、オリサシアン様はいくつかの法案を提出なされていて、国王陛下がそれを制定なさる直前なんだとか。


 一応、形だけは議会にかけなければなりませんから、その手続きに時間がかかっているそうです。


「こちらの手の者を紛れ込ませて、手続きで時間稼ぎをしているが、あれを通してはサヌザンドは崩壊しかねん」

「一体、どのような法案を出されているのですか?」

「一定以上の魔力持ちを、強制的に集めて管理すると言い出した」

「ええ?」


 一体、オリサシアン様は何をなさりたいのでしょう?


「表向きは、魔力持ちが国に貢献する為と言っているが、本音はいつでも自分の思い通りに出来るようにしたいのだろう。あれは、強い魔力持ち全てを憎悪している」


 黒の君の言葉に、ニカ様が視線を落としてらっしゃいます。オリサシアン様の劣等感は、そこまで強かったのですね。


「兄上、それについて、ご報告があります」

「何だ?」

「もしかしたら、ですが、呪いを解く道具が見つかるかもしれません」


 ニカ様の言葉に、黒の君が目を見開きます。


「詳しく話せ」

「はい」


 その日、私達はそのまま九階で夜を明かす事になりました。

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