表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された令嬢は塔を目指す  作者: 斎木リコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/63

第四十話 実験

 しばらく部屋に放置されていましたけれど、この機会にあれこれ話し合いをしておきました。


 今後、まずは例の水の確認です。カルさんには悪いですが、実験台になってもらいましょう。


「それはいいんだが、実験は迷宮区の外でやらせてくれ」

「何故?」

「壁の内側で姿が変わったら、魔物と間違われて狩られちまうだろ」


 そういう危険もありましたね。


 迷宮区の壁の外に出るのは自由だそうです。徒歩でも出られるそうですが、出入りの門は日中しか開いていないのだとか。


 なら、外で野営する事になりますね。慣れているので問題はありません。


 そうこうするうちに、支部長と職員の方が一緒に戻ってきました。


「査定が終了したようよ」


 そう言うと、内訳が書かれた書類を渡されました。


 一番高いのは、三十階の地図です。


「中金貨五枚!?」

「現状、最上階の地図ですからね。しかも、かなり詳細に描かれているし。どうやってこれ程のものを描いたのか、教えてほしいくらいよ」


 さすがに、魔法で作りましたとは言える雰囲気ではありません。支部長の目が鋭すぎて。


 他にも、やはり二十一階以上の地図はかなりの高額になってます。一番安い二十一階の地図でも、中金貨一枚に小金貨七枚ですよ。


 魔物が落とす品に関してもそれなりのお値段で、総額にすると中金貨八枚分です。


「支払いはどうします? 口座に預けますか?」

「いえ、現金で」


 支部長からの言葉に、ニカ様が答えました。魔法収納があるので、預ける必要がないんですよね。


「わかりました。では、支払いは三日後まで待ってもらえるかしら? うちにはそこまでの現金を置いていないのよ」


 どうやら、余所から持ってくるようです。ないものは仕方ないですよね。


 説明も査定も無事終わりました。


「じゃあ帰るか」


 立ち上がりかけたカルさんに、支部長の鋭い声がかかります。


「お待ちなさい。まだ終わってないわよ」


 まだ何か、ありましたでしょうか?


「先程言っていた魔法収納の事、詳しく教えてもらいましょうか?」


 あー……それですねー。


 支部長が知りたがったのは、どうやら「魔法収納が魔道具ではないのか」という事だったらしく、違うと言うと大分がっくりしていました。


 でも、さすがは支部を任される人、すぐに気を取り直したようで、こちらに提案してきましたよ。


「じゃあ、魔道具にしてもらう事は出来ないかしら?」

「残念ですが、魔法収納を習得するのはそれなりの魔力が必要なんです。現在、魔道具を作ってる職人の方の中で、必要な魔力をお持ちの方はいますか?」


 私の説明で、またしても支部長が肩を落とします。いないんですね。


 魔道具は、自分で使える魔法しか道具に出来ないとシェサナさんが言っていました。


「……あなたが、魔道具師に弟子入りするという道は?」

「学校でしたら考えますが、弟子入りはちょっと……」


 学校という一言に、支部長の目がきらりと光った気がします。


 確かに魔道具作りを覚えたいとは思いましたけど、二十六階で汲んできた水の効果を確かめるまでは、どのみち動けそうにないのですけど。


「今回の報酬で、学費は出せるわよね!?」

「支部長、そこは協会が費用を出すから作れるようになってくれって言うべきところじゃねえの?」


 カルさんの呆れた様子に、支部長がきっと睨みました。


「何言ってるの! 学校で習得した技術は彼女のものになるんじゃない」

「それでも、だよ。大方探索者に売りつけたいんだろ?」

「当然です」

「協会専売にする代わりに、お嬢の学費くらい出してやれや」

「それとこれとは話が違うわよ」


 なかなか、お強い方ですね、支部長って。




 とりあえず、魔道具師の学校に通うかどうかの返事は保留として、協会を後にしました。


「さて、夜にはまだ時間があるが……どうする?」

「門の向こう側で夜を待った方がいいんじゃないの?」


 ニカ様の言葉に、カルさんが軽く頷いています。


「そりゃそうだな。何か買っておくものはあるか?」

「特にはありません」


 魔法収納の中には、まだ食材がたくさん入ってますからね。野営の一回や二回、どうって事ありませんよ。


「カルの結果次第で、兄上に報告をしたいのだけれど……」

「こちらから連絡する手段がありませんものね」


 双方向で連絡が取れる手段を考える、という宿題を出されましたが、未だに考えつきません。


 何とか、対鳥のような手段を考えないと。


 協会から出て、そのまま三人でとりとめもない事をおしゃべりしながら歩いていたら、迷宮区の門に到着しました。


 ここ、迷宮区に来た時に潜った門ですね。あの時は獣車に乗っていましたが。


 門を潜り、壁の外へ。都区への行き来で壁の外には出ましたが、あの時はろくに外を見ていませんでした。何だか、久しぶりに見た気がします。


「都区との往復に通ったはずなのに、何だか久しぶりに思えるわ」

「ニカ様もですか?」

「ベーサも?」

「はい」


 二人で顔を見合わせて笑ってしまいました。穏やかな時間です。サヌザンドにいる時、家以外でこんな時間を過ごした事があったんでしょうか。


 ……家の事、両親の事、王宮の事、黒の会の皆様の事。考えなくてはいけない事はたくさんあるのですけれど、何だか頭の中で同じところをずっと回っているような気分です。前に進めないというか。


 でも、カルさんの実験がうまくいけば。あの水が、サヌザンドの王宮を救ってくれるかもしれません。


 どうか、うまくいきますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ