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追放された令嬢は塔を目指す  作者: 斎木リコ


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第三十六話 森の中

 二十一階。そこは私達三人にとって未踏の場所。いえ、現在この塔の探索をしている人全員にとって、ですね。


 その二十一階は……


「……森?」

「しかも、かなり密集して木が生えてんな」

「こんな森、見た事ないわ……」


 目の前に広がるのは、鬱蒼と生い茂る森でした。塔の中に森? と首を傾げたくなりますが、庭園もありましたしね……


「一応、細くだが獣道のようなものがあるぞ」

「それが、通り道という事なのかしら。カル、あなた、森林型の迷宮に入った事は?」


 ニカ様の問いに、カルさんは遠い目をしながら答えてます。


「一応ある。あまり深い場所までは入らなかったが……」

「そこと比べて、目の前の森はどう?」

「似て非なるもの、だな」

「そう」


 カルさん曰く、森林型に明確な通路はないそうです。もちろん、目の前のような獣道も。


 その代わり、こんなに密集して木が生えている事はないので、森の中を自由に移動出来るんだとか。


 楽しそうですねえ。出てくる魔物が虫型ばかりでなければ……


 は! もしや!


「カ、カルさん、もしかして、この森に出る魔物も虫型ばかりという事は……」

「あー……あるかもなあ」


 いけません! そんな森は消さなくては!


「壁だって壊せたんですから、森の一つや二つ、焼けない事はないですよね……」

「待て待て待て! 落ち着けお嬢!」

「ベーサ、大丈夫よ。結界を張っておけば。階段に出た魔物も、そうだったでしょう?」


 カルさんとニカ様が二人がかりで私を止めにきます。


 確かに結界で視界が曖昧になったのは良かったですが、あれは結界の中が外から見えにくくなるだけですよね!?


 中から外は、丸見えですよね!?


「だから、落ち着きなさい。大丈夫よ。少し工夫すれば、外を見えにくくする結界が張れるから」


 ああ、結界の壁に関する術式を、中と外で変えて、かつ中から外を見た時の壁に物事が曖昧になるようにすれば確かに出来ますね。


「ですが、それですと景色もぼんやりとしか見えませんから、進みが遅くなるのではありませんか?」


「こういう時は、あなたが何かいい案を持っているのではなくて?」


 いい案……見えにくいものを見えるようにする?


 ……あ!


「ありました!」

「いや、あるのかよ」


 カルさん、うるさいですよ。


「鳥型の簡易使い魔を作って、その目を通して外を確認出来ます!」


 高い崖や深い谷底を確認する際に使った術式です。ついでに、使い魔と地図作成の術式を連動させておけば、使い魔が見た地形を自動で地図にする事が出来るんですよ。


 何故この便利な魔法を忘れていたのかしら。


 隣では、カルさんがまたしても遠い目をしています。


「もう、お嬢達には何でもありだよな……」


 失礼ですね。何でもある訳じゃありませんよ。




 この階層も随分広いらしく、飛ばした使い魔から送られてくる情報を記述していく地図を眺めながら歩いていきます。


 使い魔は一つだけではなく、複数飛ばして先を探っています。その中に、木々が重なるように生えていて、まるで壁のような状態になっている場所もあるんです。


 どうやら、その先にはどうやっても進めない、いわゆる行き止まりのような場所もいくつかありました。


「この階層にも、行き止まりってあるんですね」

「どうやっても先に進めない場所か……森なのになあ」


 その辺りが、塔の中の森という事でしょうか。


 ニカ様が張ってくださった結界のおかげで、出てくる魔物を直視せずに済みます。


 いくつか攻撃用の使い魔も結界の外に展開させているので、私達は歩きつつ偶に魔物が落としたものを拾っていくだけです。


「よもや、二十一階がこんなに楽に進める場所だとは……」

「良かったわね、カル」

「ああ、お嬢達に感謝だな……」


 言葉の割りにはうつろな表情をしているのは、何故なんでしょうね。魔法に慣れていないせいでしょうか。


 どのくらい進んだ頃でしょうか。右奥から水の音が聞こえてきました。


 三人で、顔を見合わせます。


「まさか……」

「例の解呪が出来るという……?」

「確か、陽光溢れる緑豊かな庭園の水場、でしたよね?」


 ここ、森なんですが。森の中に庭園がない訳ではありませんけど。


「使い魔に確認させますか?」

「いや! それより直接行った方が早い!」


 カルさんはもう走り出しています。ああ、待ってください。結界が間に合いませんよおおおお!


 追いつけはしませんでしたが、遠隔でなんとかカルさんに別の結界を張る事が出来ました。使い魔は優秀ですね。


 カルさんは耳を頼りに森の中を走っていたようですが、ちゃんと水音の場所まで辿り着いていました。


 ……もしや、人間の姿の時も狼のように鼻が利くとか、ないですよね?


 そこは、森の中にぽっかりと空いた空間でした。清らかな泉、その周囲に生い茂る丈の短い草。


 そして、泉の奥には見上げる程に積み上げられた岩があります。そこから、水が流れ落ちていました。


「……滝?」

「塔の中に、滝ですか……」


 本当に、迷宮というのは何でもありなんですね。ですが、滝と泉では、文献に記載されていた内容とは異なります。


「カルさん、ここは――」

「もしかしたら!」


 私の言葉を遮って、カルさんが叫びました。


「もしかしたら、ここの事かもしれないだろ!?」


 ニカ様も私も、何も言えません。カルさんにとって、狼に変身する呪いは私達が思っている以上に重いものなのでしょう。


「……試してみる?」

「ニカ様」

「ただし、その泉の水は毒かもしれない。飲んだら即死かもしれないわよ? それでも、試す?」


 そんな、煽るような言い方をしなくても、おろおろする私の前で、ニカ様とカルさんはにらみ合いとなりました。


 やがて、カルさんが短い溜息と共に返答します。


「……ああ」

「そう。なら、私達はここで見ているわ」


 ニカ様は一歩下がりました。私もそれに倣います。


 カルさんは、泉の縁まで足を進めてから屈み、片手で泉の水を掬って飲みました。


 大丈夫でしょうか? 本当に、毒なんて事はありませんよね? でも、塔に出没する魔物の中には毒を持つ魔物もいましたし。


 しばらく屈んだままだったカルさんは、不意に立ち上がりました。


「……呪いが解けたかどうか、わかんねえわ」


 にかっと笑うカルさんに、私は足から力が抜ける思いです。本当にもう。


「いっそ、外に出て月の光を浴びてくる?」


 ニカ様が笑いながら提案します。それには、少し考えてから首を振っていました。


「いや、やめとくわ。一応、ここの水を汲んで持っていこうと思う。それに、この調子ならまだ先に進めそうだしな」

「そうね……ベーサ、何か水を汲む容器はある?」

「ございますとも!」


 抜かりはありません。……もっとも、黒の会で討伐遠征に出た時に放り込んで、そのままにしていただけですけど。




 再び上を目指す事になりましたので、使い魔を放って道先を案内してもらいます。


「もう、ここで少し休んでる間に、その使い魔に地図を完成させてもらえよ」

「なるほど!」


 もしかしたら、この水場は拠点地になるかもしれません。周囲に魔物の気配がありませんから。


 それでも念の為結界を張り、使い魔の数を増やして地図を作成していきます。


「お嬢、下に戻ったら協会にこの地図、売りつけるといいぞ。高く買い取ってくれる」


 迷宮の未踏破部分の地図は、高値がつくそうです。


 ですがここに来る為には、またあの蜘蛛を倒さないといけないかもしれないんですよね……


 まあ、そこを今考えるのはやめましょう。その時はその時です。


「あら、上り階段が見つかったみたいよ?」


 地図が出来上がっていくのを眺めていたニカ様が、一箇所を指し示しています。


 まあ、本当に階段の表記です。場所は、ここから少し離れていますね。


 他にもちょっと興味をそそられる表記があるのですが、そちらはどうしましょう。


「上に参りますか?」

「私はそうしたいと思うわ。カルはどう?」

「異存はねえよ」

「では、このまままっすぐ参りましょう」


 さあ、上の階はどんな場所でしょうか。


 ……当初の目的は、忘れていませんよ? ちゃんと、解呪の水を持ってこの塔を下りるんですから。

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