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追放された令嬢は塔を目指す  作者: 斎木リコ


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第二十二話 学校

 星の和み亭での朝は、清々しいものです。


「おはよう、ベーサ。今日もいい朝ね」

「おはようございます、ニカ様。気持ちのいい朝ですね」


 同じ部屋で寝泊まりしているニカ様と朝の挨拶を交わし、着替えて一階へ。朝食を食べたら、今日はシェサナさんの工房へ伺う予定です。


 昨日、いきなりいらっしゃった黒の君との話し合いで、私は引き続きニカ様の護衛と自身を守る事に専念する事が決まりました。


 また、黒の君からは離れた相手と連絡が取れる術式ないし魔道具の開発を命じられました。次に会うまでの課題だそうです。


 次に会う時って……それまでに仕上げられる自信、ないのですけど。思わず朝食を食べる手も遅くなります。


「どうかして? ベーサ」

「いえ……」

「もしかして、兄上からの課題の事?」


 ニカ様。どうしてそう私の心を読む事に長けていらっしゃるんですか? いえ、多分私が特別わかりやすい人間なのでしょうね……


「課題の糸口すら見つからなくて……」

「そうねえ……これからいく工房で、聞いてみてはどうかしら?」

「シェサナさんに……ですか?」

「ええ。向こうは職人だから全てを教えてはくれないでしょうけど、それこそ糸口くらいは助言してくれるかもしれないわ。ダメならダメで、その時に考えましょう」

「そう……ですね……」

「いっそ、兄上が仰ったように学校に通うというのも手よ。その……お父様の事が、一番の気がかりだったのでしょう?」


 ニカ様の言う通りです。お母様は昔教育を受けた修道院でお世話になっていますし、あそこは王家でも簡単に手出し出来ない場所ですから。


 それにしても……


「心配していた父の様子が、大分思っていたものと違った事には驚きました……」

「そ、そうよね」


 いい事なんだと思います。お父様がご苦労なさっていないのは。


 ですが! 一緒に強制労働している方々と親しくなり、毎日健康に暮らしているなんて! 私の心配を返してほしいです。


 いえ、本当にお父様の身に危険がないというのは、喜ばしい事なのですけど……


 それとは別に、心配していた娘の立場というか何というか。とにかく、微妙な心持ちです。


「父の身が安全だというのはわかりましたし、健康面でも問題ないと黒の君が仰ってましたから、そうなのでしょう。ですが、やはり元の生活と同じとは言い難いですし、何より父の名誉を回復しなくては」

「そうね。その為にも、オリサシアンが使っている迷宮産の品に対抗出来るものを、見つけなくては」


 オリサシアン様……どうやって、迷宮産の品を手に入れたのでしょう。いえ、エントとの密輸を行っていたのはあの方だそうですから、エント経由なのでしょうけど。


「迷宮産の品って、国外にも流出するものなのでしょうか?」

「どうなのかしら。カルなら、知っているかもしれないわね」


 ああ、カルさんはエントの豪商の生まれでしたね。ですが、幼い頃に家を出されたと言ってましたが。


「探索者も長くやっているようだし、そちらの伝手もあるかもしれないわ」


 そういえばそうでした。




 宿を出て、獣車に乗り道具街へ。この獣車は迷宮の周囲をぐるぐる回っているので、どこからでも乗れます。そろそろ、この街にのも慣れてきたように感じますね。


 道具街は、相変わらずの人出です。その波を眺めながら、シェサナさんの店へと向かいます。


 シェサナさんの工房は、きちんと開いてました。そういえば、工房がお休みの日とか、あるのかしら。


「あら、いらっしゃい」

「こんにちは」

「前回の魔道具、買いに来たの?」


 そういえば、そんな話もありましたね。思わずニカ様と顔を見合わせてしまいました。


「もしかして、ひやかし?」

「ではないのですけど……」

「ちょっと、相談したい事があるのだけれど、いいかしら?」

「相談? 魔道具の事で?」


 シェサナさんの言葉に、ニカ様も私も無言で頷きます。シェサナさんは、軽い溜息を吐きました。


「まあいいわ。立ち話も何だから、中に入って」


 お店部分に入れてもらい、前回と同じテーブルを囲みます。


「それで? 相談事って何?」

「こちらが指定した機能を持つ魔道具を作る事って、出来るかしら?」

「注文制作って事? 私が扱える機能なら出来るけど……ちなみに、どんな機能がほしいの?」

「私は結界を張る機能を」

「私は、自分が使える術式を詠唱なしで発動させられるものがほしいです」

「うん、無理ね!」


 シェサナさん、そんなばっさりと……


 ニカ様が首を傾げています。


「無理とは?」

「魔道具ってね、作り手が知ってる術式でないと、道具化出来ないのよ。私は結界の術式もあなたが使う術式も知らない。従って、どちらも作れないの」


 そうなんですか!?


「まあ、術式がわかったとしても、多分私には作れないと思うけど」

「それは、何故?」

「私自身に使えない術式だから。探せば自分が使えない術式でも、魔道具に出来る人はいるかもしれないけど、私は出来ないの。悪いわね」

「そう……もう一つ、聞いてもいいかしら?」

「どうぞ」

「魔道具の作り方を、彼女に教えてもらう事は、出来る?」


 ニカ様……黒の君が仰った事を、本気でやるおつもりですか?


 ニカ様の言葉に、シェサナさんは渋い顔です。


「ちょっと難しいわね。魔道具の技術って、弟子以外に教えてはいけない事になってるの」


 そうなんですか? それはちょっと、困ります。私にはやるべき事があるのですから。


「弟子以外には教えられないと?」

「ええ。これは私が決めた事じゃなくて、魔道具協会で決まってる事なの。一応、技術の流出なんかを防ぐ目的があるって聞いてるわ」


 魔道具協会というのは、魔道具に関わる人達で作る組織だそうです。道具街にある魔道具の店や工房の人達は、全員加入しているんだとか。


「……では、魔道具の作り方を教えてくれる学校があるというのは?」


 黒の君が言っていた学校ですね。シェサナさんの顔が、さらに渋くなりました。


「誰から聞いたか知らないけど、あるわよ。ただし、協会からの紹介状がないと、学費がもの凄く高くなるから気を付けて」


 え……それは噂に聞くぼったくり商法とかいうのでは……


「紹介状というのは、どうやって手に入れるのかしら?」

「……どこかの工房に弟子入りして、魔道具協会に仮加入する事」

「つまり、どちらにしても弟子入りが必要って事ね」

「学校自体、魔道具協会が運営しているのよ。だから……さ」


 つまり、協会で運営している学校だから、仮とはいえ加入している人なら学費を安く、そうでない人には高くするという事ですか。


 筋が通っていると言えばそれまでですけど。外部の人間である私には、厳しい現実です。


「ちなみに、紹介状なしの学費って、いくらくらいかしら?」

「魔道具の学校は通常三年で卒業なんだ。課程をぎりぎり詰め込んだとしても……多分中金貨二枚はくだらないんじゃないかな……」


 貨幣の価値は、カルさんに教えてもらいました。何せ、お金に関する事はニカ様も私も世間知らずですから。


 その中で、金貨以上は普通の家庭ではまず使わないと言われました。銀貨だけで用が足りると。


 なのに、金貨で、しかも小ではなく中、それを二枚とは。しかも、それ以上かかる可能性が高いとシェサナさんは言います。


「正直言うと、中金貨四枚は覚悟した方がいいと思う。協会に加入していない人間の事を、会員は凄く嫌うから。排他的なのよ、魔道具師の世界って」

「何故そんな……」

「魔道具師って、余所の国で技術が確立されたものなんだけど、その国……エントでは凄い下に見られてたらしいんだ。場所によっては迫害の対象でもあったんだって。で、ある時職人達が皆で国を捨てて、当時迷宮が見つかったばかりのオーギアンに移ったって過去があるのよ。で、今でも魔道具師以外の人間は信用しないって風潮が残ってるんだ。若い連中も、親方達からがっつり教え込まれちゃうから」


 それで、今でも排他的な風潮が残り、結果協会に加入していない人……魔道具師ではない人は遠ざける事になっている訳ですね。


 でも、中金貨四枚ですか……ニカ様も、何やら考え込んでいます。


「さっき言っていたような魔道具を作れる職人は、この道具街でも探せるかどうか疑問だわ。そう考えると、学費が高くついても学校に入って自分で作り方を覚える方が早いかも」


 やはり、そうなるんですね……でも、学校なんて通った事がないのですが。


 教育に関しては家庭教師に習いましたし、私は修道院での教育も受けていません。黒の会で魔物討伐に参加していましたから。


 それに、魔道具師の学校って三年かかるんですよね? そこまで時間をかけるのもいかがなものかと。


 お父様の安全は保証されましたが、まだ国内には懸案事項が多すぎます。出来る限り早く、問題を解決したいのですけれど。


 何やら考えていたニカ様が、シェサナさんに質問しました。


「……仮に、だけど、あなたの工房にベーサが弟子入りしたら、協会に仮加入出来るかしら?」

「無理だと思う」

「何故?」

「さっきも言った、排他的な空気ってやつ。基本、工房の弟子は親が我が子を取るの。そうでなくとも、親が魔道具師でないと、どこの工房も弟子には取ってくれない。うちも、彼女を弟子に取っちゃうと協会から睨まれるから。そうすると、ここで仕事が出来なくなっちゃう」

「そう……」


 やはり、高い学費を払って学校に行く以外、魔道具の作り方を覚える手段はないという事ですね。


 これは、黒の君から課題、間に合いそうにありません。




 念の為、学校に関する資料をくれる場所をシェサナさんに案内してもらい。詳細を確かめるだけ確かめておこうという事になりました。


「協会で冊子を出してるけど、有料だからその場で見るだけにしておいた方がいいわ」

「そうなんですか?」

「学校の案内だけなのに、結構高いのよ、あの冊子」


 売るのは主に、お金持ちや貴族の子女向けなのだとか。そんな人達が、魔道具の学校に入るんですか?


「オーギアンでは、魔道具師の地位は割と高いの。学校をきちんと卒業して認定を受けると、国内で魔道具師として働く事が出来るから。箔付けだったり、家を継げない子が独立の手段にするのよ」


 なるほど。高い学費は、独立資金の前渡しのようなものだそうです。


 魔道具師協会迷宮区支部は、道具街の中央付近にありました。そこそこ大きな建物です。


「ここが魔道具師協会。本部は探索者協会と一緒で都区の方にあるわ。学校に関する資料なら、ここにも置いてあるし、なんなら入学の申し込みも出来るから」


 シェサナさんの言葉を聞きながら、中に入ります。二階に吹き抜けのホールがあるそこは、探索者協会の建物ともまた違う印象です。


「学校関係の資料はあそこ。持ち出さなければ、椅子に座って読んでも問題ないわよ」


 簡易な本棚が設えられていて、その中に冊子がいくつも入っています。これが、学校案内ですか。一冊手にとって、ニカ様と一緒に見てみます。


 学校案内には、設立の趣旨やどんな課程を学ぶか、講師の人達の経歴などが書いてあります。


 冊子の最後には、学費に関する記述もありました。……本当に高いですね、特に入学金。それだけで中金貨一枚ですよ。


 しかも、途中で退学になった場合、いかなる理由にせよ返金はしないそうです。


「全寮制なんですね」

「実技に熱中しすぎて、日付越える事もざらだから。さすがに真夜中になってから学生を家に帰す訳にもいかないでしょ?」


 そういう理由で、全寮制なんですね……


「学校は飛び級も認めているの。だから学費を抑えたい場合は、一日の授業数を多くして単位を取り、卒業を早めるといいわよ」


 それでも、短縮出来るのは約一年分程度だそうです。とはいえ、三年かかるところを二年で卒業出来るのですから、試してみる価値はあるかもしれません。


 その前に、学費を貯めないといけませんけど。

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