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【本編完結/書籍化】騎士の夫に隠し子がいたので離婚して全力で逃げ切ります〜今更執着されても強力な味方がいますので!〜  作者: 凛蓮月@騎士の夫〜発売中です!
リリアちゃんの番外編

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4.悪いのは

 

 休日、私は街のギルドに来ていた。

 住み込みで今の職場よりいい求人が無いか、探しに来たのだ。


「……はぁ……」


 掲示板に貼られた求人票とにらめっこをしながら条件を比べてみる。

 騎士団寮と比べると、住み込みでも寮費負担で高かったり、食事は自己負担だったり。

 そもそもの基本給自体低くて、提示されている金額ではとてもではないが生活が立ち行かない。

 私にできることは商会の荷運びと家事くらい。

 学び舎に通っているときに、もっと真面目に勉強しておけばよかったわ、と溜息を吐いた。


「エルシーさん?」

「あ……」


 そこへ声を掛けてきたのは騎士団長のダガートさんだった。

 ダガートさんは掲示板と私を見比べて戸惑っている。それが気まずくて思わず俯いた。


「待遇……良くなかったか?」

「いえ、そういうわけでは決して!」


 ダガートさんは苦い顔をしながら頬を掻いた。

 よりにもよってこの方に見つかるなんて……


「エルシーさん、よかったら理由を聞かせてくれないか?」


 真剣な表情で言われても……

 何と言えばいいか分からなくて顔が引きつる。

 どうしようかと逡巡していたら、ダガートさんは眉尻を下げて小さな息を吐いた。


「まあ、騎士団寮なんて男ばっかでむさ苦しいし臭いとかも気になるよな……」

「い、いえ、それは皆さん頑張ってらっしゃる証拠ですから!」


 ではなぜ、とダガートさんの眉がさらに下がった。

 面と向かって言っていいものなのだろうか。


「……やっぱり、リリアか?」


 何と返そうか詰まっていたとき、そう言われて喉を鳴らした。


「リリアが仕事の邪魔をしてるから……か?

 申し訳ない。あいつの母親がエルシーさんと同じくらいの年で、たぶん母親恋しさに甘えてるんだと思う」

「……でしょうね」

「子どもは嫌いか?」


 そんなわけがない、と頭を振る。

 正直に言ってしまおうか。

 けれども親の罪に子は関係ない。これは私個人の問題だ。シアラの子でなければその境遇に同情もしただろう。

 口を噤むと自然に目線が落ちた。やましいことでもないはずなのに、なんだか気まずい。


「……分かった。また代わりを探すことにしよう。それまでで構わないから、もう少しだけいてくれないか? 俺もいい条件がないかあたってみるから」


 思わず目線を上げると、ダガートさんは少し寂しげに笑っていた。……と思うのは、私のエゴかもしれない。


「すみません」

「いや、人それぞれ事情ってもんがある。エルシーさんの事情に騎士団寮が合わなかったってだけだ。気にするな、誰にでもあることだ」


 騎士の皆さんが嫌なのではない。

 愛した人が愛した女性の子がいるから……ここにはいられない。

 シアラによく似た女の子。

 両親に会いたいのを必死に我慢している哀れな子。

 ダリオの相手がシアラじゃなければきっと可愛がれただろう。

 リリアがシアラの娘でなければ、仕方ないな、と相手してやれただろう。

 けれど今の私には無理だ。

 どうしたってリリアを通してシアラを見てしまう。

 今はいない彼女を、愛する夫を奪った女の娘を恨んでしまう。

 ダリオから無条件に愛されたリリアに嫉妬してしまう。

 シアラに向けられない苦しみや憎しみが、リリアに向いてしまう。


 親の不貞に巻き込まれた子に罪はないと頭ではわかっていても、感情が先にきてしまう。

 子どもに理不尽な感情をぶつけそうになる自分が、嫌な人間に思えてくる。


 ──いつか、それがリリアを傷つけてしまうのではないかと怖くなる。


 無邪気に大人を信頼し、父を慕い、母を求めるリリアに、あなたの親は誰かを傷つけ奪った最低の人間なのだと募りたくなって……


「なあ、エルシーさん」


 醜い感情に支配され、周りが真っ暗闇で覆われそうになっていたとき、一筋の光が差し込んだ。


「一人で抱え込まないで、言いたいこととか不満があったら教えてくれな。

 俺には言いにくくても、他の寮母さんとか経験豊富だからよ、いいアドバイスとか貰えるかもしれねぇ」


 それは騎士団の責任者という立場から出た言葉だろう。けれど、思考の渦に絡め取られた私に息を吸わせてくれた言葉でもあった。


「騎士に嫌なことされたら俺に言ってくれな。

 ちゃんと成敗するから」


 ニカッと笑うダガートさんは、きっといい人なのだと思う。

 部下を思いやる、まさに団長として相応しい人なのだと思う。

 親に見捨てられた私生児を養子にするくらいには、お人好しなのだろう。

 短い間しか勤めていない人が辞めようとしても、次の職を探してくれるのだから、こんな人が上司の職場は他にないかもしれない。


「特に……不満はないんです。ただ……」


 ダガートさんは私の言葉に、笑みを浮かべていた顔を真顔にした。なんだか気まずくて、次の言葉を言う躊躇いに、自然と顔が俯いてしまう。


「リリアが、私の元夫の不貞相手の子どもでなければ、駐屯地でずっとお世話になりたいと思っています」


 だから、無理なのだと、笑ってごまかそうと上を向いた。

 なぜかダガートさんの表情が痛いのを堪えているみたいだった。


「……そうか……。エルシーさんが……あいつの……」


 なぜか私より辛そうにするから、大丈夫ですよ、と笑おうとして、失敗した。勝手に目頭が熱くなるし、まぶたも震えてくる。みっともない顔を晒したくなくて顔を伏せたが、ふいに視界が暗くなった。


「ああ、すまん。周りに見られたくないだろうから、暗幕魔法を使った。ここだけだから思いっきり泣いても誰も見ていない」


 ぐしゃっと顔が歪む。優しくされたら頼りたくなる。


「辛かったよな。すまん。リリアがいたんじゃエルシーさんはいられないよな……」

「違うんです。リリアちゃんは悪くない。悪いのは不貞をしたシアラとダリオで、それは分かってるんです。あの子も被害者です。でも、……」


 リリアが私に懐いてくると、はねのけたくなる。

 あなたの母親が、私の夫を奪ったのだと罵りたくなる。

 リリアだって両親がいなくなって、傷ついている。その原因を作ったのが私の夫だった。

 ダリオが私と結婚していなければ、シアラは再犯にはならなかった。

 じゃあ、私がダリオと結婚したから、リリアは一人になってしまったんじゃ、と考えたら、とてもじゃないがリリアのそばにはいられないと思った。


「エルシーさんのせいじゃない。悪いのは不貞した奴らで、リリアも、エルシーさんも、何も悪いことはしてねぇだろ」

「でも……私がダリオと結婚してなければ、せめてリリアちゃんはシアラと……母親と一緒にいられたかもしれない」

「エルシーさんとダリオは、お互いの合意のもと結婚した。結婚する、ギルドに書類を提出するって決めたんなら、互いに生涯を捧げるのが夫婦ってもんだろ? 例え昔のいい人に頼られても、結婚したなら優先順位を間違えちゃいけねぇんだよ」


 ダガートさんは厳しい顔のままだ。


「優先順位を間違えたのはダリオだ。頼るべき人を間違えたのはシアラだ。そもそもリオンがシアラと不貞しなきゃ、不幸の連鎖は起きなかったんだよ」


 リオンというのは、リリアの父親だ。

 王都に妻を残して、遠征といいながらシアラと懇意になりリリアが生まれた。


「リリアが生まれたことは確かに罪じゃねえ。生まれる時に選べるわけじゃねぇから。そして、エルシーさんがダリオと結婚したことも罪じゃねえはずだ。だから、自分を責めるな」


 心のどこかで、私がダリオと結婚してなければ、と思っていた。

 ダリオはシアラを愛していたのに、無理に私と結婚させてしまった、と。


「ぅう……ぅぇ……ぇあああ……うああああ……」


 みっともなく泣いて、人生で一番情けない。

 どうすればよかったのだろう。

 どうすれば、誰も悲しい思いをしなくてよかったのだろう。

 どうすれば、誰も傷つかなくてよかったのだろう。


「……だから、不貞するヤツはクソなんだよ……」


 ダガートさんは腹立たしいと言わんばかりに拳を握り締めた。


 誰かが共感してくれることで、少し、苦しみが晴れた気がした。


新年明けまして、番外編をお届けいたします。

書籍版を購入していただいた皆様へ、この場を借りてお礼を申し上げます。

おかげさまで好評発売中です。

紙書籍は帯についているQRコードから、シーラとアスティのイチャイチャ番外編をお読みいただけます。

電子版も大変好評をいただいておりまして、本当にありがとうございます!

書籍版からこちらへお越しの方もいらっしゃるかと思います。

リリアちゃんの番外編は重い内容となっておりますが、ハッピーエンドに向かって参りますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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― 新着の感想 ―
本編の時から思っていたけど…ダガートさん、格好良すぎん…?
不幸の連鎖…ホント、不貞する奴はクソ。 自分の幸せな生活を壊した奴の子供の顔なんて見ていたくないし無邪気に懐かないでって思いますよね…目の前で笑ってる顔を見たら殺意さえ抱いてしまいそう…( ノД`)シ…
エルシーさんの辛さ、哀しさが胸に来て辛い 私だったら少しの間も耐えられないかも… 不貞で周りを傷付ける人達、許されないと思う
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