4.ラルフがみたゆめ
赤子の語り部なので、ところどころ平仮名なのは仕様です。表記揺れではございませんのでご了承ください。
「ラルフ〜、わっ、立った! ほら、アスティ、ラルフが立ったわ!」
「ラルフ〜! 運動神経いいな! もうすぐ一歳だもんなぁ」
「魔力回路図の検査もされるのよね。……この子の父親は無かったけど、ラルフはどうかしら」
「ポチ様からの加護を授かってるし、シーラさんの素地がいいからそこそこは使えるんじゃないですかね」
ぼくのなまえはラルフ。
母はシーラ、父はアスティ。
でも、魔力回路図の父はアスティじゃないらしい。
実はそれ、知ってた。
前にすごく嫌な予感がして、ポチ様に言って母のところへ連れてってもらったときに見た黒い髪の男。
あれがぼくの魔力回路図の父なんだ、って気付いた。
せいれいたちが言ってたみたいに魔力が全然なくて気持ち悪くて怖くなって、ぱぱにしがみついた。
ぱぱの魔力回路図が良かった。
そしたらいっぱい魔力があって、母を助けられたのに。
「ラルフは将来なにになるかしらね。あなたの未来は無限大よ」
「冒険者はあまりおすすめしたくないなぁ。王宮武官や文官とかどうでしょう? 魔力が沢山あれば魔法使いもいけますね」
じつはもう将来のゆめはきめている。
母を守る立派なきしさまになるんだ。
ポチ様から聞いた話、ぼくは魔力回路がしっかり整って繋がっているから魔法を使える騎士になれるんだって。
「あう~! りろ! りろぷきゅぅあい!」
よしっ、ちゃんと伝えられた!
「騎士だけは……ちょっとご遠慮願いたいわね」
なんでっ!?
「ああ……でも、ラルフが入団するまでには体制も整ってるんじゃないですかね」
「息子がやりたいことをなるべくなら応援したいんだけどね……。複雑なものがあるわね……」
母もぱぱもむずかしい顔をしている。
ぼくも座り込んでむぅ、となった。
もしかしたら、魔力回路図の父に関係があるのかもしれない。
「まあ、あと十五年以上もあるのだから、色々な経験をさせて自由に選ばせたいわ」
「そうですね。……その頃にはもしかしたら、あと一人か二人増えてるかもしれないから、俺もっとお仕事頑張りますね」
おっと!
ぼくにしもべができるのかな?
ポチ様みたいにぶんぶんしていいのかな?
「あう~! あやうぷぅいぷやい~!」
母とぱぱを応援したら、ふたりははっとして顔を赤くしていた。
なんかへんなこと言ったかな?
「あ! わたし、ごはん! 夕食を作るわね!」
「はい! 俺はラルフと遊んでます!」
母はあわててたちあがり、ぱぱはぼくをだっこした。
なかよしのふたり、はなれちゃった。なんでだろ。ぱぱはちょっとぎこちない顔をしている。
「……ラルフは……その。……弟か妹、ほしい?」
顔をあかくしているぱぱ。
「あう! うあ~! っきゃう!」
ポチ様がいつもしもべたちといっしょに遊んでいるから、たくさんほしい! んで、いっぱい遊ぶ!
「ラルフに言っても分からないかな……。まだ一歳だもんな……。でも、結婚して半年以上だもんな……」
「ぅあう! りろりろ! ぷあああうー!」
分かってる! ちゃんとりかいしてるから!
弟! いもうと! ほしい!
「大丈夫だよ~。弟や妹が生まれても、ラルフが大好きなのは変わらないから。大好きが増えるだけだよ」
「っきゃう」
はず! はっず! ぱぱは照れくさい言葉をふつうに言ってくる。言われたこっちがはずかしい。……やじゃないからいいけど!
「……なんか今日のラルフ、よくおしゃべりしてくれるね。ラルフの成長を感じてパパは嬉しいよ」
成長を感じてるなら理解してよー!
ご飯ができるまでぱぱと遊び、食べたあとはおふろに入っておふとんにゴロンとしたらポチ様がやって来た。
「今日も子守りにやって来たぞ」
「ポチ様いらっしゃい! 最近はここで寝る方が多いのでは?」
「最近冷えてきたからな。ラルフの体温がちょうどいいのだよ」
ポチ様が一緒に寝てくれるから、母たちと部屋が別になってもぼくはさみしくない。
むしろねむるまでせいれいたちが遊んでくれるから楽しい。
「今日は初めて立ったんですよ。すぐ座っちゃいましたけど、一生懸命な姿が可愛らしくて」
「そうか。ラルフも日々成長しているんだな」
「すぐにでも歩き出すかもしれませんね。……子どもの成長は早いです」
「あう~! あう、おあぅ~!」
今日のことをポチ様に伝える。
ついでに最重要なことも伝えてもらう。
「……ラルフ、弟や妹はしもべではないぞ」
そんな!?
「シーラ、ラルフがな。弟や妹がほしいらしいぞ。……それも沢山」
ポチ様が伝えてくれた。母はびっくりしてる。
母が今以上にぱぱと仲良くなればいつかは弟も妹も生まれるとポチ様が言っていた。
夜にふたりでたいせつなぎしきをするらしい。
たぶん弟や妹がきますように、っていのりをささげるとかするのだろう。
ぼくはぐっすり寝てるからさんかできないけど。
「……そう。……パパにも言っておくわね。
……ラルフ、もし授かったら可愛がってあげてね」
「あう!」
ぼく、おにいちゃんになるからね!
「よし、ラルフこっち来い。寝るぞ。寒くなってきたからな。掛布はちゃんとかけろよ」
ぼくの小さなベッドはポチ様が寝たら半分しか空かなくなっちゃうけど、隙間に入り込むと温かくて気持ちいい。
『ポチ様温かいね。ワンコだから?』
『……みんな犬って言うがな、俺はオオカミだ!』
アオーン、とポチ様の遠吠えが響く。
やっぱり犬じゃないか、と、うとうとと眠りにつくぼくが見た夢は、小さな女の子と、母とぱぱと、おっきくなったぼくが、おうちの前の草原ではしゃいでる幸せな夢だった。




