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【本編完結/書籍化】騎士の夫に隠し子がいたので離婚して全力で逃げ切ります〜今更執着されても強力な味方がいますので!〜  作者: 凛蓮月
番外編

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2.アメリとの再会

 

「ラルフ〜、じゃあ一緒に行こっか」

「あう〜」


 荷物を確認して背負い、ラルフを抱っこする。ふと視界に入ってきたのはきゅーんと鳴きそうなアスティの顔だった。


「どうしても行くんですか?」

「ええ。だって久しぶりだもの」


 アスティも仕事だと毎日家を空けるのに、何故か私とラルフがいないとこうしてしゅん、としてしまう。

 結局仕事に行くのだから毎日の日課のようなものだけど。


「俺も王都に行くんですけどね。はー、もう不貞野郎たち撲滅しないかな……。そしたら大手を振って仕事を辞めるのに」

「あなたの仕事は不貞調査だけじゃないでしょう? それにアスティのおかげで仕事が捗るって王太子殿下から聞いたわよ。すごいじゃない」

「それほどでも……」


 口を尖らせながらも口角が緩んでいるのは分かっている。

 時折重いな、とも思うけど、最近はアスティを転がすコツが掴めてきたようでちょっと楽しい。


「お仕事頑張ってね。また夜には会えるんだから」

「シーラさんも気を付けて行ってらっしゃい。アメリさんによろしく。……王都までは一緒に行きましょう。待ち合わせはギルドでしたか?」

「ええ。じゃあ、お願いしようかしら」

「シーラさんのお望みならば、喜んで」


 アスティは私を後ろから抱き締めると、移動魔法を使った。

 ラルフを抱っこしていたから手を重ねることはできなかったのだ。

 王都に着くと人目があるからか名残惜しげに温もりが離れてしまった。

 もう少し……と思う私もだいぶ毒されているかもしれない。


「じゃあ、俺は行きます。仕事が終わったらまた迎えに来ますね」

「お願いね。気を付けて行ってらっしゃい」

「……はい!」


 ギルドの前に到着して、アスティはちゅっと私とラルフの頬に口付けを落とし、移動魔法を使用して王宮へ向かった。


「シーラー?」


 余韻に浸っていると懐かしい声がして、ハッと振り向くとちょっと気まずそうな顔をしたアメリと目が合った。


「あなた大胆になったわね」


 周りを見渡せば冒険者たちが呆気にとられて見ていた。

 そうだ、ここは王都の冒険者ギルドの出入り口。見知った顔がいくつもある。

 私は久しぶりに会った人たちの前でいちゃいちゃしてしまったことが恥ずかしくて顔に熱が集まっていった。


「ち、違うの! 日課だからその……っ」

「ふぅん?」


 慌てて弁明する私、にやにやしながら見てくるアメリ。何だか泣きそうな顔をした冒険者、女性たちはキラキラした目で見ている。


「話を聞きたいけど、ここで、が良さそうだわ。席空いてるー?」


 アメリは有無を言わさず中へ入って行く。これは逃れられなそうだ、と私も観念して中へ入った。


「改めて、久しぶりね、シーラ。元気だった?」

「ええ。アメリも元気そうね。今日は子どもたちは?」

「カールに見てもらってるわ。シーラとゆっくり話したかったの」


 まずは飲み物を注文して再会を喜びあった。

 ラルフはギルドの職員が赤ちゃん一人眠れるくらいの小さなベッドを用意してくれて、その中ですやすやと眠っている。

 遮断魔法の魔道具付きで、眠るラルフからはギルドの喧騒は聞こえないらしい。


「……それにしても、リオンそっくりね。名前はなんていうの?」

「ラルフよ。誰が父親かってひと目で分かるわよね」

「うん。だからこそ、あいつバカだな、って指差して笑いたい気持ち」


 アメリの相変わらずなところに苦笑した。

 感じたことをストレートに言うから人から敬遠されがちだけど、私は気に入っている。


「まあ、そうね。この子がリオンの前でアスティを『パパ』って言ったときなんか呆けた顔をしていたわ」

「本当? その場にいたかったわ。ラルフ〜あなた賢いのね」


 ラルフがアスティを父親と認識していることに、リオンがショックを受けたことは私の中では意外だった。リオンの中で我が子を可愛がる気持ちがあったことに驚いたのだ。

 確かに自分に似ているとはいえ、愛の冷めた妻の子だ。愛する女性との子であるあの子とは違うだろうな、と思っていた。


「そういえば慰謝料以上にギルドに振込があったのよ。騎士団も辞めたし、お金の余裕あるのかしら」

「冒険者になったんだっけ? あの人、魔力無いから中々厳しそうだけどね」


 アスティのお母さんは魔法に長けた人だった。

 そんな人さえお金を稼ぐのに苦労し、早くに亡くなってしまった。

 剣帯も壊れてしまったリオンは、パーティーを組んだ方がやりやすいだろう。

 けれど、冒険者の中でも魔力無しは歓迎されない。報酬も分け合うことを考えれば、リオンはソロでやっていく方がいいだろう。

 だいぶ危険な事というのがよく分かる。


「ま、どんな人生になっても自業自得よね。せいぜい子どもたちに償うといいわ」

「そうね」

「それより、私が気になるのはアスティさんとのことなんだけど」


 注文したパスタを巻きながら、アメリはイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「私から見たアスティさんって冷たいって言うか、とんがってる感じがしたから心配してたんだ。けど、シーラがひと目も憚らず頬にキスを許してるの見て、あー、なんか大丈夫だ、って思ったわ」

「あれは……ほんと、油断したわ。意識してなかった」

「いーのいーの。幸せそうでよかった。王都出る前のシーラは、辛いのを表に出さなかったから」


 まだ一年くらいしか経たないのに、王都から出るときの辛さをあまり思い出さないのは、アスティが毎日溢れるほどの愛をくれるからだと思う。

 同じだけの愛を返せているかは分からないけれど。


「リオンとの事は確かに辛かったけど、落ち込む暇をくれなかったのよね。

 一人だと多分落ちてた。でも彼が引っ張ってくれて、道を作ってくれたから歩いてこれたの」


 隠し子の存在を知って、どうしたらいいか分からないときに的確にやることを示してくれた。

 思考の渦に嵌りかけても、そんなことないよ、とすくい上げてくれた。


「ラルフの事も自分の子として一緒に子育てしてくれてるの。夜中も私が起きる前にあとはお乳をあげるだけにしてくれてたり、夜泣きが酷くても『シーラさんは寝てていいですよ』って」


 アスティは特別子どもが好きなわけではなさそうだ。

 けれど、ラルフの事は目に入れても痛くないと言わんばかりに可愛がっている。


「すごいわね。カールも手伝ってくれる方だと思ってるけど、次の日仕事に影響あるからって思うと遠慮しちゃうわ」

「若いからかしらね。翌日も元気にお仕事に行くわ。昼寝してても魔法でなんとかしてそう」

「ふふっ。そうかもね。やれそうな雰囲気ある」


 容易に想像できてお互いに吹き出した。

 それからも話は尽きることなく、日常のこと、子どもたちのことなど沢山話した。

 途中で起きたラルフを抱っこしてもらったり、アメリの末っ子の話を聞いたり。

 親友との楽しい時間はあっという間で、外は夕暮れ時を迎えていた。


「そろそろ帰らなきゃ。三人のやんちゃボーイたちにカールも降参する頃だわ」

「あっと言う間だったわね。また会いたいわ」

「私もよ。……王都には帰らないのよね?」

「ええ。家の近くに回復薬の最高級の材料が揃ってるの」

「そっか……」


 リオンから離れる為に引っ越したけれど、王都に戻るつもりはない。


「あ、でも時々王宮に上がるから、帰りに寄るわ」

「え? 王宮?」

「ええ。そういえば男爵位を賜ったの。王太子殿下の御子息の専任薬師になったのよ」

「えっ!? てことは、シーラ、男爵? 貴族様になったの? あっ、私、無礼だったわ、じゃなくて」


 目を丸くして慌てるアメリに思わず苦笑した。

 何故か身なりを整え、背筋をピンと張っている。


「改まらないでよ。普段通りでいいから」

「で、でもっ」

「態度変えられる方が嫌だわ。アメリとは親友だと思ってるのよ」


 面と向かって言うのは気恥ずかしい。

 アメリもピタッと止まって照れくさそうに笑った。


「シーラは変わらないわね。じゃあ、今まで通りね。今度は王宮での話も聞かせてよ」

「王太子殿下の御子息の様子を見るだけよ?」

「えーっ。侍女と護衛が秘密の場所で、とか無いの?」

「探す暇も無いわよ」


 相変わらずな夢見がちなところに苦笑しながら、これ以上はまた長話になりそうだから、と慌てたアメリは颯爽と帰宅して行った。

 一陣の風のような慌ただしさに、残された私は少し寂しさを感じてしまう。

 でも、また会える。

 久しぶりに会っても、久しぶりって感じさせない気安さが心地良い。


「私たちも帰りましょうか」

「ぁう〜あう、ぱーぱー!」


 ラルフもばたばたしながら賛成してくれたようだ。


 そうして、私たちは王都をあとにした。



 ……何か忘れてる気がする……?


やらかシーラさん

アスティのメンケアの為、明日も更新しますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
息子のがしっかりしてた(^◇^;) そうそうパパよね 下の子ができてもしっかり兄ちゃんして ママのフォローもしてそう
幸せな感じがしてよき!
 ぱぱ、置いてかれる?
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