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【本編完結/書籍化】騎士の夫に隠し子がいたので離婚して全力で逃げ切ります〜今更執着されても強力な味方がいますので!〜  作者: 凛蓮月
三章/あなたの子ではありません

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38.万能の回復薬


「ラルフ~~パパだよ~~パ~パ、パ~パ」


 アスティがラルフに話し掛けるがラルフは無表情で見ている。

 生後三ヶ月も経てば笑い始めるらしいけれど、一向に表情が変わる気配は無い。


「パパが守護魔法かけるよ~」


 アスティは私にしたようにラルフの額と両の頬に唇で結び守護魔法をかけた。

 これでリオンが来ても大丈夫だろう。


 王宮が慌ただしくなって、食事もままならないだろうに合い間を縫って私やラルフの様子を見に来てくれる。

 大抵は補給と称して抱き締めたり擦り寄るけれど、ラルフにはこうして自分が父親であると教えているようだ。


「まだ喋らないだろう?」

「根気よく教えてたらいつか呼んでくれるはず」

「そうか。じゃあ俺もポチと呼ばせるか。……いや真名の方がいいか?」

「犬だからポチでいんじゃないですか?」

「精霊の主に向かって生意気な」


 ラルフのそばで番犬よろしくなポチ様との言い合いはまるで親子のよう。

 ラルフも入れたら祖父と父と孫になるのかしら。


「そう言えば、ポチ様の由来って何からですか?」


 森にいるときの巨体を見れば、ポチという名前はいささか可愛らしい。

 今のサイズならしっくりくる気もするけど。


「酒場で会った東国の奴に酔っ払ったミスティが『犬を飼い始めたが名前が思いつかない』とグチったらしい。そしたらその東国の野郎が『ではポチならどうだ』『それいい、ウケル』と決まったらしい。俺は犬ではないのだがな」


 仮にも精霊の主の名前をそのように安易に決めていいのだろうか。

 ミスティさんの話を聞けば聞くほど豪快な人だと思う。

 一度お会いしてみたかったな。


「うー……そろそろ戻らなきゃ。俺本業冒険者なんだけどなぁ……」

「アスティのおかげで仕事が回るなら頑張って」

「シーラさんに応援されたら俺何でもできそうです。そう言えば回復薬の在庫あります?

 周りがちょっと屍と化してるんで恵んであげようかな、って」


 王宮勤めは大変ね、と苦笑して、空間魔法からストックを取り出した。

 アスティは律儀に金貨を差し出すけれど、私は毎回断っている。


「皆様によろしくね」

「シーラさぁん! 大好き! 俺めちゃくちゃ頑張ります。頑張って、ご褒美にシーラさんとの結婚の許可の時短を王太子殿下に認めさせますから」


 そんなことできるのかしら?と苦笑しながら、アスティを見送った。


「お熱いことねぇ」


 不意に聞こえた声にビクッとなった。

 そういえばここはデリラさんのお店だった。


「お恥ずかしいところを……」

「いやいや。あのアスティが幸せそうで私ゃ感慨深いよ」


 デリラさんはミスティさんの親友だった。

 ミスティさんがクエストに出向いているとき、アスティの面倒を見ていたのだ。


「アスティは結婚しないって言ってたからね。伴侶を見つけてくれて良かった良かった」


 育ての母のような感じなのだろう。その表情は優しい。

 アスティは天涯孤独だと思っていたけれど、ここには沢山彼の幸せを願う人がいる。

 ベラさんやダリアさんもそう。ギルドでも彼の名前を出せば友好的だ。


「さ、シーラ。そろそろ休憩は終わりだよ。……作るんだろ? 万能の回復薬を」


 デリラさんの言葉に気を引き締める。

 アスティが言っていた王太子殿下のお子様の病気にどうにかして対処したい。

 そうすればアスティの忙しさも解消されるだろう、という、とても、個人的な動機による。

 とはいえ宮廷薬師もいるだろう。

 平民の、何の後ろ盾も無い私の薬を飲んでもらえるかは分からないけれど、とにかく効果が高い物を作ればどうにかなるんじゃないかっていう。

 相変わらずお気楽に見えるけど、結構本気で作るつもりだ。


 私はミスティさんの蔵書で見つけたそれを、無言で差し出した。

 そう。『万能の回復薬を作るには』と書かれたやつだ。


「ミスティさんは本当に多岐にわたる活躍をされていました。若くして亡くなられたのが惜しいです」

「あいつはとにかく金になる仕事、それに繋がる技術を磨くことに余念がなかった。私生児であるアスティの学を修める為にな。

 それにレシピが載っているのか?」

「レシピ、というか材料が書いてありました。

 ギルドで冒険者たちに取って来て貰わなければならない物もありますが」


 精霊の踊り場では賄いきれないのが難点だ。

 聖龍の角やユニコーンの涙はどこにあるのかも分からない。

 この書物を見つけたときから、いつか作ってみたいと思い、少しずつお金を貯めてきた。

 相場と照らし合わせ、材料を必要な分取って来てほしいから。

 それが今、役に立つなら使わない手は無い。


「デリラさん、私はこの万能の回復薬を作りたいのです。ご協力、よろしくお願いします」


 頭を下げると、デリラさんは「ふん」と鼻を鳴らした。


「高貴な方の口に入れるんだ。試作したやつを冒険者にでも試しに使ってみてもらうのがいいだろうね。だから一つじゃダメだよ」

「分かっています。毒見は必要ですものね」


 二人で顔を見合わせて不敵に笑う。

 毒見とはいえきちんと安全な物を作るつもりだ。


 そうして私とデリラさんは万能の回復薬を作る作業に取り掛かった。


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― 新着の感想 ―
アスティかわいい! さっさと自己中夫の件を解決して早く3人で穏やかで幸せな生活を送ってほしいです。そして二人の子供もぜひ。
ほんと不貞するやからってこういう人多いよね。 別れたとたん「あいつと別れた復縁しよう」て話よく聞く。 当り前よね。既婚者ってカッコよく見えても嫁に作られた?男なんだから別れたらアラも見えるわさ。 シー…
 王族を味方につけてクズをどうにかしないとな。ラルフの教育にも悪いし!
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