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【本編完結/書籍化】騎士の夫に隠し子がいたので離婚して全力で逃げ切ります〜今更執着されても強力な味方がいますので!〜  作者: 凛蓮月
二章/新たな生活を始めます

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34/60

34.目指すは【side リオン】


 あれから騎士団の奴らがよそよそしい。

 魔物退治に出向いても、いつの間にか単独行動になっていたりする。

 俺が先陣を切って魔物を屠る間、仲間たちはその残党を狩っている。

 以前は連携して皆で戦っていたのに。


「お疲れさん」

「……ども」


 労いの言葉をかけてもふい、と逸らされる。

 皆疲労が目に見えて出ている。……以前はまだまだ活発に動いていたのに。


 気まずい思いをしたまま、けれど遠征に行けないストレスは朝、鍛錬をすることで発散させていた。

 家にいても誰もいない静かな空間は、嫌な気持ちが増長する。

 疲れ果ててもどうせ眠れない。

 目を瞑ればシーラの姿が浮かぶ。

 頭では分かっているのに体が勝手に家中を探してしまい、残った片割れの食器を見つけては崩れ落ちるばかり。だから最近は家にも帰っていない。


 マルセーズへの転勤は断った。

 あそこに行ってもシーラはいない。



「よお、リオン。毎朝精が出るな」

「団長」


 この日も素振りをして型を取っていると団長に声を掛けられた。

 汗を拭い木剣を下ろして頭を下げる。


「たまには手合わせするか」

「っ光栄です。よろしくお願いします!」

「ああ。……お前、剣帯はしてないのか?」


 団長の言葉に無意識に腰に手が回る。

 シーラから貰った剣帯は最近はしていない。


「あ……切れそうなので職務中以外は外してます」

「なるほど。ではお前の実力が分かるということだな」


 言うや団長は構えを見せる。辺りの空気がピリッとしたものに変わり、俺も迎え撃つ為に構えた。


 ヒュンッという音がして、団長から振り下ろされた剣が眼前に迫る。受け止めた瞬間手が痺れる程の衝撃を受けた。

 ぎりぎりと鍔迫り合い、流して打ち合う。

 払い、突き、切り落とし、型を意識しながら動かしていく。

 剣帯が無いと息が上がる。疲労から思考が鈍る。

 だが団長は息一つ上がっておらず、元々の実力の差を思い知らされた。


「っあっ!」


 木剣の乾いた音が響いて、汗で滑った剣が飛んで行く。その瞬間勢いよく喉元に突き付けられた。


「っはぁ……はぁ……降参です」


 肩で息をしながら両手を上に挙げると、団長はにやりと笑みを浮かべた。


「まだまだだな。脇が甘い。型に囚われすぎて相手の動きに一瞬遅れてる」

「……はい」

「驕らず鍛錬を続けろ」

「はい! ありがとうございました!」


 団長自ら稽古を付けて貰えるのは貴重な経験だ。

 俺はこれからも騎士団に貢献するつもりでいる。

 だが。


「フレイルチェストに行くことになった」

「え……」

「今回の不祥事で自らの管理責任を問うた。俺の認識不足だ。本来なら責任をとって退団すべきだろうが止められてな」

「それ……は……」


 俺の……せい、なのか?

 心臓が嫌な音を立てる。


「まあ、独り身のヤモメだ。ただこの年だから向こうに骨埋めることになるだろうな」


 団長には世話になった。

 まだ何も知らない新人だった頃、上司としていたのが団長だった。

 同じ討伐班の班長で鍛錬もずっと面倒を見てくれた。

 団長になったとき、誇らしくて、誰よりも喜んだ。


「リオン」


 名前を呼ばれ、肩が跳ねた。


「俺は部下のプライベートにはあまり口出ししたくない。だが、そろそろ手放すべきだと思う」


 何を、と問わずしても理解できた。

 だがそれはできない。尊敬する団長に言われても、諦めきれなかった。


「お前には守るべき小さな子がいる。もう身軽じゃないんだ。私生児にした責任はお前が負わねばならん。

 最後の忠告だ。愛しているなら手放せ。元嫁さんの邪魔はするな」

「……」

「自業自得で失くしたものに追い縋るな。それから慰謝料は払えよ」


 団長の言葉が重くのしかかる。

 愛しているなら手放せ?そんなことできるわけがない。

 シーラには家を守ってもらわねばならない。


「あと飯食って早よ寝ろ。睡眠不足は思考を削り取るからな。眠れなくても目を閉じとけ」


 団長の後ろ姿を見ながら汗を拭う。

 双肩にのしかかった物が重くてしばらく動けなかった。


 その後重い足を引き摺り着替える為にロッカールームにやって来た。


「あ……」


 そいつは俺のロッカーの前で、扉を開けて何かを持ち、右手には短剣を握っていた。

 目の前がカッと熱くなり考えるよりも先に体が動いた。

 周りが騒然としているが構わなかった。

 何より、シーラとの繋がりを絶たれたようで苦しかった。


 殴る俺、殴られる男、止める奴ら。揉みくちゃになり騒ぎを聞き付けた団長が一喝して収まった。

 俺はもう、ここにはいられないと思った。

 尊敬する団長もいなくなる、人の物を勝手に壊す輩がいる。

 そんな場所に未練は無かった。


「リオン」

「よぉカール。ああ、ちょうど良かった。シーラの居場所を知らないか?出て行ってもう半年以上になるだろ?そろそろ迎えに行ってやらなきゃいけないよな」


 親友のカールは息を呑んだ。何度も瞬きをし、何かを躊躇うように口を引き結ぶ。


「俺は知らないよ。王都を出た、としか。アメリも行き先は聞いてない」


 親友であるアメリに告げずに行ったのか。

 シーラはそんな薄情な女ではなかったはずなのに。

 きっと今独りで寂しい思いをしているだろう。

 早く見つけて慰めてやらねば。


「そうか。はぁ、たった今から無職だよ。とりあえず冒険者登録でもするか」


 思えば早く冒険者になるべきだった。

 シーラと二人でクエストに行き報酬を貰う。

 騎士団に入らなければ、という考えが脳を過ぎる。


「リオン、シーラさんは……」

「ギルドに行くなら婚姻届も出さないとな」


 ぽつりと言った言葉にカールは絶句した。

 何も言わない奴を横目に踵を返す。

 ロッカーの中を片し団長に挨拶に行った。

 辞める意思を伝えると「そうか」と言われた。

 アッサリと退団届に団長印が押される。

 これを以て王国騎士団員ではなくなった。


 その後冒険者ギルドに登録し、婚姻届も貰った。

 何度提出しても受け取られない。

 途中でオッサンに止められてしまった。

 次はこいつがいない場で出さないとな。


 しばらくは王都周りでクエストをこなした。

 ある程度資金も貯まった。

 王都の自宅に私生児の件についての手紙が入っていた。

 教育費用として年間金貨千枚必要らしい。

 これも片付けておかねばならない。



 俺はマルセーズへと向かった。

 シーラと出会う前には無かった存在が俺の肩にのしかかる。

 重くて辛くても下ろせないそれはへばり付いて離れない。


「リオン! お帰りなさい!」


 以前はこの笑顔に癒やされていた。


「パパー!」


 以前はこの声を愛らしいと思っていた。

 けれど今は何よりも重い存在だ。


「シアラ、話がある」


 シアラの笑顔が消え、小さく喉が鳴る。

 立ち話もなんだから、と言われたが最低限を済ませたら出て行く予定だ。

 リリアは奥の部屋へと下がらせた。


「ね、あのね、リリアの事なんだけど。その……」

「教育費用の事なら俺にも来ていた。再婚して実子届けを出せばいいのだろうが、シアラ、俺はお前とは結婚しない」


 彼女の口が小さく「え」と開いた。


「リリアの費用は出す。シーラが……言っていたからな。だがもうお前と夫婦の真似事はできない」


 目が驚きに見開かれる。何度も口を開いては閉じ、緩く頭を振る。

「うそ」と言われても動じない。

 あの頃の俺はなぜあんなことをしていたのか。


「離婚、して、くれたんだよね? 私を愛してるって」

「お前の為じゃない。愛してるなんて口だけ動かせば愛してなくても言える」


 シアラが手を振りかぶる。それは乾いた音を立てた。


「嘘、嘘つき! 愛してるって、唯一だって!

 奥さんに愛は無いって!」


 か弱い力で拳を作り、俺の胸板を叩く。

 それでも気持ちは凪いだままだ。


「結婚できるって、信じてたのに……!

 こんなだったら子どもなんか……!」

「……ママ?」


 嗚咽をあげていたシアラの声に奥からリリアが出て来た。

 不安そうに見ているこの子を見ても、以前のような愛着は無い。


「金はリリアの名義でギルドに振り込む。毎年金貨千枚は作るがそれ以上は期待しないでくれ」


 それだけ言うと家をあとにした。

 もう会うつもりはない。



 それからはクエストで金稼ぎをしながらシーラを探した。

 だが手掛かりも掴めないまま時が過ぎて行く。

 情報を得る為酒場で一人で飲んでいた。

 周りのざわめきの中、情報が無いか注力した。


「もー、ディランたら元気出しなよー」

「こないだ行ったクエストがさー」

「西の方でワイバーンが…」

「ラムちぃお友達できたんだって! それがね、なんとシー……」

「あー、そういう話は部屋で聞こうかなぁ」


 俺はコトリとグラスを置いた。



 目指すは西へ。


今話で第二章は終わりです。

次回より第三章になります。

もう少し続きますので最後までお付き合いいただけると幸いです。

よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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― 新着の感想 ―
シー…だけで察知したのかw
クズは何処まで行ってもグズ!付ける薬はない
本日の第三部更新を得て改めて読み返すと、リオンが自分本位なクズ野郎過ぎて苦笑。読むごとに、更に苛立ちと気持ち悪さを覚える。『シーラに護られたリオン』のカッコよさに惹かれたシアラ。現地仕様リオンに騙され…
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