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90.友達


「素晴らしい……。このハガネの輝き、美しさ。こんなに飾り気がないのにこの匂うばかりの気品はどうだ」


 研ぎなおしたドウルさんの剣を見てブランバーシュさんが感嘆します。

「必ず返せよ」

「それはもちろん」

「お前が返しに来るんだぞ」

「死ぬなってことですな」

「言わせるな」

 デレましたね? ドウルさん今デレましたね? そんなのあなたがやっても……。

 いえ、エルフですしドウルさんもすごい美男子ですから、ちょっと危ない感じに見えてしまいます。


「ありがとうございます!」


 ブランバーシュさん、深く頭を下げました。


 出て行こうとして声をかけられます。

「あー、勇者、言っとくことがある」

「はい」

「……これは言わないでおこうと思ったんだが、やっぱり言うわ。その剣には呪いがかけてある」

「呪い……」

「エルフを斬ったら持ち主が死ぬ呪いだ」


 ……。


 そんなのあんの!

 サランの顔を見ると、無表情で頷きます。


「エルフの武器はエルフに害成さぬように全部そうするんだ。敵に奪われないように、エルフ同士でもめごとにならないように」

「なるほど」

「お前がその剣でエルフに害成せば命はない」

「肝に銘じます。また、そんな気など俺にはさらさら無い。サランさんもシン君も俺が命に懸けて守りますよ。絶対に斬ったりしません」

「頼む」


 そうして、僕たちはドウルさんの工房を出ました。

 もう夜更けです。

 黙って、それぞれのテントを張って、その日は村の広場で野宿です。

 火が焚かれ、サランの簡単な夕食がふるまわれます。


「明日、俺はラルトラン正教国に行く」


 ……。


「これ以上は頼めないな」

「頼んでくださいよ」

「?」

「……友達でしょ?」


 ブランバーシュさんが驚きますね。


「でもサランさんとの約束が……」

「サランも守ってくれるんでしょ?」


 ……。


「しょうがないね」

 サランが笑います。

「どうせこうなると思ってたさ」

 そう言って欠伸します。

「転移魔法、何人まで?」

「いや特に試したことは無いが、まあ君らぐらいなら」

「じゃあ決まり。私は先に寝るよ」


 そのまま、サランはテントに入って先に寝ちゃった。

 焚火を囲んで、二人きり。


「大丈夫なんですか?」

「ああ」

「サラン重いですよ?」

「そこかいっ!!」


 あっはっはっは!





 それから二人で作戦会議しました。

 ブランバーシュさんは旅で何度か例の正教国に行ったことがあるそうです。

 若い頃の話ですけどね。だから転移で直接飛べるそうです。

 

「街はずれの闘技場でやるんですね」

「ああ」

「周りに高い建物はありますかね」

「いっぱい」

「闘技場を見下ろせるぐらい?」

「そうだね、闘技場からいろんな塔とか、(やぐら)とか、時計塔とか、鐘突き堂とか見えるから」

「ずいぶんとお金のかかった街ですね……」

「見栄とハッタリの国だからね。そういうところには金を惜しまないさ」

 なるほどね。

 僕がいた世界でも教会や王様が莫大な権力握ってた国って立派な大聖堂とかお城とかありますもんね。

 今でこそ世界遺産になったりしてますが、アレを建てるのに庶民がどれだけ税金を搾り取られ、使役されたか考えるとあんなもんがあるなんて何の自慢にもならないような気もします。


「ブランバーシュさんは」

「もういいかげんブランと呼んでくれよ」

「ブランさんはどうやって正教国に入国します?」

「どうやって入国しろとかなにもないさ。手ぐすね引いて待ってるよ」

「じゃあ、危険や妨害を回避するには……」

「そうだな。指定された時間になったら闘技場のド真ん中にいきなり転移魔法で現れてやるさ」

 あっはっはっは!

 それ最高!

 グッドアイデアです! カッコイイですね!


「じゃあ、その前に街に普通の旅人のふりしてこっそり入って、街の下調べをしましょうか」

「うん、俺もそのつもり」

「で、僕なんですが……」

「いや、特に何かしてもらおうとは本気で考えてなかったんだけど」

「いろいろ卑怯な手を使ってくるに決まってるんですよ」

「まあそうだね」

「絶対逃げられない罠を仕掛けてきます」

「ですよね――――」

 そう言ってブランさんが笑います。


「僕がその邪魔になりそうなものをコッソリ排除しようと思うんです」

「できるのかい? いや……できるに決まってるな。ダイノドラゴンに膝をつかせるところを俺は見たんだから」

「それは最後の手段。ダイノドラゴンはブランさんが倒して」

「了解」


 了解って……。それを簡単に引き受けちゃうんだから勇者ってやっぱり凄いなあ。

「僕は遠くから待機して、ブランさんが本当に危なくなったら援護します」

「うーん、でもその連絡はどうしよう」

「コレです」


 マジックバッグから無線機を取り出します。

 ハンディのデジタル簡易無線機です。日本のメーカー製ですが海外向けだから日本とは使う周波数がちょっと違ってたりはすると思いますけど、操作方法は僕が日本で使ってたものと全く同じです。

 これはマジックバッグで購入したもので、ナノテスさんとの通信に使ってるものとは別のやつですね。アウトドアショップでも買えるやつ。まあそれでも1~2kmぐらいは楽勝で通信できます。

 アマチュア無線機はさすがに購入できませんでした。お店で取り扱いが無いのでしょう。異世界だから電波法とか関係ないし使い放題なのにさ、惜しいねえ。


 薄型で乾電池を使うタイプ。この世界電気が無いんで充電式ってやつが使えません。電池なら買えますからこっちのほうが便利です。

 これは僕がサランと一緒に狩りをするとき、二手に分かれなきゃなんないときの連絡用に使ってます。

「これ便利だね――!」ってサランも大喜びしてますよ。


「むせんき!?」

「これで離れていても話ができます」

 耳にイヤホンを突っ込むとコードの途中にあるマイクが口元近くにぶら下がります。VOX機能がありますので音声をキャッチすると自動的に送信になりますよ。

 ロックをかけてあるからどこ触っても設定がいじられることもありません。

「す……凄いの持ってるね」

 付けて見せて、ブランさんにも同じようにしてもらいます。

 本体は胸ポケットに。スイッチON。


「本日は晴天なり。本日は晴天なり。聞こえますか」

「いや夜だから、って聞こえる!」

「はい感度良好ですよ。では僕は離れます」


 立ち上がってブランさんから離れます。

 どんどん離れます。

 見えなくなるまで離れます。


”ちょっちょっちょっシン君!”

「はい」

”こんなに離れても大丈夫なの?”

「はい、聞こえてますよー」

”これってどれぐらい届くの!?”

「2000ナール以上ですね」

 1ナールはこの国の単位で、僕らの世界で言う1ヤード(91cm)とほぼ同じです。1800m以上届くってことです。

”すげえ……。いやマジヤベえよこれ。神様でもこんなことはできないよ!”

 いやこれでいつも僕に連絡してくる女神いるんですけど。


「そんなわけでしてね、ブランさんは闘技場で闘ってるとき、それこそマジヤバくて助けてほしいときは僕にこれで通信してください。援護します」

”……わかった。それで、援護の方法は?”

「そりゃあ、超遠距離狙撃ですよ」

”えええええええ……”





 翌朝、ブランさんの転移魔法で一気にラルトラン正教国の郊外に飛びます。


「……すごい」

 サランが驚きます。高い城壁に囲まれた強固な要塞都市です。

 規模はジュリアール王国よりずっと小さいですけど、城壁の要所要所に(やぐら)があり監視兵が見守っています。

 勇者の来訪を待ち構えている雰囲気ビンビンですね。

 街全体が巨大な罠に見えてしまいます。

「初代勇者の国を名乗るんだ。魔王が攻めて来たって大丈夫なようにできてるのさ。見た目は」


 そんな大層な……。なんの心配ですか。

「サランも」

 無線機を渡します。三台用意しました。

 これでお互い通信できます。今は自動的に会話ONになるVOXは切ってあり、通信したいときはスイッチを押しながら話します。

 これはブランさんにも説明済みです。万一はぐれたり事件に巻き込まれたりしても大丈夫。


 正門を行き来する人たちを暫く眺めまして、その服装とかを見て、僕らも市民としておかしくない格好をしないといけません。

 マジックバッグからいろいろ服を出して適当に見繕います。

「うんこれにする」

 サランが町娘風のロングスカート、カーディガン、スカーフを選びました。

 僕も普通に作業用ズボンとかシャツとかこちらで購入した平民風の服にします。

 ブランさんも謎空間から服を取り出して眺めておりますが……。


「……なんでそんな派手な服しか持ってないんです」

 赤とか緑とか青とか白とか黒とか原色で派手な刺繍が入っているようなのばっかり。


「いやだって勇者だし……」

「……しょうがないなあ」


 はい、僕のマントとたぬ……アライグマの帽子を渡します。

「じゃ、あそこの木陰で着替えましょう」

 着替える僕ら。

「なにガン見してんですか――――!!」

 サランの着替えを防ぐように僕がマントを広げてブランさんに立ちふさがります!

「いやエルフはそんなの気にしないと聞いて」

「僕が気にします!」


 サランが笑いながら素敵なおっぱいをブラウスとカーディガンで覆います。

 サランサイズのブラ、どっかに売ってませんかね……?



次回「正教国侵入」

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― 新着の感想 ―
[一言] そういう意味ではありません。 他人を助ける助けないという決定や物事に関わる関わらないという決定の判断が常にぶれ続けていて一貫性がなく、その一貫性のなさがすべて主人公の感情だけで決められている…
[気になる点] 主人公と作者の了見が非常に狭く、特定の考えに凝り固まっていて柔軟性が無い
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