84.さらば王都
朝。
「腹減った――――!!」
うるさいわバリステス。
しょうがないので、サランと一緒に朝食作ります。
とっておきですよ。米を油で大きなフライパンで炒め、別に鶏肉や玉ねぎを炒め、水を加え、サフランと塩で味付けし、野菜を並べて蓋をして炊きます。
パエリアです!
海産物が入って無いのが残念ですが。
「うめえ――――!」
あっはっは。おいしいでしょう!
パエリアって火加減が難しくて失敗しやすいんですけど、今日は上手にできました。
最初に生米を油で炒める。これをやらないとパエリアは絶対うまくいきません。コツですね。
「おうっお前ら、待たせたな」
僕らのギルドマスター、バッファロー・バルさんがやってきました。
ゴーンゴーンゴーン……。
王都の時計塔が鳴ります。もう九時です。遅い朝食ですね。
「やっと帰れることになったぜ……。馬車取りに行くからよ、一人来てくれ」
「あいよっ」
バリステス副リーダーのミルドさんが気軽に立ち上がってバルさんと一緒に正門に戻っていきました。
「撤収――――! いつまで食ってる!」
バーティールさんが怒鳴ります。あっはっは。
みんな水場に行って自分の皿は自分で洗います。手漕ぎポンプです。いいですね! これ、僕の家にも付けたいですね! お風呂場を増設したら付けましょうか。
僕らはフライパンや食器洗い。それにテントもすばやく分解です。
寝袋もシートもぐるぐる巻きにしてどんどんマジックバッグに突っ込みます。
二頭立てのギルドの馬車、二台が正門から出てきました。
「マスター、昨日の騒ぎ、結局なんだったのさ」
馬を止めて、みんなで荷物を積み込んで、乗り込みます。
「ああ……。昨日な、教会の奥であの召喚士のキーリスの取り調べやっててな、で、結局召喚した魔物のしつけがなってねえせいで大勢の人を死なせた罪で死刑に決まったんだけどよ、そしたらヤケになったのかあのダイノドラゴン召喚しやがったらしいや」
「なんで裁判を教会でやるんですか?」
そこ、ずーっとおかしいと思ってたんですよね。そういうのは国がやるんじゃ?
「そりゃお前武闘会の主催が教会だからだよ。責任教会に取らせるためさ」
なるほど、この件国はノータッチ。上手な責任の押し付けですね。
「しかしだからってそこであんなの召喚しちゃうなんてひどい話ですね」
「どうせ死刑になるのならなんでもやるだろうさ。結局そのダイノドラゴンにキーリスも食われちまった。召喚したやつがいなくなっちまったせいでどうしようもなくなって大聖堂でさんざん暴れた上に街に出てきて、まだ全部はわからんが三十人は死んだな、あれは」
大惨事に大惨事を重ねて最悪ですね召喚士ってやつは……。
「で、どうなったんス?」
「昨日の武闘会の優勝者のブランバーシュってやつがいたろう。あいつが出てきて一人で討伐しちまった。さすがは勇者だぜ」
「おお――――っ」
「まあ最後は衛兵の手もだいぶ借りたが、それでも決め手はやっぱりアイツさ。大したもんだぜ勇者ってのはな」
そりゃよかったです。僕のことは全くバレてないようで安心しました。
「勇者のやつは、『その前に攻撃してくれたチーム・ジャステスのおかげだ』とか言ってるらしい。あいつら全滅したからな。ま、顔を立ててもらってジャスティスの連中もこれで浮かばれるだろ」
……あいつら全滅したんですか。
おバカな連中です。
ま、僕あいつらに妙に目をつけられていましたから、正直今後トラブルになりそうな連中がいなくなってくれてちょっとありがたいかな。
「街はどうなってます?」
「死体だらけさ。市民の死体、兵士の死体、ジャスティスの死体にダイノドラゴンの死体。やじ馬でとんでもねえことになってる。あちこち崩れたし壊されたし火事にもなったし、長居すると面倒そうだ。さっさと帰るぞ」
「えーそれ見たいー」
「見たいよな」
「ダイノドラゴンだろ? 見逃すって手はないだろ」
「賛成です」
「ダメだダメだダメだ――――!」
バルさんが怒鳴ります。
「さっさと乗れ。帰るぞ!」
バリステスの馬車が先頭。
後ろでバルさんが手綱を取ります。
僕は御者台のとなりでバルさんと並んで護衛です。
「シン」
「はい」
「なんかやったろ」
「……」
「しょうがねえなあお前は」
そう言ってバルさんがニヤッと笑います。
お見通しですかね。
「ダイノドラゴンの足を撃ったな?」
「まあ。そこがあいつの弱点だと思いましたし」
「さすがだよ。あの傷わかるのは俺とお前ぐらいだろう。王都の連中にはわからんさ」
「見に行ったんですかダイノドラゴン?」
「そりゃあな。あれを見逃すって手はないだろ」
「悪い人ですねえバルさんは」
「お前が善人すぎんだよ。上手く立ち回らないとこの先も生きていけねえぜ?」
「肝に銘じます」
「これだけ手柄をあげておきながら、一言も自慢できねえ……もったいねえな。お前たち」
「武闘会を見て思いました。僕が勝てる相手なんて一人もいない。誰かが僕らを殺そうと思ったら簡単に殺せてしまうんです。そんな世界です、ここ」
「まあそうだ」
よくわかってますよね。バルさんは。
「あのダイノドラゴンだって僕が手を出さなくても勇者さんが倒してたでしょう。僕はあんなふうに前に立って銃を向けるなんてできません。あんな勇者さんがいる世界、僕の出番はもう無しです」
「俺も願い下げだぜそんなことは」
「だから、こんなことはもうヤメです。骨身に染みました。これからは僕らはエルフ村守って、今まで通りたまに毛皮売りに来て、そんなふうに生きて行こうと思います」
「……そうか。ん、ま、それもいいな。俺もちょっと調子に乗りすぎた。なんでもお前らにやらせりゃいいって、甘えてたわ。若い連中鍛えるのも俺の仕事だ。てっぽうなんかに頼ってたら、俺らが後の世代に役に立てるやつを残せねえ。年取ってから困っちまうぜ」
「そうですよ」
「だな」
あっはっは。
振り向いたら、サランがニコニコしてました。
僕は僕の幸せ守って、この世界で生きればいい。
それが一番なんだと。
だから、僕の冒険はもう終わりです。
もう王都に来ることも無いでしょう。
さようなら、王都。
僕は、御者台の上に立って、振り向いて、
遠くなる王都の城壁をしばらく眺めていました。
――――――――第九章 END――――――――
次回、第十章「勇者VSハンター」




