65.ゼロ距離射撃
朝になりまして、出発です。
今度は僕らだけです。
バーティールさん、僕、サラン 副リーダーミルドさん、弓ラントさんという5人の布陣。領主さんや魔法使いのおネエさん、回復ニートンさんは留守番です。
バーティールさんとミルドさんとラントさんは盾持って今回は防御に徹します。
サランの弓を全方向に放てるように屋根なしの解放荷馬車ですね。
これを目標を分散させるため六頭引きの馬車一台にします。奴は馬が大好きのようですので。
サランが荷馬車の中央。
僕がその横で、想定外に備えて375H&HマグナムライフルのレミントンM700を下に置いて、ナノテスさんの祝福がかかったOOバックを7発詰めた26インチ散弾銃身のM870を装備します。
左のポケットは残り18発でパンパンです。
M700はスコープを外してオープンサイトだけにしています(※1)。
近距離戦闘特化ですね。これを使う羽目にならないことを祈りますよ。
サランの矢には、教会が用意した銀の矢じりが付いています。
出発前に、こっそりナノテスさんに通信しましてね、相談しましたよ。
”その矢マジックバッグに入れてください。祝福してあげますから”
「教会の加護に上書きされちゃうんじゃないですか?」
”あんな教会のヘボ司祭がかけた加護なんて効果ゼロに決まってるじゃないですか。どっちを信じるんです中島さん”
「はいはい。わかりましたよ」
サランから特製の矢を五本借りて、マジックバッグに入れて準備完了。
胸ポケットに入れておいたデジタル無線機から、”(おっけいです!)”って小声で返事来たので、バッグから取り出してサランに返します。
サランは僕のやることなら完全に信頼してくれていますのでね、なんにも言わずに笑って矢を受け取ってくれましたね。
ぱかぱかとゆっくり六頭馬車を歩かせます。
今回はやられること前提で駄馬ばっかり集めたそうで、こいつら走りませんから。
馬にはちょっとお気の毒です。
「……さあっ、そろそろだが……」
荷台の中央でサランが弓に矢をつがえていつでも引けるように待機します。
僕も銃口を上に向けて、左手の人差し指、中指の間にショットシェルを二発挟んでフォアエンドを握ります。
「来た!」
ガサガサガサッ!
ものすごいスピードで草むらを揺らしながら何か黒い物が街道横の斜面を駆け下りてきます!
大きくジャンプして先頭の馬に飛び掛かりました!
そこをすかさずバーティールさんが手綱を引いて馬を止め、ヒヒヒヒーンッって馬が後ろ立ちしたところをサランが馬にしがみついているワーウルフに矢を放ちます!
ドシュッ!
突き刺さりました!!
効果あるじゃん! さすが女神様!
馬を蹴ってワーウルフがこちらに飛び込んできます!
立ち上がったバーティールさんが足を踏ん張って盾を突き出し……押し倒されました! なんというパワーです!
盾の上にのしかかってるワーウルフの頭に銃口を押し当てるようにして!
ドッコォン!
血しぶきをあげてひるむワーウルフに!
ドッコォン!
のけぞるワーウルフに!
ドッコォン!
ひっくり返るワーウルフに!
ドッコォン!
荷台から転がり落ちるワーウルフに!
ドッコォン!
這いずって逃げようとするワーウルフに!
ドッコォン!
銃声に驚いた馬たちが大暴れしていて、ワーウルフを踏みつけています
ワーウルフ、ずりっずりっと馬車から離れようとします。
なんというタフですか!
バーティールさんが荷台から飛び上がって全体重を込めてワーウルフの背中に槍を突き刺します。
半分も刺さらずにバーティールさんが転倒します。
なんて硬い体ですか!
ザクッ!
ザクッ!
サランの矢が立て続けに突き刺さります。
時間が稼げたうちに銀のショットシェルを再装填して僕も荷台から飛び降り、這いつくばっているワーウルフの首を狙って、ほとんどゼロ距離で!
ドッコォン!
ドッコォン!
ドッコォン!
ドッコォン!
ドッコォン!
ドッコォン!
……6発目で首が胴体から離れました。
むごいと思いますが、ここまでやらないと僕も安心できません。
これが魔物……。本物の魔物。
今更のように震えが来ます。
カタカタカタカタ……。
手が震えてショットシェルを装填するのが難しいです。
怖かった……。
生前、ヒグマに襲われて死んだ記憶が蘇ります。
僕のトラウマです。克服できてたわけじゃなかったんです。
「くそ!」
悔しそうにバーティールさんが苦笑します。
「やっぱり最後はシンかよ」
そこですか。
誰でもいいじゃないですかもうこんなやつ相手の戦闘とか。
「大丈夫かシン」
「洗ってきます……」
気が付いたら僕、返り血浴びて血まみれでした。
街道を降りて小川を見つけ、そこで服を脱いで顔を洗います。
服も……。これはもう着替えちゃったほうがいいでしょうね。
脱いだ僕の迷彩のハンター服をマジックバッグから出したビニール袋に全部入れ、じゃぶじゃぶ体も洗います。
「ナノテスさんナノテスさん、こちら中島……。応答願います」
デジタル無線機でナノテスさんに連絡します。
”はーい! ナノテスでーす! どうですっ? 銀の弾効いたでしょ!”
「あ……。ありがとうございます。おかげでなんとか倒せました。弾12発も使っちゃいましたけど」
”そうでしたかー。あれならワーウルフの防御を突き破れるはずなんですけどね。丈夫ですねー。さすがは魔人”
「あの、僕けっこう返り血浴びちゃったんですけど、これ大丈夫でしょうか」
”大丈夫ですよ。相手死んだらもう影響ないですから”
そうは言ってもねえ。
「ちょっとおっかないです」
”そうですか、じゃあ浄化してあげますからマジックバッグに入ってください”
「いやいやそれは無理でしょーーー!!」
いくらなんでも人が入れるほどの大きさはありませんよ!
”冗談です。マジックバッグ頭からかぶってください”
「頼みますよ?」
そうして僕は黄色い鞄の口を開いて、頭からかぶりました。
暗いです。
”うんにゃうんにゃうんにゃうんにゃ。はい、もう大丈夫です!”
「ありがとうございます」
そうしてバッグを頭から取りますとね。
「……なにやってんのシン」
……心配して見に来たサランが、全裸でバッグを頭からかぶってた僕をそれはそれはもう心配そうに見てました。
愛用のM870も血まみれでしてね。
これはもう水に浸してじゃぶじゃぶ洗いました。
あとでめっちゃ錆びると思うので、早くに手入れしないといけませんね。
ぶんっぶんって水振って、着替えを出し、平民服に着替えます。
サランがタオルで僕の体を拭いてくれて、かいがいしくお世話してくれます。嫁さんっていいですね。
戻るとみんな、ワーウルフの上に枯れ木や丸太を組んで、燃やす準備してました。
「御領主様からは、討伐証明いらんって言われてるからな。持って帰るほうがやっかいで危険だと」
僕もマジックバッグから灯油を購入して、振りかけます。
枯れ木に突っ込んだ、灯油をしみこませたぼろきれにサランがファイアボールで点火すると、組んだ丸太が少しずつ燃え上がります。
ずっと愛用していた迷彩のハンター服の入ったビニール袋を放り込んで、一緒に燃やします。ワーウルフの血だらけですからね。
ごうごうっ。
すごい炎です。
炎の横で、きれいな布を広げ、水洗いしたM870をバラバラに分解し、水気を拭いて乾燥させます。構造が簡単なのでね、完全分解してもパーツ数が少ないですよM870は。トリガーアッセンブリは分解する必要はありません。ハンマーとかトリガーとかの一式は組んであるまま丸ごと取外せます。
ドライバーで回さないといけないのは後ろのストックの部分だけですね。
ガンオイル代わりのWD-40をたっぷりと振りかけて、浸透させ、水気を完全に追い出して……。
燃え上がる火のそばに置いたM870のパーツの一つ一つが、触ると熱いぐらいです。ストックとフォアエンド以外は全部金属製ですからね。すぐに乾燥して、組み立てられるようになるでしょう。
「シン、忘れてる」
サランが荷台の上に置きっぱなしだったレミントンM700を渡してくれます。
「ありがとう」
座ったまま、M700を抱いたら、体の震えが収まりました。
銃持ってないと安心できないんですか僕は。
銃依存症なんですか僕は。
こっちの世界に来て、今までで一番怖かったです。
サランが後ろに来て、そっと抱きしめてくれました。
みんながそれを見て、めちゃめちゃ羨ましそうな顔をしています……。
――――作者注釈――――
・ゼロ距離射撃
「ゼロ距離射撃と言うのは敵に銃口を押し当てるぐらいの近距離で撃つ、という意味では本来無い。大砲で仰角のない水平射撃の事」という定説に対する反論も、実は間違っていて、「発射と同時に炸裂するように炸裂弾の信管をセットすること」という説もある。今後も銃史をさかのぼればいくらでも違う解釈が出てくる用語と思われ、多用するには注意が必要である。
とは言っても、なんかカッコいいから使いたくなるものなのだが。
※1.オープンサイト
オープンサイトが付いている銃にスコープを付けるとどうなるかというと、うすぼんやりと下の方に照門や照星が見える。黒っぽい影にしか見えないのでスコープの視界を遮ったりはしない。双眼鏡や望遠鏡を持っている人は覗きながらレンズの前を指を立てて振ってみよう。別に視界の邪魔にはならないのがわかるはずである。
気にしなければ別にまったく邪魔にならないので気にしない人はそのまま使うし、気になる人はスコープを取り付けるときには照門、照星を外してしまう人もいる。
なお現代の狩猟用ライフルは最初からスコープを取り付けることが前提なので照星、照門のついているライフルは少なくなっている。
次回第五章最終回「僕の新しい能力(なお連載66話目にしてやっと。)」




