電卓でできる銃の計算式
実銃で狙撃をするとなると、単位は全部ヤードポンド。
運動エネルギーの計算もスコープの調整も、全部電卓片手に計算するなんて羽目になる。ちょっと計算式を見てみよう。コンピューターを使わなくても高校数学、物理に関数電卓程度でなんとかなる。
●距離
鉄砲はなんでもアメリカ基準なのでカタログ値、海外サイトでの距離はヤードポンド法で表記されている場合が多い。単位はインチ、フィート、ヤードである。
1インチ(in)=0.0254m(25.4mm)
1フィート(ft)=12in=0.3048m
1ヤード(yd)=3ft=0.9144m
距離計で200ydと表示されたらメートル換算は
200yd×0.9144=182.88m
暗算する場合はだいたい200ydの十分の一を引けばいいので、200-20=180mでも近似値が得られる。
口径は30口径なら、口径はインチ表記なので
0.30×25.4mm=7.62mm
逆に5.56mmNATOのようにミリ表記なら
5.56÷25.4mm=0.219inである。
223口径じゃないの?と思うかもしれないが、このライフル口径で5.56mmというのはライフリングの山径(凸)で、223インチは谷径(凹)であることがわかる。
ライフルでも拳銃でも、弾薬の口径を呼ぶときはライフリングの谷径で表したり、山径で表したりはバラバラだ。おそらく同口径でも薬莢の形状が異なる場合の区別をするためと思われる。
なお「マグナム」はメーカーの商品名であり、「火薬量がこれ以上がマグナム」のような基準は存在しない。
銃のサイズをカタログ表記するときにはインチ、射撃距離を表す時はヤードが使われる。米国人がメートルを呼ぶときは「メーター」と発音するので注意。
銃とはあまり関係ないが、ヤードポンド法の表記で一番わけがわからないのは1インチ以下の寸法を分数で表記する習慣である。米国でもメートルネジが主流になりつつあるらしいが、英米の旧車をいじるときこのインチセットのレンチを持っていないとボルトを回せないということになる。通常のレンチセットで表記すると以下の通りとなる。
1/4 = 6.350mm
5/16 = 7.938mm
3/8 = 9.525mm
7/16 =11.113mm
1/2 =12.700mm
9/16 =14.288mm
19/32=15.081mm
5/8 =15.875mm
11/16=17.463mm
3/4 =19.050mm
25/32=19.844mm
7/8 =22.225mm
1 =25.400mm
日本人では面倒くさくてモンキーレンチを使ってしまいたくなるが、英米の人がこれをわかるというのは逆にすごい。Macなど米国製コンピューターをいじるときも分数表記の六角レンチを買ってこなければ分解できない場合も少なくない。
散弾銃のショットシェルの長さもこのインチの分数表記なので頭が痛い。
2-1/2in =64mm
2-3/4in =70mm (通常のショットシェル)
3in =76mm (マグナムショットシェル)
3-1/2in =89mm
がある。マグナムショットシェルの銃身で通常のショットシェルは使用できるが、逆に通常の銃身でマグナムショットシェルを撃つと(クリンプが広がる長さまで薬室は削ってあるのでマグナムショットシェルが入ってしまう)故障や事故の原因となるため誤用は厳禁である。
メートルはフランスで地球の大きさを元に決められた。1メートルは地球の外周の四万分の一キロメートルである。なぜ四万なのかというと、これは北極から赤道までの距離を一万キロとしたからだ。なので地球の円周だと四倍の4万キロとなる。
ちなみに1海里(船舶航空マイル)は1852mだが、これは緯度経度の角度1度の60分の1(1分)の距離だ。なんとも半端な距離に見えるマイルであるが、これを緯度、経度線が書き込まれた海図に当てはめると大変便利な距離の単位だということになる。
船や飛行機で使用される速度の単位ノットは、1時間で1マイル進む距離だ。
「1マイル毎時」とは言わず、ノットという速度単位で呼ぶことになっている。
ノットと言うのはロープの結び目のことだが、これはかつて船の速度を結び目をつけたロープを海に投げ込んで測ったときの名残である。
●重さ
銃の重さやパーツの重量はポンド(lb)が使われる。1ポンドは453.5924グラム(g)である。
銃のカタログ値でweight:5.5lbと書いてあったら、
5.5lb×453.6=2494.8g≒2.5kgとなる。
スコープなどの重量はオンス(oz)という小さい単位で表記もされる。
1ポンド(lb)は16オンス(oz)だ。
453.5924÷16=28.349525gなので、1オンスは約28gとなる。
スコープの重さがカタログ値で18ozと書いてあったら、
18×28=504gの重さとなる。
極めつけにやっかいなのが弾丸重量や火薬量に使われるグレイン(gr)で、1ポンドが7000grだ。グレインは麦一粒の重さが単位の元になっている。
gとgrは全く違う単位なのだ。気を付けなければ事故になる。
1グレイン=0.064799グラムになる。
火薬の重さが25グレインだと、
25×0.064799=1.619975g≒1.62g
となる。ハンドリロードするとき火薬量はグレインで指定されているから、国内の重量計を使う場合くれぐれも間違わないようにしていただきたい。でないと暴発事故や弾詰まりの原因となる。
●弾速
弾丸速度はft/sまたはfps(フィート毎秒)で表記される。
射撃距離はydなのに速度はftなのだ。船や飛行機の速度はノット(1852m/h)で車の速度や距離は米測量マイル(1609.344m/h)で飛行機の高度はフィートというヤードポンド法はなんとかならんかと誰もが思うが北米の人は気にしない。不思議である。飛行機を発明したのが米国だったので米国の基準が航空基準に決まってしまった。フランスに飛行機を発明していただきたかった。
1ft/sは0.3048m/s(毎秒メートル)なので、1200fpsと表記されていたら、
1200×0.3048=365.76m/sが弾速となる。
●弾丸のエネルギー
弾丸のエネルギー表記も日本で使われるJではなく、ft・lbとフィート重量ポンドで表記される。
1ft・lbは1.35582Jなので、弾丸エネルギーが35ft・lbと表記されていたら、
35×1.35582=47.4537Jとなる。
銃のカタログではft・lbはft・lbsと書いてあったりft・lbfと書いてあったりバラバラだ。少しずつ意味は違うのかもしれないがメートル法みたいにちゃんと統一してほしい。
●弾速とエネルギー
弾丸重量と初速がわかればエネルギーが計算できる。
弾丸重量が23grなら
23gr×0.064799=1.490377g
弾速が720fps(フィート毎秒)なら
720×0.3048=219.456m/s
エネルギーは
(1/2)×(重量kg/1000)×(速度m/s)
(1/2)×(1.490377/1000)×219.456 =35.889J
このエネルギーをft・lbで表すと
35.889÷1.35582=26.47ft・lb となる。
発射エネルギーと弾丸重量がわかれば、そこから弾速(初速)がおおよそ逆算できる。
カタログ値でエアライフルのエネルギーが35ft・lbで、ペレットの重量が18グレインとすると、
エネルギー 35ft・lb×1.356=47.46J
弾丸重量 18gr×0.064799=1.166g
√(エネルギー×2÷(弾丸重量g÷1000))
√(47.46×2÷(1.166÷1000))=285.31m/sと計算できる。
例えばエアライフルで、弾のドロップを抑えるために弾速を速くしたくて16グレインの軽いペレットを使うと、
弾丸重量 16gr×0.064799=1.037g
√(47.46×2÷(1.037÷1000))=302.54m/sまで速くなる。
海外動画のChrony弾速計による実測だとこのような計算より実射の弾速は多少遅くなる。一番信用できるのはやはり実測値であり試射であることは変わりない。だがペレットを変えると当然弾道も変わるので、どれぐらい変わってしまうのかちょっと計算してみるのもいいだろう。
弾道については次回詳しく解説する。
装薬ライフルでは弾薬のパッケージに弾速や弾道が印刷されている。
●圧力
プリチャージエアライフルで空気を入れるとき圧力計を見ることになる。
通常180~200気圧ほど空気を入れることになるが、ポンプやエアライフルの圧力計はまたこの圧力表示が異なるので注意が必要となる。
圧力計にあるpsiというのは平方インチ当たりのポンド(lbf/in )。
Bar(またはatm)は気圧だ。両方記載されている圧力計ではBarで入れればよい。
1気圧は14.69595psiなので、200気圧入れたいときは
200×14.69595=2939psiで、3000psiより少し少な目となる。海外動画では外人さんはこの辺あまり気にしないので3000psiまで入れていることが多い。
ちなみに国際基準のキロパスカル(kPa)では1気圧 = 1 atm = 1.01325 bar = 101.325 kPaだ。
●スコープの調整
スコープのターレットには、1click:100yd-1/4inch
または1click=1/4MOAと記入してある。
これで1回のカチッでどれぐらい狙点が移動するかが分かる。
100ヤードで1インチの1/4インチ移動するとなると、
100yd×0.9144=91.44mの距離で1インチ0.0254m÷4=0.00635m移動だ。
角度にすると、Atan(0.00635÷91.44)=0.0039789°の角度。
1/4MOAは角度の単位で、1度の60分の1(ミニッツオブアングル)のさらに四分の一。
1÷60÷4=0.0041667°の角度。
多少の誤差はあるが要するにこの二つの表記方法で動く量は実用上ほぼ同じである。同じスコープをヨーロッパにはMOA表記、北米にはyd-in表記して印字して売っているということになる。
ニコンのように日本流の書き方だと100m-1click 7mmと非常にわかりやすく印字されているが、これも計算してみると
Atan(0.007÷100)=0.00401°であり、要するにyd-inやMOA表記と移動量はほぼ同じ。どのメーカーのどのスコープでも一回の「カチッ」で動く量は実は同じである。
角度の移動量なので、移動量は距離により変化する。
覚えやすいところでニコンのように100mで一回の「カチッ」で7mm動くと覚えておけば、例えば距離が300mなら、
7mm÷100m×300m=21mm
一回の「カチッ」で300mのとき21mm狙点が動くということになる。
一発撃って150mm狙点がずれていたら、
150mm/21mm≒7クリック回せばよいということがわかるだろう。
最寄りの射撃場が50mという人は多いと思うが、一回の「カチッ」は7mmの半分の3.5mmとなる。
5cmずれていたら50÷3.5≒14クリックだ。
本文ではシンが猟友会の射撃大会で、ものさしと電卓を持って先輩ハンターたちに「上に●クリック、右に●クリックです」と教えたエピソードがあるが、筆者も同じことをやっている。
ライフルの弾もサボットスラグ弾も一発500円以上する。何発も無駄打ちすることを考えたらこれぐらいの計算はしても損はない。
近年、レティクルにミルドット表示(目盛り)がついているスコープでは、
1click=1/10Millという調整幅を持たせたものもある。これはスコープで見て着弾が1millずれていたら10クリックと大変分かりやすい。
また、長距離射撃用で1クリックが1/8MOAや100yd-1/8inなど調整幅がさらに細かいスコープも存在する。
●ミルドットの計算
スコープの話で何度も出てきたミルドットだが、スコープの十字線に切られている目盛りは1millが多い。これは1000mのとき1m幅に見える長さが1millとなっている。1000mでスコープから5mill幅に見えたらその物体の全長は5mである。
なので、全長50cmのハシボソガラスが8millに見えたとき、
0.5m×1000÷8=62.5mの距離にいることになる。
距離を測定するには獲物の全長がわからなければならない。参考までに、
ヒヨドリ 28cm
キジバト 33cm
ハシボソガラス 50cm
ハシブトガラス 57cm
水面マガモ胴長 50cm
キツネ(尾除く)70cm
エゾシカ(肩高)1.2m
ヒグマ(頭胴長)約2m
もちろん個体差があるので注意。
逆に、500m先の車両が12millに見えたときは、
500÷1000×12=6mの全長があることになる。
ちなみに着弾がスコープで見て1millずれている時は、一般的な1click=1/4MOAのスコープでは距離がいくつでも調整ダイヤルのクリック量は14clickである。当然0.5millの時は7クリックで、2millずれていたら28クリックだ。どちらも角度の話なので距離は関係ないのだ。
ミルドットによる距離測定は当たり前だが誤差が大きい。やはりスポーツショップのゴルフ用品コーナーでレーザー測長計を買ってくるのが一番いい。2万円ぐらいでハトも鹿もキツネもカラスもちゃんと測れる。レーザー測長計は赤いレーザー光線が発射されると思っている人もいるかもしれないが、実際は目に見えない弱威力のレーザーなので気づかれることはまずない。




