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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-02
63/228

Section4-1 強まる違和感

 集合時刻が迫っていた。

 日下部家の術者たちは既に儀式場へと先行している。宗主である夕亜もミーティング後に紘也たちと別れている。

「――というわけだから、孝一と愛沙は今回ばかりは宿で大人しくしてろよ」

「封印の儀式ってのには興味あるんだが……ま、そういう約束だったしな」

「この人たちの看病もしなきゃだしね」

 大まかなことを説明して孝一と愛沙には葛木の術者と共に八櫛亭に残ってもらい、香雅里の案内で紘也たちは儀式場がある洞窟を目指すことになった。

 遊歩道の最奥部からさらに奥。道なき道を歩き続けて一時間、ようやく洞窟の入口がその姿を現した。

「ウロボロス、〈天叢雲剣〉を出して。ここからは私が持つわ」

「はいさ。どうぞ、かがりん」

「かがりんって呼ばないで!」

 ウロが無限空間から取り出した護符を引っ手繰り、香雅里は洞窟内へと歩を進める。

 洞窟は自然にできた鍾乳洞を人工的に舗装しているようだった。坑道みたいに一定間隔で照明が設置されているため、歩くのに不便さを感じない。

「急ぐわよ、秋幡紘也。夕亜たちはとっくに準備できているはずだから」

「ああ」

 歩行速度を上げる香雅里に合わせて紘也も速足になる。その後ろからウロとウェルシュがしっかりとついてきていることを確認してから、紘也は訊いた。

「なあ、葛木、封印の儀式って基本的に日下部家で行うものなんだよな?」

「そうよ」

 香雅里は振り向かずに答える。

「だとしたら、なんで儀式の要となる〈天叢雲剣〉は葛木家にあるんだ? ここのヤマタノオロチを二家で封じたことはわかるが、日下部家が所持していればわざわざ葛木家が出向く必要もないだろ」

「封印の儀式には葛木家にも役割があるってことよ」

「役割って?」

 後ろを歩くウロが何気なく問うた。すると香雅里は思い耽るような間を置いてから、

「……無駄話は後にしなさい。そろそろ着くわ」

 はぐらかすように言ってさらに歩く速度を上げた。そのスピードはもう競歩の域だった。

「怪しい」

「香雅里様はなにかを隠している気がします」

 ウロとウェルシュの疑念に紘也も、ああ、と同意した。これまで感じていた違和感の正体がそこにある気がしてならない。

「わっかりましたあっ!」

 といきなりウロが飛び跳ねるがごとく叫んだ。彼女はそのまま名探偵でも気取っているように話し始める。

「封術の軸は夕亜っち。かがりんにもある役割。口外したくない事情。これだけ要素が揃っていれば容易に想像できるんですよ、秋幡紘也ワトソンくん」

「俺はいつからそんなハーフみたいな名前になった? で、お前はどう推理したって言うんだ?」

 どうせくだらない推理が返ってくるに違いない。

「ずばり! ここで行われる封術とは性魔術! かがりんと夕亜っちは儀式場でレズ的な行為をしてその愛の力で封印をぎゃああああ目がぁああぁあっ!?」

「お前は思考を全年齢対象に切り替えろっ!」

「……(ぽっ)」

「そしてそこ! 頬を染めるな!」

 なぜこんなところまで来て幻獣たちのアホトークに付き合わねばならないのか。同棲しているうちに段々とスルーできなくなっているのかもしれない。今の紘也はスルースキル初段くらいだろう。どうにかして取り戻さなければ……。

「…………」

 そろそろ香雅里からツッコミが飛んでくる頃だと思ったが、彼女は紘也たちの会話など耳に入ってないように先に進んでいる。

 これは、本当になにかある。


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