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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
188/228

Section4-1 アイルランド到着

 ウロボロスが、死んだ。

 デュラハンの〈死の宣告〉はそれほど強力な呪いだったのだ。あれから綺麗に三日――七十二時間後にパタリと倒れ、そのまま息を引き取った。

「さようなら、ウロ。お前のことは忘れるかもしれない」

「次回からウェルシュがメインヒロインを引き継ぎます」

《あの金髪がくたばろうとどうでもよい。それより吾は愛沙に会いたいぞ》

 それぞれが悲しみを胸に、彼らは立ち止まることなく、討つべき敵の下へと向かう。

 紘也たちの戦いはこれからだ!



        ~完~



「待て待て待て待てぇーい!? なに勝手に殺してくれちゃってんですか生きてますよビュビビシュイーンって全力全開バッチリに生きてますよ!?」

 哀愁を持って天を仰いでいた紘也たちの雰囲気をやかましい声がぶち破った。

 額に『2』の文字が浮かび上がった金髪残念美少女こと『身喰らう蛇』である。

「いくらあたしでもそのヘビージョークは誰も笑えねえですよ!? 蛇だけに――って誰が蛇ですかドラゴンです!?」

「アホみたいな顔してるだろ? これ、死んでるんだぜ。頭が」

「なんなんですか紘也くんさっきから!? あたしになんの恨みがあるってんですか!?」

「ほう、覚えてないと?」

 あれはドーバー市を出立し、アイルランドの首都ダブリンに到着するまでのことだった。

 紘也がウロの額に浮かんだ数字についてこれっぽっちも触れないものだから、この駄蛇はなにかにつけて「あたし死ぬかもしれないんですよ」「ちょっとは心配してくださいよ」「ああほら数字が『2』に変わっちゃったじゃあないですか死ぬぅこのままじゃ死んでしまうぅ!(チラッチラ)」とブチ切れるに足るウザさを発揮しまくったのだ。

「そんなに死んでみたいのなら死んだことにしてやろうって俺なりに気遣ってやったってのに、なにが不満なんだお前は?」

「そういうことじゃあなーい!?」

「ハッキリ言うと、ウザいんだ」

「ぐぬぬ……」

 歯噛みするウロは地団太を踏んで通行人たちに変な目で見られていた。当たり前だが紘也は他人のフリである。

「紘也様、アイルランドに到着しましたが、これからどうされるのですか?」

 ケツァルコアトルもウロはスルーして紘也に今後の方針を確認する。

「それだよな。アイルランドに敵の本拠地があるかもしれないってわかっても、宛てがあるわけでもないしな」

 正直、紘也もそこをどうするか悩んでいた。手当たり次第探すにしては広過ぎる。現状の手がかりだけではこの国のどこかということしかわからない。しかもそれは可能性であって、確信しているわけでもないのだ。まるで見当違いだったりすることも充分あり得るから困る。

「……マスター、この街に来たのはどうしてですか?」

 アホ毛をクエスチョンマークにしたウェルシュが小首を傾げて訊いてくる。紘也は改めて周囲を見回し――

「単純に、人が多いところの方がなにかしら情報が入ったりするんじゃないかと思ってな」

 今、紘也たちがいる場所はアイリッシュパブの聖地であるテンプルバーだった。石畳の通りにいくつものアイリッシュパブが並び、大勢のビジネスマンやら観光客やらの姿で賑わっている。

「情報収集は酒場と相場が決まってるだろ?」

「紘也くん紘也くん、それはゲーム脳が過ぎるんじゃあないですかね?」

 復活したウロにツッコミを入れられた。それは紘也もわかっちゃいるが、他に伝手もないのだからゲーム脳でもなんでも頼るべきだと判断したに過ぎない。

《酒場と聞いたなら吾の出番だな。ちょっとそこの店から美味そうな洋酒の香りが――》

「行かせねえよ?」

 意気揚々と近場のパブへ駆け出そうとしていた青和服の幼女――ヤマタノオロチの頭を紘也はアイアンクローの要領で鷲掴みにして止めた。

《放せ人間の雄! どうせどっかの店には入るのだろう? 酒が吾を待っておる!》

「入るかどうかはまだ決めてねえよ」

 少なくとも幼女を連れて入れはしないだろう。もし入れたらそこはちょっと危ない店かもしれない。


 Trrrn! Trrrn! Trrrn!


 と、紘也の携帯から着信音が鳴り響いた。山田を適当にウロに預け、画面を見ると『クソ親父』という文字列が表示されていた。

「親父からだ」

 このタイミングということはなにか掴んだのかもしれない。紘也はいつもなら一瞬躊躇うところ、今回はすぐに通話ボタンをタップする。

「親父、なにかわかったのか?」

『マイスイートエンジェル・柚音たんが拉致られたぁああああうわぁああああああん!?』

 プツッ。

 紘也は迷わず通話終了ボタンをタップした。

「紘也様、今の、辰久様ですよね?」

「元マスターはなんて言っていましたか?」

 元は父親の契約幻獣だった二人が詰め寄って来るが、紘也は今のを全力で聞かなかったことにしたかった。

「親父は柚音が攫われて動転してるみたいだった。そっとしておこう」

 あんな調子じゃ宛てにならない。ここは紘也たちだけで頑張る他ないだろう。


 Trrrn! Trrrn! Trrrn!


 またかかってきた。仕方ないので電話に出る。

「……」

『無言!? 紘也少年なんで無言なの!? おっさんまたなんかやっちゃいました?』

 どうやらまだ錯乱しているらしい。それでも紘也に二度も電話をかけてきたということは、ただ喚きたいだけじゃないのだろう。

「要件を言え。手短にな」

『あれぇ? おっさんと紘也少年の温度差が激しい気がする。同じ家族をドチクショウに攫われた者同士なのに』

「言いたいことはそれだけか?」

 紘也は通話終了ボタンに指をかけ――

『待って待って切らんといて!? えっと、紘也少年はまだドーバーにいんの?』

 おっさんの慌てた声に電話を切るのをやめた。

「美良山はまだそっちに着いてないのか?」

『仁菜ちゃん? いいや。おっさんは知らない』

 紘也たちはドラゴン族の速度――人類に優しいスピード――でイギリスはドーバーからこのダブリンに到着しているのだ。美良山がまだ到着していなくても不思議はない。

「俺たちは今、ダブリンにいる」

『ダブリン? アイルランドの? え? いや、紘也少年、いくら方向音痴属性でもロンドンに行こうとして別の国に行っちゃうのはおっさんどうかと』

「柚音を攫った幻獣のアジトがアイルランドにある可能性が高いんだ」

『……本当か?』

 声色が変わった。冗談をスルーしたことを喚かれると思ったが、どうやらそんな余裕は本当にないらしい。

「ああ、グレムリンが『トゥアハ・デ・ダナンに帰る』と言っていたんだ」

『トゥアハ・デ・ダナン……アイルランドに上陸した四番目の種族だぁね。なるほど』

 流石、魔術的なことに関すれば話が早い。こんなのでも世界が誇る大魔術師の一人なのだ。

『トゥアハ・デ・ダナンは種族であって場所じゃあない。フェイクの可能性も高いな。名前はそうしていても、全く別の場所に存在しているかもしれないぞ?』

「そうだな。でも現状、アイルランドを調べるしかないんだ」

 アイルランドを探すことにした情報はそれだけじゃない。グレムリンにデュラハン。それらはどれもアイルランドに由来のある幻獣だからだ。

『あいわかった。なら俺は他を重点的に探そう。確定したら連絡してくれ。こっちからもなにかわかったら教える』

「ああ、頼む。とは言っても、初めての国だからな。どう調べればいいか迷ってたんだ」

 父親の伝手を借りれないかとそう言ってみると、電話の向こうでなにやら唸るような声が聞こえた。

『ふむ……実はアイルランドで最近ちょっと厄介なことが起ってるみたいなんだぁよ』

「美良山とケツァルコアトルもそんなこと言ってたな」

 アイルランド内で野良幻獣によるものと思われる失踪事件が相次いでいるのだとか。今回紘也たちが襲われたのはアイルランドではないものの、『野良幻獣』と『失踪』という共通点がある。

 非常に怪しい。

「親父、その資料を送ってもらうことってできるか?」

『一応連盟にも守秘義務ってもんがあるんだぁよ?』

「そこをなんとか」

『ほい、今メールで送ったぞ』

「はやっ!?」

『守秘義務? 俺の娘の命がかかってんだそんなもんクソ喰らえだコンチクショーメ!?』

 また血圧が上がったらしく耳元で喚かれ、紘也はつい電話を遠ざけてしまった。

 通話はそのままに一度送られてきたというメールを開くと、PDFファイルが添付されていた。

「助かる。珍しく役に立ったな」

『珍しくって、酷くない? おっさんいつも役に立ってるよ?』

 この父親のせいで迷惑被っている方が圧倒的に多いのは気のせいじゃないと思う紘也だった。

『まあ、俺の部下もその件で調査に向かわせているから、折り合いがつけば協力できるかもしれないねぇ』

「じゃあ、お互いなにかわかったら連絡するってことで」

『オッケー。こっちはお父様にまっかせなさい!』

 すっごい不安になった。ガッツポーズを決める中年の姿がありありと浮かんだ。

「紘也くん紘也くん、お義父様は大丈夫ですか?」

 通話を切ると、早速と言わんばかりにウロたちが寄ってきた。

「お前の言う『オトウサマ』の漢字がすごく気になるが、とりあえずは大丈夫そうだ。それより、今アイルランドで起ってる事件についての資料を貰った」

 添付ファイルを開く。魔術的な暗号や封印なんてものはなく、ただただ普通に開けてしまった。パスワードもない。大丈夫だろうか連盟の守秘義務。

「ふむふむ、いかにも怪しいですね」

「だろ? ケツァルコアトル、ここに書いてないことで知ってる情報はあるか?」

「申し訳ありません、紘也様。我が主人はまだ正式な連盟の術者ではないので、契約幻獣の私が知れる情報は噂程度でしかありません」

「……マスター、この街でも事件が起こっているようです」

 無関係だと切り捨てるにはあまりに状況が酷似している。

 既に父親の部下が調査を始めているようだが――


「よし、俺たちもこの事件について調べてみよう。柚音を攫った奴らと関係していること前提でな」


 ひとまず、そういう方針で決定した。


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