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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-04
161/228

Section4-10 兄妹

 ゆったりとした黒髪をサイドテールに結った、あどけなさが残りながらも整った顔立ち。ミルク色の肌とくりっと大きな黒い瞳が対照的な少女を、紘也は知っている。

「なっ!? 柚音(ゆずね)……なのか!?」

 衝撃のカミングアウト第二弾。いや、紘也的にはこちらの方が驚きである。紘也の妹は魔術師ではなかったはずだ。魔術の才能もなく、個人の魔力量も一般人と変わらないレベルだったと記憶している。

 なのに、今そこにいる妹は立派に魔術師だ。初心者だが。

「あ、あの、紘也くん、今、『お兄』って……」

 ウロがわなわなと小刻みに震えながら歩み寄ってきた。つい最近までロンドンの父親の下にいたウェルシュは知ってて当然という顔をしており、美少女を見て飛び上がりかけた山田を踏み潰している。

「ああ、秋幡柚音。俺の妹だ」

「ホワッツ!? 妹さんですと!? てことはあたしがお姉ちゃんですよ!?」

 どうやらウロはちょっと混乱しているようだ。紘也は一発チョップを脳天に振り下ろして正常な思考回路を取り戻してやることにした。

「げぶっ!? ……ハッ! ちょ、ちょっと待ってください意味がわかりません! なんで妹さんがこの街を破壊しようとしてんですか?」

「ああ、ごめんね。そういうの全部嘘」

 妹――柚音はあっけらかんと暴露した。

「お兄が今さらロンドンに来るって言うから、パパに頼まれて覚悟の程を試したの。戦う覚悟と、ママに対する諸々の覚悟とかをね。それで私から見て不合格だったらロンドン行きは白紙。今まで通りお兄は蒼谷市で暮らしてもらうことになっていたわ」

 つまり父親もグルだった。いや、父親こそ今回の諸悪の根源だった。そしてまさか連盟からの迎えが妹だったとは……張りつめていた気分が一瞬でどこかに吹っ飛んでしまい、心の赴くまま脱力して寝っ転がりたくなった紘也である。

「最初は声でバレるかと思ってたんだけど、お兄ったら全然気づかないし」

「しょうがないだろ。五年前と今じゃだいぶ声変わりしてるし」

 顔立ちも紘也の記憶の面影は残っているものの、五年前と言えば柚音は十歳だ。背も伸びたし、気づけという方が無理だろう。

「まあ、コウ兄も気づかなかったから」

「孝一にも会ったのか……」

 紘也には内緒だっただけで、知り合いには挨拶回りを済ませているらしい。

「えーと、それで、俺は合格なのか?」

「ん~、逃げずに立ち向かって来たし、ママのことについてはちょっと行き過ぎかなって思ったけど……及第点? あ、ちょっと待って」

 柚音はローブのポケットからスマートフォンを取り出した。通話ボタンを押して耳にあてる。雰囲気からしてケットシーのようだ。

「うん、もう終わったわ。香雅里さん連れて戻って来ていいわよ。え? そっちは全部喋っちゃったの? あー、まあ、改めて説明する手間は省けたわね」

 スマートフォンでケットシーと会話する妹を眺めながら、紘也は改めて彼女が魔術師として成長していることを思い知った。

 そんな彼女から見て及第点……紘也はなんとか合格ということか。

 ロンドン行きが白紙にならなくて安堵すると共に、そんな風に覚悟を問われてきたことに軽い気持ちが全て吹き飛んだ。いや、適当な考えで決めたわけではない。変化し始めた周囲の環境を紘也なりに真剣に考えた。それでも心のどこかに簡単に魔術師に戻れるという思いがあったのかもしれない。

「ハッ! 主人公の妹と言えば大抵がブラコン設定! これもしかしてウロボロスさん的にライバル登場ってやつじゃあないですか紘也くん!?」

「知らん。あと誰が主人公だ! それと柚音はブラコンじゃないぞ」

 謎の心配をするウロに、紘也は視線だけ動かして別の相手に通話をかける妹を見る。


「あっ❤ パパ? うん、今終わったよー。お兄もちゃんと戦う覚悟はあったよ。大丈夫大丈夫。擦り傷一つついてないから。えへへ、パパに褒められちゃった♪ ねえねえ、今度オルトン・タワーズに連れてってー♪ もちろんパパと私のふ・た・りで♪」


「ファザコンだ」

「お、おう……そういえば……」

 恐らく今ウロの脳内では昔ながらのテープに録音された(親父が)イケてる(と思っている)ボイス集がフラッシュバックされていることだろう。アレは柚音以外が聞いたら一生のトラウマ物である。

「なあ、柚音。もしかして、玄永さんには今回のこと話してたのか」

 紘也は名残惜しそうに通話を切ってスマートフォンを仕舞う柚音に訊ねる。

「ん? あー、そうよ。快く承諾してくれたのに、最悪のタイミングでうちの駄猫が戻って来るもんだから焦ったわ」

 アレは紘也もある意味で完璧なタイミングだったと思った。柚音の立場で考えてみれば確かに最悪だ。よくもまあ、この状況に持って来れたと思う。

「いや、うん、なんか安心したし、納得した。柚音がキリアン・アドローバーの仲間じゃないってわかってよか……」

 言葉の途中で、紘也は一つ引っかかる点が脳裏に浮かんできた。

「なあ、ウロボロスの抜け殻を盗ったのも嘘か?」

「嘘よ? とりあえず全部肯定しとけば悪役になれるかと思って」

 だから勢いのままウロの紘也コレクションまで盗ったと頷きかけたわけか。

 いや、そんなことより。

「それじゃあ、ウロボロスの抜け殻はどこに――」

 言いかけたその時。


 ザクッ! と。


 柚音のローブから不自然に飛び出してきた和紙から、日本刀の刃が突き出して目の前にいたウロボロスの心臓を貫いた。

「「えっ?」」

 呆然とする紘也と柚音の眼前で――ごぱっ! とウロは盛大に吐血し、膝を折って力なく崩れた。

 和紙が光を放って破裂する。眩い光に思わず目を閉じてしまった紘也たちが瞼を開いた時、そこに見覚えのない漢服の男が出現していた。

 閉じているような糸目に丸眼鏡。顔には胡散臭い笑みを貼りつけ、右手にはウロを突き刺して血を滴らせている日本刀を握っている。


「毎度おおきに。ウロボロスの血、この通り確かに頂戴いたしましたわ」


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