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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-04
156/228

Section4-5 戦う決意

 葛木邸――応接間。

「お爺様、本当に私たちは動かないおつもりですか?」

 先程の騒ぎが収まって落ち着いた頃、香雅里が葛木家宗主である葛木玄永に問いかけた。

 ケットシーのご主人の少女は、連盟の使いを装って葛木家の捜索を打ち切らせようとしていた。そうして紘也の家を壊した犯人――キリアン・アドローバーが残した術式を用いてなにやら大規模な魔術を企んでいたらしい。

 蒼谷市を地図から消す。彼女はそう言っていた。紘也の父親に恨みがあるのだとしても、関係ない人間まで巻き込もうとしているのは看過できない。

 ――親父に直接恨みをぶつけてくれよ。

 紘也は内心で毒づく。直接できないからこそ間接的に復讐しているのだ。ついでに巻き込むのが関係ない人間であればなおさらダメージは大きい、とでも思っているのだろう。

 ――なんで今さら親父に復讐する奴が現れるんだよ。

 香雅里にも言われたが、懲罰師として非合法な魔術結社を解体してきた父親には敵が多い。今まで紘也やこの街を狙ってそういう復讐者が現れなかった方が不思議だ、と。

 今さら、ではなく、ついに。

 そういうことなのだろう。

「うーむ……」

 座布団の上に胡坐を掻いた葛木玄永は、腕を組んで瞑目すると難しい表情で唸った。

 一分、二分、三分……玄永が思案し始めてからゆっくりと時間が経過していく。ポクポクポク、と木魚を叩くような幻聴まで聞こえた気がした。

 そして――カクン。力が抜けたように玄永の頭が垂れ下がった。

「お爺様?」

「zzz……」

 漫画みたいな鼻提灯が膨らんでいた。

「寝たふりなんてしてないでこれから私たちがどうするか決めてくださいッ!?」

「げふっ!? お、おお、すまんすまん。最近どうも歳のせいか眠気に勝てなくてのう」

「毎朝二十キロジョギングしている人がなにを仰っていますか!?」

 元気過ぎるだろ、と紘也は本気なのか冗談なのかよくわからない遣り取りを眺めて苦笑するのだった。

「げほん! あー、そうじゃの。葛木家宗主の儂の前であのような発言をされちゃった以上、動かぬわけにはいかんのう」

 気を取り直して咳払いをした玄永が真面目な表情を作る。その様子に場の空気が変わったことを感じた紘也は、まず念頭にある疑問を口にした。

「キリアンが残した術式、というのは具体的にはどんなものなんですか?」

「酷いものよ」

 実際に現場にいた香雅里が答える。

「神殿化した建物を砲台と見做して、その中にいる人たちの生命エネルギーを物理的破壊力に変換して撃ち出す術式ってところね。ほとんどの人は妖刀で斬られてゾンビ化していたみたいだけれど、それはそれで生命エネルギーの保存効果はあったみたい」

 斬り殺した相手をゾンビに変える妖刀――〈朱桜〉だったか。状況説明の際に紘也もその存在は聞いていたが、一体何人の犠牲者が出たのか耳を塞ぎたくなる思いだ。

 紘也の家を破壊するだけならまだしも、街全体を消滅させるほどのエネルギー。そんな大量のエネルギーが数ヶ所の建物だけで本当に足りるのだろうか?

「でも、その術式はもうとっくに無力化しているはずよ。もしかすると私たちがまだ見つけていない術式がどこかにあるのかもしれないわ」

「蒼谷市だけじゃないのかもしれない。周辺の街にも仕掛けられているんじゃないか?」

「……あり得るのう。葛木家を総動員して術式を捜索じゃな。それと万が一のために街を結界で覆っておく必要もあるじゃろう」

「間に合えばいいんだけれど」

 香雅里が不安そうに眉を寄せる。街一つ覆う結界ともなれば、恐らく相当な人数と時間を割かなければならないだろう。敵が完了するまで待ってくれるはずがない。

「そんなのやらせる前にぶっ潰せばいいんですよ!」

 難しい話し合いなど無意味だと言わんばかりの調子でウロがぶった切ってきた。

「多少の準備はできてるとしても、街一つ消そうってんですから向こうだって時間はかかるはずです。さっさと術者本人を見つけてズバゴスシャーン!! ってぶん殴っておけば問題解決です」

 ストレートな解決策を提示するウロだったが、玄永はその案に頷くことはしなかった。

「その通りじゃが、万が一の備えを怠るわけにはいかぬでな。儂らは術式の捜索と結界の構築で手一杯になるじゃろう。タツ坊の倅よ、すまんが、あの娘の捕縛を任されてはくれんかのう?」

「秋幡紘也にやらせるのですか!?」

 まさかの指名に声を荒げたのは香雅里だった。

「適任じゃよ。香雅里や。お主も見たじゃろう? あの娘が連れておった幻獣を。儂らが束になってかかるより、彼らに任せた方が確実じゃ」

「それは……」

 一応、紘也は分類上では一般人なのだ。今までいろいろと手伝って来たが、それでもやはり彼女は巻き込みたくないのだろう。

 紘也も昔はそうだった。まあ、昔と言っても一ヶ月も経っていないのだが、とにかく紘也や紘也の身内が関わっているのなら逃げるわけにはいかない。

 安全な場所から事件が解決するのを、ただ指を咥えて待ってなどいられない。

 だから――

「いいよ、葛木。俺も逃げたり隠れたりするつもりはない」

 自分たちの身に降りかかる火の粉を他人に掃ってもらう時期はもう過ぎた。

 これからは紘也も戦う。そう決意したのだから。

「元より、あいつは俺の家をぶっ壊しやがった犯人の仲間だ。寧ろ俺たちにやらせてくれって頼みたいくらいだよ」

「そうです! あたしの紘也くんの隠し撮り写真集を取り返さないといけませんからね!」

「それは絶対持ってないと思うぞ」

 実は持っていたりしたら彼女の正気を疑うレベルである。

「葛木、後でいいから一つ教えてほしいことがあるんだが」

「教えてほしいこと?」

 怪訝そうに問い返す香雅里に、紘也は少し苦笑を交えた笑みを向ける。


「ああ、俺が、足手纏いにならないための方法だ」


 ずっと考えていた。

 魔術を使えない自分がどう戦っていけばいいのかを。

「さて、引き受けてくれるという話でよかったかの?」

 紘也は頷く。香雅里はまだ不満そうだったが、諦めたように溜息をついていた。

「肝心の彼女の居場所なんじゃが、実は既に見当がついておる」

「本当ですか!?」

 ウロが身を乗り出して食いついた。

「うむ。これから街を破壊する術式を構築するのじゃとしたら、可能性は二つ。街の外か、術式の中心点じゃ。今そこにおるかはわからぬがな」

「術式の中心点? それはどこですか?」

 街の外だったらほぼお手上げ状態だが、玄永の話し方からすると後者の可能性が高い。

「それはの――」

 告げられた場所を理解した時、紘也とウロの目が驚愕に見開かれた。


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