第41話
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
※少し長めですけど、分割せず投稿します。
「翌日、祐介がいつも以上に酷い怪我をして私の元へ現れた。祐介の手には、私が毎月、亜矢に渡している茶封筒と同じものが握り締められていて、それを私の腹に押し当てると、両親を殺して欲しいと訴えてきたんだ。私は祐介を説得し、落ち着かせた。亜矢を説得すると約束をして。祐介を必ず助けるからと。その日、始めて亜矢の家へ行った。さぞかし高級マンションに住んでいるのだろうと思ったら、小さなアパートの一室だった。あれだけの金を、全て自分の服や遊ぶ金につぎ込んでいたと分かって、怒りが増したよ。次の日、いつもの公園で祐介と待ち合わせをした。まずは祐介にご飯を食べさせてから、と思っていてね。それから亜矢の所へ行くつもりだった。しかし、祐介はいつになっても来なくて、嫌な予感がした。すぐに家に行くと玄関が空いていたんだ。中に入ると、曇り硝子の戸が閉まっていて、中の様子は分からなかった。異様に静かで、不気味だった。夢中で戸を開けると、フローリングの床に、赤い液体が大量に流れていた。その液体の上に、祐介が倒れていたんだ」
そこまで話しをすると、宗介は頭を垂れ、片手で目元を押さえた。肩を揺らし、微かに鼻を啜る音が聞こえる。
「あなたは、床に倒れた祐介の手に、ナイフが握られているのを見た。それを見て、あなたは祐介が二人を殺したと思った」
「……私が、もう少し早く行っていれば、そんなことは起きなかった……」
「なぜ、祐介がやったとお思いなんですか?」
要の鋭くも澄んだ声が響いた。宗介は顔を上げ要を見上げた。
「私の記憶を見たというなら、分かるだろう」
声を落とし、苛立ったように宗介は言う。
要は宗介を真っ直ぐに見つめたまま「分かりませんね」と答えた。
「俺は、図書館へ通って過去の記事を探し、事件があった日のことを調べました。男女とも、刃渡り十五センチの片刃のナイフで三カ所、深く刺されていた。子供の力で大人に致命傷を与えるほど深く刺せる訳がない。たとえ刺せたとしても、子供の頃の祐介は、立っているのもやっとのほどの細さだ。力もないだろうが、大の大人が抵抗しない訳がない。しかも、祐介は今まで虐待を受けていた。事件当日も、ナイフによる傷跡はなかったものの、重傷だったと記事には書かれていた。そんな状態で、出来る訳がない。だけど、あなたは祐介の手に握られたナイフを見て、祐介が犯してしまったと思った。多分、祐介は男女どちらかに刺さっていたナイフを抜き取って、気を失った。そこにあなたが入ってきたんだ。祐介はあなたの呼び声で一時的に意識を戻したが、あなたのことを忘れていた。心因性記憶喪失です。祐介はすぐにまた気を失った。あなたは動揺しながらも、あなたのお父さんに連絡をした。すぐにアパートに来るようにと。あなたのせいで、息子が殺人犯になったんだと」
「……ああ、そうだ。父親を共犯にするために呼び出したんだ。あの人はすぐに来たよ。血相を変えて」
「でも、あなたの記憶は、完全じゃない」
「どういう意味だ?」
「電話で呼び出す前に、何かを目撃している筈なんです。その部分が、消えている」
その言葉に、宗介は要を通り越し、遠い記憶を見るように、小さく首を傾げた。
「……分からない……」
「……あなたは、お父さんを呼んで、どうしたんですか?」
「どうも……。どういう訳か、あの人は私をすぐに追い出したんだ……」
「あとは、私がやると言ってね」
別の声が聞こえた。宗介は素早く後ろを振り向き、声の主を見た。
そこには、二戸神宗太郎が立っていた。
「こんばんは、カミサマ先生」
要は口元だけ微笑んで見せたが、その目は冷たさを持っている。二戸神はにっこりと微笑み、「やあ、要くん」と答えた。
「よく、覚えていてくださいましたね」
「私は自分が担当したことのある患者については、大抵は覚えているんだよ。特に君の場合は、誰よりも特別な患者だったからね。忘れないよ」
「父さん……」
「祐介に頼んで、二戸神先生にここへ来てもらうよう、電話をしてもらったんです」
要の言葉に、宗介は目を見開いた。
「ああ、その通り。私は、祐介にここへ来て欲しいと連絡があって来たんだがね。大事な話があると言われて。しかし……どういう訳か、ここに居たのは君と宗介だった……」
宗太郎は笑顔を崩さずに、しかし、その笑顔の奥には、冷え切った感情のない瞳が見え隠れしている。
「どういう事か、教えてくれないか。なぜ君が、ここに居るのか。そして、なぜ君が、十年前の事件の事を調べているのか」
宗太郎の顔からは笑顔が消えた。かといって、怒りが浮かび上がることも無く、無に等しい顔だった。しかし、荒げることなく低く呻くように訊ねるその声は、静かな怒りを宿している。
要は小さく息を吐き出すと、真っ直ぐに宗太郎を見つめ、向かい合った。
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