第36話(1)
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
スマホには、不在通知が六件入っていた。その中で、二件が留守番電話にメッセージが残されている。メールボックスにも、未読のメールが溜まっている。その殆どが、祐介からのものだ。
祐介には、知る権利がある。と、分かっていても、要にはそれを言うだけの勇気が、まだ無かった。
要が見た、祐介の養父の記憶。
催眠をかけているようには見えなかったが、祐介と二人きりで話しをする際、決まって流す音楽があった。要はクラシック音楽に詳しくないため、それが誰の何という曲なのか分からない。だが、その曲に何かがあるのだと言うことだけは、分かった。何度もCDのタイトルを見ているときの記憶を思い出そうとするが、上手い具合に字まで読み取れない。子供の頃のままの力があったら、読み取ることも出来たかも知れない。そんなことを思いながら、要は何度も記憶を思い出そうと試みた。
音楽を流すと、祐介はどこか遠くを見つめる。
「夢を見たんだね」と、養父が言うと、祐介は小さく顎を引く。
「どんな夢だった?」
「血だらけの、床。……男女が倒れてる。死んでるんだ……」
「子供頃、刑事に事件現場の話しを聞かされたから、それで勝手に記憶を作り出しているのかも知れないね。大丈夫、それは夢だ」
祐介は「夢……」と呟くと、ゆっくりと顎を引いた。暫くすると、養父は再び同じ質問を祐介に訊いた。
「それで、どんな夢だった?」
「……忘れちゃった……」
「夢なんて、すぐに忘れてしまう物だよ」
要の知る催眠術方法では無いのだろ。どちらにしても、この音楽が鍵を握るのかも知れない。
そして、一番重要なヴィジョン。
要が叫び宗介から手を放した理由のヴィジョン。
養父は事件に関係している。
だが、肝心な記憶は所々消えてしまっていた。その代わり、作り出した記憶が穴を埋めるようにして存在した。要は暗闇を睨み付けた。
宗介の記憶は、意図的に消され、その上に上書きするかのように記憶が書き換えられている。
宗介の記憶には、要がよく知る人物が見えた。自分が知っているその人よりも、若干若かったが、間違いない。祐介の記憶を見たときに気がつかなかった。それもそのはずだ。祐介の記憶では、その人物の顔はぼやけていた。乱雑に消された記憶の一つだ。思い出されると困る事があるから、自分の顔を消したのだと要は思った。
その人物こそが、全ての鍵を握る。
電気の付いていない真っ暗なリビング。窓の外に見える風景は濃紺で、星が見えるはずの空は街の光で何も見えない。要は街に目を向ける。家が建ち並ぶ一角の、一軒。その家の屋根を見つめた。
要はスマホを手に取ると、電話をかけた。三度目のコールで要の父親が出た。
「父さん、ちょっと聞きたいことがあるんだ」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
同時進行でbooks & cafeが舞台の現代恋愛小説
『光の或る方へ』更新中!
https://book1.adouzi.eu.org/n0998hv/
「続きが気になる」という方はブックマークや☆など今後の励みになりますので、応援よろしくお願いします。




