第34話(2)
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しばらく二人は黙ったまま、黙々と課題をこなしていると、養母が麦茶と菓子を運んできた。
「この部屋、暑くない?祐介、扇風機回したら?」
「扇風機回すとプリントが飛んで大変なんだ」
祐介はノートに顔を向けたまま答えた。要はグラスを受け取りながら「僕は大丈夫です」と答えた。
「結構、風吹き抜けるんで気持ちが良いですよ」
「そう?ならいいけど」
養母はにっこりと微笑んだ。
「藤森くん、お昼はまだ?」
「あ、ちょっと食べてきました」
「うち、今日はちょっと朝が遅かったら今からなの。よかったら、食べない?大したものじゃないんだけど」
要は祐介を一瞥した。祐介は目だけを上げて「今日は僕のリクエストで焼きそばなんだ」と言った。焼きそばと聞いて、口の中が仄かにソースの味を思い出し、唾液が出てきた。要が一緒に相伴に預かる旨を伝えると、養母は嬉しそうに頷き、部屋を出て行った。
「雰囲気、似てるな。本物の親子みたいだ」
「そう?それ聞いたら、母さん喜ぶよ」薄っすらと唇に笑みを浮かべ、祐介は答えた。その表情を見た要は「お前は嬉しくないの?」と何となく訊ねた。祐介は顔を上げ、何とも言えない複雑な笑みを浮かべただけで、何も答えなかった。
食卓に着くと、真正面に祐介の養父が座った。要は味噌汁に手を伸ばし、飲みつつ養父を見つめていると、それに気がついたのか、養父と目があった。養父はにっこりと微笑み、要は決まりが悪そうにお椀を置くと、黙って焼きそばを食べた。具が多く、少し濃いめの味ではあったが美味しい。
食事が終わると、養母がお茶を淹れてくれた。男三人でのんびりとソファで寛いでいると、ふいに養父が要に話しかけてきた。
「そう言えば、藤森くんは指圧が得意なんだって?」
「え?」
湯飲みに伸ばしかけていた手を、思わず引っ込め、どこから声が出たのかと本人も思うくらい、要は高い声で聞き返した。
「昨日、僕が肩が凝ったと言っていたら、祐介が藤森くんは指圧が上手いって言ってたんだ。よかったら、少しお願いできないだろうか」
親しげな笑みを浮かべながら言う養父から目を逸らし、祐介に素早く目を向けた。
祐介はちらりと要を見たが、すぐに顔を横に向け茶を飲んだ。その横顔は、明らかに笑みを堪えた顔に見えた。来たときに祐介の言った「大丈夫」を思い出した。指圧の経験なんて一度もない所か、されたこともない。どういうものなのか良く分からない。さて、どうしたものかと、要は溜め息を堪えながら、養父に顔を向けた。
「習ったわけではないので、上手いと言うほどではないです。……同級生には、めい一杯力入れても洒落で済みますけど……」
取り繕うように嘘を並べる。次第に声が小さくなる。祐介が目を細めて要を見ているからだ。要は弱々しくその顔を見た。
「いや、力入れても大丈夫だよ。相当、凝ってるからね」
養父はそう言うと、自分の軽く叩いた。
「そうですか……。じゃあ、失礼します……」
要はのろのろと立ち上がった。祐介の養父が座るソファの後ろに立つと、一呼吸置いた。
肩の力を抜いて、深く息を吸い込むと、「じゃあ、いきますよ」と言って、両手を養父の肩に乗せた。
一気に記憶が流れ込む。要はゆっくり手を動かしながらも、流れ込む記憶に意識を集中させた。
「上手だよ。力加減も丁度良い」
上機嫌の声は、要の耳には入っていない。要は奥歯を噛み締め、顔を苦しそうに歪めていて、祐介は黙ってその様子を見ていた。
突然、居間に叫び声が響いた。
要は祐介の養父から手を放すと、その場に蹲る。
台所にいた養母も出てきて、蹲る要に近寄り、要に手を伸ばそうとすると、要は顔を上げ、弱々しく微笑んで見せた。
「すいません、腕の筋、釣っただけです。大丈夫なんで」
養父母は心配そうに顔を見合わせ、「すまなかったね、無理にお願いしたせいで」と、謝った。
要は頭を左右に振って「いいえ」と言うと「ちょっと、トイレをお借りできますか?」と言い、トイレに向かった。
その後ろ姿を、祐介は心配そうに見つめた。
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