第34話(1)
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翌日、何の案も浮かばないまま、要は祐介の家へ向かった。肩から提げている鞄には、一応、勉強道具が入っている。
インターフォンを一回押す。
初めて聞く声が聞こえた。養母だろう。のんびりとした口調が、祐介とよく似ている。
「藤森です。祐介くん、居ますか?」
「ああ、はいはい。今開けるから、ちょっと待っててね」
「はい」
玄関のドアを開けて出迎えてくれたのは、背の低い色白の女性だった。笑い皺が目尻に刻まれ、微笑むとそれは益々深くなる。だが、嫌な印象はなく、年齢相応の好感の持てるものだった。自分の母親も、こんな感じだろうか、と心の片隅で思った。
養母は要を家に上げると、良く通る高い声で、二階にいる祐介に声をかけた。祐介は二階の手摺りに身を乗り出し、下を覗き見るように顔をのぞかせ、要を見るなり、「二階来てよ」と笑顔を見せた。その態度に、養母は「はしたない」と苦笑いをしながら注意をしたが、祐介はすぐに顔を引っ込めただけで、なんの反論もしなかった。
要が二階へ上がると、何やら音楽が耳に流れ込んできた。クラシック音楽のようで、要は誰の何という曲か、さっぱり分からなかった。ただ、休日の昼間にクラシック音楽を聴いているとは、さすが金持ちだな、という何の脈略もない偏見にも近い勝手な感想を抱いた。
音楽は廊下の突き当たりにある、奥の部屋から聞こえてきていた。要が奥の部屋に顔を向けていると、「父さんの書斎」と小声で言ってきた。父さん、という言葉に、要の心臓はどくりと大きな音を立てた。
「なんも思いつかなかったんだけど」
と、要は弱り切った顔をして小声で返すと、祐介はにっこりと微笑み「大丈夫」と言って自室へ入った。
祐介の部屋には卓袱台が用意されており、すでに教科書やノートが広げられていた。
「なにやってた?」
「英語。量が多くて苦手なものから終わらせようと思って」
「なるほどね」
「英語、得意?」
「いや、どちらかと言えば嫌い」
「うそだあ。成績良いじゃん」
「テスト前に丸暗記だよ」
そう言うと、要は床に胡座をかいて座り、鞄の中からノートを取り出す。
祐介の部屋の窓は全て全開で、部屋のドアも開けっ放しにしていた。扇風機が置いてはあったが、ついてはいない。動いていなくても、十分風通しが良く、気持ちが良かった。冷房があまり好きではない要には、丁度良いぐらいだ。
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